肺がん治療薬イレッサの副作用で死亡した患者の遺族らが起こした損害賠償請求訴訟で、大阪地裁は販売元のアストラゼネカ社の責任を認め計6050万円の損害賠償を支払うよう命じた。どんなに画期的な薬でも、きちんと副作用情報を伝えなければならず、そのために多数の犠牲者を出した責任は取らなければならない、と判決は明確に示した。
イレッサの添付文書には間質性肺炎という重大な副作用が記載されてはいたが、一番後ろの目立たない場所だった。それが十分な情報提供と言えるのかどうかが訴訟の焦点の一つだった。判決は「添付文書の重大な副作用欄の最初に間質性肺炎を記載すべきであり、そのような注意喚起が図られないまま販売されたイレッサは抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたと言わざるを得ない」と指摘。同社に対して製造物責任法上の指示・警告上の欠陥があったことを認めた。
イレッサは販売前から副作用の少ない「夢の新薬」と宣伝され、他に治療法のない肺がん患者らは期待を膨らませた。そうした状況も考えて副作用情報は提供されるべきだったのだ。販売後2年半で557人もの間質性肺炎による死者が出たのは、本来使用すべきでない患者にまで幅広く使われたためと言われる。「平均的な医師等が理解することができる程度に危険情報を提供しなければならない」と判決は指摘する。
一方、国については「死亡を含む副作用の危険を高度の蓋然(がいぜん)性をもって認識することができなかった。国の措置は許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない」として賠償請求を棄却した。行政指導に法的な拘束力はなく、同社が間質性肺炎を添付文書に記載することに消極的な態度を示していたため被害を防ぐことはできなかったというのだ。
しかし、判決に先立って裁判所が出した和解所見では国の救済責任について認めていた。判決でも国の行った行政指導が「必ずしも万全な規制権限の行使であったとは言い難い」とも指摘している。国家賠償法の違法性を認めるまでには至らないが、国の行政指導に問題があったことを認めたと読み取るべきだろう。
製薬会社が自社の製品にマイナスの情報を出したがらないのは過去の薬害でも繰り返されてきたことだ。だから国は適切な監督権限を行使するよう求められているのではないか。国がもっと踏み込んで指導していればイレッサの副作用被害はここまで広がらなかったに違いない。
来月には東京地裁で判決が出る。国は重い教訓と受け止め、新薬の安全確保策を強化すべきである。
毎日新聞 2011年2月27日 2時31分