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[26243] 【習作】 SURVIVORS (VRMO)
Name: 田楽◆941ffb9e ID:ad8d244f
Date: 2011/02/28 20:27
VRMMO物は多いけど、MO少ないな。って思って書いてみました。
楽しんでいただけると幸いです。
誤字、脱字などがありましたら指摘していただけるとありがたいです。

このお話しは、不定期更新です。


2/28 01に変な部分があったので修正



[26243] 01
Name: 田楽◆941ffb9e ID:ad8d244f
Date: 2011/02/28 20:26
機械が静かな駆動音をあげている。
黒い色をした箱型の機械。
機械の正面には、起動中を示す青い光りと、コード。
そのコードは、ベッドで寝ている男がかけているヘッドマウント式のディスプレイと繋がっている。
そして、機械の側面には『VR』の文字。
VR。ヴァーチャルリアリティの略称。
空想でしか存在し得なかった世界を体感出来る夢の機械。
映画の世界に入り、それを中から見る事が出来る。
アニメの世界に入り、それを中から見る事が出来る。
そんな夢の機械は、瞬く間に世界的な流行となり、現在では一家に一台や二台置いてあるのが当たり前。
機械は、相変わらず静かな駆動音をあげていた。
ベッドで寝ている男も、やはり同じ。
彼は、夢の世界へと旅立っている。
自身の好きな、『ゲーム』の世界へ。





リョーは目を開いた。辺りを軽く見回し、自身が薄暗い石造りの部屋にいる事を知った。
部屋の中には、数個のテーブルと、それを挟むように長椅子が置いてある。
壁際には、いくつかの武器と金属鎧や革鎧。それとアイテムのような物。
そして、人。
リョーを入れて、6名の人間がこの部屋の中に居る。
椅子に座って会話をしている者達。
会話をしている彼らとは別に、壁に寄りかかっていたり、武器の品定めしている者が居た。

「こ、こんちは」

少し緊張しながら、リョーは部屋に居る人物達に声をかけた。

「――……」

椅子に座っている者達以外は、軽くリョーを一瞥すると、軽く手をあげて答えた。
一方、椅子に座っている者達はリョーを見るや、手招きをしてリョーを呼んだ。

「こっちこっち!始まるまでの間、適当に雑談でもしよーよ!」
「他のVRゲームの話してんだ。お前もどうだ?」

どうやら、ゲームが始まるまでの間、他のゲームの話をして盛り上がっているらしい。
リョーはこれまでも、VRゲームをいくつかやっている。
オンラインで顔も知らない人と一緒に遊べるオンラインゲームが中心だ。
剣と魔法の世界でのロールプレイングゲームであったり、爆弾を置いて相手プレイヤーを倒すゲームであったり。
特に、爆弾のゲームは凄かった。
至ってシンプルなゲーム性だというのに、爆弾が爆発する際に生じる炎のリアルさといったら、思わず悲鳴をあげたほどだ。
それを他のプレイヤーに笑われて、恥ずかしい思いをしたのは言うまでもないかもしれない。
その後、実は俺も……などという話もあった。

「あ、ああっ。混ざる混ざる!」

リョーは喜んで会話に混ぜてもらうことにした。
こういった、見知らぬ人とのゲーム上での雑談というものが好きだった。
同じゲームをやっているからだろうか、不思議と話が合う人が多い。
リョーは椅子の空いている所に座り、改めて挨拶をした。

