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[24716] 【習作】とある最強はきっと超能力者【禁書再構成モドキ・『追憶編』突入】
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:2e92199b
Date: 2011/02/14 14:00
深く考えてません。
一方通行が主人公で、登場人物みんな残念です。
ヒロインは複数いる予定です。

一応あらすじ的なものを。


【妹達編】
(ったく……『最強』であるこの俺が何やってンだかなァ)

学園都市最強の能力者、一方通行は絶対能力者になるため、『実験』に身を投じていた。

「あ、あれ? 上条さんひょっとして地雷踏んじゃった?」

学園都市最弱レベルの能力者、上条当麻はいつも通り不幸な日々を送っていた。

ある日、出会うはずのなかった二つの平行線が、『妹達』を介して交わった。
最強と最弱が相対する時、二つの信念が激突する――


【追憶編】
学園都市最強の男は、護るべきものを手に入れた。

「ごめンなさいもォ二度としませン」
「……とか言いつつミサカの取り皿に伸びてる箸は何ですか?」

幸せな日常が綻ぶ時、学園都市を揺るがす惨事が巻き起こる。
暴虐と不条理の嵐の中、強者『達』は何を見て、何を掴むのか。

「ハッ、一方通行(アイツ)ばっかにいいカッコはさせねえよ」
「電撃使い最強の証、その目に刻みなさい!」
「ブチコロシ……か・く・て・い・ね」
「根性見せろや第一位ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

そして最強にすら世界は止められない。逆流に流され、幸福な日常は砕け散る。

「おいおいどうした第一位。未元物質(格下)相手にボロボロじゃねえか」
「魅せてやるよ垣根ェ! これが、本物のベクトルパンチ――こいつァちっとばっか響くぞッ!!」

別れが始まりならば、彼はきっと終焉を望むだろう。
この死は悪夢の始まりであり、地獄へ至る道の第一歩なのだ。




理想と現実が交錯する時、儚い虐殺劇の幕は開く――






予告編書いた後、本編との温度差に俺が一番ビックリだよ!

コンセプトは

『原子電磁心理通行《エレキックダウナーアクセラルアウト》+佐天さン』

ち、違う! 俺は錯乱なんかしてないっ!



―――――――――――――――――


12/27
タイトル変更
とあ魔→禁書

ミサカの単価を18万に修正

「とある最強は救いを欲しているようです」投稿


ミスのご指摘ありがとうございました。



1/9
お久しぶりです。年始のごたごたが片付いたので投稿。

全編のサブタイトルを変更。あのままだと確実にネタ切れしてた。

まさかの連投。黒翼キタコレ。



1/10
決着シーン投稿。

俺の中で上条さんは主人公補正と不条理の塊。
一方さんは厨二病とチートの申し子。
浜面? 誰それどこかの大統領?



1/21
『妹達編』終了。
おもひでぽろぽろ編はアホみたいに長くなる予定。
一発ネタだったはずなのにどうしてこうなった……


2/14
『追憶編』突入。
チョコ一個ゲット。普通に美味かった。



[24716] 序章 始まりはここから
Name: 佐遊樹◆420e78e3 ID:5da2f8b6
Date: 2011/01/10 02:31
学園都市、夏--

それは、セミが鳴き始めた日のことだった。

「クソあちィ……」

 一人の少年が、ビニール袋を片手に下げながら歩く。炎天下のアスファルトを踏みしめて、額ににじむ汗を拭った。

「気まぐれで能力に縛りつけるンじゃなかったなァ……」

 肩につくかつかないかの白髪、それと合わさりより目立つ紅目。


 人は彼を、最強と呼んだ。


 世界は彼を、一方通行《アクセラレータ》と呼んだ。


「つゥかなンだよこの暑さはさァ」

 彼は近くの公園に立ち寄り、ビニール袋の中から缶コーヒーを取り出した。
 ベンチに腰掛け、カシュッ! という心地よく軽い音とともにプルタブを開き、一方通行は中身を口に流し込む。

「アイスコーヒーって、こンなにうめェもンだったか?」

 しみじみと呟き、一方通行は上空の太陽を親の仇のように睨み付けた。

「クソっ、熱気と太陽光のベクトルを操作……ダメだダメだ。なンか負けた気がする」

 頭をブンブンと降り、意識を切り替える。たまには能力に頼らず目的を果たしてみせよう。
 そう思い立ったのは十数分ほど前のこと。それが今ではご覧の(もっとも視覚的に見る事はできないだろうが)体たらくっぷりである。学園都市最強の名折れもはなはだしい。

「だァっ、やってらんねェ。さっさと帰ろう」

 近所のコンビニまで能力を使わず向かい、適当な雑誌を立ち読みし、いつも通り缶コーヒーを買い込む。
 それだけの行為を、凄まじいまでの熱気が邪魔してきた。
 普段なら温度調節も移動もお手の物な一方通行だが、能力が消えればただの体力不足で運動不足で根性不足な(外見以外)一般学生。どこぞのナンバーセブンが見れば迷わずすごパ辺りをかましてくるような光景だが、本人はけだるすぎて気にも留めない。

(けど、家に帰りゃ問題ねェはずだ。寄り道なンざしたらクリーッシュが溶けちまう。家に帰りゃァエアコンの元アイスとコーヒー飲み放題食い放題だ)

 公園で遊ぶ子供たちをなんとなく眺めながら、一方通行は中身のなくなった缶コーヒーを、少し離れたくずかごに投げ入れようとする。
 普段はベクトル操作の恩恵によって寸分違わす中へ吸い込まれるそれは、あえなく外れ地面に転がった。

「……チッ」

 思わず舌打ちをしながらスチール缶を拾いに立ち上がる。
 その時だった。公園で遊んでいた子供たちが、一斉に声を上げた。

「いいって! おねーちゃん、危ないよ!」

 あァン? と一方通行が視線を向けると、そこには木によじ登ろうとする一人の少女の姿があった。

「おィおィ……危なっかしいなァ、あいつ。4メートルぐらいあンじゃねェか?」
「だいじょーぶよ! このくらいへーきへーき!」

 一方通行が呟くと同時、少女も声を張り上げた。
 白いブラウスの上から茶色のサマーセーターを着た、小さな体が見える。プリーツスカートを揺らしながら、彼女は右腕を上に真っ直ぐ伸ばした。

 手の先には青色の風船。

 それの紐に細い指が届く寸前、唐突に空気が揺れた。

「…………え゛?」
(やべェっ!)

 突風に吹かれ、少女の体が木から離れた。
 地面へと落下していく彼女をめがけて、一方通行は即座に右足を踏み込んだ。地を蹴る際のベクトルを操作、より効果的かつ効率的な駆け出しに変更する。

(クソがっ! 全然足りねェ!)

 それでも彼は届かない。風は向かい風、勢いが少しではあるが殺されていく。
 いかに砲弾並みの速度とはいえ、突き詰めれば走っているだけである以上速度に限界はある。
 頬を過ぎる風が、一方通行を焦燥に焦がす。

(…………あン? 風、だと?)

 一方通行の足が止まった。
 即座に再演算を開始。操るベクトルは、風の向き――

 再び突風が吹いた。

 それは少女を優しく包み、まるでゆりかごのように形を取る。

「……あれ? 私、落ちてない?」

 固く目を閉じていた少女の体が、フワリと浮いた。
 落下速度が少しだけ減速し、少女は――次の瞬間には、多くの手に支えられていた。

(え? 何? 空力使い《エアロハンド》?)
(…………あァ、なるほどなァ)

 それらの手の主は、風船の持ち主たち。
 涙目になりながらも、幼い少年たちは必死の思いで彼女に手を伸ばしていた。

「あ、アンタたち……」
「だって、だって、おねーちゃん落ちたら痛いでしょ?」

 その言葉に、少女は黙り込む。
 自分が今、この少年達にどれほどの心配を掛けたのか。その重さが彼女にのしかかていた。

「まァ、そういうことだ、おねェさン」

 その時、一方通行の声が公園に響いた。
 少女も少年たちも彼に目を向け、怪訝な表情をする。

「アンタ、誰よ?」
「あン? 俺が誰かなンざ、どうでもイイことだろうがよォ」

 そう言って、一方通行は地を蹴った。能力の恩恵を受け、その体は地上4メートル近くにまで飛び上がる。

「んなっ……!?」
「ほゥらクソガキども。取ってやったぜェ」

 一瞬にして青い風船を手にし、一方通行が地上に舞い降りる。
 少年たちに風船を渡すと、少年たちははじけるような笑顔を浮かべた。

「ありがとう、おにーちゃん!」
「ハッ、感謝すンのは俺じゃなくてこの女だろうがァ」
「うん、ありがとう、おねーちゃん!」

 そう言って少年たちは走り去って行く。
 彼らの後ろ姿を見つめながら、少女は口を開いた。

「……一応聞くけど、あんたよね、風使って私を助けてくれたのは」
「あン? ま、そォだな」
「ありがとう。私は常盤台中学1年、御坂美琴」

 少女は誇らしげに胸を張った。

(ねェ胸を張るな)

 思わず内心で呟いた一方通行だったが、口に出さない分マシなのかもしれない。

「こう見えて大能力者――レベル4の電撃使い《エレクトロマスター》なのよ」

 そォですか、と興味なさ気に言い、一方通行は踵を返した。

「あ、ちょっとあんた名前は!? 能力は!?」
「ンなことどうでもいいだろォが」

 足が止まり、一方通行が顔だけ振り返る。



「人助けンのに、能力なンざいらねェだろ」



つっても、さっきのガキどもを見て気づいたことだがなァ。そう言って一方通行は去っていく。

「人を助けるのに、能力はいらない……」

 御坂美琴はそう呟く。公園には彼女しかいない。

『あァン!? アイス溶けてンじゃねェか!』

 立ち去った彼の絶叫が耳に届いた。
 なんだかサンタさんって実は親なんだと知らされた小学生のような気分になり、思わず嘆息しながら、美琴は頭上を見上げた。
 空は青い。雲など一つもない。

「……よし! やってやろうじゃないの!」





これは、序列第3位、『超電磁砲《レールガン》』が誕生する5日前のことであり。



絶対能力者進化計画が始まる二週間前のことだった。



[24716] 第一話 狙撃【妹達編】
Name: 佐遊樹◆420e78e3 ID:9d90e6eb
Date: 2011/02/14 13:50
 ミサカクローン10030号は、あるビルの屋上にいた。
 寝そべるような低姿勢でターゲットサイトを覗き込み、標的を待ち続ける。

(風向きが変わった……照準を左に2クリック移行)

 カチリ、と音がして、10030号の構えるあまりに巨大な銃器が、その操作に従って稼動した。

 全長184センチメートルにも及ぶそれの名称は、メタルイーターMX。

 対物ライフルである『バレットM82A1』に無理矢理連射機能を取り付けたそれは、まさに化け物と呼ぶにふさわしい。

(ビル風……三方向から風の渦。照準を1クリック右に修正)

 十字のターゲットサイトの向こう側には、コンビニから憮然とした表情で出てくる白髪の少年。

(標的を補足。ビル風の安定を待つ)

 そう小さく口の中で呟き、彼女は間もなく肉片と化すであろう少年を見た。
 缶コーヒーをはちきれんばかりに詰め込んだビニール袋をぶら下げ、少年はズボンのポケットからシンプルなデザインの携帯電話を取り出した。なれた手つきでボタンを操作。サイト越しに見える画面からして、インターネットにアクセスしているようだ。

(ターゲット『サイト』越しに『サイト』を確認……ププッ、とミサカは自分で自分の余りにハイクオリティなジョークに軽く噴きます)

 ヒュウ、と風が吹いた。今夜は風が強いが、天候とは一切関係の無い冷たい風が。

(どうせ男のことだから、18歳未満閲覧禁止のサイトでも見てるんでしょう、とミサカは当たりをつけながらサイト越しにサイトを確認……ププッ……します)

 なんかもう色々と残念な醜態を晒しながら、少女はスコープの倍率を調整、携帯電話の画面を拡大。

(どれどれ……?)

 拡大された画面には、何やらDVDのパッケージらしい画像とその紹介文。


『真正中○し! 女子○学生に迫る車内痴漢の魔の手!』


(やべーやべーマジやべー洒落になってねー)

 思わずキャラ崩壊しながら、ミサカは絶句した。
 パッケージに描かれたのは『某有名名門学園』をオマージュしたと思われる制服。完全にミサカが現在着用しているモデルと同一なのがよりミサカをドン引きさせた。
 ちなみに表紙を飾るのは肩まである茶髪の少女と長いツインテールを垂らした少女。怯える表情の二人を多数の手が掴み、一部は服の下をまさぐっている。

(これはひどい……)

 一方通行はボタンをパチパチと操作、画面に表示された指のアイコンを『購入』に動かしクリック。

(買ったぁぁぁぁぁぁ!! 買っちゃったぁぁぁぁぁぁぁ!!? ちょっ、ミサカはこんな変態を狙撃しなくてはならないのですか!? 銃が汚れますって!)

 続け様に表示された画面には、どれもこれも同じ制服を身に纏った少女が写っていた。多数の男に囲まれたり公園の片隅で陵辱されたりとロクな目に合っていないが。

(狙ってる! これ狙ってますって! ヤバイミサカ実験中に無理矢理そういうことされるんですか!?)

 恐怖と驚愕に頬をビキバキと引きつらせながら、ミサカは思わずたじろいだ。

(……ッ、ゴホンゴホン、落ち着きなさい、とミサカは深呼吸を繰り返します。どうせ単価18万の身、どうなろうと何の価値もないでしょう、とミサカは自分に言い聞かせます)

 それよりも、とミサカは続け、

(この狙撃は絶対に成功させなければなりません、よってミサカは対象の観察を続行します。)

 夜の暗さに紛れ、よく見えなかったが、服装もダメージジーンズにボーダーデザインのポロシャツという簡素なものだ。
 少年は携帯電話のボタンをいじくり回しながら、深夜の歩道を歩く。照準は少年の背中に付いて離れない。

(……………………)

 ミサカが呼吸を殺し、集中力が極限まで高まったその時。
 風と風がぶつかり合い、渦が一瞬だけ安定した。

(――――ファイア!!)

