中高生WEEKLY
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2011年2月21日

けいおん!沸騰中

アニメ人気で部員増 「同じ楽器弾きたい」

 今、高校の軽音楽部が熱い。漫画・アニメ「けいおん!」の影響もあり、入部者が増えている。楽器店では作品に関連する商品が人気だ。現実の厳しさを知って退部する生徒もいるが、乗り越えて成長する姿も。一方、部員が膨れ上がり、運営に頭を悩ます学校もある。 (教育報道部・西尾述志)

軽音楽部の部室で開かれたライブ。舞台はビールケースと合板でできている=三重県鈴鹿市の県立白子高校で

 「昨年から高校生の来店が確実に増えている」と話すのは、イシバシ楽器名古屋栄店の岡本英二店長。きっかけは軽音楽部の女子高生の緩やかな日常を描いた「けいおん!」だ。女子生徒だけのグループで訪れる姿が目立つようになった。

 人気なのは作品に出てくるギターと同じモデル。ベースは登場人物が使う左利き用を買い求める。「左利きモデルは通常、生産量も少なく、売れない。売れるのは『けいおん!』とポール・マッカートニーのモデルだけ」と岡本店長。

 キャラクターをあしらったミニアンプは予約が殺到し、弦を切る道具も作品中と同じ色が買われる。岡本店長は「普通の女子高生がギターを背負う姿は、かつてなかった光景。作品の続編が出るのが楽しみ」とブームが続くことを願う。

 アニメが好きで声優に憧れている杉原理緒菜さん=三重県立白子高校1年=も「けいおん!」の影響を受け、入部した1人。でも、現実は厳しい。「お菓子を食べながら上達する」ことはなく、地味な練習の繰り返し。新入部員は当初、例年の倍近い30人いたが、19人に減った。

 杉原さんは戸惑いつつも仲間の大切さや先輩のすごさを知り、ギターを握り続ける。バンド名は「CONNY(コニー)」。悩みを乗り越え、自分も観客も「ニコニコにしたい」と願うからだ。出場した大会で客席の見知らぬおばあさんが笑顔で手拍子する姿を見て、うれしい気持ちが込み上げた。

 女子の入部は、女性のみのプロバンドの広がりも背景にあるとみるのは、楽器メーカーのローランド(浜松市)。肩に掛けて演奏できるシンセサイザーを華やかに装飾した“デコ・シンセ”を使う女性アーティストも現れたという。

 男子も頑張っている。同校2年の水谷優希さんは演奏すると高揚し、自然と体が動きだす。ベースを手にジャンプするのが大好きで「ライブは人生で一番楽しい」。最近のバンドはカリスマ不在で元気がないといわれる中、顧問の平尾周平さんが「救世主になる」と期待するほど。本人は「腕を磨いて魅力を全世界に伝えたい」と目を輝かせる。

 一方、愛知県内のある高校は部員の多さに頭を抱える。全校生徒760人に対し、軽音楽部は本年度の初めは110人もいた。退部者も多く、3年生も引退したが、60人が残る。12バンドあり、音楽室を1バンド10分ずつ使い回す。足りない練習は自主的にスタジオを借りて補う。顧問は「来年度も入部希望が多いなら、オーディションも検討する」と苦渋の表情だ。

硬派な伝統校が大会制す

 昨年12月に名古屋で開かれた高校生バンドフェス大会は21校42組の応募があり、来場者は約390人。いずれも過去最多で、次回は500席の会場に広げる方針だ。大会にも「けいおん!」の波が押し寄せる中で最優秀に輝いたのは、硬派な伝統を築いてきた実力校だった。

 名経大市邨(いちむら)高校(名古屋市)の軽音楽部で、礼儀や規律、下積みを重んじるのが特長だ。「バンドは『やかましい』と煙たがられがち。学校に認められるため」と顧問の中村弘之さん。入部しても半年は好きな楽器にほとんど触れず、掃除や荷物運びの日々だ。

 20年かけて信頼を積み上げて部費を獲得。今ではドラム5組やアンプ19個など楽器が充実するが、先輩は「恵まれた環境を当たり前と思うな」と後輩を戒める。例年、30~50人が入部しては多くが辞め、今は3年6人、2年2人、1年生はいない。

 いわば少数精鋭で、大学生や社会人と競う2月の大会でも優勝した。両大会で演奏したオリジナル曲には先生や先輩の大切さなど3年間の思いを詰め込んだ。

 中村さんは「時代に合わない指導かもしれないが、技術面も精神面も見事に吸収してくれた」と教え子をたたえ、ブームに惑わされず地道に取り組む大切さを強調した。

(写真)軽音楽部の部室で開かれたライブ。舞台はビールケースと合板でできている=三重県鈴鹿市の県立白子高校で

編集部|2011年2月21日 11:20 am|コメント(0)


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