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「松本山雅の挑戦」

2011年2月23日

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写真:松本山雅の熱心なサポーターたち(昨年の試合から)拡大松本山雅の熱心なサポーターたち(昨年の試合から)

 長野県はサッカーが盛んな土地ではなかった。長野県出身で、過去、地元でサッカーをしていた筆者は「サッカー不毛の地」を痛感してきた一人だ。

 しかし、今、長野県は変化の時を迎えている。JFLに2チームが所属しているのだ。Jリーグ準加盟チームで松本市を本拠にする松本山雅(やまが)と、今季昇格した長野市の長野パルセイロ。地方でサッカーの全国リーグに参加しているチームが2つもある県はそうはない。特にJリーグ入りに挑戦している松本山雅に対する地域の盛り上がりには驚いている。

 松本山雅の吉沢英生監督は「山雅は今のカテゴリーにいるようなチームではない。熱狂的なサポーターがいて、スタジアムもある。ここまで兼ね備えるチームはJ2でも多くはない」と話した。

 専用の練習場やクラブハウスはないが、松本市には約2万人収容のスタジアムがある。しかも球技専用だ。これまで、J1、J2多くのスタジアムを見てきたが、恵まれた部類に入る。過去、取材に出かけた欧州や南米のスタジアムと比べても、コンパクトできれいなスタジアムと言っていい。

 集客力も優秀だ。JFL1年目の昨季、1試合平均で5080人を集め、リーグ新記録を作った。昨季のJ2で言うと、12番目に位置する数字だ。1試合平均が3千人台だった水戸や岐阜など、J2では観客動員に苦しんでいるチームがたくさんある。松本市は、地方都市で娯楽が少ないなど、集客の要因はいくつかあるにしても、ここまで集まるようになったのはクラブとサポーターの両方に努力があったからだと思う。今季掲げている1試合平均7千人という数字も大げさではない。

 筆者は高校時代、松本山雅の前身、山雅クラブと練習試合をしたことがある。今は高校時代の仲間や先輩たちが運営に携わっている。山雅とは長い縁だが、昔はJリーグ入りなんて考えられないことだった。

 今から7年前もそうだった。2004年。松本山雅は北信越リーグ2部で苦戦し、県リーグに落ちそうになった。当時、ゴール裏にいたサポーターは6、7人程度だったと記憶している。それから10年もたたないのに、観客数は約千倍になった計算になる。

 クラブ側は観客を増やすため、中学生以下は入場料を無料にしたり、小学生に招待券を配布したり、と策を講じてきたのは確かだ。ただ、これが有効な手段だったわけではない。松本山雅の八木誠副社長は「サポーターが『自発的』に来てくれるようになった」という。サポーターたちがお互いに声をかけて足を運び、その輪が広がっていったのだろう。

 松本山雅の観客の特徴は、家族連れが多く、おじいちゃんやおばちゃんまでも熱心に応援していることだ。サポーターの声援は熱いけど、スタジアムは、温かい雰囲気で居心地の良さを感じさせる。それが、また足を運ぼうと思わせる一因になっているのかもしれない。

 忘れてならないのが長野パルセイロという存在だ。広い長野県はそれぞれの地域性が強く、松本市と長野市はライバル関係と言われてきた。長野というライバルがいたからこそ、サポーターたちの心の中に火がついたのではないか。地域リーグ時代から両者の戦いは「信州ダービー」と言われ、注目されてきた。スポーツの世界は、ライバルがいるからこそ成長するのだ。

 今季は運営予算が3億円を超え、J2昇格に向け、勝負に出ている。J1の横浜F・マリノスを戦力外になった元日本代表のDF松田直樹を2年契約で獲得。FWにはJリーグ経験者3人を加え、中盤にも川崎フロンターレなどでプレーした渡辺匠ら3人が入った。

 特に松田の加入は大きい。昨季、7位に終わったチームに欠けていたのは、ピッチ内で引っ張り、鼓舞する選手。名古屋グランパスはDF闘莉王の加入で、ピッチの雰囲気が変わったと言われている。加藤善之ゼネラルマネジャー(GM)が「ピッチ内のリーダーになって欲しい」と話しているように、松田の加入は、精神面で与える影響が大きいと思う。

 練習場の整備の課題はあるにせよ、J2入りに向け、スタジアムや観客数などの条件はクリアしている。残るは成績だ。

 松本山雅に求められているのは、華麗なサッカーではない。昇格という目的を果たすために勝ち続けることだ。昨季の名古屋は、圧倒的な強さはなかったが、接戦をものにするしぶとさがあった。松本山雅も泥臭く、しぶとく勝って白星を積み重ねれば、J2昇格条件の4位以内は自然と見えてくるだろう。

 加藤GMはクラブの将来についてこう言った。「ここは、サポーター自身がスタジアムの雰囲気を作り上げ、自分たちで楽しんでいる。選手が主人公であるけれど、サポーターやボランティアの人たちも主人公になっている。サッカー文化が根付くには時間がかかるが、クラブと街が一緒に成長できる、可能性のあるところだと思う」。松本山雅が歩む道の先に、大きな夢が広がっている。(上嶋紀雄)

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