わがまちの味自慢〜ザルツのパン〜
この町にひっこしてきたころは、駅前に店らしい店は、なかった。
だから、昭和55年ごろに洋菓子のタカラブネが開店した日には。記念品目当てに100mもお客が並んだ。
町が出来て初めての珍事だった。
翌年、線路を挟んで向かい側に、洋菓子のコトブキができた。このときも、列が出来た。
3回目の「行列」は、ザルツの山食パンだった。
初めてのベーカリー(自家製)。味よし、香りよしで、大変な評判。日に3回の窯出しごとに、行列が出来た。
熱意の足りない私は、のぞくたびに「売り切れです」と言われて、開店から3年以上たたないと、食べられなかった。
なるほど、評判通りのおいしさ。
焼きたてを、ぬくぬくのまま食べると、香りがなんともいえず。トーストすると、外はぱりっと、中はもっちり。
やがて、娘が高校生になるとザルツにアルバイトに行き出した。
気さくなおやじさんと奥さんにかわいがられて、10年ぐらい続けた。家族だと思う人もあった。
「開店のころは、本当に大変だったらしいよ。一日中お客が並ぶのがむしろ、拷問だったみたい。」
私は、ずっと気になっていたことを、尋ねた。
「あんまり柔らかいから、特殊な薬品をつかっているという噂だけど、本当?」
「いいや、何もいれてないよ。小麦と水とイースト菌だけだよ。それを、親父さんと奥さんが仲良く、冗談言いながら、いい加減にこねてる。どこに、おいしさの秘密があるのか、見てても全然わからない」
おやじさんは中学を出てすぐ、九州から出てきて、20もの職業を転々としたそうだ。洋菓子屋もやったけど、結局パン屋で成功した。
おやじさんの悩みは「お金はいくらでも入ってくるけど、使う時間がない」ということだった。
娘が二十歳になった誕生日、5年間もアルバイトを続けたから、ブランド物のバッグをプレゼントしてあげようと言われた。
ありがたい申し出だったが、そもそもブランド物に関心のない娘は、ぷんぷん怒って帰ってきた。
「”どれでも、好きなものを買ってやる”と、親父さんが言うので、お店の人から”まあ、交際しているのかしら、この娘、このおやじと?”という目で見られた。
あんな、恥ずかしかったことないわ。
ママ、これ、あげる」
結局、5万円のグッチのバッグは、私が持つ唯一のブランドものとなった。
雨が降ると、お店を閉める。
今日は、しんどいなというと、お店をしめる。
熱意のないことおびただしい。
気まぐれに閉めた翌日は、怒りの電話がかかってきたそうだ。
「昨日閉まってたでしょう?今日は、開いているの?開けてくれないと、あなたとこのパンが、食べられないじゃないの!」
娘の仕事は、そういう抗議に丁重に謝ることだった。
今日も、シャッターに小さな張り紙で「本日休みます」と書いてあった。
それでも、つぶれないで続いているのだから、文句なしに、うちの町の名物である。
安くて、喜ばれる・・・ちょっとお世話になった人に肩の凝らないお礼の品として重宝している。
|
こうなったらホンモノの商いです。
恐るべし!
傑作・くり
2010/6/18(金) 午後 2:26 [ 敬天愛人 ]
うんうん、おいしいパン、気軽にお土産にできますね。
ニューヨークに行ったときのお土産に、日本のパン屋さんのパンを買うことがあります。
タイヤキや大判焼きも喜ばれます。甘党仲間向けですけど^^。
2010/6/18(金) 午後 2:29 [ NICK ]
食パンとクロワッサンが美味しいお店は、腕の良いお店だと聞きます。
トーストにコーヒー……良いな♪食べたい〜!!
ヾ(≧∇≦*)〃
2010/6/18(金) 午後 8:06 [ キジトラM ]
かぐやひめ様
「パン」を食べる習慣がほとんど無い私ですが、こちら福岡でも「オーガニック」や「こだわりの小麦粉」などの看板を掲げた店を見かけます。
欲のない営業、押しつけの無い接客が、成功の秘訣何でしょうか?
2010/6/19(土) 午前 8:07 [ 中西 ]
本当においしいの!それも、山食パンだけ。
いい加減にこねているようだけど、感覚がわかってやっているんだって。
そして、ノウハウは息子にも伝えられないらしい。
おやじさんの元気なうちしか食べられない神秘のグルメ。
2010/6/19(土) 午前 9:21 [ かぐやひめ ]