第二次世界大戦末期の１９４５年、アメリカ西海岸のサンフランシスコで連合国の国際会議が開かれ、５０カ国が国連憲章に署名した。国連は第一次世界大戦後に創設された国際連盟が、戦争の再発を防止することができず第二次世界大戦を迎えてしまったという苦い経験から、侵略国に対する武力制裁の権限を持つ集団安全保障機構として創設された。しかし国連は常備軍を持たないため侵略国に対する軍事制裁は、現実には第二次大戦で勝利した連合国の主力となった、アメリカを中心とする強国が国連決議に基づいて派兵するのが実態である、
このことを示す好例が朝鮮戦争（１９５０〜１９５３年）である。朝鮮半島は第二次世界大戦の終結直後に、北緯３８度線を境に米ソによって南北に分割された。１９１０年に日本に併合された朝鮮については、１９４３年のカイロ会談で対日処理方針の一環として、朝鮮は日本から独立させるという、漠然とした米ソ間の合意しかなかったため、当初国連の信託統治領とするなどの案が出されたが、いずれも朝鮮国民によって拒否された。その結果ソ連軍占領下の北朝鮮では、対日戦の英雄として満州を拠点に日本軍と戦ってきた朝鮮労働党指導者である共産主義者・金日成が、ソ連軍とともに帰国して朝鮮民主主義人民共和国（略称北朝鮮）を建国した。一方南朝鮮では戦争中アメリカに亡命していた、親米派の李承晩が米軍とともに帰国して大韓民国（韓国）を建国した。
１９４９年に毛沢東の率いる中国共産党の人民解放軍が、蒋介石の中華民国政府との国共内戦においてまず満州を占領したため、満州にいた朝鮮人はソ連製もしくは日本製の武器で武装しており、かつソ連軍の援助も受けることができるという見通しのもと、金日成は南北朝鮮の統一のための戦争を始めたいとソ連のスターリンに提案した。これに対してスターリンはまず１９４９年に中華人民共和国を建国した毛沢東を１９５０年２月にモスクワに招いて、中ソ友好同盟相互援助条約という軍事同盟を結び、次に金日成に対してソ連は参戦しないがそれでも勝てる自信はあるのかと質問し、金日成がありますと応えるとようやく金日成の提案を受け入れた。つまり慎重なスターリンとしてはソ連がアメリカと直接戦うことは避けたかったのである。
こうしたことを背景に１９５０年６月に北朝鮮軍１０万人が一斉に北緯３８度線を越えて、韓国に侵攻した。これが朝鮮戦争の始まりである。これに対して北朝鮮政府は今日に至るまで一貫して、戦争は韓国の攻撃で始まったと主張している。しかし当時米軍は日本の占領統治にほぼ全力を投入しており、韓国には数百人規模の軍事顧問団しかおらず、また韓国自身も弱体な兵力しか持たなかったため、北朝鮮軍の侵攻とともに総崩れとなって敗走し、朝鮮半島の東南海岸の釜山周辺まで追い詰められた。そこでアメリカは国連安全保障理事会の開催を主張したが、当時はソ連が中国代表権問題をめぐって国連安保理で孤立して、ソ連代表を国連から引き揚げていたため五大国一致による国連軍の派遣はできなかったので、アメリカの提唱により緊急国連総会を招集し、そこで「平和のための結集決議」を採択させて、マッカーサー将軍の率いる在日米軍を国連軍として朝鮮半島に送ることになった。
マッカーサーの率いる国連軍は韓国の仁川に上陸して北朝鮮軍の背後をつき、釜山を包囲していた北朝鮮軍を敗走させた。その後国連軍が北緯３８度線を越えて北朝鮮と中国の国境まで進軍すると、毛沢東の中国は義勇軍と称して３０万人の人民解放軍を北朝鮮に派遣して国連軍と称する米軍を撃退した。その後北緯３８度線を挟んで米中の激戦が続いたが、膠着状態となったため、１９５３年米中両国は板門店会談で休戦協定を結び戦争は終わったが、当事者である韓国と北朝鮮は未だに講和条約を結んでいないため、国際法上は依然としていつ戦闘が再開されてもおかしくない状態にある。つい最近も北緯３８度線の近くで北朝鮮と韓国の砲撃戦があった。
