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社説:視点 与野党協議 外から国会動かそう=論説委員・倉重篤郎

 政治が荒れ放題の観を呈している。政策を実現する政治力があちこちに分散、それぞれが自己を主張し妥協できずにいる。 持続可能な財政と社会保障制度を構築する「一体改革」もそうだ。与野党共にその必要性を認識しながらまだ一回も協議の場を設営できないでいる。ただ、毎週火曜の夜、国会近くのビルの一室では、別の光景が展開されている。与野党の若手、中堅議員が集まって、年金、医療、介護制度の抜本改革とその財源のあり方について侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を展開しているのだ。

 題して、国会議員連続討論会「『税・社会保障制度の抜本改革』を考える」。

 仕掛け人は、東京財団研究員の亀井善太郎氏。国会が動かないなら今こそシンクタンクの出番と、PHP研究所、構想日本、みずほ総研、日本総研と共催で、720人の衆参全国会議員あてにファクスを送って参加を求め、インターネット同時中継で論争を喚起している。

 亀井氏は元自民党衆院議員。健康問題で政治家の道はあきらめたが、現役時代勉強を重ねてきたこの改革について、今こそ前に一歩踏み出すべき時だと、菅直人政権が提起した与野党協議に注目してきた。

 だが、いつまでたっても協議は始まらない。民主党の本気度にも疑問がある。が、かつての古巣の姿勢にも「現行制度の責任の大半は自民党にある。かつては与党として超党派協議を呼びかけた経緯もあるし、政局ばかりの対応は無責任だ」との違和感を持っている。

 すでに3回開催した。私も傍聴させてもらった。出席議員数は決して多くないが、丸々2時間、茶も飲まずひたすら真摯(しんし)な政策議論が行われている。論点も整理されてきた。社会保障の範囲をどうとらえるか。世代間の負担・給付の格差をいかに是正するか。財源は税主体なのか、保険料方式か。与野党の一致点も次第に見えてきた。

 場さえ設ければ生産的な議論が可能なことを証明しつつある。そもそも、この問題については、すでに長い議論の積み重ねと膨大なデータがある。官僚から最新情報の提供を受け、支持団体や地元の陳情により民意を背負う国会議員にしかできない議論でもある。こういったミニ政策協議をあちこちで開き、国会を包囲してみてはどうか。

 実際に、新聞各社、経済団体、労働団体はそれぞれの案をまとめ、議論に参加している。国会はそろそろ外からの視線を本気で受け止めるべきだ。「給料泥棒」という言葉を二度と言わせてはいけない。

毎日新聞 2011年2月28日 東京朝刊

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