「改めてよろしく。で、何の話をしてたんだ?」

会話に参加している3名尋ねた。
知ってるゲームなら良いんだけどな。

「ああ、クルセイドっていうネトゲの話でな」

白髪モヒカンのゴツイ男が答えた。肌は日に焼け浅黒く、いかにも前衛。といった風貌だ。

「あー……あれかぁ、前評判は良かったけど、いざ始まったらバグだらけだったっていう」
「そーそー。私やってたんだけどさー、もーほんとーーに酷かったんだよー」

リョー言葉に、正面に座っている長い赤髪で、ツリ目気味の女がげんなりとした表情で言った。

「僕もやってたけど……確かにあれは酷かったよね」

緑色の髪に緑色の服を着た、エルフのような耳をした少女も、言いつつため息を吐いている。
リョーは件のゲームはプレイしていないが、色んな所で悪い方向に盛り上がっていたので、そこそこ知っている名前だった。
ゲーム性は良いし、世界観もなかなかというのに、バグがとてつもなく多かったらしい。
話しに聞いただけでも、歩いているとポリゴンの隙間から下に落ち、なぜか空中に出現した挙句、地面に叩きつけられて死ぬ。
というようなバグだったり。
なぜか他人のキャラと入れ替わりが起こったりと、様々なバグがプレイヤーを苦しめたらしい。
最も、入れ替わりに関しては、一部物好きなプレイヤーが喜んでいたらしいが。

「普通に遊んでただけなのに、行き成りハゲでヒゲでマッチョなキャラと入れ替わっちゃってさー、もーサイアク」

ツリ目がテーブルに突っ伏して愚痴る。
まあ確かに、行き成りハゲヒゲマッチョにされたら困る。
もう少し普通が良い。普通が。

「まさかアレの被害者がこんな所にいるとは……」

リョーは同情半分、驚き半分だった。
報告数の少ないバグの体験者とこんな所で遭遇するなんて、世間は狭い物だ。

「あ、あー。テンションの落ちる話しはそれくらいにしておいて、このゲームの話しをしないか?」

微妙な雰囲気になったのを察したのか、モヒカンが慌てて話題を変える。

「そーだねー……あ、みんなって説明書読んだ?」

ツリ目が気を取り直して聞いてきた。
ゲームをやる上で、説明書は意外と重要だ。
ゲームを遊ぶ上での基本的な事が書いてあり、読んでおけばスムーズにゲームを進行できる。
が、残念ながら――

「読んでない」
「いや、読んでないな」
「読んでないよ」

リョーと、モヒカンとエルフ娘の声がハモった。
ハモったせいか、3人ともが同じ読まない派だったのがうれしいのか、みんな笑っている。
そう、とても残念な事に、リョーは説明書は読まない派だった。
気付きにくい要素を見つけたりするのが好きなのだ。
説明書は詰まったら読めば良い。リョーにとっての説明書とは、その程度の存在だった。
本音を言えば、読むより先に遊びたかった所が大きい。

「だよねだよねー、私も読んでない!」

ツリ目も笑っている。
どうやら彼女も読まない派だったらしい。

「っていうか僕、情報誌も読んでないんだよね。このゲーム、パッケージとタイトルで買ったから」

エルフは、このゲームの内容を全く知らないらしい。

「あ、それ私も。買ったっていうか、兄貴の部屋から奪ってきたんだけどね」

ふふん。と偉そうに胸を張るツリ目。

「俺は情報誌読んだと言えば読んだけど……三つのクラスと二つのモードがある。程度の事しか知らないな」

リョーもそれはほとんど同じで、大した情報は知らない。
このゲームを買った理由といえば、情報誌に少しだけ出ていた内容が面白そうだったからだ。
両手剣や片手持ちの長剣と盾などの近接武器を扱えるウォーリア。
弓での遠距離攻撃に特化したアーチャー。
近接用の短剣と、様々な効果を持つ罠を使えるトラッパー。
そして肝心のゲーム部分は、ステージクリア型のMO。
ここ最近はMOにハマっていたリョーの興味を惹いたのはこれらの部分だった。
ついでに言えば、他のゲームを買いに行った際にたまたま目に入ったからなのもある。
面白そうと思ったものの、実際ゲームを目にするまではすっかり忘れていた。
情報誌での事を思い出したリョーは、買おうと思っていたゲームを買うのもやめ、このゲームを買ったのだ。
大して興味の無いゲームよりは、こちらの方が断然興味があった。

