サイエンス

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医療を開く:/8 埼玉県済生会栗橋病院副院長・本田宏

 ◇医師不足は小児救急にも影

 日本の医療体制は、世界保健機関(WHO)から世界一と評価されているが、それは国の保健医療水準の指標とされる「粗死亡率(人口1000人当たりの死亡割合)」「1歳の平均余命(0歳の平均余命は平均寿命)」「50歳以上の死亡割合」「乳児死亡率」のすべてで日本が世界トップクラスだからだ。しかし日本で1~4歳の幼児死亡率(先天奇形、肺炎、心疾患、インフルエンザなど)だけが先進国で米国に次いで高いことは、ほとんど知られていない。

 医師不足によって救急患者の受け入れができず、がん治療の専門医不足が問題となっているが、小児医療現場はどうか。日本小児救急医学会によれば、緊急で手厚い治療が必要な小児にも対応できる小児集中治療専門医は、全国で10人程度しかいない。ほとんどの小児救急患者は、成人と同様に救急医以外が治療に当たっているのが実態だ。そしてこの救急部門の医師不足が、多くの小児科勤務医を疲弊させている。

 日本は超高齢社会を目前にして、医師不足と医療崩壊が全国的に進んでいるが、その解決への具体的な道筋や実効策は明らかになっていない。日本の人口当たりの医師数は先進国の3分の2で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均水準と比べて約12万人以上足りないのに、「医師は将来過剰になる」「教育体制が追いつかず医師の質が低下する」など、医師増員を懸念する声が医療界から湧き上がっているのが寂しい現実だ。

 医師不足は、日本の1~4歳までの幼児死亡率の悪化にも影を落としている可能性が高い。国民の生存権、そして患者の権利を守る視点で医師増員と医療体制整備はまさに焦眉(しょうび)の急だ。【聞き手・河内敏康】

毎日新聞 2011年3月2日 東京朝刊

 

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