 鋼鉄破り《メタルイーター》が火を噴いた。時間にして2秒にも満たない間に、10030号は弾倉に込められた十二発の弾丸をフルオートで撃ち出す。
 それら全てが、まさに神業と呼んで差し支えないほどの精度で少年の背中に吸い込まれていく。


 はずだった。


 10030号はサイト越しに見た。瞬間的に肉と鮮血に変わるはずだった少年が、傷一つ負っていないことを。



 そして、計十二発の弾丸が真上に跳ね上げられたことを。



(狙撃が失敗……選択肢は――)

 10030号に残された手段は、逃走のみ。それも、体制を立て直すためのものではない。
 逃げることは単なる延命処置に過ぎないのだ。


 狙撃が失敗し、居場所が特定された時点で、彼女の死は確定してしまったのだから。





 一方通行は、辺りに爆撃音にも近い強烈な轟音が響いたのを感じた。というのは、一方通行自身は音を『真上に』反射しているので、周囲の人間の反応から推測するしかないからだ。

(あれは……確かデータベースにあったなァ。バレットを改造したっつゥトンデモ銃)

 狙撃地点とおぼしきビルの屋上を見れば、打ち捨てられたメタルイーターMXの姿が目に飛び込んできた。

(今回が初めてじゃねェか? 不意打ちとか遠距離狙撃とかは)

 ぼぅっと思考しつつ、一方通行は携帯電話を折りたたむ。健全な男子学生の秘密が詰まったそれは、何も言わずに持ち主を見上げていた。

(ま、なンにしても……)

 口元が歪む。彼を知る者であれば、ひどく驚いただろう。


 その、悲しみに彩られた表情を見て。


「さァ、実験開始といきますかァ」


 ザワッ!! と風が揺れ動いた。





今晩は風が強い。
命を懸けた、万に一つも勝ち目のない鬼ごっこが幕を開く。





――――――――――――――――――――――

なぜ続けたし俺。

構想

・一通vs上条まではプロットあるぜ
・そこから先は迷子だぜ
・もはや人生の迷子だぜ



[24716] 第二話 嵐の前
Name: 佐遊樹◆620b77a5 ID:2e92199b
Date: 2011/01/09 07:13
 翌日。
 きっとこれは何かの間違いだ、と思わず一方通行はうめいた。

「何をぼぅっとしているのですか、とミサカは前方に注意をうながします」
「へィへィそうですか」

 手に持った缶コーヒーを一口あおり、どこかへ旅立っている冷静な思考を呼び戻そうとするものの、どうやらもう天上界まで吹き飛んだらしい。
 突発的な偏頭痛に頭を抱えつつ、一方通行はゆっくりと隣に視線を向けた。

「どうかしたのですか? とミサカはあなたの心境を汲み取ろうと四苦八苦します」
「時のベクトルを変換……って、できるわけねェよなァ」

 意味の分からない言葉を吐き出しつつ、思わず頭上の青空を見上げる。
 学園都市には珍しく、周囲にビルの姿がない公園からは、昼の月が見えた。

「あー……ムカつくぐらい青いな。なァ?」
「なァ? ではなく、ミサカには10031号という立派な名前があります、とミサカは胸を張りつつ自慢します」
「ねェ胸を張るな」

 一方通行の辛辣な一言に、けれどミサカクローン10031号は表情を崩さない。

「まったく一方通行は女心が分かっていませんね、とミサカは鼻で笑いながら指摘します」
「ハッ、余計なお世話だ」
「そんなだから彼女ができないんですよ、とミサカは無表情で真実を告げます」
「ちょっと表に出ろ」

 彼女の発言に大人気なくキレる一方通行。しかし10031号はどこ吹く風とばかりに無視。
学園都市最強も形無しである。

「暇ですねー、とミサカは一方通行の頬をつねりながらボヤきます」
「触れンじゃねェ」

ミサカは一方通行の頬に手を伸ばすが、一方通行はベクトル反射でこれを拒否。

「むう、では何か暇つぶしをと、ミサカは読者のためダメ元で打開策を一方通行に要求します」
「何言ってンだかわからンな」

 ハン、と鼻で笑い飛ばす一方通行にミサカは無表情でジト目を送る。が一方通行は無視。

「……それでは『おままごと』をしましょう、とミサカはナイスアイデアを提案します」
「それをナイスアイデアだと本気で思ってンなら精神科が脳外科に行って頭ン中診てもらえ」

 反発する一方通行を放置し、ミサカはせっせとランチシートを地面に広げた。

「えー、マジですンのかよ」
「はい。あ、おかえりなさいアナタ、とミサカは早速一方通行の新妻を演じます」

 どこからともなく取り出した花柄のエプロン(ピンク、フリフリのフリル付き)を着用、ミサカはノリノリで正座した。
 ここまでされて引くのは流石に良心が痛むのか、一方通行はいかにもしぶしぶといった具合で靴を脱ぎ、シートに座り込んだ。

「あァ、ただいま」
「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも」
「ワ・タ・シ……とか言ったらコロス」
「ワ・タ・シ……とム・ス・メ? とミサカは男性にとって魅力的な提案をします」
「うォい!? 娘巻き込ンでンじゃねェ!」

 始まって早々に一方通行は要求を呑んだことを後悔した。
 早速ミサカワールドに取り込まれつつある一方通行を、ミサカは心なしかニヤリと笑いながら見やる。

「おビールとお芋の煮っ転がしがあります、とミサカは夕食の献立を伝えます」
「ラインナップはマトモだなァ」
「デザートは娘です」
「さっきから娘さン持ち出し過ぎだろォ! いくらなンでもそれは無理がねェか!?」
「ファザコンなんです、とミサカは母親として悲しむと同時に対抗心を燃やします」
「あーうン、もォツッコまねェ」
「もう短大を卒業するっていうのに」
「エライ重症だなァオイ!」
「卒業後は物理学の博士課程に進みます。美人でおしとやか、大和撫子男のロマンそのものなので週に三十四回求婚されます、とミサカは 裏設定を暴露します」
「そンな完璧超人娘に持ててお父さン鼻高々だが、回数が流石に多すぎだろ」
「断る時の文句は『ごめんなさい、私にはお父さんがいるの』」
「いつかぜってェ俺刺されンな……ハッ!」

 気づかぬ内にツッコミを入れていた自分。完全にミサカワールドに取り込まれ、一方通行は慌てふためいた。

「い、いや、今のはだな! 不可抗力というかなンというか」
「ご飯食べ終わったようですし、お風呂に入りましょう、とミサカは次の行動に移行します」
「無視かよ。あ、風呂はモチロン俺一人でな」
「困りました、もう娘が全裸で浴槽で待っているというのに、とミサカは片手を頬に当てて困っている様子を演じます」
「娘さンは湯女か」
「……つまり一方通行は湯女のような性的サービスを所望しているワケですか、とミサカは若干引きながら事実を要約します」
「ものすげェ勢いで事実がねじ曲げられてねェか!?」
「さあさあこちらへ」
「ちょっ、おま」
「あ、お父さん。どう? 実の娘に欲情した? とミサカは母親から娘へとキャラを素早く変更します」
「一人二役かよ!?」

 もう一方通行はワケが分からない。
 ミサカにお父さん大好きです食べていいですかオーラ全開で迫られ、我も忘れてテンパっていると、おもむろにミサカが口を開く。

「大丈夫です」
「何がだよ?」
「娘は、ちゃんと処女ですから」
「ああそンなら安心――――なワケあるかァァァァァァァァァァァァァ!!」

 ついに最強は吠えた。
 うがーっ! と雄叫びを上げ、一気にまくし立てる。

「さっきからンだよそりゃァ! 黙って従ってりゃいい気になりやがって……テメェ何がしたいンだよ!?」
「いえ、てっきり一方通行は処女以外受け付けない処女厨かと」
「ンなワケあるか! 大体娘の処女父親が奪うってシチュの時点でイヤだし犯罪くせェよ!」

 それに、と続け、



「オマエは、『実験』で俺に――――」



そこまでだった。
一方通行は突然歯噛みし、俯く。何か認めたくない現実から目を背けるように。

「……つゥかよ、お前何で俺について来るワケ?」

話題をそらすような、唐突な発言。しかしミサカは特に気にもせず応答する。

「ミサカがどう行動するかはミサカの自由です、とミサカは主張します」
「あァもうややこしいンだよ! ミサカミサカうるせェ!」
「お、可愛い猫発見、とミサカは報告しつつ捕獲に乗り出します」
「聞けよ」

一方通行になど目もくれず、ミサカ10031号は公園の片隅に置かれた段ボール箱へと駆け寄って行く。

「ったく……おィ、あンま先走ってンじゃねェ」

 やれやれ、と頭を振りつつ、一方通行はミサカ10031号の後を追って行った。
 表情には呆れの色が濃いが確かに彼は、


 薄く微笑んでいた。


「猫を発見しました、とミサカは懇切丁寧に報告します」
「おゥ、黒猫かァ。まだ小せェな」
「はい。目測で生後八ヶ月ほどかとミサカは予測します」
「ンなことわかンのかよ」
「嘘です、とミサカは正直に言います」
「…………」

 ピクピク、と一方通行の頬が引きつる。
 心なしか額に青筋を浮かべつつ、一方通行は自らもゆっくりと段ボール箱の前に腰を降ろした。

(ったく……『最強』であるこの俺が何やってンだかなァ)

 思わず嘆息しながら、一方通行は子猫を見やった。

「……おィ。なンか怯えてねェか?」
「恐らくアナタの悪人面が原い」
「そゥいえばベクトル変換で猫って殺せンのかなー?」

※殺せます。
 公園で一人のんびりとコーヒーを味わっていたところを妨害されよっぽど頭に来ているのか、平然とアブない発言をかます一方通行。

「猫を人質にとるとは卑怯です、とミサカは涙ながらに訴えかけます」
「ハッ、テメェごときの訴えが、この俺に通用すると思ってンじゃねェぞ……ってアクセラレータは威張って言ってみます」
「…………キモいです、とミサカは誠心誠意真心たっぷりに助言します」
「それ助言じゃないだろ」

 なんとなく言い放った冗談が彼を追いつめる。
  徐々に包囲網がせばまっていくような感覚に見舞われつつ、一方通行は手にしたスチール缶を片手で握りつぶした。無論能力でベクト ルを効率化しただけだが。

「というわけで飼育をミサカは希望します」
「あァン!? ふざけンじゃねェぞ! なンでこの俺が猫なンざ飼わなきゃいけねェンだ!?」
「まず猫がいます。可愛いです。捨てられています。拾うべきです。とミサカは頭の堅い人にもわかりやすいよう説明します」
「明らかに四段階目オカシィだろォが」

 破綻に破綻を重ねてさらに破綻した論理に、一方通行は思わず頭を抱える。
 なんとか話の方向性を逸らそうと、学園都市最強の能力者、つまり学園都市最高の優等生はその開発された脳みそを使って次なる会話の内 容を演算する。

「つゥか、こンな風力発電のプロペラの真下に子猫置き去りにするやつの気が知れねェな」
「つまり自分は違うと?」
「ン、そーゆーことになンのか?」
「ならばアナタはこの子を見捨てたりしませんね、とミサカは安堵の息をつきます」
「……………………」

 どうやら学園都市最高の脳みそは、対人能力は皆無らしい。
 己の無力さに歯噛みする最強をミサカ10031号が心なしかニヤニヤと笑みを浮かべつつ見つめる中、一人の少年がその場に足を踏 み込んだ。

「……ゴーグルなくなるとホントに見分けがつかねーな、つか隣の人誰よ」

 小さな呟きを、一方通行《アクセラレータ》と欠陥電気《レディオノイズ》は聞き逃さない。
 二人があまりに揃って首を巡らせこちらを見た時、何故だかその不幸な少年は背筋に言い知れぬ悪寒を感じたという。

 つまる所、少年の長年の経験からなる『不幸センサー』にこの状況が最大警戒音を発したわけで。



「あ、あれ? 上条さんひょっとして地雷踏んじゃった?」



 その不幸な少年こと上条当麻の言葉に二人は、



「あァ、最っ高に最っ低な地雷をなァ」
「えぇ、最高に最低な地雷を」



 悪魔のような声色で、無慈悲な死刑宣告を下した。



―――――――――――――――――――――――――

これからも不定期更新。

メインヒロインがついに決定!


その名は――


佐天涙子さン!!


すみません。ネタじゃなくてガチなんだぜ。



[24716] 第三話 たどり着く者
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:2e92199b
Date: 2011/01/09 07:14
「ふ、不幸だ……」
「ンなこと言ってる暇があったらこいつを剥がしてくンねェか?」
「みー」

 上条はオレンジから紫色に変わった空を見上げ、思わずため息をついた。
 隣をてくてくと歩く一方通行は、その頭にしがみついている黒猫を鬱陶しそうに引き剥がそうとしているが、黒猫はみーと鳴いてそれを拒否。

「で、なンだかンだでこのクソ猫の飼育を押し付けられて、お前はどゥすンだ?」
「そりゃまぁ、『猫の飼い方』みたいな本を買わざるを得ないですよ」
「ふゥン、けど本屋なンざあったかァ?」
「上条さんの記憶が正しけりゃ、この先に古本屋があるんだよ」
「なるほどねェ」

 たわいもない会話を交わす二人。
 もっとも、上条とは逆に真横の方向からは、チラチラと一方通行の頭の上にミサカ10031号の視線が向けられているのだが。

(ったく、磁場が出てるとか何とか言ってたけど、撫でたいのなら撫でりゃいいのになー)
(そンなにチラチラ見られっと、俺が悪いことしてるみてェな気分になってくるンだがなァ……)

 揃って嘆息する上条と一方通行。
 黒猫がみー、と鳴いたのをきっかけに、男二人は素早くアイコンタクトを開始。最強と最弱は手を組んだ。

「あーっ、そう言えばもうすぐ本屋だなぁーっ!」
「おォ、そゥみてェだなァ!」
「だったら先にどっちが着くか競争しようぜ!」
「いい考えだなァ、それェ!」
「……唐突なテンションの上がりようについて行けないのですが、とミサカは」
「けど猫が邪魔だなあ!」
「確かにそゥだなァ!」

 上条と一方通行はミサカの言うことを聞いていない。

「あっ、ちょうど良く連れの御坂妹が持ってくれそうだなあ!」
「待ってください、ミサカは何の意思表示も」
「おゥ、『私猫持ちたい触りたい撫で回したい』って表情だなァ!」
「ですからミサカは」
「よし猫は御坂妹に任せよう!」
「それが一番だなァ!」

 ミサカが何か言ったが、無視。ひたすらに無視。

「ですから、ミサカは体質的にその猫を怖がらせてしまうのです、とミサカは」
「ハッ、体質がなンだ。それを乗り越えてこそ友情は芽生えるンだろォが!」
「その通りだぜ! 食らえ、必殺猫爆弾!」

 みー、と声を上げる黒猫を無理矢理に引き剥がし、一方通行はその体をゆっくりと放り投げた。ちなみに上条は何もしていない。
 しかしミサカは動物愛好家の悲しい性(さが)か、反射的に手を伸ばしてしまう。正気に戻ったころにはもう遅く、二人の少年達は我先にと古本屋へ駆け出していた。

「……まったく、私が動物に触れても何の意味もないことは、アナタが一番知ってるでしょうに、とミサカはため息をつきます」

 そこまで言った時、彼女の懐が振動した。ミサカは黒猫を逃げないよう小脇に抱え込んで、右手で振動の原因を取り出した。それは簡素で安価な通信機器。
 通話スイッチを入れ、ミサカは口を開く。

「こちらナンバー10031です、とミサカは応答します。何の用でしょうか」
『こちらナンバー15609、とミサカは自らの検体番号を明かし、』

 通信機器のスピーカーから、ミサカにそっくりな――否、まったく同じ声が聞こえ、



『実験の開始時刻を伝達し、用件を伝えます』



 日常の終わりを告げ、地獄の始まりを宣告した。





「……悪いな、急にあんなことに付き合わせちまって」
「ンなこといいンだよ。視線がうざかっただけだ」

 古本屋の中、上条と一方通行は本棚の前で言葉を交わしていた。
 そうか、と上条は相槌を打ち、

「ところでお前って、御坂妹とどんな関係なんだ?」

 質問をぶつけた。
 一方通行は、一度視線を本棚に向け、『美味しい牛肉の調理法』という本を引っ張り出す。

「別に、テメェには関係ねェだろ」

 その言葉に、上条は改めて自分と目の前の少年が見知らぬ他人同士であることを思い出した。
 悪い、と一言謝り上条は『牛肉の美味しい調理法』の隣に合った『猫の飼い方』なる本に手を伸ばす。

(あんまり他言したくない関係なのか……?)