「俺も情報誌はいくつか読んだな。聞くか?」

モヒカンが最後に口を開いた。
リョーを含めるほかの面子は、もちろん。と口を揃え、モヒカンに目を向けた。

「えーっとな、まず近接のウォーリアと遠距離のアーチャー。それにトリッキーなタイプのトラッパーがある」

この辺りはリョーも知っている情報どおりだった。
あまりゴチャゴチャと職業ばかりあっても、ゲームによってはバランス取りが難しくなる。

「あとは、対NPCのPvEがあって、これは面クリア型らしい。難易度選択とストーリーなんかもあるそうだ」

これも自分の知っている通りだ。
難易度に関しては新情報だったが、同じ場所を何度か行く事になるようなMOではさして珍しくは無く、あっても特に驚きは無かった。

「で、次にPvPだ。知ってると思うが、プレイヤーVSプレイヤーの事だな」

こんなところか、とモヒカンは説明を終える。

「PvP以外は、ほとんど俺の知ってる通りか」
「この程度の事しかどの情報誌にも載ってなかったんだ。しょーがないさ」

余り対人戦という物をした事がないリョーとしては、少し興味が惹かれる物があった。
ストーリー何かが落ち着いたら、やってみても良いかもしれない。

「んー、三つのクラス……かー。私はアーチャーかなー、弓好きだから」
「あ、僕もアーチャーが良いな。こう見えても弓道やってて。へへ」

どうたらツリ目とエルフの二人は、弓が好きらしい。
たしかに、弓は良い物だ。
弓というよりは、主に袴が。
弓道着女子はイイものだ。

「オレは見た目通りウォーリアだな。近接といえば花形だしな」

やはりリョーの予想は正しく、モヒカンは近接をやるつもりだったようだ。
こんな見た目でヒーラーとかやられてもちょっとイヤだ。
もっとも、このゲームにヒーラーは無いのだが。
やはり、後衛は小柄なキャラに限る。特に女キャラに。
まず回復職は絶対に女キャラが良いと思っている。
あとは強化なんかを担当する職も女キャラが良い。バードとか。
魔法使い系なんかも、やっぱり女キャラが良い。
そして自分も後衛。周りみんな女キャラでちょっとしたボーナスタイムだ。

「ねーねー、キミは?」

ツリ目がリョーに問いかけた。
どうやら余計な事を考えすぎたらしく、俺の選択を周囲の面々が待っていたらしい。

「あー……んー……俺はトラッパーかなぁ。アーチャーも良いけど、トリッキータイプって言われるとやりたくなる」

袴は好きだが、弓は好きってほどではない。
銃とかクロスボウは好物なのだが。
それに、トリッキーな嫌らしいタイプ何ていう物は、プレイヤーの腕の差が顕著に出る。
特にゲームが巧いわけでもないのだが、そういうタイプには惹かれる物がある。
だから、このゲームではトラッパーで行こう。
そうリョーは決めた。

「あんたらは何するんだ?」

モヒカンが、会話に参加していない二人。
黒い長髪の男と、小柄で樽のような――まるでドワーフのような爺さんに話しかけた。

「……ウォーリア」
「とーぜんウォーリアじゃな」

二人がそれぞれ答えた。
どうやら二人ともウォーリア志望らしく、黒髪はともかく、ドワーフの爺さんとモヒカンは前衛として頼りになりそうだ。






『待機時間が終了しました。クラスを選択してください』

頭にシステム音声が響いた。ゲームが始まるらしい。
壁に立てかけてある武器と防具にそれぞれ集まり、武器を見繕い始めた。
モヒカンはプレートアーマーよりも軽量なフリューテッドアーマーと、両手で持つツーハンドソード。
黒髪は全身を包むプレートアーマーとロングソードとシールド。
ドワーフも黒髪と同じプレートアーマーのサイズ違いと両手持ちのハンマー。
エルフは、動きやすい革鎧とロングボウ。
ツリ目は、エルフと同じ革鎧の色違いとショートボウ。ショートボウの付属品として大振りのナイフがセットでついていた。
そしてリョーは、草色の布地で出来た上着と、同じ色の下穿き。そして、投擲用のナイフと近接用のダガーに罠用のアイテム。

