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[26014] 【習作】 竜皇騎士伝(オリジナル 異世界強制召喚 ご都合主義 テンプレ設定
Name: かみうみ十夜◆2310bdc6 ID:068b894d
Date: 2011/02/14 15:05
初めましての皆さん、初めまして。
お馴染みの皆さん、また懲りずにやって参りました。

タイトルに入っているものが最低限の注意事項だと判断したものです。ここでもっと細かく注意事項を入れるべきなのでしょうが、しばらく入れません。

しばらくしたらオリジナル板に移ります。

前作の2次同様、『誰得? 作者得』仕様で進めてまいります。


では、今回も宜しくお願い致します――  2011/02/14 かみうみ 十夜



[26014] 第1話 唐突感。プロローグは意味不明に
Name: かみうみ十夜◆2310bdc6 ID:068b894d
Date: 2011/02/20 23:30

「ちょ、何だよこれ!!」

 彼の背後から叫び声が聞こえた。

 丁度教室を出ようとして、出入り口の引き戸に手を掛けていたところだったが、思わず振り返ってしまった。

「……は?」

 彼の眼にも、それは映った。

 教室の中心部に何時の間にか現れていた幾何学模様と意味の解らない文字らしきもの。

 それが急速に拡大していく様が。

「え? 待てよちょっと!?」

 思わず叫ぶが、教室の中でそれに気付いているものは極僅かしか居ないようだった。更に、模様に触れたクラスメイトがその構成を解かれ、末端部から『分解』され虚空に解け出していった。見えている、いないに関係なく。

「洒落になんねぇだろ……!!」

 即座に逃げようと引き戸に向き直ったが、拡大速度が上がったのか取り込まれしまった。

「何なんだ――」

 指先や裾などの末端から体や衣服が解かれ、最後には頭が分解された。


 とある学年の一クラス、計45人が、白昼にも拘らず『神隠し』に遭った。




 濃密な緑の匂い。

 周囲は夜露に濡れ、芳しく放香する夜咲きの草花に囲まれていた。

「……ここ、は……?」

 背を大樹の幹に預ける形で座り込んでいた彼が、眼を覚ました。

「ふむ、人間共が『英雄召喚』を行った余波か。少年よ、運が無かったな」

 彼の前には一人の女性。長くウェーブした漆黒の髪を持ち、深い蒼の瞳で、羅紗の衣服から豊満な体躯と透けるほど白い肌が覗いている。

「どうする? ここで朽ちるか? 選ばせてやろう」

 言われ、彼は自分の首から下を見る。思考が回らないが、何故か腹部から出血していた。

「上空に召喚されたようだったからな。落下した時に何かが貫いたのだろう」

 女性は淡々と教える。

 彼の前に膝を折ってしゃがみ、その白磁の手を傷に当てる。

「幾つかの内臓を巻き込んでいるようだ。目覚めたのは行幸だったな」

 その手が他人の血に穢れる事など全く意に介せず、暗にそのまま死んでいたかもしれないと言っている。

「さて、どうするか決まったか? 私ならば対価と引き換えにお前を救えるぞ?」

「……対価は……何……?」

「ほほう、言葉が通じるな。なるほど、お前の持つ玉(ぎょく)の一つは『意思疎通』か。

 ああ、対価だったな。何、少々人間ではなくなってもらうだけだ」

 ただでさえ上手く回らない彼の思考は瞬間的に停止した。

「そして、役目に就いてもらう。それだけだ。生命の対価としては安いものだろう?」

「……解った……。願う」

「……素早い決断だな。面白くない」

 此処が何処で、何故こんな目にあっているのか。全てが解らない状況で命の選択を迫られる。こんな極限状況で一体他にどんな選択肢が在ると言うのか。彼に言わせればそう言う事だ。それに、彼は人間と言う存在にもう固執する必要は無いと考えていた。

「ならば契約だ、盟約だ、そして、誓約だ。

 『我、暗黒を統べる竜が皇。此処に我が騎士の誕生を祝福す。彼の者は我が永遠の従者と成り、共に散る定めとなる』」

 彼女の虹彩が金色に変わり、瞳孔が縦に割ける。竜眼の発露だ。

「『竜騎士転生』」

 自らの牙で唇を切り、滴る鮮血と共に口付ける。

 竜血は彼の口腔に溜まり、自然と嚥下される。

「あ、言い忘れた。今から激痛があるが、自我を壊されないようにな。私の血は強烈なはずだ」

 その言葉の通りに、彼の内側から今までの彼を全て打ち壊すような激しい痛みが発生した。

「――――!!」

 言葉に成らない。

 全身を暴れさせようとするが筋肉の全てが痛みで萎縮し、身動きが取れない。

 痛みを紛らわす動きの一切が出来ない。

 何かが組み変わる凄まじい不快感と、自意識を押し流そうとする激しい痛み。長時間晒されたのならばどんなに強固な意志を持った人間でも間違い無く廃人となってしまうだろう。