このような国連軍が出動する戦争は他にもあった。例えば１９９０年フセイン大統領のイラクが突如クェートに侵攻して併合を宣言し、これに対して国連安保理はイラクを侵略者と認定し、この決議に基づいてアメリカを中心とする多国籍軍が翌年イラクを攻撃してクェートの独立を回復した。しかし米軍は国連決議に基づいてその時点で撤兵し、イラクの首都バグダードまで進軍してフセイン政権を打倒することはしなかった。
他方、国連決議のないまま米軍が侵攻した典型的な例としてはベトナム戦争（１９６５〜７３）がある。その背景としては１９世紀末の帝国主義時代にフランスがベトナム・カンボジア・ラオス（インドシナ三国）をフランス領インドシナ（別名インドシナ連邦）とし、その総督府をベトナム北部のハノイに置いたことがある。ところが日中戦争中にフランス本国政府（ヴィシー政府）が対ドイツ抵抗から対ドイツ協力に転換し、かつ日本がドイツイタリアとともに三国同盟を結んだため、重慶に首都をおいて日本軍に抵抗する蒋介石の中華民国政府に米英が物資を送って援助していた媛蒋ルートを遮断するため、日本軍がフランス領インドシナに進駐したことに対して、フランス軍は本国政府の指令に基づいて抵抗しなかったのに対して、インドシナ共産党（後にベトナム労働党と改称）の指導者ホーチミンがゲリラ戦で日本軍に抵抗し、１９４５年に日本がポツダム宣言を受諾してベトナムから撤兵すると、ベトナム民主共和国の独立を宣言し、これに対してフランス本国がベトナム独立を認めず出兵してきたことから始まる、第一次インドシナ戦争がある。
この戦争では毛沢東の中国がホーチミンのベトナムを援助し、フランスは南ベトナムのサイゴンに首都を置くベトナム最後の王朝の皇帝だったバオダイを擁立して、ホーチミンのベトナム民主共和国に対抗し戦ったが、１９５４年ベトナムと中国の国境地帯にあるディェンビェンフーのフランス基地が、ホーチミンの創設したベトナム独立同盟の攻撃を受けて陥落したため、この間国連の調停が開かれていたジュネーブ会議で、フランスはついにインドシナ独立を承認したジュネーブ協定に調印した。ただし、ジュネーブ協定ではベトナムについては北緯１７度線を境界に、その以北のベトナム民主共和国（通称北ベトナム）と以南のサイゴンに首都を置くバオダイのベトナム共和国（通称南ベトナム）に二分し、フランス軍撤兵後２年以内にベトナム人による選挙を実施し、南北ベトナムを統一することになっていた。
しかしレジスタンスの英雄であるホーチミンに対して、バオダイに勝算がないと判断したアメリカの援助で、ゴーディンディェムがバオダイを追放して大統領に就任し、アメリカの援助で北ベトナムと戦って軍事独裁政権を樹立した。
これに対してホーチミンの北ベトナムの援助で南ベトナム国内に、南ベトナム民族解放戦線と称する武装勢力が結成され、南ベトナムでは政府軍と反政府ゲリラの内戦が続いた。
この間フランスに代わって南ベトナム政府を援助していたアメリカは、１９６４年のトンキン湾事件（北ベトナムの首都ハノイ沖合の公海上でアメリカの軍艦が北ベトナムから魚雷攻撃を受けたとアメリカ国防総省が発表し、当時のアメリカ大統領ジョンソンは北ベトナム空爆と南ベトナムに対する戦闘部隊の派遣を決定したが、数年後トンキン湾事件と称するものはなかったとジャーナリズムによって暴露された。）を切っ掛けに北ベトナムに対する北爆と南ベトナムに対するアメリカ地上軍の派遣を決定した。