こうして6人は準備を整えた。

『準備時間が終了します』
システム音声が終了を告げると同時に、カウントダウンが始まる。

『3……2……1……――』

6人は、戦場へと旅に出る。






草木の臭いがする。
いつのまにか瞑っていた目を、リョーは見開いた。
眼前にはポリゴンで表示されている木々があり、森のフィールドである事が確認できる。
木の表面は現実に存在する木のそれと変わらず、細部まで非常にリアルに作られているように見える。
そっ、と表面に触れてみると、ざらりとした感触が手のひらに伝わってきた。
リアルだ。
今までプレイしてきたどんなゲームよりも、リアルに作られている。
例えば、布地の服を着ている微かな感触。風が頬を撫でる感触。
バカみたいに丁寧に、変態的なまでの作りこみがなされている。
しかし、リアルでありながら、ゲームとしてきちんと作られている。

ま、問題はゲーム部分なんだけど。
木を触りながら、そんな事を考えていると、背後で葉と何かが擦れた音がした。
リョーはふと我に返り背後に振り返ると、さっきまで同じ部屋にいたメンバーが全員居た。
他のメンバーも、それぞれが周囲を見回したり、木や葉に触れていたりしている。
どうやら、リョーと同じくこのゲームのリアルさに驚いているようだ。
それよりも。と、このゲームのグラフィックスを楽しんでいるメンバーを尻目に、リョーは一つ確認したい事があった。

(メニュー)

脳裏でメニューを呼び出す。
こういったメニューなどを呼び出す方法は、VRゲームではほぼ共通している。
リョーの予想通りに、視界に半透明に透過されたメニュー画面が現れた。
ステータスやアイテムといった項目は無く、スキル画面が直接出現した。
トラッパー用のスキルと、全クラスで共通しているスキル。2つのクラスで共通しているスキルなどが並んでいる。
ゲームをやるのであれば、どういう攻撃が出来るのか。といった事は多少知っておくべきだ。
リョーはスキルの説明文をざっと読みつつ、軽く頭に入れておく。
どうやら、トラッパーのスキルの多くは、地面に設置し、一定範囲に敵が侵入して初めて効果を発揮するらしい。
となれば、あとは実践しながら覚えれば良いだろうと考え、メニューを閉じる。

「さて、どうするかの?」

ドワーフが言った。どうする。とは、これからどう動く。という意味だろう

「て、適当に探索するのが良いと思うけど。みんなで」

エルフがドワーフに返す。彼は見るからに不安そうで、一人になるのが怖いのかもしれない。
ゲームなのだから、別に一人になった所でどうと言う事は無いとおもうリョーだが、それはまぁ、人それぞれかもしれない。

「……俺は一人で行く」

黒髪はそう言うや、他のメンバーの返答を待たずに歩き出していた。
ツリ目は、ちょっとー!などと叫んでいるが、どうやら黒髪は全然聞いていない。
止めた所で聞きそうな奴でも無いな、とリョーは考え黒髪の事は放っておくことにした。
アイツより、残った面子がどうするかの方が大事だろう。
折角仲良くなれたメンバーと別々に行動する意味もないし、リョーは他の面子と行動するつもりでいた。

「……俺は、みんなと一緒に行動するかな」

リョーは残ったメンバーを見ながら言った。少し、エルフが嬉しそうな顔をしている。

「オレもそうしておくか。折角の縁だしな」
「ワシもそうしよう」

モヒカンとドワーフが揃って答えた。

「私も勿論一緒にいくよー!」

ツリ目も一緒。
これで黒髪以外は全員一緒で行動することになった。

「んじゃ、行くか。トラッパーのスキルで『ホークアイ』っていうのがあったから、使いながら行くな」
「おう……って、なんだ?ホークアイって」

モヒカンから質問が返ってきた。
そういえばウォーリアには無いスキルだった。説明しないとわからないか。

「目視距離を上げるスキルらしい」
「ああ、なるほど。言われてみれば確かに。って感じだな」

直訳してしまえば鷹の目なわけで、ゲーム何かでたまに見かける名前だ。
命中率を上げる物であったり、ダメージを与える物であったり、様々ではあるが。

(ホークアイ)