 突っ込むのは野暮だろう、と上条が思った時、ピリリリ、とシンプルな音が小さく響いた。

「ワリィ、俺だ」

 一方通行がジーンズのポケットから携帯電話を引き出せば、確かにそれは着信音を鳴らしながら小刻みに震えている。

「ちっと待っといてくれ」
「ああ」

 本棚と本棚の間を小走りに走り抜け、折りたたまれた携帯電話を開く彼を見て、上条はふと思う。

(そういや、俺アイツの名前知らねーな)

 一方通行は通話を終えたらしく、こちらに駆け寄って来る。

「ワリィな。用事ができた」
「ん、そっか」

 上条は口を開こうとして、

「それと、この本屋、奥にも動物の本コーナーがあるみてェだぜ」
「本当か? ありがとうな。でさ、」

 上条は再び口を開こうとして、

「あと、この時間帯はどうもアブねェらしいからな。さっさと帰っとけよ」
「お、おう」

 おかしい。上条は確かにそう感じた。
 目の前の少年は何か焦っている。先ほどまでのひょうひょうとした態度とは大違いだ。

「ンじゃあな」
「あ、あのさ!」

 上条はかろうじてのところで彼を呼び止めた。

「名前」
「あァン?」
「だから、名前だよ。また聞いてねえだろ」

 一方通行は少し逡巡し、


「……一方通行《アクセラレータ》だ」


 その名乗りに上条は頷いて、


「俺は上条当麻。今度会った時はよろしくな」


「……会うことなンてねェよ」

 一方通行はそう言い捨ると、店の出口へと歩いていく。
 と、上条は目当ての本を見つけたらしく、レジへと向かって行った。

(……アイツを実験に巻き込むワケにはいかねェな)

 一般人には侵入不可の世界。上条当麻という、他人のためにここまでできる男をまぶしそうに見ながらも、一方通行は実験のため店の外へ出ようと


 上条はレジを通り過ぎた。


「…………あァン?」

 壮絶に嫌な予感が一方通行の背筋に突き刺さる。
 いやァまさか学生服着た男子がこンな時間にはねェよなーとなぜか必死に否定しつつ、一方通行はそっと上条の後をつけた。
 それなりに広い店内の中、一方通行は見た。


 『18禁』と刻まれたのれんをくぐる上条の姿を。


(うおォォォォォォォい!? 嘘だろォォォォォォ!? いくらなンでもそりゃァねェよ!!)

 キャラとか道徳性とかプロットとかがガラガラと崩壊する音を聞きながら、一方通行は呆然と立ち尽くした。
 青少年が大人向けコーナーの前で立ち止まっているのは、一見すれば大人の階段を登りかけているような光景であるが一方通行はそんなこと気にしない。

「あー……上条ォ、いるか?」

 遠慮がちに声をかけてみる。
 途端に中からガタガタッ! と何かを取り落としたような音がした。

「いや、無理に返答しなくてもいいンだけどよォ」

 なぜかのれん越しの会話。
 一方通行はゴホンと咳払いをして、





「ナイスブルマ?」
「ナイスブルマ!」





 のれん越しに男と男は解り合った。
 問いかけに即答した上条に満足げに頷き、一方通行は自らものれんをぐぐって中へ入る。

「よっ。お前もコッチの世界の住民だったんだな」
「おゥ。お、月刊中○生あンだな。……二年前の3月号、だと……? おィおィオークションだと五桁いくプレミアモンだぞ……?」
「そっちか。てっきり月刊ロリータの方かと」
「…………」
「おいマジに悩むな」

 思春期にやっと入ったぐらいのあどけない少女(常盤台制服着用)が載った雑誌と、子供向け水着を着た、いたいけな幼女が表紙を飾る雑誌。
 どちらもそこはかとなく犯罪臭のする雑誌だが、それらを両手に抱えてしまうと一方通行が本物の変態にしか見えないから残念だ。

「中学生の方は過去三年間分、コイツ以外家にあるンだが……どォしよう、マジ欲しいィけど正直部屋にスペースがねェ」
「どこに置いてるんだ? やっぱベッドの下か?」
「ハッ、芸がねェな。俺は一人暮らしだから堂々と棚に置けるンだよ」
「なんというリア充」

 なんか優越感でも抱いているのか、誇らしげに胸を張る一方通行。
 彼の部屋の本棚一面に過去三年分のいかがわしい猥褻本が並んでいると想像するとなぜか泣きたくなってくるのは気のせいだ。
 それを羨ましそうに眺めながら、上条は同棲相手を頭に浮かべため息をついた。

「いいなぁ。ウチなんて年頃の女の子がいらっしゃるから迂闊に読めねえよ」
「妹さンか?」
「いや、居候」
「なンというリア充」

 リア充というよりは彼女のいない男の宿敵である。
 一方通行から煮詰めている最中のジャムがごときドロドロの殺意を浴びせられ、『鬼畜! 隣のお姉さんは僕の性奴隷』なる本を持って凍りつく上条。

「……ま、いいさ」

 そう言って、一方通行はのれんをぐぐって外の正常な世界へと帰還する。上条はのれん越しに声をかけた。

「もう帰るのか?」
「あァ、あばよ」
「ナイスブルマ?」
「ナイスブルマ!」

 最早ワケが分からない。
 異次元の言語じみたやり取りを終わり、一方通行は実験のため店を出ようとし。


「あ、これくださィ」
「はい。雑誌二点で千五百円です」


 結局買っていた。しかもどちらも。





 古本屋と隣の雑居ビルの間にある、薄汚れた裏路地。
 さらにその奥で、ミサカクローン10031と一方通行は相対していた。

「よォ。番号聞いてっから想像はしてたけど、お前が次なンざ信じられねェな」

 10031号は何も語らない。
 その手に構えるは最新鋭のアサルトライフル『F2000R』。積層プラスチックと衝撃吸収用特殊ゴムで構成された銃口が黙って一方通行を狙っていた。

「……猫は?」
「……店の前に置いてきました、とミサカは淡白に報告します」

 そうか、と一方通行は呟く。

「アイツ、あの上条ってやつに拾ってもらえるンじゃねェか?」
「彼の性格なら恐らくそうします、とミサカは自分の推測を口にします」

 会話が途切れた。
 ビルに囲まれ、四角く切り取られた空を見上げつつ、一方通行は嘆息する。

「……オマエさァ、なンで今日、俺に話しかけてきたわけ?」
「アナタに興味があったからです、とミサカは素直に告白します」
「俺に……興味ィ?」

 呆れたように一方通行は声を上げる。
 自分を殺す、絶対的な天敵に興味を持つなど正気の沙汰じゃない、と一方通行は呆れた表情で



「00001号のログを閲覧したのです、とミサカは己の行動を報告します」



 一方通行の呼吸が止まった。

「『彼女』が言ったように、アナタは本当に動物に好かれやすい体質のようですね、とミサカは今日あの黒猫の様子を見て感じたことを述べます」

 もう一方通行は彼女の言葉を聞いていない。その思考回路に去来するのはある一つの会話。



『この子猫、非常に愛くるしくなかなか甘え上手だと思いませんか?』
『……オマエ、気づいてっか? 今オマエ、笑ってンぞ』



「――――――――クソがッ!!」

 ドゴッ!! という轟音と同時、一方通行はアスファルトの路地を踏み潰した。
 変換された『向き《ベクトル》』は雑居ビルそのものを揺らし、その屋上に止まっていたカラス達を弾く。

「実験開始時刻です。被験者一方通行は待機、これより第一〇〇三一次実験を開始します、とミサカは宣言します」

 その言葉に、一方通行は一度だけ、一瞬だけ、砕けるほど奥歯を食いしばり、

「ンじゃ、始めるとしますかァ」

 次の瞬間にはいたって冷静な表情で。


「痛みを感じる前に、ソッコーで瞬殺してやンよ」


 そうして、その『実験』は始まった。
 ミサカクローン10031号は、素早くライフルの引き金を引く。
 いくら先ほどまで談笑していた相手とはいえ、躊躇する道理などない。気を抜けば瞬く間に抹殺されてしまうことなど分かりきっている。

「おィおィおィ、まさか最初っから最後までそのつまンねェオモチャに頼りっ放しってワケじゃあねェよなァ!?」

 それに対して、一方通行は回避はおろか防御する構えすら見せない。
 それもそのはず、彼の能力はそれ自体が最強の盾なのだから。

(――――ッ!? 今、何が!?)

 弾丸が一方通行に直撃する。フルオートで計六発の銃弾が射出され、人体の『弱点』を貫く。

 はずだった。

 銃弾が彼の肉体に触れた瞬間、軌道を大きく変えた。
 ちょうど地面と垂直に、『真上』に跳ね上げられたのだ。

「オラッ、考え事してるひまなンざねェぞ!!」
「くッ!?」

 一瞬だけ思考に浸ったミサカの隙を見逃さず、一方通行は獣のように飛び出した。

「そゥら、避けなきゃ死ンじまゥぜ!?」

 十メートルはあった距離を、一方通行はたったの一歩でゼロにした。
 その驚異的な脚力にミサカの目が見開かれると同時、ドン!! という鈍い音とともにミサカは背中からアスファルトの路地に押し倒される。

「あーァ、戦闘場所のチョイスをミスったなァ。せめてもうちっと広い場所なら、まだもったンじゃねェの?」

 ミサカに覆い被さるような姿勢で、一方通行はつまらなそうに声を上げた。
 今、彼はミサカに触れている。毛細血管や生体電流を片っ端から逆流させれば、瞬間的にミサカの体は弾け飛ぶだろう。

「…………」
「……? どうかしたのですか、とミサカは」
「オマエ、10031号だよな?」

 ミサカの言葉を遮り、一方通行はその右手を彼女の額に当てた。

「そうですが、とミサカは今更分かりきった事項を確認するアナタに首を傾げます」

 一方通行は何も語らない。
 ただ、小さく口を開き、



「…………すまねェ」



 ミサカの目が、ゆっくりと閉じていく。一方通行が脳波のベクトルを操作し、眠りにつかせているのだ。

「なぜ謝るのですか、と……ミサカは、……かく、に……んを」
「これぐらいしかできねェからだ」

 ミサカの意識が闇に墜ちる。安らかに眠っているかのような彼女を見て、一方通行は右手をそっとミサカの首に添え、



「許せ」



 ゴキッ!! と大きな音が、路地裏に響き渡った。






 上条当麻が古本屋を出て真っ先に見たものは、耳をペタンと垂らした黒猫の姿だった。

(あれ……? 御坂妹のヤツ、帰っちまったのか?)

 ひょいと猫を抱き上げ、上条は辺りを見渡す。
 視界に入るのは、古本屋のドア、古ぼけた雑居ビル、薄暗い路地裏、まるで薬莢のように見える鋼の塊、整備されてないアスファルト――――



 まるで薬莢のように見える鋼の塊?



(あれ……? 何だよ、あれは?)

 映画に出てくるようなソレに、上条はおそるおそる近づいた。
 上条は知らない。ソレは学園都市最強の能力者が真上へと弾き飛ばした弾丸であることを。

「みさ、か……?」

 何故そこで彼女の名前が出てきたのか、上条には分からない。
 何故か分からぬまま、足音を殺して上条は奥へ歩く。
 進めば進むほど、転がっている薬莢の数は増え、辺りには火薬のような匂いが充満していった。

「いるわけねーよな……?」

 まるで自分に言い聞かせているかのように、上条は呟く。
 そうだ、こんなところに御坂妹が居るワケがない。

(曲がり角……?)

 やがて上条は、一つの曲がり角にぶつかった。直角に曲がっており、曲がった先に何があるのかは見えない。
 薄暗い闇が辺りを覆い、さも上条を拒むかのように広がっていた。

「み、さか…………?」

 意を決して踏み込んだ上条は見た。路地に仰向けに倒れている一人の少女を。


 首が、人体として曲がるはずのない、曲がってはいけない方向に曲がった少女を。


 御坂妹は、死体となってそこに転がっていた。



――――――――――――――――――――――――ー


すみません。メインヒロインの件ではお騒がせしました。
実はまだプロローグすら終わっていないという罠。
妹達編(3巻内容)の後、追憶編(別名『おもひでぽろぽろ編』)を挟んでやっと本編突入。長ぇ。我ながらクソ長ぇ。

メインヒロインはまぁ佐天さンにしようかなーと。
い、いえ、別に皆さんの要望が多ければ変更を前向きに検討しようかとは思いますよ?

べ、別に日よってなんかないんだからね!

ヒロイン予定
・佐天さン
・ビリビリ
・麦のん(!?)



[24716] 第四話 白と白
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:c221eadf
Date: 2011/01/09 07:14
 久しぶりに人と会話した。

 一方通行はそんなことを考えながら、未だ喧騒の止まない大通りを歩いていた。
 珍しく能力を使わず、音を常人と同様に『聞き』ながら、彼は自宅を目指して進む。

 今はそんな気分だった。

『この子猫、非常に愛くるしくなかなか甘え上手ですね、と■サ■はアナタに同意を求めます』

 らしくない。
 一方通行は自分でもそう思った。

『……オマエ、気づいてっか? 今オマエ、笑ってンぞ』

 ピタリ、と一方通行の足が止まる。
 彼のポケットの中の携帯電話が小さく振動していた。着信相手は、実験を行っている研究所。

「……なンかようか?」
『次の実験時程が決まりました。そちらに送信します』

 それだけ言って、通話は一方的に切られた。
 ふと辺りを見渡せば、寮の門限なのか、学生の数は目に見えて減っている。

(……あン時は、良かった)

 みゃー、と猫の鳴き声がした。そちらを見れば、一匹の三毛猫が一方通行を見ている。



『どうやらアナタは動物に好かれやすい体質のようですね、と■サ■は指摘します』



 その言葉が脳裏をよぎったのが、何故だか一方通行には許せなかった。


「……ぶち殺すぞ!!」


 ダンッッ!! と大通りそのものを踏み潰す。変換されたベクトルが、舗装された道路を貫いた。コンクリートが真上に跳ね上げられ、同時に、振動で通行人が数センチほど飛び上がる。
 三毛猫はというと、フシャッ! と悲鳴を上げ路地の裏に逃げ込んだ。

(……これでいい)

 一般人の恐怖と好奇の視線を一身に受けながら、序列第一位は悠々と歩き出す。
 これでいい、と彼は自分に言った。
 これでいい。『最強』は常に恐れられ、怯えられ、避けられる。


 彼はそんな存在になりたかった。

 だが、最強というのは『実際に戦ってみて分かる』称号。

(これじゃあダメなンだ。全然ダメだ)

 だから彼は、『それ』になりたかった。



 戦うこと自体がバカバカしくなるような存在、『■■』に。



 一方通行は笑う。嘲りの笑みを浮かべる。
 決して他の者を嘲っているのではない。


 嘲っているのは自分自身なのだから。


「ねえねえそこの君。君だよ君」
「あァン?」

 ふと一方通行が顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。
 服装はまるでティーカップのような刺繍が施された修道服。しかし、シスターと呼ぶには、その腰まで伸びた銀髪が違和感を感じさせる。

「……ンだよ、似非シスター」
「むっ、その発言はイギリス清教に信仰を捧げた身としては看過できないかも」

 イギリス清教ォ? と一方通行の口から疑問の声が漏れた。

「ンだァそりゃ。イギリスはキリスト様の国じゃねェのか?」
「……わたしにはくわしいことはわかんないかななんておもっちゃったりするかも」
「おィ急に挙動不審になりやがってるが大丈夫かァ?」

