きょういく特報部
2011年2月28日
教育にかかる費用を少しでも節約したい。そんな思いから、学校ぐるみでお下がりの制服や体操着を譲り合う取り組みが広がっている。中学生は急激に体が大きくなるが、制服は上衣だけで1着4万円近い。不要になった人と必要な人を結びつける試みが支持され、教育委員会が取り組む市も出てきた。(山下知子)
「助かった」
昨春、埼玉県から福岡市内に引っ越してきたパート女性(45)は胸をなで下ろした。
中学3年の長男(15)の制服のこと。入学時に少し大きめのものを買ったが、1年間で10センチ以上身長が伸び、2年生秋になった頃には入らなくなった。「もう無理」と言われて買い替えたが、半年後にまさかの転勤。買わずに済ませようか。でも、詰め襟の学ランの中でひとり、前の学校のブレザーを着せるのはかわいそうかな……。
学校に相談したところ、PTAで不要になった制服を集めていると知った。探してもらうとぴったりの上下があった。「買えば3万円。必要とはいえ1年間ではもったいない。こういう取り組みがあってよかった」と話す。
転校がなくても中学生の成長は著しく、制服が着られなくなることも多い。文部科学省の2010年度学校保健統計調査(速報)によると、男子の場合、入学時に平均152.4センチだった身長は卒業時は168.2センチに。女子も151.9センチから157.1センチに伸びる。体重も男子で約15キロ、女子で約8キロ増える。
福岡市内にはPTAが中心となって制服を融通し合う中学校が多くある。
早良区の市立早良中では、合唱コンクールや入学説明会に合わせてPTAが「お譲り会」を開く。学校を通じてプリントを配り、小さくなった制服を持ってきてもらう。ジャージーや体操着、コートも対象だ。PTAの北原真由美さん(49)は「簡単に買えない家もある。負担を減らそうということで、お譲り会は支持されている」と話す。
福岡県古賀市では07年度から、市教委が制服を集めている。学校教育課長だった長谷川清孝さん(55)が、就学援助を受ける家庭の「負担が大きすぎる」という声を聞いて始めた。市全体でやれば告知もしやすく、何年も前の卒業生からも集められる。「せっかくなら」と近隣高校の制服も集め、在庫は男女で計50着以上。ほかの自治体からの問い合わせも多いという。
お下がりの制服を、子どもたちはどう受け止めているのか。
「新品の制服って、『ザ・1年生』じゃん。かえってダサくね?」と福岡市西区の男子中学3年生は話す。
1年生の1年間で10センチ以上身長が伸び、中学2年の4月には親類からもらったお下がりの学生服に変えた。誰か気が付くかな。でも誰にも何も言われなかった。
福岡県古賀市の中学3年の男子生徒は、「新品もいいけど、俺はくだけている感じがいい」。中2の秋に新品に買い替えた時、「絶対にからかわれる」と思い、登校途中に砂で汚し、廊下でスライディングしてさっそくズボンを破いた。母親には「すっげー叱られた」という。「お下がりを着ている同級生もいると思うけど、そんなよく分からんし、それでいじめるとかはあまりない」と話す。
■校内にリサイクル箱
文科省の子どもの学習費調査(08年度)によると、公立中学校で制服にかかるお金は平均で2万547円。1年生に限れば、4万8637円にのぼる。
横浜市青葉区の市立すすき野中の1年生の場合、標準服(制服)などが5万〜7万円、ジャージーや上履き代が1万5千円、補助教材費が1万5千円かかる。ほかにも色々な出費があり、しめて13万円は必要だ。また、これとは別に部活動の費用もある。
同校は校舎2階の渡り廊下に「制服リサイクルBOX」を置いている。集まった制服はPTAがクリーニングに出し、学校で保管する。転入生がいた場合、サイズが合えば手渡している。
学校事務職員の植松直人さん(59)は「経済的に困窮する家庭は増えている。例えば体操着の名前刺繍(ししゅう)をやめるなど、少しでも保護者負担を減らす方法はある。『学校にかかるお金』という視点で実態を見る必要がある」と話す。
同省の「教育安心社会の実現に関する懇談会」は09年、小中学生の学用品代や給食費などの援助強化を含む負担軽減策をまとめた。ただ、実施にいたったものは少ない。同省は「今後も検討を続ける」としている。(山下知子)