二大政党制の崩壊へ - 原口一博、平野貞夫、河村たかし、橋下徹
週刊誌が総選挙のシミュレーション記事を出して売り始めた。こういう状況になると、政界も徐々に浮き足立つようになり、派閥が先行して選挙対策会議が持たれ、資金の工面が始まる。地元の対抗馬の様子を睨みながら、事務所を構え、ポスターを作りという本番への準備作業が走り出す。党本部では候補者の調整が本格化する。現在、状況は混沌としていて、解散になるのか、菅辞任になるのか先が読めないが、総選挙の場合は大きく二つのテーマが浮上する。一つは政界再編で、もう一つは消費税増税とTPP加盟の政策争点である。間違いなく、この二つが被る選挙になり、答えを出す選挙になる。そう考えると、この選挙はとても重い。重すぎて、誰もよく課題をキャリーできず、選挙の後にさらに混沌が深まるだろうと予感を持つ。力持ちがいないのだ。政界再編の方から考えてみよう。今回、選挙に転んだ場合、従来のように、民主と自民がマニフェストを提示して、二大政党の間で政権をめぐって争うというスタティックなパターンを想定することが難しい。まず、民主党が分裂して選挙に雪崩れ込む公算が高い。そして、河村たかしや橋下徹が第三勢力を興して国政に乱入する。第三勢力が支持を得て、名古屋・愛知の選挙が各地で再現される可能性が高い。つまり、国民が民主党も自民党も支持せず、二大政党から心が離れていて、第三勢力の台頭と政界再編を求めているという現実がある。
政界再編そのものが争点になる。その意味で、おそらく、今度の総選挙は日本における二大政党制の崩壊と終焉を告げる選挙になるだろう。何が政界再編なのか、政界再編の中身は何なのかは別にして、政界再編に対してアクティブでアグレッシブな候補や勢力が有権者の支持を引き寄せるはずで、選挙中や選挙後の場面でイニシアティブを握る展開になるだろう。有権者の二大政党離れは、昨年の参院選から始まっていて、あの選挙の主役はみんなの党だった。今年の名古屋・愛知の選挙も、昨年からのその傾向がさらに拡大したものと捉えることができる。一つには、民主党がマニフェストの路線を修正し、自民党の政策と限りなく近寄ったため、有権者から見て、民主党と自民党の差がなくなった点が大きい。二大政党離れと言っても、政策の中身について言えば、国民は第三の政策を求めていると言うより、第二の政策を求めているのである。すなわち、有権者が二大政党制に飽きたとか、二大政党の政策に飽きたと言うのではなく、二大政党の側が政策大連立して一つになったため、日本の二大政党制は崩壊に至ったという認識が正解なのである。そしてそれは、この疑似二大政党制が本質的に内在する破綻の帰結でもあった。日本の二大政党は、自民党を二つに分けて競わせているだけであり、左翼勢力を排除するためのシステムであり、欧米の二大政党制とは発生も機能も異なる。
政界再編の中で二大政党制が崩壊する。ただ、それに代わって新しい体制が構築されるという契機はなく、固定的な政治が流動的なゲル状態になり、政権をめぐって些末な合従連衡が起きるというだけの推移にしかならない。現在の政局を眺めて、有力な指導者や理念の実在を認めることはとても難しく、要するに、これまでは自民党が二つに分かれて競っていた体制が、潰れて三つも四つもに分かれ、離合集散を繰り返しながら群れ漂う図になるのだ。議員が政治活動する動機は、まさに議員の身分であり続けることに収斂し、それ以外の論理は消え、政策の言語はさらに意味不明なものになって行くに違いない。東京都知事選の情勢を見ると、現在の日本の政治の水準が見え、次の国政の展開が見通せるように思われる。先週、原口一博が動いて「日本維新の会」の準備会合を開いたが、要するに、これは党内で原口派を立ち上げたという些事であり、民主党の代表選に立候補するという意思表明である。何の意味もない。政策の看板もない。単なる野心であり、世代交代論である。「国民の生活が第一」の理念も定かでないし、菅執行部と対立する政策軸を持っているかも不明だ。小沢系vs執行部の対立の党内政局に便乗して、巧妙に自分の派閥を作り、橋下徹との連携を売りにしているだけである。消費税やTPPで国民の側に立つ保証は全くない。松下政経塾崩れの政局小僧。右翼的なところだけが本音だろう。
別会派に離脱した16人だが、その後、何もしていない。どうやら、この16人は小沢一郎の指示と計略で動いているのではなく、平野貞夫に動かされているだけの駒だ。平野貞夫の政局趣味の道具である。先週、八木亜紀子のBSフジの番組に、平野貞夫、松木謙公、渡辺浩一郎の3人が出演して話をしていたが、3人とも要領を得ない支離滅裂な内容だった。政策の議論が何も出ない。構想や戦略を感じさせる一言もない。特に平野貞夫の話は意味不明で、ボケ老人同然で、何を言っているのか全くわからなかった。ほとんど20年前の化石のような話をしている。でありながら、小沢一郎が一定の支持を得ているという事情と背景があり、テレビ出演に嬉々として、自信たっぷりに自己を「策士」の如く演出し、「政界再編のキーマン」を気取っている。思い上がりも甚だしい老害症状だが、政治の現場に人物がいないため、こういう老醜の跳梁跋扈を許してしまうのである。いかに小沢一郎の周辺に人間がおらず、情報と知恵が集まってないかがよくわかる。小沢一郎は丸裸なのだ。あの代表選のときの戦いが限界なのだ。小沢軍団と呼ばれた「軍団」の中身は、すでに何もないのである。菅直人が小沢一郎との抗争に自信を持つ由縁だ。小沢一郎は、「国民の生活が第一」のマニフェストと共に象徴となって威光を放ちながら、政治を動かす実力を持っていない。16人の離脱にも反対だったが、離脱行動を阻止することができず、平野貞夫に私兵として与えてしまった。