 あっはっはなんでもないんだよー、と冷や汗をダラダラと流しながらごまかす少女。
 一方通行は首を傾げつつも、疑問を辺りに放り捨てて踵を返す。

「あ、ちょっと待って欲しいんだよ!」
「……あンだよ面倒くせェ。なンか用か?」
「この辺りで三毛猫を見なかった? スフィンクスっていう可愛い猫なんだよ」

 三毛猫。一方通行には確信とも言える心当たりがあった。

「あァ、さっきあの路地裏に入ってったぞ」
「ホント!? ありがとうなんだよ!」

 少女はパッと笑顔になると、すぐさま一方通行が指差した路地へと入っていった。
 なんとなく、本当になんとなく、一方通行の視線は彼女を追いかける。

『あーっ! スフィンクス、心配したんだよー?』
『みー』

 なぜか、一方通行には、路地にしゃがみこんで猫を抱き抱える彼女が、手の届かない遠い場所にいる存在に見えて、


『け……ど、おなかすいて、……限界……かも……』
『みゃー?』


 急に動きを止めたかと思えば、少女は薄汚いアスファルトに倒れ込んだ。

「…………は?」

 ポカンと口を開け、一方通行はその場に立ち尽くした。

(待て。待て待て待てェ。落ち着け俺。落ち着くンだ俺)

 足音を殺しつつ、そっと彼女に歩み寄る一方通行。

「おィ、何してンだァ?」
「……おなかすいた」

 欠食シスターなンざ聞いたことねェぞ!! と第一位の悲鳴が路地裏に響き渡った。









「ありがとうなんだよ~! まさか生きているうちにこんないっぱいの食べ物に囲まれることができるなんて!」
「いいから黙って食うモン選べや似非シスター」
「似非シスターじゃなくて、インデックスだよ!」
「目次かオマエは」

 少女が倒れた路地から歩いて数分に位置するコンビニ。
 その中に、序列第一位と自称シスターの姿があった。

「てかどンだけ食うンだオマエ」
「とうまが全然帰って来ないから、飢えて死ぬかと思ったんだよ!」

 にっこり笑顔で菓子パンをカゴの中にポンポン放り込む自称シスター。
 すでに満タンに近いカゴの中を見て、一方通行は現代人ってこんなに糖分と脂質に飢えてんのかなあと半ば現実逃避しながら思考にふける。

(最近はレトルトやコンビニ弁当にしか頼ンねえヤツが増えたって話だが、これはちっとちげェ気がすンぞ……)

 突発的偏頭痛に頭を抱えながら、第一位は自分も自分でカゴが埋め尽くされるほど缶コーヒーを買っているのはご愛嬌。
 隣の芝生はよく見えるが、自分の家は把握しきれていない一方通行だった。



 コンビニから歩くこと数分、未だ黒く染まっていない空の元、一方通行はコーヒーをグビグビと飲んでいた。
 半ばヤケになりながら、彼はカフェインを摂取し続ける。
 原因は無論、腹ペコシスターである。

「おいふぃいっ! これおいふぃいよっ!」
「そンな大声出すンじゃねェ、うるセェンだよ」

 コンビニ限定のフライドチキンをほおばりながら、インデックスはふと一方通行を見やった。

「何してるの?」
「……あァ、テメェの猫に飯食わせてやってるだけだ」

 見てみれば、確かにおにぎりの米粒をスフィンクスに食べさせてやっている。みーと鳴きながら三毛猫はこれを享受。

「ふーん、外見とは違って君って結構優しい?」
「テメェ言外に俺の外見が悪人面って言ってやがンな!?」
「ヒィ!? た、確かに怖いとは思うけど、悪人面とまでは言ってないよ!?」

 うがーっ! と吠える一方通行と、それに怯えるインデックス。

「お、落ち着いて欲しいかも! このままじゃインデックスのお肉がお肉があばばばばばばば」
「……チッ」

 両肩を掴んで思いっきりインデックスを揺さぶってストレスを解消したのか、一方通行は息をついて缶コーヒーをぐびりと飲んだ。

「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思ったんだよ」
「からあげクンうめェな」
「ああーっ! からあげクンがーっ!」

 元々一方通行が代金を支払っているのだが、インデックスの食物にかけるキチガイじみた独占欲には倫理など通用しない。
 がーっ! と怒りを露わにし、腹ペコシスターは一方通行の頭部に牙を立てようとした。

 そう、立てようとした。

「……あれ?」
「――――ッ!!」

 一方通行は慌ててベクトルの演算を改変、インデックスの歯にベクトルを分散させて返す。

(あッぶねェ! 危うく反射で歯ァ折っちまうトコだったぞ!?)
「おっかしーなー、何で君には噛みつけないの?」
「……あァ、そいつァ俺の能力だ」
「能力? どんな?」

 興味津々、といった具合で一方通行に顔を近づけるインデックス。
 ため息をついて、一方通行はそこらに落ちている小石を一つつまみ上げた。

「例えば、」
「?」

 一方通行は小石を人差し指でピンと弾いた。小石は数十センチ飛んだところで、重力に引かれ地面に落ちた。

「オマエもやってみろ」
「え? あ、うん」

 同じようにインデックスも石を拾って、指で弾き飛ばした。当然、それもすぐに落下する。

「これがどうかしたの?」
「今、俺とオマエは石を指で弾いたなァ。もっと言えば、石に力を加えて動かした」
「うん」
「つっても、あくまで力は分散しちまう。力の向きのことをベクトルっつうんだが、そいつァ四方八方に散るンだ」

 一方通行はそう言って、再び石を手にした。
 先ほどのように、ごく自然体で人差し指を当て、


「ンで、そのベクトルってヤツを操作すりゃァ、こうなる」


 ゴッ!! と何かが風を切る音がした。
 一方通行はベンチから立ち上がって、ゆっくりと歩き出す。慌ててインデックスも後を追い始めた。

「ベクトルを1度の狂いもなく一方向に合わせりゃァ、加えられる力は何十倍になる。俺がやったのは、そンだけのことだ」

 本人以外からすれば、何だそれはと叫びたくなるような、理不尽な能力である。
 二人がたどり着いた、公園に立てられた電信柱。そこには、先ほどまで一方通行が手にしていた小石がめり込んでいた。

「この能力を使えば、そこらの石っころが銃弾に早変わりィ、ってワケだ」

 ハッ、と一方通行は自嘲気味に笑う。
 どうせ隣の少女も、大方自分の正体に気づいただろう。

「わかったろ、俺がどこのどいつかさァ」


「ううん、何が何やらサッパリわかんない」


 思わず一方通行はインデックスの顔を凝視した。
 自称シスターは腹が立つほどすがすがしい笑顔で、口を開く。

「だってベクトルがどーたらこーたらの辺りからついていけてないし、それに」

 一呼吸。


「超能力っていうのがどんなものでも、君がとっても優しいってことは変わんないよ?」


 一方通行の目が見開かれた。

「さっき、見ず知らずの私にごはんくれたり、スフィンクスにごはんあげてくれたりしたもん。ねー、スフィンクス」
「みー」

 あはは、とシスターは笑った。一切の汚れのない笑顔で、一方通行に笑いかけた。
 彼は自分の手を見る。今までに一万人以上の命を奪った手。
 何故だか、自分の手がやけにくすんで見えた。

「……おィ、シスター」
「ん? なーに?」

 白髪をかきむしりながら、一方通行は言葉を吐き捨てた。

「オマエどこ行こうとしてたンだ? 送ってやる」



 彼女の目的地である子萌先生の自宅は、公園からそれほど離れてはいなかった。

「ここかァ?」
「うんっ」
「……話が確かなら、見た目小学生でェ、ランドセルがよく似合う教師じゃなかったかァ?」
「うんっ!」

 そこまで言って、一方通行は思わず天を仰いで呟く。

「生活感丸出しじゃねェか、つーかなンで屋根吹き飛ンでンだよ」

 彼の疑問はもっともである。
 外から見て真っ先に目につくのは、トタンで舗装された屋根だ。舗装されている範囲からして、何やら大型の破壊兵器でも使われたんじゃないかと一方通行は本気で思う。あながちハズレでもないが。

「ほら、早く行こうよ」
「……ン、いや、俺はいい」

 えー、とインデックスは文句を垂れる。しかし、一方通行はもうすぐ『実験』の時刻だ。

「悪ィな」
「……まぁ、しかたないかも」

 一方通行としては、元々知り合いでもなんでもない彼女にここまで付き合ったこと自体奇跡に近い。
 これ以上のことを彼に望むのは酷というものだ。

「ねえー、君、名前は?」
「……一方通行《アクセラレータ》」

 ブンブンと手を振るインデックスに背を向け、彼は歩き出す。

(…………クソがっ!!!)

 何でもいい、彼は目の前のものをひたすらに壊したかった。それほどに怒り狂っていた。

(何やってンですかァ俺は!? 今更人助けなンざしてェ、聖人君子気取りですかァ!!?)

 許せない。一方通行には許すことができない。

(どゥせ期待してたんだろォ!? 俺にも救いがあるかもしンねェって! あるワケねェだろ、こンなヤツにさァ!!)

 少しでも、彼女に希望を見いだした自分を許せない。いや、許さない。

(クソっ、クソっ、クソっ!! なンでアイツは、俺なンざにも笑いかけてくンだよ!?)

 チカチカと明滅する電灯の下を進んで、一方通行は『実験』の舞台となる工場地帯に足を踏み入れた。


 幻想殺しの少年は、未だ姿を現さない。











―――――――――――――――――



セロリ「女性キャラとのイチャつきまだァー?」
そげぶ「いやもうミサカと散々絡んでたろ」
冷蔵庫「絡み……だと……? やべぇ妄想が止まらねぇ……!」

「「すっこんでろ腐れメルヘン野郎がッ!!」」

冷蔵庫「俺ハブ!? 俺ハブなの!?」



[24716] 第五話 彼の覚悟と彼女の決意
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:9aaaf0ae
Date: 2011/01/09 07:23
 上条当麻は、鉄橋の上に佇んでいた。手には、二十枚近い枚数の狂気に彩られたレポート。
 相対する少女は、その紙束を凝視して凍りついている。
 御坂美琴は、頬の筋肉を引きつらせながら、閉口していた。
 やっとのことで彼女が出せた声は、ひどくうろたえ、震えている。

「あーあ、何でこんなことしちゃうのかなぁ?」
「……御坂」

 彼女は何でもないように、ごく自然体で口を開いた。
 それが、上条には耐えられない。
 上条はすべて知った。知ってしまった。真実を知りたくて尋ねた、常盤台中生徒寮の一室で。
 第一位『一方通行(アクセラレータ)』の絶対能力者進化実験も。
 それに使われる軍用クローン『妹達(シスターズ)』のことも。
 それが美琴の体細胞クローンだということも。

 だからこそ、目の前の少女が、あまりに重い荷物を背中に抱えた少女が。
 平気なふりをして笑顔を無理やり作るのが、上条には耐えられない。

「そのレポート持ってるってことは」
「御坂」

 もう何も言うな。上条は奥歯を噛み締め、そうつぶやいた。
 美琴は特に反応を返さず、そのまま言葉を続ける。

「アンタ私の部屋に勝手に上がり込んだ」
「御坂」
「ってことでしょ。ぬいぐるみの中まで探すなんて大した執念」

 上条は、もう限界だった。
 彼女と歩いた帰り道は、心地よかった。きっと記憶を失う前の自分もそう思っていたのだろう。だからこそ、同じ『上条当麻』だからこそ、分かる。
 記憶があってもなくても。

『上条当麻』は、目の前にある薄っぺらい笑顔など見たくもない。


「御坂っ!!」


 ビクン、と美琴の肩が大きく震えた。
 上条は血を吐くように言う。

「……一方通行と、会った」
「…………!」

 美琴の表情が驚愕に染まる。が、彼女は何でもないように無表情の仮面を上塗りした。

「……そう」
「あぁ、会ったさ。そして、話したよ」

 一拍空けて、上条は視線をアスファルトの地面に落とす。
 思えば、彼はきっと自分と別れてすぐに『実験』を行ったのだろう。あんな、『牛肉の美味しい調理法』なんて本を読んだ直後に。

 御坂妹を虐殺して。 
 御坂妹を抹殺して。

 人の命を、奪って。

 口が動く。まるでそこだけ別の生き物のように。


「あいつ、御坂妹と一緒にいた」


 今度こそ、美琴が貼り付けていた仮面は木っ端微塵に砕け散った。

「……な、んで? ウソ、でしょ?」
「ウソなんかついても、意味ねえよ。本当だ。仲良さそうに、会話してた」
「なんでよ、だって、だって、」
「あぁ、二人は殺し合う、……いや、一方通行が御坂妹を殺す、そうだろ?」

 上条は掲げるようにレポートを美琴へ突きつける。一瞬息をのんでから、美琴は頷いた。

「けど、俺にはそんな風には見えなかった。ごく普通の、仲の良い関係の男女にしか、見えなかった」

 何かをこらえるかのように、上条は唇を噛んだ。
 美琴もぐっと拳を握り締め、ゆっくりとうつむいた。

「御坂」
「……何よ」

 視線を上げ、美琴は見た。


 右手を、全ての異能を殺すその手を握り締めた、上条当麻の姿を。


「アンタ……」
「どこだ?」

 上条当麻は問う。

「教えてくれ。アイツは……一方通行はどこにいる?」

 美琴は、なんとなく分かった。目の前の男は、止める気だ。こんな後ろにどんな組織があるか分からない、何より学園都市最強の男がいる、この『実験』に歯向かう気だ。


 だからこそ。


「イヤよ」


 第三位『超電磁砲(レールガン)』は上条当麻の前に立ちふさがる。
 上条は驚いたように、思わず目を見開く。

「……お前、何言って」
「イ、ヤ、よ」

 彼は分からない。
 自分は目の前の少女の味方でいたかった。少女は苦しんでいて、それを救いたいと、願った。
 それなのに、差し出した手は振り払われた。

「あのさぁ、アンタ何様なの? 何勝手にほざいてんのかしら。助けてくれなんて、誰が言ったの?」
「御坂……お前、まさか『実験』の」
「協力者、なんかじゃないわよ」

 あっさりと美琴は言い捨てる。
 やけに疲れたような目で空を見上げ、彼女はつぶやく。



「ずっと思ってたんだけど……人を二万回殺す覚悟って、どんなものなんでしょうね?」



 上条は唇を少し開いた。けれど、声が出ない。言葉が見つからない。

「私思うの。あの人は私たちには想像もつかないぐらい悲壮な覚悟で『実験』に臨んでるって」

 喉に何かがつっかえている。呼吸すら、上条はうまくできない。
 けれど、と上条はなんとか舌を動かし。
 それでも、と上条は息を吸い込んで。



「間違ってる」



 そんなものは、認められない。

「二万人を踏み台にするなんて、たった一人のために人が二万人死ぬなんて……間違ってる」

 そう言い切り、上条は深く深く息を吸った。

「もしそんなことが許されるってなら、もし二万人がそのためだけに殺されるってなら――まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す」



「ムダよ」



 彼が強いのは知っている。その右手なら、あの第一位の能力すら突破できるだろうと美琴は予測している。

 それでも上条当麻は一方通行には及ばない。

 もし勝てるなら、上条に何らかの協力者がいて、一方通行が油断に油断を重ねて、……美琴は自分で組み上げたシュミレーションに苦笑する。
 無理だと、そう結論づける他ない結果に、苦笑する。