脳裏でスキル名を囁き、スキルを発動させる。
瞬間、目に少し力が入る。
ぼやけていた遠くの木にピントがあうようになり、離れた場所の色々な物が見えるようになった。

「うあ……なんか見えすぎるって気持ち悪いな」

かなり離れた場所の木の葉っぱまでが細かく見える。
そんな光景になれていないせいか、少し違和感があった。
まあ、使っていれば慣れるかな。と、スキルを解除せずにそのままでいることにした。

「それアーチャーにもあった!私も使ってみようかなっと……ホークアイ!」

リョーの言葉に興味を惹かれたのか、ツリ目もホークアイを使う。
たしかにホークアイのスキルの説明文には共通の文字があった。
ということは、ほかのクラスでも使えるというわけだ。
というか、わざわざスキル名を叫ばなくても使えるんだけどな。

「うわ、これすっごー!面白いよこれー!うわー……あんなに離れてるのにクッキリ見える、ふしぎー」

ツリ目は違和感がある所か、むしろ楽しんでいるようだった。
どうやら、スキル一つをとっても人によって感じ方が違うらしい。

「ですね、凄いです。見えすぎて頭がクラクラしそうですけど」

いつの間にかエルフの方もホークアイを発動させていたらしく、周囲をキョロキョロと見回していた。

「お、おい爺さん!俺達も面白スキル探そうぜ!」
「そ、そうじゃの!」

ホークアイ組を羨ましそうに見つめていたウォーリア組が、何か面白そうなスキルが無いか調べ始めたらしい。
なるほど、ホークアイはウォーリアでは使えないようだ。
主に偵察用で使われそうなこのスキルは、確かにウォーリアには無くても頷ける。
一方ウォーリア二人は、これなんてどうだ?
いやいや、それじゃインパクトに欠けるじゃろ。などと相談している。
しばし相談が続き、どうやら面白そうなスキルを見つけたらしい。

「ふふん、見てろよ。ハイジャーーーーンプッ!」
「同じくハイジャンプじゃーーー!」

僅かに屈んだと思うやいなや、全身のバネをフルに活用し、一気に空中に飛び上がる二人。
リョーの身長を軽々と超え、3メートルから4メートルほど飛び上がってるように見える。
地上にいる面子は、おーと軽い歓声をあげて空を見上げている。
と、いうか。プレートアーマーを着込んであそこまでジャンプ出来るとは、流石はゲームとしか言いようが無い。
いや、普段の動きを見るに、あのスキルは決められた高さまでジャンプ出来るようになっているのかもしれない。


「おおっ、高いぞい!」
「ああ!たけえ!けど、周りが木で何も見えねえー!」

ジャンプで飛び上がれる最大距離に到達したのか、地面に向けて落ち始めている二人が、頭上ではしゃいでいる。
葉や枝を折る音をさせながら、二人は地面に軽やかに着地した。

「ハイジャンプも面白そうだねー。今度ウォーリアもやってみようっと」
「うん。僕もやってみたい」

ハイジャンプは、ツリ目とエルフの興味を大いに惹いたようだ。
といっても――

「実はトラッパーも使える」

――トラッパーもハイジャンプが使えるのだった。
トリッキーなタイプというだけあって、機動力に物を言わせるようなスキルはいくつか存在していた。

「なんじゃと……」

トラッパーも使える。というのは、ツリ目とエルフに対してリョーが言った言葉だったのだが、全く予想していなかった人物から驚きの声が聞こえた。
声の方を見やると、ドワーフは少し肩を落としがっかりとしていた。

