§2、経済システムと経済外的システム

ウォーラスティンの世界システム論はマルクスの唯物史観をベースとしている。すなわち、社会の経済的構造が土台となって、その上に法的・政治的上部構造がそびえたつという、マルクスの有名なテーゼを自明なものとして受け継いでいる。
 
つまり、彼にとっての世界システムとは経済的な国際分業の体制をいい、政治的・文化的・社会的な世界システムの存在は眼中にない。具体的には彼はアフリカの発展途上国の経済が、モノカルチャー(単一栽培)に象徴されるように、原料または食料の供給地として先進国に従属していることを問題にしている。

しかし現実的には、経済的な世界システムが順調に作動するためには、経済外的な諸条件が必要である。
まず政治的な条件としては、貿易を促進する強力な政府が存在しなければならない。とりわけウォーラスティンは近代世界システムが誕生したのは、近代初期(ほぼ16世紀前後)の大航海時代であると指摘しているが、この近代初期という時代は西欧各国が、絶対主義とよばれる中央集権体制を構築し、さらに海上貿易を保護し促進する重商主義政策を展開して、新大陸の金銀を争奪した時代であった。

その勝敗を決めたのは最終的には海軍力であった。具体的には、最初はスペイン海軍が大西洋貿易を独占していたが、後にオランダがこの貿易に参入し、次にはイギリス・フランスが覇権を争った。
ナポレオン戦争中にイギリス海軍がトラファルガーの海戦で、ナポレオンのフランス海軍を破って大西洋の制海権を握り、以後100年間イギリスの覇権のもとに平和が続き経済が発展した。

このように経済的世界システムの発展は国家間の力関係に左右される。この大航海時代に生まれた国際政治の世界システムを主権国家体制という。つまり経済的・政治的ふたつの世界システムは、同じ大航海時代に西欧諸国間で生まれたのである。

すなわち各国政府が輸出を促進し、輸入を抑制する関税政策をとって、その差額である貿易黒字が金銀として自国に流入することを追求したが、その結果海軍国イギリスが最終的勝利を獲得した。

このように経済力だけでは主権国家間の競争には勝てない。しかしまた軍事力だけでも勝利は得られない。経済力・軍事力などのハードパワーに加えて、議会政治の発達や国民意識の高まりなどの、ソフトパワーも決定的な重要性を持っている。

たとえば18世紀の時点で、イギリスでは議会が予算審議権を握っており、政府による浪費を許さない政治システムが確立していたのに対して、同時代のフランスでは議会さえ開かれず、国王の専制政治の元で財政赤字が深刻化して、増税に活路を求めたことがフランス革命の発端となった。

§1、世界史と各国史の関係について

世界地図1 

現在の日本の学校教育では、社会科は中学校では地理・歴史・公民に三分されいずれも必修であるが、高校では地歴と公民に二分され、前者がさらに地理・世界史・日本史に三分され、後者は現代社会・倫理・政治経済に三分されている。これらの諸分野のうち近年は世界史だけが必修になった。

ところが、意外なことに世界史が苦手な高校生が急増している。というのが現場で教えてきた自分の実感である。

なぜだろうか?
私の考えでは、世界史を各国史の総和と誤解しているからであろう。もしそうだとすれば、現在の世界には国連加盟国だけでも192カ国もあるので、コンピュータ並みの記憶力がないとこの科目はマスターできないことになる。

これに対して日本史を選択すれば、日本という一国の歴史で済むので多くの生徒が日本史を選ぶことになる。これが実情である。

そこで、世界史と日本史との関係に関する誤解を解いておく必要がある。つまり、世界史と日本史を同じ次元で二者択一するのは論理的には錯誤であって、本当は世界史と各国史を対比して選択させるべきである。この場合、各国史は日本史でなくてもよい。

ただし教えている高校の先生の立場からすると、先生自身が大学で研究してきた国の歴史以外の国については、生徒の要望があったとしても教えるのは無理であろう。たとえばインドネシアの歴史について、学校の授業で各国史のひとつとして教える力を、すべての教諭に求めることはできないであろう。従って、現実には世界史と日本史との二者択一が求められ、圧倒的多くの生徒が日本史を選択している。国際人を養成するために世界史を必修とした文部科学省の意図は、皮肉な結果に終わっている。日本史しか知らない生徒が学校を出てから、国際人として活躍できるだろうか?

世界史と各国史に二分した上で、世界史は各国史の算術的総和でなく、ひとつのシステムとしての世界の歴史であることを理解する必要がある。この考え方を最初に提唱した人物がアメリカのウォーラスティンである。その際システムという言葉はパーツが一定の秩序で相互依存して、一体として作動しているオブジェクトを言う。システムという語義には深入りしないが、世界史においてシステムという場合は、各国が貿易や投資を通じて相互依存にある世界全体のことである。


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