シンボルとなった小沢一郎とマニフェストは、日本政治史における「玉」たる天皇に似た存在になりつつある。担がれる御輿になりつつある。本来、「国民の生活が第一」の理念とは真逆の位置に立つ松原仁などが、シンボルを担いで生き残ろうとする図が典型だろう。河村たかしも同じである。私は、河村たかしを全く評価しないし、期待もしないが、その動きを「政局」の論理で肯定的に捉えるのは、第三勢力が総選挙の台風となることによって、菅直人の消費税増税を阻止する機能に導けないかという願望が疼くからである。河村たかしは、「減税vs増税」を選挙の争点にすると言っている。仮に減税路線が支持されれば、消費税増税は困難になり、その前に無駄削減へと引き戻されて、官僚とマスコミによる2年間の反動努力はリセットされる事態になるだろう。こういう方程式を考える以外に、選挙で消費税増税を葬り去る目算は成り立たない。増税をマニフェストで掲げる二大政党が揃って敗北するという結果が必要なのだ。同様に、TPP加盟についても、この選挙で菅民主党が敗北して、その政策公約が国民に拒否されるという結果が必要である。先週のグッドニュースとして、TPPに反対する国民会議が結成され、その代表世話人に宇沢弘文が就任するという出来事があった。1/21の記事で、「議連は､国民戦線はできないか」と書いたが、それから1か月経って、ようやく「国民戦線」らしきものができた。この「国民会議」には、民主党、社民党、国民新党の国会議員が180人参加している。
春に総選挙があれば、間違いなく争点になるだろうし、この争点で敗北をしたくない政権側は、TPP加盟を断念するか延期せざるを得なくなるだろう。昨年10月の時点で、自民党は92名の反対派の議連ができている。「国民会議」に合流することを呼びかけたい。消費税の話に戻るが、少し興味深い動向として、時事通信のアンケート調査で、消費税増税を選挙で訴えるかという質問を全国の知事にしたところ、大阪は「する」と答え、愛知は「しない」と答えていることだ。最近、橋下徹が小沢一郎と距離を置き始め、同時に、減税策をめぐって河村たかしとの関係も微妙になりつつあるように見える。果たして、橋下徹は減税主義で一貫するのか、それとも増税路線に転ずるのか。この問題は、おそらく原口一博の動きにも影響を与えるだろう。菅直人が解散するにせよ、別の人間で選挙するにせよ、政権側は「消費税増税」と「TPP加盟」を政権公約に掲げざるを得ず、民意を得るべく必勝の構えで出るだろう。この二つの政策の是非を問う選挙をするのが望ましいし、この政策の是非で選挙区の候補者が分かれて争うべきだ。政界再編も、本来ならこの二政策を軸にして行われると分かりやすい。週刊誌などでは、次の選挙で民主党Aと民主党Bが分かれて戦うというような記事が出ているが、私はそのような展開にはならないと予想する。それは昨年の参院選までだ。執行部が掲げるマニフェストは1本であり、09年マニフェストは正式に撤回される。消費税増税とTPP加盟の公約を認めない候補者を執行部は公認しない。
逆に、その二つの政策で自民党と共闘し、選挙区で候補者を調整し合うだろう。つまり、選挙後に大連立が前提された選挙になるはずだ。したがって、09年マニフェストに拘り、消費税とTPPを認めない候補者は公認を得られず、無所属で戦うしかなくなる。必然的に政界再編となり、離党組が国民新党と合流し、あるいは河村新党と一緒になって新勢力を作る展開になるだろう。ここがまさに政局の正念場で、選挙まで電光石火の動きとなるはずだ。小沢系は、確かに国民の支持を潜勢的に得ているが、その勢力をよく統率できる実力者がいない。解散から公認の間に切り崩される恐れが十分ある。菅直人の方がしくじって、両院議員総会の動議で降ろされる可能性もあるが、小沢一郎の党員資格停止を白紙化して、臨時党大会で代表に選出するところまで行けるかどうか。これについても、そこまで政治を運ぶ胆力のある人物がいないといけないが、見渡したところ顔が思い浮かばない。一方、自民党の方も、TPP推進に反対の議員を多く抱えていて、この政権公約で一枚岩になるのは難しい事情がある。有力な人物もいない。いずれにしても、今度の総選挙は、民主が勝つか自民が勝つかという単純な選挙にはならず、次の政権の構図が見えにくい選挙になり、選挙後も混乱が続くようになると思われる。二大政党制の前提が崩れ、アモルフな政治状況になり、不安定な野合政治が続くだろう。二大政党制の時代は、二大政党制の幻想に国民の期待が集められた時代だった。それが、民主党のマニフェスト破りによって化けの皮が剥がされ、政権交代の理想が崩れたのである。政策が同じなら党は一つでよく、選挙で政権交代する必要はないのだ。