しかしその後もアメリカは北ベトナムに対する空爆と南ベトナム駐留軍の増強を進め、その規模は最大時５０万人に達した。なぜアメリカがこれほど共産主義者ホーチミンの北ベトナムを激しく攻撃したかと言えば、北ベトナムから南ベトナムの反政府ゲリラ勢力に対して、ホーチミンルートと呼ばれる道路を通って武器や兵員が送られていたため、アメリカが何もしなければ南ベトナム政府すら倒れ北ベトナムに併合されることが避けられないと考えていたからである。
もうひとつの背景は朝鮮戦争勃発の頃から、アメリカ国内でマッカーシー議員を中心に、アメリカ国内に共産主義者が多数潜伏しているという宣伝が行われ、アメリカ議会内に非米活動委員会が設立されて、ソ連のスパイと見られた有名人が次々に証人喚問を要求され、アメリカ国内が共産主義に対する被害妄想に支配されていたという事である。アメリカのこのパニックのような状況を「アカ狩り、別名マッカーシー旋風またはマッカーシーイズム」と呼ぶ。
一方ソ連ではレーニンの没後３０年間独裁政治を続けた共産党書記長スターリンが１９５３年に没し、一旦は三頭政治が始まったが最終的にはその一人であったフルシチョフが共産党書記長に就任し、１９５６年モスクワで開かれたソ連共産党２０会大会で、世界の共産党代表者を前にして衝撃的な報告を行った。それによると誤りを犯すことのない指導者と崇拝されていたスターリンが、事実は数々の重大な誤りを犯していたという事であり、特に１９４７年にアメリカの発表したマーシャルプランによる経済援助を拒否するため、東ヨーロッパ各国の共産党とともに、第二次大戦中に解散されたコミンテルンに代わる国際組織として、コミンフォルム（共産党情報局）を創設したことが各国の戦後復興を阻害する結果になったことなどである。
このフルシチョフによるスターリン批判は世界各国の共産党に大きな衝撃を与えた。特にハンガリーでは首都ブダペストにおいて、共産党政権を打倒しようという大規模な反ソ暴動が発生し、かつてスターリンを批判して失脚していたナジ・イムレが政権に復帰し、民衆の支持を背景にソ連を中心とする軍事同盟であるワルシャワ条約機構から脱退すると宣言した。これに対してフルシチョフのソ連は、国境を越えてブダペストに戦車部隊を送りナジ首相を逮捕連行した。その後ナジ首相は西側のスパイの容疑で処刑された。これをハンガリー事件あるいはハンガリー動乱という。
この時アメリカ大統領アイゼンハワーは同年にNATOの同盟国イギリス・フランスが、アメリカの承認を求めることなく密かにイスラエルと謀ってスエズ運河地帯に出兵して、ナセル大統領を倒そうとしたスエズ戦争が国際世論の非難を浴びていたため、ソ連のハンガリーへの侵攻を強く非難することができなかった。なお、フルシチョフのソ連は、翌１９５７年人類最初の人工衛星の打ち上げに成功してアメリカに衝撃を与えた。（人工衛星の名前をとってスプートニク・ショックと呼ぶ）
これに対してアメリカは翌１９５８年NASA（アメリカ航空宇宙局）を設立して人工衛星を打ち上げたが失敗し、その後ケネディ大統領が人類を月面に着陸させるというアポロ計画を打ち出した。この計画はケネディが暗殺された後、１９６９年実を結んだ。アームストロングを船長とするアポロ１１号が月面に着陸し、月の石を持ち帰ってソ連に巻き返した。ちなみにこの月の石は翌１９７０年に大阪で開かれた万国博覧会に展示された。個人的なことで恐縮だが、著者自身も当時高校生だったが家族とともに万博会場に行って、黒山の人だかりをなんとか進んで月の石を見たことがある。