「専用スキルかと思っておったわ……」

どうやら、スキルの詳細に書いてある“共通”という文字を見逃していたのだろう。

トラッパーというクラスの性質上、移動に関するスキルがいくつか存在している。
このクラスのスキルを見るに、敵をかく乱したり、敵の背後に回り込んだりする必要性があるからだ。
ただし、トラッパーには致命的な弱点もある。
3クラスの中で最も防御力が低いというデメリット。
リョーの選択した布製の防具は、何も好きで選んだわけではなく、アレしか選べなかったのだ。
動きが素早く、近距離から中距離で戦うと考えると非常に頼りないソレは、どう見ても防御力があるわけがない。
打たれ弱いというと、あるアニメのキャラクターの名台詞を言う輩もいるが、無茶言うなと言いたくなる。
そして、ハイジャンプを使えるもう片方のクラスであるウォーリア。
その戦闘方法を考えると、戦闘中に使用する移動系のスキルが無くては、何も出来ずに倒される事が多発するだろうし、囲まれた場合の脱出用としては優秀だろう。
それに、ハイジャンプはそこまで連続使用出来るタイプのスキルではないみたいだし、これくらい無くては不利というものだ。
それに対して、モヒカンは共通スキルなことに気付いていたらしく、特に驚いてもいなかった。

「ウォーリアだけかと思っておった。こりゃうっかりじゃな」

がっかりとした表情を一新、がっはっはと笑いながらうっかりうっかり。と笑っていた。

「しかしこうしてスキル一覧を見てみると、スキル一つとっても使い方が色々ありそうだな」

ふと、モヒカンが言った。
スキルの一覧を見ていたらしい彼は、何か面白い事を考え付いたのか、口元がニヤついていた。

「使い方……?」

エルフが尋ねる。
スキルと言えば、すでに決定された効果が決められていて、発動するとその効果が発揮される。
そういった物でしか無い。

「ああ、例えば攻撃スキルの『アースクエイク』。高くジャンプして、その勢いを利用して地面に武器を打ち付け周囲の敵をスタンさせるスキルがある」
「ふんふん、それでそれでー?」

モヒカンのスキルの説明にツリ目が相槌を返す。

「つまり……っと、ここなら実践できそうだな。ちょっと見ててくれ」

周囲には少し木々が少なくなっており、空が見えていた。
彼は、他のメンバーから離れ、背中にさしてあるツーハンドソードを抜く。
金属と金属が擦れる音をさせながら、ツーハンドソードはその刀身を完全に出現させる。
真っ直ぐな長く、幅の広い両刃の刀身。
それは、空から降り注ぐ光りを反射し、輝いている。

「失敗しても笑うなよ……『ハイジャンプ』!」

浅黒い長身が空に舞い上がる。
そして一気に加速されたそれは、すぐに飛べる最大の高さへと到達し、一瞬だけ停止する。
その瞬間――

「『アースクエイク』!」

――両手で持たれた剣を、下から頭上へと振り上げ、その勢いを利用して更に高く上る。
アースクエイクでのジャンプは、ハイジャンプのそれよりは短い物の、二つが組み合わさると、相当な高さになっていた。
モヒカンが空中で剣を順手から逆手に持ち直す。
それが合図になったかのように、その巨体が地面に向かって急速に下降を始めた。
下降を始めると共に、ゆっくりと加速をはじめる。
ゆっくりと、ゆっくりと、加速がどんどんと加わっていく。
――地面へ衝突する。
そう思われた瞬間、振り下ろすかのように地面に剣を渾身の力を込め、突き刺した。
まるで隕石でも降ってきたのか。とでも言うかのような轟音と共に、地面に無数の亀裂が入り、衝突地点は大きく陥没していた。

「すんげぇ……」

リョーはあまりのインパクト、派手さに驚愕していた。
それと同時に、モヒカンがニヤついていた意味がよくわかった。
スキルとスキルの組み合わせ。
実際に使ってみなければわからないが、もしかしたらスキルの効果を大幅に底上げする事が出来るかもしれない。
例えば、トラッパーのスキルである『ガストラップ』。
範囲内に敵が侵入すると発動し、範囲内の敵に鈍足と眩暈の効果を与える。
そしてもう一つ、『バーントラップ』。
ガストラップと発動条件は同じで、効果が違う。
範囲内の相手を火傷状態にし、一定時間ダメージを与え続ける。
仮に、ガストラップが引火するタイプの物であれば、この二つを組み合わせて同時に発動させれば――。

