2011年3月01日

裏方と華やかな舞台　どっちも好き　声優アーティスト　南里侑香さん

　アニメの登場人物の声を演じる声優が歌手として活動する「声優アーティスト」が、脚光を浴びるようになった。顔が見えない声だけの裏方の仕事と、ライブなど華やかな表舞台を両立させるのは、どんな人なのか。学生スタッフが声優アーティストとして活躍する南里（なんり）侑香さん（２６）に話を聞いた。

　学生スタッフは２月中旬、東京都港区にある南里さんの所属会社「スペースクラフト・エンタテインメント」を訪ねた。落ち着いた雰囲気の南里さんだが、その声はかわいらしく、アニメのヒロインが現実世界に飛び出してきたよう。

　南里さんは「声優学校で勉強して仕事を始める人と違った」と言うように、当初から声優を目指していたわけではない。ミュージカルにあこがれ、１０歳で児童劇団に入団。１９９７年、１０歳代の女の子でつくる「南青山少女歌劇団」に入り、主演も務めた。

　転機は１０年前。米国アニメ「パワーパフガールズ」の歌うヒロインのうちの１人の声に選ばれ、経験がないまま声優デビューする。声優は防音壁に囲まれた部屋で固定された数本のマイクの前に代わる代わる立ち、声だけで演技する。せりふを言うだけで精いっぱいだった南里さんは「スムーズにマイクの前に立つことばかりを考えた」と振り返った。

　それでも、一度主役を務めた南里さんは声優としてさまざまな役に恵まれる。２００４年に始まったアニメ「舞－ＨｉＭＥ」では、人に冷たい女子中学生役を演じた。かわいい女の子役が多かった南里さんには異色の役。「私でいいの？」と思いながら演じたが、スタッフに「リアルで良かった」とほめられた。舞台と違う、外見にとらわれない声優としての表現の幅の広さに気づく。

　もう一つの転機は８年前。「南青山少女歌劇団」の音楽を担当した作曲家の梶浦由記さんに抜てきされ、人気アニメ「機動戦士ガンダムＳＥＥＤ」の挿入歌「暁の車」で歌手デビューする。この曲がアニメ挿入歌として異例の４５週連続でオリコンチャート入りした。

　南里さんは「アニメの劇中でいい場面で使われ、うれしかった」。オリコン入りは全く考えておらず、本当に驚いたそうだ。

歌うときは主人公のつもりで

　１０歳代後半からテレビアニメのレギュラー役をもち続ける一方、アニメソングを歌い、オリジナルＣＤを出し、ライブの舞台に立つ。声優として常に役作りを考える。アニメソングは作品の世界観をイメージし、主人公になったつもりで歌う。南里さんは自身の活動について「声優と歌手の仕事は似ていると思う。垣根は感じない」と言い表す。

　南里さんはラジオのパーソナリティーも務める。「せりふも歌詞もない仕事は無理と思っていた。でも、言葉はすてきで大切なもの。思いを伝える難しさに迷いながら日々挑戦している」。声の仕事の幅の広さが南里さんの可能性を広げる。

かわいい服でも違和感なし
キングレコード部長　三嶋章夫プロデューサー

　なぜ今、声優アーティストに注目が集まるのか。２００９年から２年連続でＮＨＫ紅白歌合戦に出場した声優アーティストの水樹奈々さんをデビュー時から支えるキングレコード部長の三嶋章夫プロデューサーに学生スタッフが迫った。

　日本で声優が広がったのは約５０年前。映画会社が俳優のテレビ出演を禁じ、テレビ局が洋画や海外ドラマを数多く放送し、吹き替えが必要になったのがきっかけ。１９７０年代後半以降は人気アニメの登場人物を演じた声優が人気に。１９９０年代後半からＣＤを出し、積極的にライブを行う声優が現れる。

　今、声優アーティストは目立つ存在だが、三嶋さんは「ＣＤなどジャンル全体の売り上げは以前とそう変わらないのではないか」と考える。背景にＣＤ販売全体の激減がある。日本レコード協会の統計では音楽ＣＤ生産額は１９９８年の５８７９億円をピークに減り、２０１０年は２２２０億円と４割以下に。多くの音楽が動画サイトで無料で聴ける。三嶋さんは「今は音楽にお金を払う感覚が少ない時代」とみる。

　三嶋さんは学生時代、アイドル歌手のファンだったが「以前のようなアイドル歌手が今、ＣＤを出し続けるのは難しい」と感じる。一方、声優アーティストはアニメの登場人物を通じて好きになった人が熱心にＣＤを買い、ライブに足を運び、ファンの中核となって支えてくれる。

　声優アーティストの魅力は声。自分の年齢よりはるかに年下の登場人物も演じられる。三島さんは「ライブやグラビアでかわいい服を着てもファンは違和感が少ない」。声優はもともと裏方の存在で、ファンが「自分が支えなくては」という思いを抱きやすい。

　だから、三嶋さんはファンとの絆こそが大切と強く思う。「声優アーティストは声優の活動を充実させることが大事。そうでないとファンに歌手活動を支持してもらえない」

＜編集後記＞

日本福祉大４年　田島美奈

　私はアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公を演じた声優の緒方恵美さんのファン。ライブに参加して、声優さんの楽曲はアニメソングのようだと感じていた。

　三嶋さんは「アニメソングはオープニングの１分３０秒余りで視聴者を引き付けなければならない」と説明した。アニメソングは今も「昭和的」なのかもしれない。鉄腕アトムの時代から短い時間に印象的なメロディーを詰め込む姿勢が変わっていないと思うからだ。

　南里さんは、私が好きな緒方さんと音楽に対する考えが似ている。「声優と歌手の垣根をあまり感じず、どちらも好き。みんな大切」と。私は今春、アニメ制作会社に就職する。取材で良い経験ができたと思う。

　他の取材班学生スタッフ　法政大４年・高橋明日香、名古屋芸術大２年・田中文音、信州大１年・水谷真実、東京大大学院・宮川隆、金城学院大２年・森礼奈

（写真上）南里さん（左）を取材する大学生スタッフ
（写真下）声優アーティストの南里侑香さん＝いずれも東京都港区で

編集部｜2011年3月01日 11:30 am｜コメント(0)