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【コラム】

シリコンバレー101

66 ホワイトカラーの仕事も奪われる - 強まるオフショア開発への反発

2004/01/27

山下洋一

    1月21日から22日にかけてニューヨークのタイムズスクエアにあるウエスティン・ニューヨークでオフショア開発のノウハウを解説する「Offshore Sourcing Conference」が開催された。期間中、注目されたのはコンファレンスよりも会場の外である。プライムタイムのニュースでは、プラカードを掲げながら、海外への仕事流出に反対するエンジニアやプログラマーの姿が取り上げられていた。

    オフショア開発というのは、企業のシステム開発やバックオフィス業務などを海外の安価な労働力を利用したアウトソーシングサービスに委託することである。インド、中国、韓国、アイルランドなどの労働力が利用されている。

    Microsoft、Cisco、HPなど大手企業も利用しているが、それ以上にオフショア開発に注目しているのがスタートアップ企業である。例えばオフショア開発の中心となっているインドの場合、人件費が米国の6分の1に節約できるとも言われている。エンジニアの能力や経験を単純に人件費だけで比較することはできないが、1人分のコストで3〜4人を雇ってもおつりがくるのだから、資金集めに苦しむスタートアップ企業には魅力的だ。加えて、米国では外国人に対する就労ビザH-1の発行が制限されて、海外のエンジニアを米国に呼び寄せるのが難しくなっている。低賃金で働いてくれる優秀なエンジニアを国内で見つけにくくなっていることも、オフショア開発に目を向けさせるきっかけになっている。

    この影響をもっとも色濃く受けるのはシリコンバレーの住人である。昨年12月に失業率の低下が伝えられて安堵感が漂い始めているが、誰もが"オフショア開発"という言葉には敏感に反応する。だから、言葉の壁、文化の壁、ビジネススタイルの違い等々、ここに住んでいれば、自然とオフショア開発に関してネガティブな意見が聞こえてくる。

    失敗例として、最近よく取り上げられているのがIshoni Networksのケースである。サンタクララに本拠を持つIshoniは、コスト削減を狙ってインドのバンガローに開発子会社を設立した。ところが昨年初め頃、現地責任者との連絡に行き違いが頻発。不審に思った米国スタッフが昨年5月に現地を訪れると、現地責任者とライバル企業との癒着が明らかになり、知的財産を巡って訴訟騒ぎに発展した。このようなゴタゴタが積み重なり、Ishoniは先月破産を宣告している。

    Ishoniは極端な例だが、オフショア開発では、なにかとコミュニケーションの問題が取り上げられる。ウチの隣にはOracleに勤めるインド人のデータベース・エンジニアが住んでいるが、彼曰く「シリコンバレーとハイダラバッドでは流れている時間が違う」そうだ。働き始めたときは、言葉の問題よりも、スピード重視で期限にうるさい"シリコンバレーの時間"に慣れるのに時間がかかったという。シリコンバレーに住んでいる人でこれなのだから、米国とインドの間で事業をコントロールするのは至難の業だろう。

    一方でオフショア開発の推進者は、「オフショア開発を活用しなかったためにつぶれた会社の方がずっと多いはずだ」と主張する。ノウハウさえ確立すれば、コミュニケーションのトラブルも減少すると見る。

    実際、前出のお隣さんを含めてインド人エンジニアは優秀である。インドの大学ではコンピュータサイエンスやエンジニアリングが人気で、その品質も高い。加えて、インド国内に多くの需要がないのがある意味幸いして、積極的に海外との仕事を開拓する。そのアグレッシブさが、グローバル感覚につながっている。子供の英語教育にも熱心である。実力に裏打ちされているからこそ脅威なのだ。

    今年上半期だけで、全米では10以上のオフショア開発に関するコンファレンスが予定されている。流れは確実にオフシェア開発の方向にある。

    また、冒頭で記したようにプラカードを掲げてオフショア開発に反対する人ばかりではない。先週、地元紙の読者投稿欄には、"ホワイトカラーの仕事も奪われる可能性がある"という現実を受け止めた上で、自らの技術を磨かなければ早晩イノベーションの波を起こせなくなる、という意見が掲載されていた。国際的な協業のなかで前進を訴える人もいるのだ。

    そのような中で、日本はどのような存在になるのだろう。言葉のハンデがあり、さらにインドとは逆に国内需要の高さが国籍の壁を厚くしているのは確かだ。短期的にはオフショア開発を日本も活用できるかが問われるだろう。それ以上に気がかりなのは、国籍を超えて協業するエンジニア集団の中に日本も加わっていけるのか、という問題だ。

    少々話がそれるが、こちらの国際色豊かな小中学校は、大人の世界の縮図に思えるときがある。例えば、日系企業の駐在員の子供たちが米国の小中学校に通い始めたとき、以前は英語が話せなくても、算数や数学の時間になれば米国人を圧倒する存在だった。それで一目置かれる存在になり、すぐに学校にとけ込めたのだ。ところが、最近は頼みの算数でも、米国人に太刀打ちできず、学校に行きたくないと言い出す日本人の子供が増えているという。

    これがエンジニアの世界にも反映されたら……と考えるのは決して的はずれではないように思える。


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