■新訳男女 語り合おう■
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「産む」とはどういうことなのか
不妊治療を受けていた野田聖子衆院議員(50)が6日、東京都内の病院で男児を出産した。事務所によると、昨年12月、早産の恐れがあるとして入院。予定日より約1カ月早く、帝王切開だったが、母子ともに健康状態は良好という。男児は2154グラム。野田さんは薬の副作用により肝機能の数値が悪化、胎内の子に影響が及ぶと医師が判断し、出産を早めたとしている。野田さんは昨年、米国で第三者の卵子提供を受け、事実婚の関係にある男性の精子との受精卵を移植したことを明らかにしていた。 (7日朝刊の記事を再掲載=要旨)
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●治療15年「うらやましい」 「お金と気力 普通は無理」 「高齢出産助長する恐れ」
第三者の卵子提供、50歳という高年齢など、野田聖子さんの出産は「産む」とはどういうことなのか、あらためて問うているようです。「新訳男女」取材班に寄せられた意見や、取材した方々の思いを2回にわたって紹介します。初回は「50歳での出産」をテーマに、不妊治療を経験した女性の声に耳を傾けました。
15年間の治療経験がある女性(53)は「彼女は封印していた私の願いに、火を付けてくれた」という。
注射は約400本、体外受精も16回行い、費用は数百万円に上った。子宮外妊娠も含めて手術は3回、妊娠は7回。だが「一人も戻ってきてくれなかった」。野田さんがうらやましくてたまらない。子どもがほしいという思いは消えていなかったのだ。「産みたい。わが子を抱きたい。年齢がいくつであろうが、どんな妊娠の方法を採ろうが、そんなことはどうでもいい。赤ちゃんが欲しい」
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会社経営の女性(49)は「応援はしているけれど複雑な心境」と打ち明ける。閉経するような年齢で意志を貫き通した野田さんの執念には脱帽する。これほどの強い思いは、親からの期待や伝統的な家族観というより「何が何でも子どもを、という野田さんの個人的な意志だろう」と思う。
しかし、野田さんの出産が自分のような立場の人に希望を与えるかというと、むしろ逆ではないか。
40歳から45歳まで不妊治療を続けた。会社が軌道に乗るまではとても結婚、出産はできず「気が付いたら40歳になっていた」。ホルモン注射を打ちに行くだけで1回4千―5千円。1本打つだけで2時間も待たされ、それでもうまくいかず神経がすり減り、45歳を過ぎたら「自分の卵子では難しい」「育児も大変」と言われ、諦めた。
「不妊治療は時間とお金と気力があって初めてできる」と実感する。「50歳で出産する子宮を整えるには多額の費用もかかっただろう。普通の会社員や主婦では無理。野田さんの経験は一般化できない。むしろ、年をとって産むのはこんなに大変、若いうちに産んだ方がいいというメッセージになったのでは」。自分の経験からもそう伝えたい。
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「50歳での出産は下の世代に与える影響が大きすぎる」と懸念する女性(47)もいる。「危険性がきちんと知られていない。50歳でも産めるというニュースは30代後半なんてまだまだ序の口と、高齢出産を助長してしまうのではないか」
自らも不妊治療をして悩んでいた。そのころ、不妊治療の実態を報道した新聞記事があり、それを読んだ義母が「不妊治療の大変さを初めて知った。もうやめなさい」と言ってくれた。肩の荷が下りたという。
=2011/01/13付 西日本新聞朝刊=