「ムダよ。アンタごときじゃあの人の幻想は殺せない。むしろ殺されるのはアンタそのものだわ」
「それでも俺は、このまま何もせずいるなんてできない……!」

 そう言いながら、上条は拳を握った。

「覚悟が何だってんだ! 人を殺す覚悟がある奴は偉いのかよ!? アイツは、一方通行は……ただの人殺しだ!」

 上条の糾弾に、美琴の肩が少し震えた。短髪からバチリと雷撃が漏れる。

「アンタに、あの人の何が分かんのよ……」
「え?」

 無能力者の聞き返しが、超能力者の逆鱗に触れた。


「アンタはあの人の何を知ってるのよ、上条当麻ァァァ――――――――!!」


 雷じみた青白い火花が、上条へと襲いかかった。とっさに突き出した右手が異能の力を打ち消すが、美琴の激情はまだ収まらない。

「答えなさいよ!! 上条当麻ァ!! アンタは……アンタはァ……!」
「御坂、お前……」

 超音速的反応で電撃を打ち消しつつ、上条は、美琴をまっすぐに見据える。

「お前、なんでそこまで一方通行のこと……!」

 いくら鈍い上条でも、薄々気づき始めていた。
 美琴は、一旦電撃を打ち止め……少し赤くなりながら、言い放った。



「……そうよ。一目惚れよ!! 悪い!?」



 思わず、上条は言葉に詰まった。

「あの人は、赤の他人の私を救った。赤の他人の私に、大切なことを教えてくれた」
「だから好き、なのか?」

 美琴は小さく頷く。
 そうか、と上条は首肯した。
 きっと辛いだろう。好きな人の望みは、自分のクローンを殺して力を手に入れることで。自分は『妹達』を殺したくなくて。
 死なせたくないという感情と、恋愛感情の板ばさみになって。

(私だって死なせたくなんか、ない)
(けれど、御坂には一方通行の真意がわからない)

(だから私は何もできない)

(力で止めることは叶わない。超電磁砲(第三位)と一方通行(第一位)の絶対的な壁に阻まれて)
(説得することもできない。私にはあの人の心がわからないから)


(だから何もせずにいた)
(だから何もできずにいた)

(良心の呵責と)
(恋心の囁きに挟まれて)

 ああそうか、と上条は天を仰いだ。

「お前、一方通行と会ったことは?」
「……実験が始まる前に、何度か」

 理解した。上条は、美琴のためらいを理解した。

 なぜなら。


「――ハッ、まんまさっきの俺じゃねえか」


 きっと御坂美琴は、一方通行と過ごした時間が心地よかった。
 だからその時間を壊したくなかった。

「バッカ野郎が……」

 上条は苦い表情で吐き捨てる。

「このバカ野郎が!」
「!?」

 先ほどまでの自分と同じ理由だから、上条には美琴が許せない。

「バカだ! テメェは大バカだ!! なんで何もしねえんだ! ホントに一方通行が好きなら、ぶん殴ってでもレールガンかましてでも引っ張ってこいよ! 何もしねえから何もできねえって思い込むんだろ! 行動しろ! あいつと正面から向き合いたいなら、あいつの真意を知りたいなら、自分の足で踏み込めよ!」
「あ、ぁ…………」
「いいか、俺は踏み込んだぞ。自分の意思で、お前に踏み込んだ。俺(レベル0)にできて、テメェ(レベル5)にできねえはずがねえ!」

 上条はそこで一拍おき、言葉を、第三位に叩きつけた。



「あいつは俺が止める。そこからはお前に任せる、御坂美琴!!」



 いつか彼が言った言葉。

『人助けンのに、能力なンざいらねェだろ』

 まったくその通りだなと御坂は思う。この言葉を胸に自分は過ごしてきた。それが間違いでなかったことは、今、はっきりと分かった。


(だって、生きた証拠が、目の前にいるじゃない)


 超電磁砲の瞳に光が宿った。幻想殺しが殺したのは幻想ではなく、彼女を縛っていた鎖。

「……ったく、今までウジウジしてたのが馬鹿らしくなっちゃったわよ」
「……ああ、行こうぜ!」
「ええ。――さぁ、さっさと『実験』を止めて、美琴ちゃん説教フルコースと洒落こむわよッ!!」

 二人は歩き出す。もう迷いなど、なかった。

 














 午後八時、一方通行と御坂妹は、砂利の上を駆け巡っていた。

「チッ、ちょこまかと――うぜェンだよ!」
「…………」

 地面を蹴り、一方通行は御坂妹へと飛びかかる。触れただけで人を殺す手を振りかざした。
 しかし、御坂妹がとった行動は、

「あァン!? 逃げるだけかよォ!」

 バックステップでひたすらに距離を取りながら、彼女はこまめに電撃を放つ。
 本来なら一方通行に当たった瞬間『反射』されるものだが、彼の体に激突する寸前に電撃は弾けた。

「今夜は風がありませんね……」

 ならば、と御坂妹は続け、

「ミサカにも勝機があるかもしれません、とミサカは大胆不敵に宣言します」

 一方通行は思わず足を止めた。肩で息をしながら、まっすぐに御坂妹の目を見る。

(なンだ……イヤな予感しかしねェぞ? それに、さっきから息切れがハンパじゃねェ。なンかしかけてやがンな?)
 
 距離を取り続ける御坂妹、謎の息切れ、当たらない電撃。
 息切れ、当たらない電撃。

(はァン、なるほどォ。オゾンってワケかよ?)

 空気中の水蒸気は水素原子二つと酸素原子一つでできている。
 それに電撃をぶつけ電気分解を起こせばそれらは原子に分解され、酸素原子三つでオゾン分子となる。
 当然のことながら、酸素でない以上、呼吸には使えない。

 そして、オゾンは有毒だ。

「いいねェ! いいねいいねいいねェ!! オマエ最高だよ! ちゃンと俺の敵やってンじゃねェか!!」

 狂喜と驚喜と狂気に口を歪ませながら、一方通行はザッ!! と足元の砂利を踏みつけた。

「だ、け、ど!」
「!?」
「その作戦には欠点がひとォつ!」

 ニィ、と邪悪な笑みを浮かべた一方通行の足元で砂利が弾け飛んだ。弾丸の初速並みの速度で射出されたそれらが、御坂妹へと襲いかかる。
 ギョッとした表情の彼女の、額にかけた軍用ゴーグルを一粒の小石が穿った。
 続けざまに御坂妹の革靴にも砂利が直撃し、バランスを崩して彼女は地面に倒れこむ。

「俺が接近戦しか対応できねェっうのが前提だよな、その作戦はァ!!」

 御坂妹は仰向けに倒れながら、呆然と思考した。



 なぜ自分は生きている?



 もし一方通行が本気なら、自分はすでに死んでいる。

「あーァ、この俺の力を見くびって殺られるなンざ、残念でしたァ!!」

 もし一方通行が本気ならば、砂利を全て自分の体にぶつければ済むことだ。銃弾並みのスピードで飛来した小石は御坂妹の皮膚を貫き、瞬く間にその華奢な体を蜂の巣にしている。
 なぶるため?
 否、ならば少なくとも四肢のどれかは破壊し、こちらの行動を制限するはずだ。
 一方通行の思惑が読めない。

(なぜ……殺さないのですか)

 ヒュウ、と風が御坂妹の頬を撫でた。砂利の射出によって発生した風圧を、一方通行が操作しているのだ。

「風だって向き《ベクトル》がある以上、俺の能力の効果圏内なンだぜェ? 気づいたのは他人のおかげだが、便利なもンだよなァ、ベクトル操作ってのはァ」

 風が渦を巻く。小さな竜巻が六つできあがり、転がっている御坂妹の周囲を囲んだ。

「なぜ……」
「あーァ、つまンねェ。やっぱオマエら相手になンねェわ。ちっとでも期待しちまった俺がバカだった」

 御坂妹の体がフワリと浮く。
 すでに彼女に抵抗の意思はない。一方通行は顔をしかめた。

「ンだよ、何の抵抗もなしかァ? もうギブアップ、私を殺してくださいってかァ?」

 御坂妹は一瞬口をつぐみ、一方通行の赤い目を見て、

「疑問が二つあります、とミサカは質問の許可を求めます」
「……あァ?」



「なぜ、私を殺さなかったのですか?」



 ハァ? と一方通行は聞き返した。

「オマエ乱造されすぎて頭ン中まで劣化しちまったか? オマエ今の状況分かってンの?」
「はい。多数の小石による攻撃を受けたはずが、どういうわけかミサカの体には当たらず、未だ直接的損傷を受けていません、とミサカは自分の状況を事細かに報告します」

 焦点の合っていない瞳で、御坂妹は『最強』を見やった。
 口だけ開いて、何か言葉を探す一方通行を尻目に御坂妹はそしてと続け、





「なぜアナタは泣いているのですか、とミサカはもう一つの疑問を提示します」





 今度こそ、一方通行は言い返す言葉がなかった。

「……おィ、10032号」
「……何ですか?」


「すまねェ」


 一方通行の左手が御坂妹の首筋に触れる。後は大動脈をを筆頭に主な血管を流れる血液を全て逆流させれば、御坂妹は死に至る。


 たったそれだけのはずなのに、なぜか一方通行にはできない。


 結局彼は、『いつも通り』神経を操って眠らせるだけ。
 そっと、自分の不甲斐なさに右手を握り締めながら、一方通行は神経のベクトルを演算しようと





「ミ、サっ――――ミサカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 ザッ!! と誰かが砂利を蹴ってやって来た。
 一方通行が慌ててそちらを振り向いた瞬間、誰かの拳がその白い右頬に突き刺さる。
 破った。
 その誰かは、一方通行のベクトル反射の壁を一瞬にして破った。
 味わったことのない激痛に痛覚が悲鳴を上げる。宙を吹き飛びながら、一方通行はそいつを見た。

 そいつはそこにいた。

 闇夜を裂き、悪党からヒロインを守るように。

 己の拳一つで、敵を全て倒し、守りたいもの全てを守りきるとでも言うように。

 出来の悪い、幼児向けの典型的なヒーローのように。





 上条当麻が、いた。





 御坂妹を守るべく、右の拳を握り締め、そこにいた。







―――――――――――――――――――――――――――――



セロリ「ヒーローマジヒーロー」
ピカ子「ていうか私ものすごいカミングアウトの仕方ね」
冷蔵庫「ていうか風がプロローグの時点で使えるってww」

セロピカ「「帰れ腐れメルヘン冷蔵庫!!」」

冷蔵庫「またなの!? また俺ハブなの!?」



[24716] 第六話 咆哮と覚醒
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:9aaaf0ae
Date: 2011/01/09 17:03
 一方通行はゆっくりと立ち上がった。
 ヒリヒリとした痛みを訴える頬を右手で押さえつつ、ギロリと上条を睨みつける。

「オマエ……」
「……一方通行」

 上条当麻は口を開くと、静かに告げた。

「俺はお前を倒す」

 言うと同時、右の拳をゆっくりと上げ、一方通行へ突きつけた。
 それは、学園都市『最強』への挑戦状。ちっぽけな最弱があまりに強大な最強へ喧嘩を売っても、結果など見えている。

 それでも、少年は拳一つで立ち上がった。どんな敵にも臆さず、どんな相手にも屈さず。

 つまりそれは、一方通行の絶対能力者《レベル6》への進化を妨げるということ。

 一方通行はその赤い双眸で上条を見た。何物にも何者にも怯えない、不屈の闘志を、上条の瞳に見た。

「……ハッ、バカですかァオマエは」

 一方通行は言った。
 お前は普通の人間じゃないか。死んでも代わりなんていないじゃないか。

 だからどけ。

 上条は答えた。

「どかねぇ」

 死んでもここは退かない。
 上条はそう言った。

「……なンでだ」
「……コイツだって、御坂妹だって、普通の人間だ。生きてるんだ」

 それは、誰かがいつか言った言葉にひどく似ていた。
 迷うことなく言い切った上条を、何故か眩しそうに見て、一方通行は



『コイツだって生きてンだろォが!! なンだってそンなことも分かンねェンだよ!?』



「――――赤の他人がワケ知り顔してベラベラしゃべってンじゃねェェェェェェェェェェェェ!!!」



 ゴッ!! と一方通行の足元が爆発した。
 マシンガンに匹敵するスピードで射出された石の弾丸が、容赦なく上条に襲いかかる。

「…………ッッ!!」

 とっさに両腕をクロスしたものの、上条はまともに弾丸をくらい吹っ飛んだ。
 五メートルほど宙を舞い、上条の体は砂利の上に叩きつけられた。衝撃で肺から空気が叩き出され、一瞬視界がブラックアウトする。

「テ、メ、ェ、にッッ!!」

 ガッ! ガッ! と、一方通行は何度も地面を踏み潰す。その度砂利が射出され、上条の体を穿った。
 呼吸することすら許されず、何度も何度も何度も上条は想像を絶する痛みに襲われる。
 呼吸することすら許さずに、何度も何度も何度も一方通行は容赦なく大地を踏みつける。

「な、に、が、分、か、る、ン、だ、よ!!!」

 ガッ!! ガッ!! ガッ!!
 すでに上条は動いていない。何の抵抗もせず、ただただ砂利の雨に打たれている。情け容赦なしの攻撃に、御坂妹は絶句する。

「なンにも知らねェくせに!」

 再びの震脚。しかし、今度は砂利は射出されない。
 御坂妹が訝しげに首を傾げた瞬間、


「――オマエに何が分かるってンだ、三下」


 上条の周囲に溜まっていた砂利が、まるで生き物のように跳ね上がった。
 三六〇度から隙間なく襲い来る砂利の津波に、上条の姿はかき消えた。砂利が落ちる毎に何かが折れ、砕けるような音が響く。

「――――!? 止まりなさい、一方通行!」

 一方通行の攻撃が止む。声のした方を見れば、そこには一人の少女が立っていた。少女はゲームセンターのコインを右手に持ち、それを一方通行に向けている。

 少女の名は御坂美琴。学園都市序列第三位、『超電磁砲《レールガン》』の名で呼ばれる能力者だ。

「……あァ、第三位か」

 それだけ。たったそれだけ反応して、一方通行は再び上条へ向き直る。
 第三位という一般人からすれば圧倒的かつ絶対的なラベルネームも、『最強』の足を止めることは適わない。

 それもそのはず。元より美琴では一方通行には勝てない。それは『樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》』による演算にしても、あらゆる可能性を踏まえた現実にしてもだ。

 それでも彼女は右手を突き出した。

 超電磁砲と一方通行が戦えば、一八五手で御坂美琴は惨殺される。
 その冷たい未来を見据えても、彼女はもう止まらない。


 そんな未来、この手で打ち砕いてやると言わんばかりに。


 磁力線レールを作ろうとし、少しだけ逡巡してから、美琴は一方通行に尋ねた。

「ずっと信じられなかった……アンタが実験の被験者だなんて」
「…………」
「本当に……本当にアンタが……?」
「……あァ、そうだぜェ。俺だよ。『妹達』をぶっ殺してるのはなァ」

 一方通行に去来するのは、胸の奥深くに埋もれた遠い日の記憶。



『俺――■く■るか――く■ら■ェ――■くて――■ンなま■めて■■る――『■■』に――』



 全ての感情を押し殺し、一方通行は笑う。何かをこらえるような表情の一方通行に気づいているのか、美琴は次の質問を口にする。

「アンタさぁ、私のこと覚えてる?」
「……何のことだァ?」
「ほら、公園でさあ、私が木から落ちそうになって」
「……俺が風使って助けたンだったかァ?」

 砂利まみれで傷まみれの上条を見ながら、一方通行は懐かしむように目を細める。

「……あの時は良かった」
「え?」

 美琴は自分の耳を疑った。
 今、一方通行は何と言った?