「み、みんな!あれ!」

リョーの思考を遮るように、叫び声が耳に入った。
この声はエルフだ。
他のメンバーも、各自スキルの組み合わせを考えるのに夢中になっていたらしく、驚いた表情でエルフを見ていた。

「な、なんじゃ?驚きすぎて寿命が縮まったぞい」
「それ以上縮んだら天国に行っちまうぞ、じーさん」

ドワーフの問いに、モヒカンが口を挟む。
それに対して、ドワーフは「違いない」と大口を開けて笑っている。

「あれです!あそこ!」

二人の漫才を軽く流し、エルフはどこかを指差している。

「オレには何も見えないぞ?何があるってんだ」

モヒカンは目を凝らし、指で指し示している方向に目をやるが、何も見えていないらしい。
モヒカンにつられて、他のメンバーもエルフが指す方向を見やった。

「あれは――」
「……まずそうだな。物凄い敵の数だ」

リョーの目には、はっきりとうつっていた。
全身緑色で、腰に控えめな布地を巻きつけた、醜い生物。
犬の顔にも似てなくもないが、犬にはもう少し愛嬌があるように思う。
あれは――コボルトか?
いや、敵が何であるかは関係ない。
問題は数だ。見えるだけでも、2匹や3匹じゃない。10や20は居る。

「助けに行こーよ!一人じゃムリっしょ!」

ツリ目が叫ぶ。
それと同時に、走り出していた。
ツリ目につられるように、全員走り出す。

なんであんなに大量の敵が居るんだ。
ここは最初のステージじゃないのか?
ぐちゃっとした考えの中、黒髪の援護をするべく、全力で森を駆ける。

「おい!こっちだ!えぇっと……名前聞いてねえ!」

モヒカンが黒髪に向けて叫び、名前を知らない事に気がついたらしく、ガーッと吼えていた。
そういえば、確かに自己紹介すらしていなかった。

「アイツ助けたら、俺自己紹介するんだ!」
「それ死亡フラグですよー!」

リョーのボケにエルフがツッコミを入れる。

「バカ言ってないで、もっと早くはしりなさーい!」

ツリ目もツッコミを入れる。
黒髪とコボルトがホークアイ無しでも見えるまでに近くなっている。

「モヒカン!一発かましくれ!さっきのヤツで!」

頭を切り替え、モヒカンがつい先ほど見せてくれたスキルのコンビネーションを頼む。

「任せろ!そっちも何か頼むぞ!」

スタンが解け、それを合図に一斉にモヒカンに敵が群がる恐れがある。
いや、それよりも前に黒髪の援護をするべきだ。
ということは、ガストラップで動きを緩慢にしてやれば良い。
そして、ガストラップを使う為に、一気に敵との距離を縮める必要がある。
なら――。

「ああ、良いのがある!アーチャー二人は、何か範囲攻撃があったらすぐに頼む!黒髪は俺がなんとかする!」
「はい!アローレインがあります!」
「ダブルで行くよー!」

リョーからの指示でアーチャー二人は停止し、上空に向かって弓の弦を引き絞り始めた。
アローレインということは、大体は上空から無数の矢が振ってくるタイプというのがセオリーだ。
だが、このゲームには、味方への攻撃判定があるのかわからないが、あったらまずい。
止めるべきだろうか。リョーは軽く自身の指示に後悔しかけたが、止めるべきではないとすぐに判断した。
どちらかと言えば、黒髪がアローレインの範囲外に出られるようにサポートすればいいし、トラッパーであれば不可能じゃない。
まずは、距離を縮め、ガストラップをヤツらの群れに放り込む。その次に黒髪と一緒にアローレインの範囲外に逃げる。
そしてモヒカンが追撃のアースクエイク。
ここで一番問題になりそうなガストラップのスキルの説明文には――
『範囲内の敵に鈍足、眩暈の効果』
――とある。“敵”と明言しているからには、黒髪は無事なはずだ。その後に続くモヒカンも言わずもがな。

