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2011年2月28日(月)付

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ミサイル移転―なし崩しではいけない

日米が共同開発した最新の武器を、米国以外の第三国に初めて売るための準備が両国間で進んでいる。北朝鮮の弾道ミサイル発射をきっかけに、日米が1999年から共同研究・開発を重[記事全文]

外国人看護師―「人の開国」に向け改革を

インドネシアとの経済連携協定(EPA)によって3年前に来日した約90人の看護師候補について、政府は、その滞在期限を来年夏まで1年延長する方針を打ち出した。先日あった今年[記事全文]

ミサイル移転―なし崩しではいけない

 日米が共同開発した最新の武器を、米国以外の第三国に初めて売るための準備が両国間で進んでいる。

 北朝鮮の弾道ミサイル発射をきっかけに、日米が1999年から共同研究・開発を重ねてきた弾道ミサイル防衛(BMD)用の能力向上型の迎撃ミサイルである。

 弾頭部の保護部品やロケットモーターなど四つの構成品を日本が担当、2014年の完成をめざしている。

 北沢俊美防衛相は、1月の日米防衛相会談で、第三国への移転方針の中身について「年内に結論を出す」と表明した。武器輸出三原則を掲げ、ほぼ全面禁輸の方針をとってきた日本にとって、大きな転換点といえよう。

 なぜこんな流れになったのか。政府の説明は十分ではない。わかりやすく率直に国民に語り、議論を起こさなければならない。

 日米の研究開発は当初、北朝鮮の弾道ミサイル開発に備えることを目的にしていた。ところが09年9月、オバマ政権がイランの弾道ミサイルに対処するため、この迎撃ミサイルを欧州配備すると決めたことが転機になった。

 日米両国は06年の交換公文で「日本の事前同意のない目的外利用や第三国移転を禁止する」としていたが、今回それを「同意すれば移転できる」と読み替えるというわけである。

 関係省庁が近くどのような条件で、どのような国々に移転を認めるかなどの基準作りに着手する。厳格な手続きを求めたい。

 考慮すべき論点は多い。移転先をどんな尺度で絞り込むのか。日本の主体性をどう確保するのか。BMDは「防御兵器」とされるが、ミサイル技術は攻撃兵器に転用される危険があることにも十分な留意が必要だ。

 またBMD欧州配備をめぐっては、米ロの見解の違いが際だちつつある。今回の動きが米ロの核軍縮に響くようなことになれば、日本の国益も国際公益も損なわれる。こうした視点を日本政府は踏まえているだろうか。

 過去に経験のない作業だが、よりどころになるのは、やはり武器輸出三原則しかない。ところが冷戦時代にできた三原則には、今のような国際情勢の変化や軍事技術の進歩は織り込まれていない。

 菅直人政権は昨年末、「防衛計画の大綱」策定に向けて三原則の緩和を検討した。ところが社民党との連携を優先させて結論を先送りしたため、議論は中断した形で終わってしまった。

 武器の初の第三国移転にどのような姿勢で臨むのか。武器輸出三原則のなし崩し的な転換を避けるためにも、三原則をめぐる議論を再開し、問題点を突きつめるべきである。日本外交が今後進むべき方向を熟慮しつつ、視野の広い検討を重ねなければならない。

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外国人看護師―「人の開国」に向け改革を

 インドネシアとの経済連携協定(EPA)によって3年前に来日した約90人の看護師候補について、政府は、その滞在期限を来年夏まで1年延長する方針を打ち出した。

 先日あった今年の国家試験の合格発表は3月末だ。協定は、3年以内に日本の看護師の国家試験に合格しなければ帰国するよう求めている。落ちていればこの夏までに帰国になる。

 国家試験には、床ずれを意味する「褥瘡(じょくそう)」といった漢字も使われる。外国人にとっては大変な難関だ。多くが帰国すればインドネシア国内から反発の声が上がりかねない。滞在期限の延長は当然だ。

 フィリピンからの受け入れも2年前に始まり、あわせて約450人の看護師候補が来日した。昨年の合格者は3人だけ。挑戦が続けられるよう全員の滞在期限を延長すべきだろう。

 そもそも問題は、EPAの目標を海外からの人材導入ではなく、日本のケア技術習得の研修にしていることだ。

 これでは国境の障壁は下がらない。一人ひとりの技術や日本語能力、意欲を評価する道も閉ざされている。

 彼らは母国の看護師資格を持つ。実務経験もあり、日本の看護現場で働くことを夢見てやってきた。しかし入国前に十分な日本語研修はなく、来日後の研修を経て、看護助手として働きながら言葉や看護学を学ぶほかない。

 病院側の負担も重く、受け入れる人数が急減している。制度は機能不全に陥りつつある。政府は、難しい漢字にルビを振ったり、病名に英語名を併記したりするなどの試験改革をしたが、その効果には限界があろう。

 制度を再生させるためには、日本の看護師不足を解消する一助にするという目的を加えた上で、根本から仕組みの見直しを行うべきだ。

 看護師の労働実態は厳しい。日本看護協会によると、病院で働き始めた新人看護職の9%が1年以内に職場を去っていく。夜勤が多く、過労が医療事故につながらないか心配だ。

 厚生労働省や看護業界は海外からの人材導入の必要性を認めていない。しかし2025年には最大20万人の看護職が不足するとの研究報告もある。

 年10万人もの離職者を減らし、資格を持ちながら仕事につかない60万人前後の再就業支援を急ぐのはもちろんだ。それと同時に、海外から人材を受け入れる道をつける必要がある。

 欧米諸国ではすでに、高度人材である看護師の獲得競争が起きている。今後、高齢化が進むアジアでも同じような競争が激化するだろう。その時になって手を打っても遅すぎる。

 菅直人首相は「平成の開国」をうたっている。看護や介護といったケア人材についても、開国に向けた改革へと踏み出すべきだ。

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