「――あの時は、良かったなァ」



 今ではもう届かない、遠い何かを見ているかのような一方通行に、美琴はかける言葉が見つからず






 ゴッ!!!!! と、周囲の四方八方に砂利が、コンクリートが、大地が飛び散った。






「――――――――!!?」

 一方通行の背筋に氷の刃が突き立った。アレは拙い。アレを相手取るのは無謀だ。生存本能が全身全霊をかけて絶叫した。
 先ほどまで会話していた美琴も、ソレを見て呆然としている。


 そこには幻想殺しの少年が立っていた。
 外見は変わらない。変わっていない。そのはずなのに。

 砂利の中に、金属片でも混じっていたのか、上条の右腕が肩口から手の甲の辺りまでぱっくりと裂けていた。

 そして、目には見えない、あまりに強大なナニカがそこにはいた。
 視覚でもなく聴覚でもなく、嗅覚でもなく触覚でもなく味覚でもない。
 生物が古来から引き継いできた、もっと根本的な感覚がソレの存在を訴える。

「おい」

 一方通行は思う。自分の能力は何か。熱量、運動量、電気量などを問わず、あらゆる力のベクトルを操る、唯一無二で絶対無敵の能力。

 の、はずだった。



 その能力が、ソレの前では見劣りした。霞んで見えた。



「テメェが誰で、何をしようとしているのか、俺には分からねえ」

 上条は、何てことはないようにソレへ話しかける。呼吸することを忘れてしまったかのように、美琴はその光景に見入った。

「けど、この力が、きっと必要だ……だから、少し、借りる」

 ソレがうねった。言いようのない悪寒がその場にいた上条以外の人間の全身に刺さる。
 一方通行は思わず身構えた。





 身構えて何になる?





 ソレの前では、『たかが』第一位ごとき取るに足らない。心の中で、誰かがそう呟く。

「……だからどうした」

 一方通行の言葉に、美琴はギョッとしたように彼を見た。一方通行は、拳を握り締め、一歩前へ。

「あ、アンタ正気!?」
「……知るか。もう自分でも気が確かどうかなンざ分かンねェ」

 けど、と一方通行は続け、



「俺は、負けらンねェンだ……!」



 繰り返し、自分に言い聞かせるように、



「俺はァ! こンなトコじゃ――――終われねェンだよォォォォォォォmtEooo63WnujooooLgr2ooooooj52agoooooo!!!!」



 バシュウウウウウウ!!!!! と一方通行の背中から、何かが引き裂かれたような音がした。
 美琴は見た。噴射とも言うべき、黒い翼を。

「……行くぞ、一方通行」
「……nuH来ynjA三下Wst」

 同時に踏み込み、互いに駆け出して。





その日、学園都市の地図は書き換えられることとなる。





 音が死に、光が死に、全てが殺された。

「…………」

 御坂美琴は、目の前で起こった現実を直視できない。
 もう砂利もレールもない。あるのは二人がぶつかり合った地点を中心とした直径五十メートル以上のクレーターだけだ。
 とっさに磁力で電車の車両を盾代わりにし、美琴と御坂妹はなんとか無事だが、事情を知らない者が見れば隕石でも落下したのかと勘違いするような光景だ。
 あまりに現実からかけ離れたそれ。自分が住む世界とは次元が違う。

「……アクセラ、レータ?」

 小さな呟きが、更地に静かに響き渡った。
 クレーターの中央には、二人の少年が倒れている。
 黒髪の少年は仰向けに、壊れた人形のように打ち捨てられ。
 白髪の少年はうつ伏せに、遊び飽きられた人形のように投げ捨てられ。
 そんな惨状に悲鳴を上げかけ、美琴は慌てて少年達の元へ走り出そうとする。

 その時、上条当麻の指がもぞりと動いた。

「…………!?」

 美琴にはどんな力がぶつかり合って、どんな原理でこんな現象が起こったのか分からない。
 けれども、彼らがボロボロなのは分かる。もう立ち上がれるのが不思議なぐらい、彼らは傷だらけだ。


 それでも上条当麻は立ち上がった。


 そして、一方通行の目も見開かれた。


「く、ッ……!」
「あ、アンタ……」

 無様に仰向けに転がりながら、一方通行は力なく笑った。

(ったく……『最強』であるこの俺が何やってンだかなァ)

 今まで、ただひたすらに『無■』を追い求めた。どれだけ愚かでも、どれだけ無様でも、ただ追い続けた。
 その名が欲しかったからでもある。それになりたかったからでもある。

 しかし、今の一方通行を突き動かしているのはそんな理由ではない。



『俺――強く■るか――くだらねェ――なくて――■ンなまとめて■える――『無■』に――』



 それは、今は失ってしまった大切な約束。
 それは、今は忘れてしまった大事な誓い。

(ちげェ……)

 しかし一方通行は、それを否定する。

(絶対にちげェ……)

 今まで殺してきたものに誓った言葉など知らない。こんな血濡れた手で求めた救いなど知らない。

(絶対に――あンな――)



『俺――強くなるから――くだらねェ――なくて――みンなまとめて救える――『無敵』に――』





(絶対に、あンな女(モノ)との約束のためなンかじゃねェ!!)





 その時、上条の口が、ゆっくりと開かれた。






―――――――――――――――――――――――――




セロリ「黒翼キタコレ」
ビーム「相も変わらず厨二病ね……」
冷蔵庫「一方通行の能力に一般受けは期待できねえ」(キリッ

セロビー「「ハイハイ消えうせてください脳内メルヘン君!」」

冷蔵庫「(´・ω・`)」



[24716] 第七話 終止符をその翼で
Name: 佐遊樹◆420e78e3 ID:9aaaf0ae
Date: 2011/01/10 02:40
「……立て、よ」

 上条当麻は、今にも崩れ落ちてしまいそうな体に鞭を打ち、咆哮を上げる。

「立てっつってんだろぉが一方通行ァァァァァァァァァ!!」

 ピクリと、一方通行の右手が動く。

「立てよ! 俺はお前が何を抱えてんのか知らねえ! お前が何を求めてんのかも知らねえ!  けど、それは二万人もの『妹達』を殺さなきゃいけないことなのか!? お前は、二万人の『妹達』を踏み台にしてそこにたどり着いて、笑えんのかよ!?」

 勝手なことを……
 一方通行は口の中でそうつぶやく。

「そんな犠牲の上に成り立つものなんて俺は認めねえ……絶対に認めねえ! だから立てよ! それがあり得るって、お前にはそれが必要だって、証明してみろよ!」

 勝手なことを言うな……
 一方通行は喉の奥でそう叫ぶ。

「本当ははつらいんじゃねえのかよ!? 苦しいんじゃねえのかよ!? もう殺したくないって、思ってるんじゃねえのかよ!? もう止めてくれって、そう思うならそう、お前を心配しているあいつに」






「好き勝手吠えンなよ、上条当麻ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」






 握った拳に力が入る。
 朦朧とする意識の中、まともに能力を行使することもままならない。
 それでも彼は立つ。たった二文字、『最強』の二文字を背負い、立ち上がる。

 顔を上げるだけで意識が薄れ、
 片膝をつくだけで神経が焼き切れて、
 両足を踏ん張るだけで体中が悲鳴を上げる。

 それでも立つ。立ち上がる。彼は立ち上がらなければならない。それが彼の求めるところでなくとも、体は動く。義務だからだ。思考回路に叩き込まれた、脳髄に染み込んだ、心に刻み込まれた、一方通行の義務だからだ。
 肘が軋んだ。もうイヤだと。脚が呻いた。もう限界だと。心が叫んだ。まだやれると。
 砕けてしまいそうになる意思が、折れてしまいそうになる信念が、割れてしまいそうになる願望が全てをつなぎ、支え合う。
 終われない。一方通行はこんなところでは終われない。
 何度も願い、望んだ世界。求めた景色。今の自分を砕き、壊し、手に入れる新たな世界。果たすべき約束。果たさなければならない約束。

『俺、もっと強くなるから……! こンなくだらねェ――なくて……オマエ――みンなまとめて救える――『無■』になるからァ……! だからっ……!!』

 嗚呼、もう其処に在るのだ。誰かが心の中で囁いた。後一歩で、もう少し手を伸ばすだけで、其処に届くのだと。

『アナタと過ごした時間は、1ヶ月もありませんでしたね』
『それでも、■サ■は、あの時間は嫌いではありませんでしたよ』
『なぜなら、』


『ミサカはアナタのことが――――』





『そいつを殺せ! 殺せ! 殺すんだ! 一方通行ァァァァ!!』





「ァ、」

 夢が醒めた。思い出が弾けた。感情が決壊した。

「ァァァァァァァァァァァaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 一方通行を一方通行たらしめていた、何か決定的なものが砕け散った。もう最強を縛る鎖はない。血管の一本一本で煮えたぎる破壊衝動が、神経の一本一本をすりつぶしていく。もう止まらない。
 ゆらりと、一方通行は先ほどまでの悪戦苦闘がウソのように立ち上がる。ゆらり、ゆらりと、幽鬼か何かのように、彼は歩き出す。灼熱の殺意を背後に顕し、一足踏み込むごとに大地が陥没した。絶対的なまでの圧迫感。圧倒的なまでの存在感。
 気分が楽だった。体が軽い。
 一方通行はなんてことはないように、右手を突き出す。同時に、背中から再び一対の翼が宵闇のように噴き出した。さっきよりも格段に大きく、格段に深い。まともではない何かを宿し、翼はより大きくなる。夜の暗闇に溶け込むように、空を覆い尽くす。理性などない、善悪の区別などつかない。それでも分かる。目の前に佇む男は、上条当麻は、全力をもって排除すべき敵だと。
 超電磁砲が視界の片隅に映る。呆気に取られ、ぽかんと口を開けた表情。
 一方通行は思わず笑った。悪魔と見間違えてしまいそうな外見で、人間のように笑った。今なら理解(わか)る。ベクトルを操るとはどういうことなのか。今まで自分はどうやって『反射』していたのか。全ての流れをこの手に掴み取り。全ての現象を逆算し。全てを解析し、把握し、掌握する。その真理を知った。
 突き出した右手を中心とし、不可視の、得体の知れないベクトルが渦を巻いた。その場にいるだけで、体を内側から食い破られるような悪寒がする。

「あ、ぁ――――――――――――――――」

 御坂美琴は、序列第三位はそれを見て震えた。恐怖による震えではなく、武者震いでもなく。
 バヂィッッ!!!! と、まるでこの世全ての雷撃を凝縮したかのような音が轟いた。最上位の『電撃使い《エレクトロマスター》』の背中から電撃の濁流が迸る。見るだけで失明してしまいそうな輝きが、夜闇を抹殺した。

『殺せ! 殺せ! ただの人形なんだ! その手で殺せ! 躊躇うな! 早く殺せェェェェ!』
「iヤ、だ……」

 それを見て、一方通行はうわごとのように何かつぶやく。

『お前が殺さなければ、彼女たちがどうなるか知っているだろう! 殺せ! その手で殺してやれ! お前だけなんだ、彼女たちに何かできるのは!』
「そreでも、イヤ、d……」

 漆黒の翼が膨れ上がった。破裂する寸前の風船にも見えるそれに、上条は弾かれたように走り出す。

「イヤ、イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!」
「一方通行ァ!!」

 つられるように電撃の放出も増してゆく。白銀の輝きと漆黒の宵闇。上条はその二つの間へと疾走した。
 勢いのままにジャンプし、黒い翼を右手で掴んだ。この翼を消せば、一方通行が元に戻ると予測して。だが。

(消えない……!? いや、消しきれないのか!?)

 驚愕と絶望に上条の脳髄が凍りつく。必殺の右手が、今までどんな異能も殺してきた上条当麻唯一の切り札が、通じない。
 黒い翼が脈動し、歪み、蛇のようにしなる。上条の体は地面に叩きつけられた。霞む視界を覆う黒翼、両端の距離五十メートル近く。月すら隠すそれが蠢く。その度夜空が捻られる。
 なんだ、これは。
 一方通行の能力は『ベクトルコントロール』……あのイカレたレポートにはそう書かれていた。

(まさか……!)

 上条の思考がスパークする。

「これが、絶対能力者(レベル6)……!?」
「クカカカカカ……イyaだっte、言ってンのniよォ」

 一方通行の発音が不自然によどんだ。雷撃を放つ美琴は目を虚ろにし、ただただ佇むのみ。御坂妹はといえば、あまりに常軌を逸脱した有り様に絶句していた。

「殺m2q36なンか……25ansたくなwjかt8な0jにィ525jgtjgtgpdwlag――――――――!!」

 漆黒の翼が上条を囲む。檻のように、三百六十度をぐるりと取り囲む真っ黒なカーテン。
 上条の喉から嫌な息が漏れた。極限まで追い詰められ、体中の皮膚からべったりとした汗が滲み出る。殺される。このままでは間違いなく、殺される。

「う、ぁああああああああああああああああ!!」

 目をつむり、上条は玉砕覚悟で駆け出した。一方通行めがけ右足で踏み切って、拳を振りかぶる。そして。


 ゴッ。と。固く握られた右手が、一方通行の顔面に突き刺さった。


「え?」

 一番驚いたのは上条だろう。がしかし、冷静に考えてみれば上条の行動は最良のものだった。漆黒の翼は一方通行の背中から噴出しており、上条を囲んでいるのだから。故に一方通行の正面を守るものは何もなかった。
 ゴロゴロと転がっていき、一方通行は仰向けに倒れた状態で静止する。
 立てない。
 御坂妹との戦闘で少し消耗し、先ほどの激突で大幅に削られた体力。それが今になって限界をむかえていた。

 それでも翼は動く。

 一対で五十メートル、つまり攻撃のリーチは二十五メートル。
 右手を避けたのは意識してか、片翼が上条のみぞおちを、もう一方が顎を突き上げていた。声を上げる間もなく上条の体が数十メートル吹き飛び、操車場のコンテナの残骸に激突する。

 それで全てが終わった。

 翼はかき消え、一方通行は深く息を吐いた。
 それだけだった。



 一方通行の意識が闇に堕ちる。

(あァ、こンなトコで終わンのかよ)

 なぜだかホッとしたような表情で、まぶたを下ろしていく。
 視界の隅で、サマーセーターとプリーツスカートが走ってきていた、ような気がした。








―――――――――――――――――――――――――





セロリ「え、この短時間で俺二回も覚醒? 体持つの?」
すごい「いやそれより上条の心配をしろよ。まぁ原作主人公がここでくたばっていたら根性が足りんが」
冷蔵庫「…………ふぅ」

セロい「「いきなり賢者タイムッッ!?」」

冷蔵庫(やったついに構ってもらえた……!)




