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社説:論調観測…調査捕鯨 継続するか見直すか

 南極海での日本の調査捕鯨が打ち切られることになった。シー・シェパード(SS)の妨害で安全確保が難しくなっていることが理由だ。

 今期の調査捕鯨打ち切りの発表を受け、翌19日から20日にかけて各紙社説はこの問題を論じた。暴力に屈した形になるのは問題だと指摘しているのは共通だが、見出しから力点の置き方の違いがうかがえる。

 「暴力で調査捕鯨中止は問題だ」という日経と、「暴力に屈せず正当性貫け」を見出しに掲げた産経は、調査捕鯨の継続を主張する。日経は「国際的に認められた活動を、不法行為をきっかけに取りやめることがあってはならない」と述べ、産経も「調査捕鯨の正当性を貫くためにも、調査続行は明確にしておくべきだ」と強調する。

 「悪質な妨害行為は許されない」の見出しの読売は、「調査捕鯨の正当性を国際社会に改めて訴えることが必要である」と主張しつつ、今後の見直しについても言及している。

 調査捕鯨の捕獲枠の大幅削減の一方で沿岸の商業捕鯨を上限付きで認める案を出した国際捕鯨委員会(IWC)の案を紹介し、「鯨肉消費の低迷などを考えれば、今後の捕鯨政策は、IWC案を軸に見直すべきだろう」との結論を導いている。

 「根本見直しの契機に」の見出しに示されているように、今回の調査捕鯨の打ち切りを機に、捕鯨政策の抜本的な見直しを主張しているのが毎日だ。

 「現実にはクジラ肉を食べなくなっており、調査継続の意義を掘り崩している」と分析したうえで、「SSよりも日本人の食の変化の方が調査捕鯨にとって難問なのである」と指摘する。

 日本の調査捕鯨は、次期計画の策定という節目の時期を迎えており、「この際は調査捕鯨を凍結することもふくめ、一度根本から見直してみてはどうか」と、毎日は提案する。

 22日に取り上げた朝日も、捕鯨政策の再考をという立場だ。ただし、「多くの日本人が『外圧』によって調査捕鯨をやめることを不愉快に思い調査捕鯨の継続を支持している」と毎日が記しているように、捕鯨は、これまでの経過や感情的なわだかまりもあり、取り扱いが難しい問題でもある。

 とはいえ、鯨肉需要が限界に直面しているのも事実だ。SSの行為は論外であり、捕鯨は食文化との関連で日本人の価値観に関わる問題でもあるが、現実を見据えた冷静な視点も、やはり必要ではないだろうか。

【論説副委員長・児玉平生】

毎日新聞 2011年2月27日 2時30分

 

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