一方毛沢東の中国共産党はスターリンに対する個人崇拝を擁護し、フルシチョフを修正主義者として非難した。こうして始まった中国共産党とソ連共産党の論争を中ソ論争と呼ぶ。この中ソ論争は１９６２年のキューバミサイル危機に際して公然化し、毛沢東の中国はソ連を最大の敵と呼ぶようになった。キューバミサイル危機またはキューバ危機とは、１９５９年にアメリカの裏庭であるカリブ海のキューバで、カストロを中心とするゲリラがキューバの新米独裁政権であるバチスタ政権を打倒したキューバ革命の後、アメリカが対抗措置としてキューバ産の砂糖を輸入しないという経済制裁を実施したため、カストロがソ連に接近し砂糖をソ連が輸入するとともに、アメリカの攻撃に備えてキューバ国内にミサイル基地を建設しつつあったことが発覚し、これを知ったアメリカのケネディ政権が激論の結果キューバのミサイル基地建設を阻止するため、キューバを海上封鎖したことである。
これに対したフルシチョフは当初は核戦争も辞さないという強硬な態度をとったが、間もなくケネディ政権と話し合ってアメリカがキューバを攻撃しないと約束すれば、ソ連もミサイル基地の建設を中止するという妥協に終わって、核戦争は回避されたという事件のことである。
結果的にはこのキューバ危機によって米ソ両国は接近し、翌１９６３年当時核兵器を保有していた米英ソ３カ国の提唱により、地下以外での核実験を停止するという部分的核実験停止条約が世界のほとんどの国によって結ばれた。
ところが中国の毛沢東主席とフランスのドゴール大統領はこの部分的核実験停止条約を、米ソ両大国による核兵器の独占を意図するものと批判し条約への調印を拒否した。このようにソ連陣営からは毛沢東の中国が離脱し、またアメリカ陣営からはドゴール大統領のフランスが離脱して核兵器の開発を進め、その後も核兵器保有国は徐々に増えている。そこで米ソは１９６８年核の平和利用に対しては助言や協力を惜しまない代わりに、核兵器の開発は禁止するという趣旨の核拡散防止条約を提唱した。そして国際原子力委員会による査察を実施して密かに核兵器を開発する国が現れないようにした。
しかし現実には核の平和利用と軍事利用と言っても、その差異は微妙なもので原子炉さえ作ればそこから核兵器を作ることは、実験さえ重ねれば難しいことではない。例えば北朝鮮が核兵器を開発するに当たってはパキスタンがウラン燃料の提供や製造のノウハウなどを北朝鮮に教えたと考えられている。そこで２１世紀初頭の現在に時点で核兵器を保有する国が何カ国あるのかについては、国際原子力委員会といえども把握していない。
国連安保理五大国がすべて核保有国であることは間違いないが、そのほかにインドとパキスタン、および南アフリカとイスラエルが核兵器をすでに開発していると考えられている。
（ただし南アフリカはすでに核兵器を放棄しているし、イスラエルは核保有の有無についてノーコメントの態度を意図的に守っている。）２０１０年アメリカのオバマ大統領が核兵器を廃絶すると宣言してノーベル平和賞を受賞したが、国際紛争が存在する限り敵国からの攻撃を事前に抑止する手段としての核兵器を開発する国は増えてゆくであろう。従って結果的には核兵器の存在が大規模な戦争を防止する機能を果たしているという皮肉な事態が現実である。
問題は例え国際原子力委員会が万全な査察を実施して核兵器の拡散を防いだとしても、NGO（非政府組織）が核兵器を入手することを防ぐことはできない。さらに原爆・水爆ではない通常兵器も非常に大きな破壊力を持っていることは、２００１年９月１１日のいわゆる同時多発テロによって明らかとなった。民間航空機をハイジャックして敵国の中枢部を破壊することは、全く米ソの想定外の事態であってこれを軍事的に防ぐことはできない。あり得るとすれば国際刑事警察機構を通じてテロリストの存在を把握し、未然に逮捕することであるが、これもテロリストの属する国の協力なくしては実行できない。