[24716] 第八話 手を離した日
Name: 佐遊樹◆420e78e3 ID:b997989f
Date: 2011/01/21 02:59
 誰かの手を握っていた。
 誰かは手を握り返していた。

 誰かのぬくもりを感じていた。
 誰かにぬくもりを分け与えていた。

 誰かとつながっていた。
 誰かを愛していた。

 誰かが誰なのかすら覚えていないのに、彼はぬくもりをはっきりと思い出せる。まだその手に残っているように、温かさの残影を抱きしめている。



 手を離した日はもう遠い。追っても追いつけないほど、叫んでも届かないほどに。



 目を開ければ、視界を御坂美琴が覆い尽くしていた。

「……あァン?」

 なンでオマエが、横たわる一方通行はそう聞こうとして、思わず口を閉ざす。

 美琴は泣いていた。

 ポロポロと彼女の瞳から雫が落ちる。一粒一粒が、一方通行の顔を濡らす。美琴の肩越しに目へと飛び込んでくる月がやけにまぶしい。どうやら気を失ってからそんなに経っていないようだ。
 ぼうっと思考しながら、彼はおもむろに呟く。

「……こンな」

 あえぎあえぎ、酸素をかき集めてから、もう一度。



「……こンなトコまで、なンで来ちまったンだろォな?」



 一方通行はうめいた。こんな能力、いらない。もっと小さく、弱い能力でも良かったと。

「……良かった」

 そんな一方通行に、美琴は優しく微笑みかける。そっと視界に入る御坂妹も、どこか優しげな表情だった。

「……無事で、本当に良かった」

 一方通行は絶句する。

「ンだよ、そりゃァ」

 なぜ自分などを気遣う。言外に込められた、そんな思いを察し、美琴はそっと笑う。

「アンタはこのアタシに説教かましたのよ? 『人を救うのに能力はいらない』って」

 一方通行は思い出す。自分がまだ今より幾分かマシだったあのころ。

「言われてすぐは、能力使ったアンタが何言ってんだって思った。けど気づいた。アンタが言いたかったのは、能力のあるないに関わらず、他人に手を差し伸べる勇気」

 能力のある私にはよく分かんないけど、と美琴は続け、

「それでも、それがとっても大切なことは分かったから」

 美琴の言葉に、一方通行は息を呑んだ。
 そんな彼の顔を見て、美琴は小さく笑いかける。


「あの時は良かったなんて言わないでさ、もっと前を見なさいよ。そんなネガティブじゃ、第一位とか抜きに、私が『私はコイツに憧れてたんだ』って胸を張って宣言できないじゃない。今からでもやり直せるから……だから、あの時じゃなくて、この時を生きようよ」


 一方通行は虚空を見つめている。今までの自分を見つめ直している。
 きっと目の前の少女を失望させていたのだろう。
 きっと目の前の少女を絶望させていたのだろう。
 ふと笑いがこみ上げてきた。

「ぎゃは」

 今まで自分が積み上げてきたものが、一気に打ち壊されたような気がした。いや、何を積み上げていたのかすら、今となっては分からない。
 何を守ろうとしていたのかすら、分からない。

 全部、たった一人の少女に。第三位でもなく超電磁砲(レールガン)でもなく。たった一人の御坂美琴という少女によって、破壊されつくした。

「ぎゃ、ぎゃはははははははは」

 見失った。何かを。
 一方通行の視界から全てが消え去り、漆黒の帳が下りる。

「念のため、とミサカは確認事項を述べますが」

 嗤い続ける一方通行の顔を覗き込んで。御坂妹は告げる。


「ミサカ達は実験が凍結されても廃棄されることはありません……と、分かり切ったことをわざわざミサカは言ってみます、が」


 嗤い声が凍った。そして、爆発。

「ぎゃははははははははははははははははははは!! かきくかかくききこくきこけかかか――――!!!」

 破れて壊れて砕け散る。沸騰し灼熱し膨張する。凝固し冷却し縮小する。ひたすらに第一位はズタボロの笑顔を浮かべ続けた。

「かかか……く、ハッ……」

 嗤い疲れたのか、一方通行はふうと息をつき、



「俺の負けだ、欠陥電気(レディオノイズ)」



 ああそう。美琴は簡潔に返答した。
 ああそうですか。御坂妹は簡潔に返答した。

「一方通行(アクセラレータ)はオマエに敗北した。戦う気も、実験を続行する気も起きねェ」

 力ない敗北宣言に、沈黙が降りる。
 操車場の中心から、夜空に浮かぶ白い月に手を伸ばして一方通行は





「――――――――――――――――」





 その言葉は誰にも聞こえなかった。










 上条当麻が目を開けば、そこはいつもの病室だった。
 まだ見舞いの品や花瓶などがないことから、どうも運ばれて間もないらしい。麻酔のせいで体は動かず、仕方なしに目だけを動かして周囲を見てもあるのはベッドのそばのパイプ椅子に座っている御坂妹ぐらい

「はい!?」

 思わず奇妙な叫び声を上げてしまったが、上条は御坂妹がいることに驚いているわけではない。
 ただ単に、御坂妹が握り締めている上条の右手が、御坂妹の胸部のふくらみに触れるか触れないか程度に引き寄せられていただけだ。健全な男子学生としては妥当な反応である。
 黒翼の打撃を二度も食らって生きてるのは明らかに一方通行の無意識の手加減と主人公補正のおかげだが、その辺は皆さんのご都合主義魂でどうにかしてほしい。
 前書きにも書いたが、「上条さんマジパネェっす」なんていう人は原作を読み直せ。ホント不条理の塊だ。熱膨張って知ってるか? って言えば紅茶が武器に早変わりするんだ。なんというチート。

「あ、ああああああの、御坂サン!? 何をしてらっしゃるのでせうか!?」
「何を、と言われても……アナタの心拍数を生体電流によって計測していただけです、とミサカは事実のみを客観的に報告します。特に性的な意味は含みません」

 せっ!? と思わぬ言葉に上条は呼吸が止まりそうになったが、ふと思い直す。

(あれ? ってことは触れてる? 今現在上条さんの右手はオンナノコのムネに触れてるの?)

 ちきしょー麻酔のせいで何も感じないんですけどーっ! と上条は悲鳴を上げそうになるが、すぐさま思考を切り替え黙想。精神を統一し邪念を振り払う。

(色欲退散、色即是空、付和雷同。理性崩壊、学級崩壊、原子崩壊俺崩壊! ってダメだろこれ! むしろアレだわ!)

 セルフツッコミをかろうじて飲み込みつつ、なんかもう色々と開き直った上条はキリッと擬音をつけ表情を引き締めた。

(……ッ! 何ですか今の痛烈な危機感は、とミサカは自分の心理状態に疑問を抱きます)
(今この右手は触れてる今この右手は触れてる今この右手は触れてる! 信じろ自分の感覚を! 信じろ今の自分を! がんばれがんばれ俺ならできる! なんでそこで諦めんだよ!! もっと、もっと熱くなれよ! ずっと望んでたんだろ!? オンナノコと結ばれるハッピーエンドを! 主人公として美少女ハーレムを作り上げることを! Nice boat.を回避することを! だったらこんなとこで諦めてんじゃねえ! 手を伸ばせば物理的に届くんだ! いい加減に始めようぜ、上条当麻!!)

 もぞり、と。動くはずのない上条の右手が、人差し指だけ、小さく動いた。

(それでも、もし俺(テメェ)が動けず触れず感じれず、目の前の理想郷(アルカディア)を諦めるしかないってなら――まずはその幻想をぶち殺す!!)

 同時に原作主人公としての尊厳もぶち殺す羽目になるわけだが。
 死ぬ気で右手を動かそうとする上条の姿にどこか寒気を覚えながら、御坂妹は唇を小さく開く。

「……アナタは、一方通行のことをどう思いますか?」

 ピタリ、と、上条の動きが止まった。

「……話して思ったのは、どうも悪いやつじゃなさそうってことぐらいかな」
「……そうですか、とミサカは相槌を打ちます」

 会話が死んだ。
 上条はじっと天井を見上げるばかりで、御坂妹はそんな上条をじっと見ていた。

「……ミサカ00001号と一方通行の戦闘映像、並びに二人のプライベートな会話ログがあります」
「プライベート?」

 それって聞いたら個人情報保護何たらに引っかかるんじゃないかー? と首をひねる上条に御坂妹は、



「会話ログから察するに一方通行は――――――――」



 上条は目を見開いた。

「…………え? いや、ウソだろ?」
「真実です、とミサカは冷たく宣告します」

 無表情で言い切る御坂妹に、上条は呆然としながら口をポカンと開けた。続けざまに御坂妹は上条の瞳を覗き込み、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「アナタは、知りたいですか?」
「……何を?」
「一方通行の真意を、です、とミサカは最終確認を取ります」

 少しだけ黙り、上条は小さく頷いた。







 一方通行は、せっせと花瓶に飾られた花束の手入れをする美琴を見ていた。
 カエル顔の医者が置いていったそれらは、一方通行には眩しいカラフルな色。隣の部屋にいるツンツン頭の少年にも、すぐに届くだろう。差出人は不明だが大方どこぞの理事長だろうと一方通行はあたりをつける。まだ操車場を吹き飛ばしてから半日も経っていないのにすでに入院先が手配されているとは、学園都市は末恐ろしいなと思う。
 実験がどうなったのか、一方通行はまだ知らない。ひょっとしたらこれからも続くかもしれないし、もう凍結されるかもしれない。

 どの道一方通行には関係のないことだ。

(もォ、殺したくなんか……ねェな……)

 いつ道を踏み外したのか、一方通行ははっきりと覚えている。

(あの頃は、本当に)


『ほら一方通行、行けよ』
『雑魚は私たちに任せなさい』
『ったく、男ならもっとシャンとしなって』
『姫様を助けるのは勇者ってな。お前の根性、見せてやれ』


(本当に、すべてが上手くいっていたのに)


『……助けて、くださいッ……! 一方通行ァ……!』


(俺はなンでこんなトコまで来ちまったンだろォな、ミサカ)





『俺……もっと強くなるから……! こんな下らねェ『最強』なンかじゃなくて……オマエらみたいな奴らもみンなまとめて救えるような……『無敵』になるからァ……! だからッ……!』





「……なァ」
「何よ?」

 作業の手を止め、美琴は一方通行に振り返る。

「オマエ、やっぱ似てンなァ」
「……誰によ」
「00001号にだ」
「そりゃ似てるに決まってるじゃない」

 自分のクローンなんだから。そう自嘲するように言う美琴に、一方通行は、

「なァオマエ、聞きたいか?」
「……? 何をよ?」



「一万人の『妹達』を虐殺した、大悪党のくだらねェ懺悔」



 美琴は黙って考え、ベッドのそばのパイプ椅子に腰掛けた。

「聞くわ。……せめて言い訳ぐらいはしなさいよ? 悪党っていうからには」

 その言葉に頷き。一方通行は口を開く。語られるのは『最強』と『欠陥品』の物語。


 理想と現実が交錯する時、儚い虐殺劇の幕は開く――







―――――――――――――――――――――――――――



セロリ「これでやっと『妹達編』終了か……」
さてン「長かったですねー」
冷蔵庫「次回からは『追憶編』らしいな。なんでも佐天ちゃんが先行ゲスト出演とか」

セロン「「あっさりネタバレするなよっ!」」

冷蔵庫(なんかコツ掴めてきた)



[24716] 第九話 始動する闇【追憶編】
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:331a5f0c
Date: 2011/02/14 13:59
 真四角の白い部屋が、彼の世界だった。

「No.01。前へ」

 指示の声が飛ぶと同時、一人の少年が部屋の中央に歩み出た。
 部屋は左右前後の壁に床、天井までもが真っ白に染められており、まるで部屋一面に牛乳を塗りたくって放置したように見える。

 そして、中央に佇む少年も白かった。

「敵対存在、No.003用意! 実験内容、『視認不可速度に対する反射』!」

 号令と共に、少年の正面の壁にパキリとヒビが入った。ズズズ、と何かがせり出してくる音が響く。
 出てきたのは直径約二十センチはあろうかという巨大な砲塔。
 それの名称は『超電磁砲《レールガン》』――『樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》』によって発現が予期される、電撃系統で最上級の能力を利用したものだ。原理は簡単で、磁力を用いた電磁レールを砲口付近に展開、音速の三倍で砲弾を撃ち出す。当然、人間の動体視力では捉えきれない。

「超電磁砲、発射用意!」

 一発で鋼鉄を貫き、人体を木っ端微塵にするようなそれが、無表情で少年に狙いを定めた。

「いけるか?」
「……問題ありませン。データはもォ演算済みです」

 少年はじっと砲口を見つめながら、答えた。

「超電磁砲発射五秒前――四」

 学園都市最良の頭脳が、学園都市最強の能力が、牙を剥く。

「――三――二――」

 白い少年の口元が歪む。顔を引き裂くように口を広げ、さあ来いとばかりに両手を広げた。

「一、発射!!」

 轟音が部屋を揺らし、閃光が少年の視界を塗りつぶした。







「――――ッッ!!」

 バッ! と一方通行はベッドから跳ね起きた。

「……っく」

 寝汗を拭い、一方通行は台所へと向かう。水道水をコップに汲むと、一気に飲み干した。すっかり水分を失っていた喉を、水が潤していく。

「く、は……」
 
 乱暴にコップを台所に叩きつける。

(なンだ、今の夢はァ……)

 天井を仰ぎ、ため息をこぼした。

(何歳の頃の実験だよ……? 今更夢に見るなンざ、バカらしい)

 理由は明白だった。

(あのガキのせいで……)

 二週間ほど前、一方通行は一人の少女を助けた。


 少女の名は御坂美琴、つい先日、序列第三位『超電磁砲《レールガン》』として認定されている。


 レベル5というのは、通常の能力者とは格が違う。言うなれば、楽器のようなものだ。そこらの楽器屋で売っているものは誰でも手軽に買えるが、どこぞの巨匠が作った高級品ともなれば値段の桁が大幅に違ってくる。
 そんな存在、しかも世界で七人しかいないレベル5が偶然出会ったのだ。たったそれだけの、珍しい『偶然』。

 それだけなのだけれど、なぜか胸騒ぎがする。

「…………あァン?」

 ふとテーブルの上を見ると、寝る前に置いていた携帯電話がランプをチカチカと光らせていた。
 手にとってみれば、どうやら何度か音声電話を着信していたらしい。

(あンだよ、またなンかの実験かァ?)