そして、最大まで力を貯えた弦が、指から離れる。
軽く、乾いた音をさせながら一本の矢が空中へと駆け上る。
そして、遥か上空で、一本の矢は停止する。
緩やかに下降をはじめ、そして矢は分裂を始める。
一本が二本に、二本が四本に。
矢はありえない分裂を繰り返し、遥か彼方の地上に向けて、その巨大な口を開こうとしている。
リョー達と黒髪の距離は、遠いとは言えない。
しかし、すぐさま参戦出来るほどの距離でもない。
このままの速度では、10秒やそこらはかかる。

『ブースト』

全力で走って10秒かかる距離を、一気に駆け抜けられる可能性のあるスキル。
瞬間的に移動速度を爆発的に速める。その代わりに、効果時間はとてつもなく短い。
脳裏でスキルを発動させ、前傾姿勢をとる。
足に力が漲るのがはっきりと分かる。
一気に、渾身の力で地面を蹴る。
自分でも驚くほどに、リョーの身体は加速した。
そのまま黒髪に向かって、地面を一蹴り。二蹴り。
三蹴りした所でダッシュの効果が切れた。
予想以上にスキルの効果時間が短い。
しかし、もう黒髪とコボルトの集団はリョーのスキルの範囲内にいる。

「黒髪!後ろに向かって走れ!」

リョーが叫ぶ。
黒髪は、わずかに声の方向を見やり、リョーの姿を確認した。
黒髪に向かってきたコボルトの棍棒を長剣でいなし、盾でコボルトの横っ面を殴りつけた。
盾でのバッシュにより、スタンしたコボルトは、後ろから黒髪目掛けて走りよってきていたコボルトにぶつかる。
その反動で今度は違う方向によろけ、他のコボルトにもぶつかり、コボルト達の最前線はもみくちゃになった。
僅かながら、コボルトの攻撃が止んだ。その隙を見逃さず、黒髪はリョーの方向へと走り出した。

「くらえっ!」

既に手の中に用意していたガストラップ用のアイテムを、コボルトの塊目掛けて投げつけた。
黒い液体の入った瓶であるそれは、コボルトへと当たり、砕ける。
中身の液体が空気中へと露出した瞬間、スキルは設置条件を満たし、その場所へと設置される。
そして、スキルの発動条件である『範囲内への敵の進入』も当然満たし、その効果を発動させた。

「ぐげっ!?」

コボルト達の一部を包み隠すように、瓶が砕けた場所を中心に黒い霧が噴出した。
ヤツらから戸惑いの声らしきモノが漏れている。


「ぐげ!ぐげげげ!」

ガストラップの効果は無事に発動しているようで、コボルト達の戸惑いの声は、苦しみの声へと変わった。
となれば、鈍足と眩暈の効果が発動しているはず。


そして――空から、ほんの少し前まで黒髪の居た場所に、矢の海が降ってきた。
二人分のアローレインが重なり合っているからか、矢が降ってきたというよりは、壁が落ちてきたようにすら見えた。
遥か上空から落下し、コボルトの皮膚を易々と貫くだけの力をそなえたそれは、その密度をもって確実に致命的なダメージを与えた。
次いで、上空から太陽を覆い隠すように、眼前の生物を絶命たらしめる鉄の塊が落ちてくる。

轟音。

リョー達の連携攻撃は、彼の脳裏で行われていたシミュレーション通り、綺麗に決まった。
知らない内に、握りこぶしを握り締めていた。
思わず歓声をあげそうにすらなっていた。
良いゲームに出会えたかもしれない。
リョーは気持ちの良い満足感に浸りながら、自分たちのほうに親指を立て、白い歯を輝かせる仲間を見つめていた。
脳裏にシステム音声が流れ、ゲームの終了を告げた。




いつの間にか瞑っていた目を、リョーは見開いた。
目の前には、見覚えのある石造りの部屋が広がっている。


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