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2011年02月28日

なぜ私たちは理想のリーダーに巡り合えないのか?

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ここ数年、毎年変わっている日本の首相。長期にわたって国政を任せられるリーダーがなぜ日本には生まれないのか

 日本は「急激な変化を嫌う国」と言われます。確実に変わりつつあるとは思いますが、そのスピードは驚くほど遅いです。

 一方、「変化スピードが速い」と言われる米国でも、リンカーン大統領の奴隷解放宣言が1862年、初の黒人大統領実現が2009年ですから、その間は147年かかっています。

 そのオバマ大統領の誕生を見ていて思ったのは、「次世代リーダーを育てる仕組みの重要さ」です。米国にとっても黒人の大統領を生み出すのは簡単なことではありません。でもそれが実現したのは、長期間かけてさまざまな仕組みを社会に埋め込み、最終的な結果に結実させるための“母体”を我慢強く養ってきたからです。

 まず彼らは建前としての人種平等思想を、教育現場や社会の前線で常に高く掲げて徹底してきました。「スローガンだけで何が変わる?」と言う人もいますが、「あるべき姿」をみんなが声高に叫び、学校で繰り返し教え、社会の前線で常に確認する。これだけでも世の中の変化スピードは格段に早くなるものです。

 例えば、日本の大企業には女性役員がほとんどいないと言われます。しかし、もし日本が教育の場で「日本企業の取締役には●%しか女性がいない。これはなぜか、どうやったら改善できるか?」と問い続け、会社の毎年節目の会議で、経営者が毎回「我が社の女性管理職比率は●%しかない。各部門で女性の管理職比率を高められるよう今年も頑張ってほしい」と繰り返し言えば、変化のスピードは今とは比べられないくらい早くなるはずです。「あるべき論を口に出して唱え続けること」には、それなりに力があるのです。

 さらに、米国ではアファーマティブアクション※を含め、さまざまな政策によってマイノリティの教育レベルや社会的地位を引き上げる努力をしてきました。そうやって、一定レベルの教育を受けた黒人を一定数生み出したのです。

※アファーマティブアクション……歴史的にマイノリティーが進出しにくかった領域で、入学者数や雇用者数に受け入れ枠や目標値を定めて、マイノリティーの就学や雇用の機会を保証すること。

 ここで重要なことは、“リーダーとなる可能性を持った人の母集団”を一定規模で形成させるということです。黒人大統領はいきなり出現するのではありません。リーダーとはピンポイントで育てるものではなく、「リーダーを生み出す土壌」と「その土壌に一定数の種をまいて育てること」から生まれてくるのです。

 また話を戻すと、日本企業には「女性取締役がいない」と言って、外部の有名な女性を「社外取締役」に任命するところがあります。こういう企業の多くは、そもそも女性取締役を育む基礎母集団を作ることに十分な努力をしていません。

 男性だって新入社員のうち取締役になるのはごく一部の人です。女性役員を生み出すには、相当数の女性部長が、さらにその手前で相当数の女性課長が必要です。しかし、実際には一定数の女性課長さえ生み出せない企業も多いのが現実です。

 だから安直な道を選び、社外から採用した女性取締役に「女性の活用担当役員」などという珍妙な肩書きを与える滑稽な企業が出てきます。しかし、種から花を育てずに、「切り花を買ってきて、花瓶に飾れば良いのだ」と思っている家に花は育ちません。必要なことは「花が咲く土壌を整えること」なのです。

●なぜ私たちは理想のリーダーに巡り合えないのか?

 同じ視点で日本の政治リーダーを見てみましょう。小泉純一郎元首相を含め、自民党政権の後半ではずっと世襲総理が続きました。このことは、自民党が世襲以外の総理大臣育成方法を持ち得ていなかった、という本質的な問題を示しています。

 新たに政権をとった民主党はどうでしょう? 鳩山由紀夫前首相は世襲でしたが、現首相の菅直人氏は学生運動や市民運動をしていた経歴の持ち主です。辻元清美氏など、ほかにも社会・市民運動出身の大臣経験者がいるし、労組のリーダーを務めた人も多く入閣しています。これは、過去において市民団体や労働組合などがリーダーを育てる土壌の1つとして機能していたことを示しています。

 また、大臣など要職を務めるメンバーの中には松下政経塾の出身者も増えており、民間の経営者がイニシアチブを発揮して設立した団体が、国のリーダー育成のための土壌して機能していることも見受けられます。この点では現政権は“世襲以外ではリーダーを育てられなかった自民党”より、余程マシに思えます。

 しかし、多くの選択肢の中からベストなリーダーを選ぶためには、さらに大きな「リーダー候補の基礎母集団を形成する仕組み」が必要です。そうしないといつも“決まった顔”の中から次のリーダーを選ぶことになってしまいます。

 例えば、お金も地盤もないグループから新しいリーダーが出現してほしいと望むなら、ネットによる選挙活動の解禁や、ネットを使ってクレジットカードで小口の寄付ができる仕組みが不可欠です。若者のリーダーを求めるなら、携帯電話やコンビニATMでの投票ができるようにすることも重要でしょう。一票の格差問題も早急な解決が必要です。

 私たちは「今度の総理もだめだった」と1年ごとにトップの首をすげ替えています。しかし、そもそもまともなリーダー候補が存在しないのであれば、いくら首をすげかえても満足のいくリーダーに巡り会うことはできません。また、リーダーを養成する仕組みも作らずにただ待ち続けていても、“救世主”がいきなり登場することはないでしょう。

 遠回りに見えても、まずは国のリーダーを育てる仕組みから作り始め、それによって多数のリーダー候補が養成され、その中から国民の支持を得た人が国のリーダーの地位に昇っていくという仕組みを、たとえこれからでも作っていくべきではないでしょうか。

 そんじゃーね。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2009年6月22日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。



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