 着信相手は、





『岩橋短期大学・筋ジストロフィー研究センター』





 そう。
 全てはここから始まったのだ。
 学園都市最強にして最悪の能力者による、大虐殺劇は。








 学園都市、夏――
 それはセミが鳴き始めてから、ちょうど二週間たった頃のことだった。

「あ、スイマセン。初回版もう売り切れたんすよー」
「「バカなぁぁああああっ!!」」

 学園都市、第三学区。その片隅にある小さなゲームショップから、二人の男の悲鳴が響き渡った。

「俺の、俺のさくらがァ……!」
「ことりに会えないことりに会えないことりに会えない…………」

 発狂したかのようにうずくまり、哭き叫ぶ彼ら。これでも学園都市では名の知れた能力者である。


 さくらファンの方は、学園都市序列第一位、一方通行。本日は袖を捲り上げたYシャツを黒いシックなネクタイで締め、トラウザーパンツをはいてもう誰だか分からない見事な正装をしていた。


 もう一人は、序列第二位――垣根帝督である。スーツをかなり着くずしたそのファッションは、チンピラかホストにしか見えない。


「一方通行ァァァァァァァァァ!! テメェがあそこで劇場版ヤ○ト見てえとか言ってポスターに気取られたから遅れちまったじゃねえか!!」
「ンだとメルヘン野郎! そっちこそTSU○AYAでアリ○ッティ借りてくるとか言って二十分待たせたじゃねェか!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を尻目に、ショップの店員さんは携帯ゲーム機をピコピコと操作している。
 ピコピコピコピコ。
 カチカチカチカチ。
 セリフ送りセリフ送りセリフ送り。

「やっぱさくら可愛いっすね~」
「だろォ? ……ってテメェ何やってやがンだァ!?」
「問題ないっす。これと保存用で二本は俺がキープ済みっすから」
「「問題大ありだろォがァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」

 一方通行と垣根帝督の正体を知っているのか知らないのか、余裕しゃくしゃくで見せつけるようにゲームをプレイする店員さん。
 二本あれば一方通行と垣根帝督は初回版にありつける。学園都市序列トップツーコンビは、一瞬で意思疎通。その能力を用いてソフトウェアの奪取を試みた。

「……さァ、虐殺ショーの始まりと行こォぜェ!」
「さぁ死ね! 人を殺している時だけ、生きていると実感できる!」
「アンチスキル呼びますよ?」
「「スイマセンでした」」

 音速でその場に土下座する二人。
 さすがにこんなことでお縄にはかかりたくないらしい。

(クソがァ……いつかハラワタをブチまけてやる)
(クソが……いつかブッ血KILLしてやる)

 ギリギリギリギリギリギリギリギリと歯噛みしながら、反抗の誓いを立てる二人。

「あざしたー」
「「……あざっしたァ」」

 言葉どころか体中から怨念に満ち溢れたどす黒いオーラを放出しつつ、一方通行と垣根帝督はゲームショップを後にした。





「ケッ、ついてねェな」
「ああ。在庫まで確認してもらったのにアリ○ッティがないとは」

 微妙にズレた会話をしつつ、休憩がてら寄った公園で一方通行と垣根はベンチに座り込んだ。夏は真っ盛り、黙って突っ立っているだけで汗がにじみ出る。
 ちなみに公園で遊んでいた少年達は一方通行を見て駆け寄ろうとしたが、隣の垣根の背中から生えた翼を見て逃げていった。
 垣根帝督の能力『未元物質(ダークマター)』。その能力にこの世の常識は通用しない。マナーとかモラル的な意味でも。

「ホレ、コーヒー。120円貸しな」
「おゥ、悪ィな」

 翼でパタパタと自分を扇ぎつつ、垣根は一方通行にスチール缶を手渡す。

「新発売、激甘ホットカフェオレ(砂糖飽和状態)だ」
「いるか! 季節感も俺への配慮も皆無じゃねェか!」

 ビュゥン!!と一方通行が投げ捨てた缶が音速の二倍近くの速度で飛んでいく。
 丁寧にキラーンなんて効果音をつけお空の星と化したカフェオレの缶を見やり、思わず冷や汗を垂らしながら、垣根は冗談だと告げた。

「本命はコッチだ」
「あァ?」



『新世界のブラック ちょっと一服 や ら な い か』



 ゴォゥ!!と大気を切り裂き、スチール缶が宇宙空間めがけて射出される。その速度は『超電磁砲』をも凌駕した。プロのサッカー選手張りのロングロングシュートをキメて見せた一方通行は、蹴りだした黄金の右足をはたくと、悪鬼のような表情で垣根に詰め寄る。

「すげえなオマエ。Jリーガーになれるんじゃねえか?」
「お誉めの言葉ありがとォ。そして殺す」
「落ち着け。クールダウン、クールダウン」
「分かった。落ち着く。そしてぶち殺す」
「ダメだこりゃ」

 殺気全開でジリジリと間合いを測る一方通行。
 ちくしょーノリでギャグなんてしなけりゃ良かったーっ! などと叫びたくなるのをこらえ、垣根は一応、計六枚の純白の翼をはためかせる。

「ハッ、まァたボコられたいみたいだなァ!」
「勝手に吠えてろ。あの時は時間切れだったが、今度こそ白黒つけてやるよ!」

 いざ第一位と第二位が激突する、という時に。



『放て! 心に刻んだ夢を~未来さえ置~き~去~り~にして』



 空気を読まず、垣根帝督の携帯電話の着信音が鳴り響いた。

「……聞いたことねェ曲だな」
「聞くな。世界観が崩壊する」

 しかしいい曲だ、と一方通行が頷く中、垣根はスマートフォンの画面にタッチ、通話を開始する。

「俺だ」
「誰だ? ひょっとして彼女さンか?」
「…………心理定規(メジャーハート)、いやあのですね今はちょっと野暮用でしていえバイトしてますよ? サボってなんかませんよ?」
「おィものスゲェ冷や汗出てンけど大丈夫かァ?」

 ダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラ!
 ものすごい勢いで汗がにじみ出る垣根。一方通行でさえもが思わず心配するほど、外見が地球上生命体からかけ離れていく。顔色は青を通り越して紫になり、その後も色々と超越したらしく真っ黒になっていた。

「いや家計がキツいのは分かってるって。ちゃんとバイトする。だからフィギュアと積みゲー燃やすの止めてください」
「……彼女さンってよりは鬼嫁か小姑だな」
「は? 頬にキス一回? それで許してくれるの?」
「どいつもこいつもリア充かよチクショゥ!」

 何で俺にはステキな出逢いがないンだァーっ! と絶叫する一方通行を尻目に、垣根は何やら話し込んだ後、背中の翼が霞んで見えるほどまぶしい笑顔で右手を空に突き出す。

「俺の時代キタ―――――――――――」
「そげぶ(その幻想をぶち殺す)ッ!!」
「ばこお(バカなこの俺が)っ!!」

 一方通行家一子相伝最終奥義、ベクトルキック。大気の流れや重力、作用反作用全てのベクトルを詰め込んだ右足が、翼越しに垣根の体へ突き刺さった。
 そのままゴロゴロと転がっていく垣根に背を向け、ポケットに手を突っ込んで一方通行は歩き出す。

「……絶望が、オマエのゴールだ」





「ならば、アナタのゴールはどこになるのでしょうね」





 一方通行の足が止まった。
 彼の正面に相対するのは、白いブラウスに薄手のサマーセーター、プリーツスカート。肩まである茶髪。焦点の合ってない無機質な瞳。

「オマエは……」
「はじめまして、第一位『一方通行』」

 それは言葉を喋った。
 それは片足を踏み出した。

(コイツ、この前と話し方が全然ちげェ……双子なのか?)
「私はシリアルナンバー00001、『妹達』の先行試作型に当たります」

 先行試作型。その言葉に一方通行は首を傾げる。

「スマン、何言ってンだかサッパリ――ッ!!」

 唐突に、脳内でスパークが弾け飛ぶ。学園都市第一位は、ある一つの可能性に突き当たった。

「まさか、テメェあのガキのクローンか!?」
「ご名答です。拍手を贈りましょう」

 パチパチと、人をバカにしたような単調なリズムで拍手が鳴る。

「じゃァ、昨日の電話は」
「ええ、『絶対能力者進化実験』は存在します」

 そこでそれは言葉を切り、


「今ならまだ間に合います。実験に……協力しますか?」


 沈黙が数拍。


 一方通行の顎が、小さく上下に振られた。



―――――――――――――――――――――


セロリ「なンか久しぶりだなァ」
ミサカ「最近受験で忙しかったですからね」
佐遊樹「なお、この作品で一方通行はこの『追憶編』で『ベクトル制御装置にAIM拡散力場の数値設定を入力』する作業は終えております。その辺はまあボチボチと」

セロミ「オマエ誰/アナタ誰ですか!?」

冷蔵庫「…………俺の、出番は?」
ピカ子「……本編で出たからいいじゃん」



[24716] 第十話 激昂する魂
Name: 佐遊樹◆a4780e76 ID:7b77f841
Date: 2011/02/27 01:52
 人を殺すのは嫌いだ。人が死ぬのも嫌だ。


 まず、クラスの男子の拳が飛んできた。
 反射した。


 次に、他の男子の拳が飛んできた。
 反射した。


 担任教師の拳が飛んできた。
 反射した。


 交番の巡査の警棒が叩きつけられた。
 反射した。


 巡査長の拳銃から銃弾が飛んできた。
 反射した。


 アンチスキルに囲まれ、取り押さえられそうになった。
 反射した。



 反射して、反射して、反射して反射して反射して反射して反射して反射して反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射反射






 何も飛んでこなくなった。





 世界を敵に回しても、世界は自分を打ち負かしてくれなくて。
 彼は降参した。散々攻撃を反射し、絶望を雨のように振り撒き、恐怖を人々の心奥深くに植えつけ。

 もうどうでもいいか、と彼は妥協した。

 だからかもしれない、と一方通行は思う。真っ白な部屋。どこまでも白い床、天井、四方の壁。

『ようこそ一方通行君。君は最強の第一位でありながら、あさましくも更なる力を求めここに来た』

 演説でもするかのように、研究員のものとおぼしき声が聞こえる。

「ンな御託はどォでもいいンだよ」

 けだるそうに白髪を掻きながら、彼は告げた。

「こちとら目当ての代物がなくてイラついてンだ。さっさと帰らせてくンねェ?」

 反抗気味な口調が、実験室に響く。

『そう言うな。この実験は君のためだけにあるものではない。学園都市の最終目標へ到達できるかもしれないんだよ、君は』

 最終目標ねェ、と一方通行は笑い飛ばす。

「それで? このチンケな研究施設と頭のイッちまってる研究員の皆さンで、何ができるンだァ?」
『スペースなど必要ない』

 それが合図だったのか、部屋の片隅に突如亀裂が入った。
 否、亀裂などではない。周囲の壁と全く同じ色にペイントされ、カモフラージュされた出入り口。そこから一人の少女が姿を現した。

「オマエ……」

 自分をここまで案内した、第三位『超電磁砲』に異様なほど似ている少女。


『紹介しよう、君の『絶対能力者進化実験』のサポートをする、シリアルナンバー00001。『超電磁砲』のクローン成功作第一号だ』

 一呼吸、



『君には、彼女を二万回殺してもらう』



「…………はァ?」

 最初に出たのは、呆れの声だった。

「イヤイヤイヤイヤ、はィ? 二万回ィ? オマエ自分が何言ってンのか分かってる?」

 二万回って7つのボール何回集めりゃいィンだよ、と茶化すように一方通行は笑った。

「アレか? オマエ異世界出身? オマエの世界じゃ死者○生とかで人が蘇ってンの?」

 さも可笑しそうな一方通行に、研究員はそっと話しかける。

『彼女はクローンなのだよ。いくらでも量産できる。単価は十八万、ボタン一つでいくらでも増やせる』

 ピクリと、一方通行の眉が跳ね上がった。
 今聞こえたのは何だ?

「……なンか戯れ言が聞こえた気がすっけど、気のせいだよなァ?」
『気のせいなんかじゃないさ。君が彼女を殺して、彼女はまた増やされ、君はまた彼女を殺す』
「……できるワケねェだろ、そンなこと」

 一方通行は人を殺したことがある。とても気持ちのいいものとは言えないものだ。


「人を殺すのは嫌いだ……人が死ぬのも嫌だ……」


 その言葉に、研究員は……笑った。

『人を殺すのは、嫌い? 人が死ぬのも、嫌? ……ククク、クハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 ならば話は早いと。
 喉が潰れるほどに笑いながら、研究員はそうつぶやいた。

『……クハハッ、ククク……いやぁ良かった良かった! 君がそうで良かったよ。ククッ……』
「……なンの話か、サッパリ見えてこねェンだけど?」

 バカにしたような笑い声に相当苛立っているのか、一方通行の声が威圧的になった。
 さすがにやりすぎたと思ったのか、研究員は咳払いを一つして、改まった様子で言葉を紡いだ。



『問題ない。『妹達』は人間じゃない。単なる人形だ。単価十八万円の、動く人形だ』



(何言ってンだコイツ)

 一方通行は呆れた。いたって客観的に呆れた。
 怒りが湧き上がってなどいない。自分は冷静だ。冷静に考えて、この『実験』はおかしい。
 気をつけて、慎重に発言しろと、理性は謡っていた。

 けれど、そんなこと、お構いなしに。
 一方通行の感情が、勝手に暴発した。

 ダンッ!! と、床が華奢な細い足に踏みつけられ、途端に四方八方へ砕け散った。
 研究施設の空気が一瞬にして凍りつく。学園都市最強の本気の殺気に場の空気が掌握される。

「テメェら、それ本気で言ってンのか……?」

 ヒッと、スピーカー越しにも研究員の狼狽が聞き取れた。





「コイツだって生きてンだろォが!! なンだってそンなことも分かンねェンだよ!?」




 激情のままに、一方通行の口からほとばしる言葉。

「さっきから黙って聞いてりゃァ調子こきやがって。オマエ誰にモノ言ってンのか理解できてねェみたいだな」

 殺気を隠そうともせず、彼はフンと鼻を鳴らした。
 もう何度か床を踏み砕き、壁まで大きなヒビが入ったところで一方通行は観察用のカメラを睨む。

「俺はこの実験を降りるぜェ」
『なっ――――』
「あばよ。今日中にダ・○ーポプラチナパック買いてェンだ」

 颯爽と実験室を後にする第一位。
 シリアルナンバー00001は、その背中をじっと見つめている。



 夏はまだ始まったばかりだった。



 外は雨だった。先ほどまでの暑さがウソのような曇天に、一方通行は舌打ちする。

(ンだよ、めざ○しテレビの言うとおり傘持ち歩いとけばよかったぜ)

 仕方ねェ、ていとクンにでも迎えに来てもらうかと一方通行が携帯電話を取り出した時、頭上に影が差した。



「お貸ししましょうか?」



 クローンとして作られ、人形と呼ばれた少女は、焦点の合っていない瞳で最強を見ていた。

「……いィのかよ?」
「その代わり、ミサカのためにあることをしてほしいのですが」

 受け取った傘を肩に預け、一方通行は少女の言葉を待つ。



「ミサカを買ってください」



「さて、耳鼻科にでも寄るかな」
「ちょっと待ってください、ダメならミサカを飼ってください」
「チッ、しょうがねェな……ってンなワケねェだろ! つかむしろアレだわ!」

 その発想はなかったぜと一方通行は冷や汗を垂らした。
 ミサカは不満そうに頬を膨らませ、口を開く。

「せっかく穴場のゲームショップを教えようとしたのに」
「………………………………メシはファミレスでいいな?」

 たっぷり悩んだ末に、とりあえず一食ぐらいはいいかと一方通行は決断。
 薄い赤色の傘を差し、少し狭いスペースに二人は入り込んだ。肩と肩が密着し、ちょっとドギマギする一方通行。

「ところでどこへ行くのですか? ジョイ○ルですか?」
「ンにゃ、デ○ーズだ」

 一方通行と欠陥電気は共に歩く。その先に何があるのかなど知らず、考えず。
 雨は少しずつ、強くなりだしていた。


―――――――――――――――――――――

追憶編予定
一方通行無双

垣根クン冷蔵庫化

ミサカと麦野がくっつく

気付いたらヒロインがフレ/ンダ

セロリ「おィィィィィィ!? なンか追憶編とンでもないことになってませンッ!?」

冷蔵庫「作者の頭に常識は通用しねえ」(キリッ

きぬは「カッコつけてる場合ですか? 超ソッコーで冷蔵庫になってますよ?」


セロ庫「「キミ誰?」」


きぬは「えっ」
セロリ「えっ」
冷蔵庫「えっ」


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