きょうの社説 2011年3月2日

◎NZ地震1週間 被災者・家族の支援に力を
 ニュージーランド地震の発生から1週間が経過した。3人の県人を含む邦人28人の安 否は依然確認できず、生存の望みが日々しぼんでいくことに胸が押しつぶされそうな思いがする。それでも希望の灯を失わずに、今なお続く救助活動を祈る思いで見守っていきたい。

 不明被災者の家族が焦燥感を募らせる一方で、救助された富山外国語専門学校の生徒3 人が帰国したことを喜びたい。が、救出過程で右脚切断という過酷な措置を受け入れざるを得なかった奥田建人さんはじめ、3人とも心と身体に深い傷を負っている。今後とも悲惨な地震の記憶に苦しめられる恐れがある。また、建物倒壊のすさまじさと火災の影響から、身元確認に相当時間がかかるとみられており、憔悴(しょうすい)する家族の心身の健康も心配される。

 富山県と高岡市が、「精神保健福祉相談員」の資格を持つ保健師ら心のケアの専門家を 、日赤チームとは別に独自に派遣したのはまことに適切な措置で、被災者とその家族をサポートする態勢を帰国後も長期にわたって継続する必要があろう。政府も支援を惜しまないでもらいたい。

 時間の経過とともに、被災者が集中したクライストチャーチ市のCTVビルが、なぜ跡 形もなく倒壊したのかという疑問、疑念も募るばかりである。ニュージーランドのジョン・キー首相が「われわれはその疑問に答える必要がある」と述べ、倒壊の原因を調査、公表する方針を示したのは当然である。

 日本政府も国内の地震と同様の認識でニュージーランド政府に協力し、その教訓を今後 の地震対策に生かしてもらいたい。

 CTVビルは、ニュージーランドの建築基準が改正される前の建物で、昨年9月の地震 (マグニチュード7程度)の後に行われた市の調査では、危険度の低い「緑」の判定を受けたという。危険度に応じて「黄」(建物内に入れるが使用できない)、「赤」(立ち入り禁止)となるが、この緑の判定と安全管理が適切であったか疑問視されている。ニュージーランド政府は、この点の調査も徹底的に行わなければなるまい。

◎予算案衆院可決 再可決のシナリオ破綻
 2011年度予算案が衆院本会議で可決され、年度内成立が確定した。だが、民主党に 会派離脱願を出した比例選出衆院議員16人が予算案の衆院本会議での採決に欠席したことで、賛成票は295票にとどまり、予算関連法案の衆院再可決に必要な318票には遠く及ばなかった。予算関連法案を衆院の3分の2で再可決するシナリオは実質的に破綻したといえるのではないか。

 民主党執行部は、造反した会派離脱組の代表を務める渡辺浩一郎衆院議員を6カ月の党 員資格停止処分とし、残りの15人を厳重注意とした。首相指名選挙に並ぶ重みを持つ予算採決に造反したにもかかわらず、甘い処分で済ませたのは、16人が集団離党に踏み切るのを恐れたからだろう。メンツをつぶされた菅政権の一層の求心力低下は避けられそうもない。

 与党が未明の採決で強行突破を図ったことに野党は強く反発している。また、歳入関連 の予算関連法案と予算案を切り離して参院に送付した手法にも「無責任」などの厳しい批判があり、野党が多数を占める参院で、すんなりと予算案の審議に入れるか疑問である。政府・与党の思惑通り、衆院で関連法案の修正を協議し、参院で予算案を審議する変則的な国会運営がうまくいくとは思えない。

 野党はマニフェスト(政権公約)の大幅な変更を求めている。岡田克也民主党幹事長は 、子ども手当法案の修正協議に含みを残す発言をしているが、関連法案を成立させるため、菅政権が修正に動き出せば、マニフェストの履行を求める小沢一郎元代表側と党執行部の確執はさらに深まるだろう。

 菅直人首相は、既に予算関連法案の成立が4月以降にずれ込む長期戦を覚悟していると みられる。粘りに粘って統一地方選を終えるころには、風向きが変わると踏んでいるのかもしれない。だが、支持率が下げ止まらず、統一地方選の大敗が必至の情勢下で、いつまで持ちこたえられるか。展望がないという点では、菅首相も小沢氏側も同じであり、八方ふさがりのなかで、解散・総選挙の足音が日増しに高まってきている。