エネルギー情勢が予断を許さない。最近の原油価格の高騰は中東の混迷に加え、中国など新興国のエネルギー需要の伸びが背景にある。脱石油と温暖化ガスの削減に向け、原子力発電への注目が増している。
国の原子力委員会は原子力利用の基本である政策大綱の見直しを始めた。原発を安全、着実に稼働させ、低炭素社会とエネルギー確保にどう道筋をつけるか。また輸出産業として成長にどう役立てるか。年内につくる新大綱で戦略を示すべきだ。
電源交付金の見直しを
まず国内では温暖化ガスを減らすため、原発の着実な新増設と、今ある約50基の平均で60%台に低迷する稼働率の向上が欠かせない。
政府が昨年決めたエネルギー基本計画は、2030年までに温暖化ガスを1990年比で30%減らす目標を掲げ、その柱として14基以上の原発の新増設を打ち出した。だが中国電力の上関原発(山口県)などで反対が続き、道のりは険しい。
地元の理解と協力を得るため、立地自治体への補助金である電源立地交付金を根本から見直すときだ。
この制度は30年以上前にできて以来、立地当初の補助金を厚くしている。だが地元には、運転開始後に電力会社などが得る利益が地元に十分還元されていないとの不満が強い。例えば、原発の運転で減らした温暖化ガスを排出権としてお金に換算し、地域の振興に役立てるなど、新たな仕組みを考えられないか。
稼働率を高めるには安全規制の見直しも避けられない。米韓の原発が90%台の稼働率を維持しているのは、原子炉を止めずに機器を交互に点検するなど、運転管理や検査技術の工夫を重ねてきたからだ。
だが日本では電力会社や規制当局が、米韓では当たり前の技術や検査手法の導入に腰が重く、小さなトラブルでもその都度運転を止め、稼働率が低くなっている。安全第一は当然だが、経済性にも目配りし、合理的な規制に改める必要がある。
原発から出る使用済み燃料を別の場所で保管する「中間貯蔵施設」や、放射能の強い廃棄物の最終処分場選びも、政治主導で早く立地場所を決めるべきだ。使用済み燃料などの行き場がないことが地元の不安の種になり、このままでは原発の新増設にも影響が及びかねない。
資源の多くを輸入する日本にとりエネルギーの安定確保は重要な課題だ。新興国の急成長でエネルギー争奪戦が激しくなるなか、ウラン資源を国内で再利用する核燃料サイクルの確立を急がなければならない。
電力業界が青森県六ケ所村に建てた再処理工場はトラブルが続き、運転開始が12年秋に延びた。稼働しても原発の使用済み燃料の8割しか処理できず、政府と電力業界は第2再処理工場を検討している。
再処理は今後40年で11兆円の費用が見込まれ、電力料金の一部として国民が負担している。第2工場の建設でさらに負担が増すとの懸念が産業界や消費者団体の一部にある。コストをきちんと示して議論し、国民の理解を得ることが前提だ。
海外では中国などで原発建設が相次ぎ、30年までにアジアを中心に300基近くが計画されている。海外の成長市場をどう取り込むか、官民の役割分担が必要になる。
政府はベトナムと原子力協定を結び、トルコやインドとも協議を始めた。ベトナムなどでは電力インフラの整備に向け原発への期待が強く、日本政府は運転管理や安全規制に携わる人材育成などで積極的に協力すべきだ。輸出を後押しするだけでなく、安全の確保にも寄与する。
自然エネと一体開発で
一方、核拡散防止条約(NPT)に加盟せずに核兵器を持つインドへの輸出には慎重論もある。民生技術が軍事に転用されぬように明確な歯止めを作るのは原子力委の責務だ。
研究開発の体制も見直すときだ。これまで次世代の高速増殖炉などは文部科学省の研究機関が、商用原発の安全確保などは経済産業省が担ってきた。だが縦割りの弊害で予算配分が硬直的になり、新たな技術開発に挑む資金が乏しい。組織を再編して予算を効率的に使い、新技術や人材育成に投資する発想がほしい。
太陽光や風力など自然エネルギーの研究とも連携を強めたい。フランスが09年に原子力庁を「原子力・代替エネルギー庁」に衣替えし、欧米では原子力と自然エネルギーを一体で開発する動きが広がっている。
原発は発電だけでなく、車や家庭で省エネが見込める燃料電池向けの水素を安く造れる可能性があり、自然エネルギーと共通の課題が多い。「原子力か自然エネルギーか」は二者択一の問題ではない。
原子力政策は政府の一部省庁や電力業界の限られた関係者が決めてきた。閉鎖的な体質から抜け出し、低炭素とエネルギー確保、成長を見渡した大局的な戦略が要る。
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