「まぁ、お前なら耐えられるだろう。この状況下で即決できるような思考をしているんだ。精神力にも問題なかろう。

 期待しているぞ、我が騎士殿」


 期待している。


 その言葉一つで、彼は何が何でもこの痛みを乗り越える決意をする。

 彼女はそのまま彼を抱きかかえる。

 皮膚の感覚はこの痛みの中でも彼女の温かさを感じていた。





[26014] 第2話 状況把握は不十分。それでも事態は進展す
Name: かみうみ十夜◆2310bdc6 ID:068b894d
Date: 2011/02/14 20:03


 すぅ。と、眼を開く。

「ん、目覚めたか。

 どうだ? きちんと自我を残しているか?」

 彼が横を向くと、そこには美しい黒髪の、美貌の女性が一人。凛々しい雰囲気を滲ませて佇んでいた。

「貴女は……。

 ああ、俺は俺のままみたいだ」

「上々だ。私の竜血を受け切ったな。見事だ」

 そうして、彼女は彼の頭を撫でる。

「さて、色々と説明しなければならないんだが……。まずは名前を教えてもらおう」

「確か……華月(かづき)」

「カヅキ……。どんな意味を持つかは知らんが、響きだけでも大層な感じが在るな」

「まったくだ。何を考えてこんな合わない名前を付けたんだか」

 彼、華月は自分の容姿が盛大に名前負けしていると知っている。弛んだ眦に締りの無い造りの顔だ。とてもではないが字面のようなものにはなれない。

「ほぅ、何やら自分自身と釣り合わんと思っているのか」

「ああ。まぁ、それはいい。それで、貴女の名は?」

 言われて、自分も名乗っていないことを思い出したのか、彼女はぽん。と、手を打った。

「私の名はアルヴェルラ。ヴェルラと呼んでくれ」

「解った。

 それで、俺に何をさせたいんだ? 役目が在ると言っていただろ」

「お、覚えていたか。ならば話が早いな。

 カヅキには私だけの騎士に成ってもらう。まぁ、もう下準備は済んだからな。後はそれらしい格好と技術を身に付けてもらうだけだが」

「女皇陛下。いつまで説明に時間を掛けていらっしゃるのですか」

 そこまで話した所で、二人の間に割ってはいった声があった。

「む、何用だテレジア」

 そこにはヴェルラには及ばないものの美女と言って差し支えの無い女性が居た。

「何用だ、ではありません。昨日から公務も放り出して……いい加減陛下の印が必要なものが溜まってきているのですよ」

「七面倒な。そういうものは任せると言っただろう。私はこれからカヅキに色々教えねば――」

「それこそ我らにお任せください。新米竜騎士の教育は、陛下のお手を煩わせるまでも在りません」

 そこまではっきりと言われ、自分の旗色の悪さを悟ったヴェルラは、降参したようだ。

「解った。ならばカヅキに状況の説明と、その後の教育について、しっかり教えてやってくれ」

「任されました。このテレジア=アンバーライド、名に賭けまして」

「では、残りの事はテレジアから聞いてくれ。またな、カヅキ」

 ヴェルラは華月の返事も待たずに出て行った。何だかんだと言っていたが、自分をテレジアが呼びにきたと言う事の重大さをきちんと解っているのだろう。

 残された華月はテレジアを見、どう声を掛けたものか迷った。

「初めまして。私はテレジア=アンバーライドと申します。先ほどの会話を聞き逃していなければお分かりかとは思いますが」

「いえ、初めまして。瀬木 華月(せぎ かづき)です」

「成る程、本当に『意思疎通』の玉を持っているのですね。何とも都合の良い話ですが。

 と、今の貴方には理解出来ませんね。その辺りも追々説明いたしますが、まずは今の状況を説明いたします」

 はきはきとした口調で言葉を連ねるテレジアに、華月は少し戸惑った。が、ついていけないほどではない。

「貴方は此処ではない世界から、この世界に強制召喚されました」

「……え?」

「理解できないのは、何処でしょうか」

 テレジアの眼が鋭くなる。華月を探っている。試している。

「ここが違う世界だっていうのは、現実みたいだから納得できないけど理解はする。強制召喚ってどういうことだ?」

「強制召喚とは、対象の意志を無視した状態での召喚を指します。大抵の召喚はこれに属します。今回、貴方に作用したのは広範囲型英雄召喚だと推測されます。資質を持つ者を一斉召喚し、召喚後にそこから絞り込む為の召喚魔法ですが。

 貴方は魔法効果範囲の端に居たのでしょう。途中で振り落とされたようです。貴方と同様に途中で落とされた人間も居るかもしれませんが、アルヴェルラ女皇陛下の治めるこのドラグ・ダルク国に現れたのは貴方一人でした。

 ここまでで何か?」

 テレジアの視線は鋭くなるばかりだ。以前の彼なら萎縮し、質問など出来なかっただろうが、ここは前の世界ではない。もう萎縮する必要は無い。

「と、言うことは、俺の他にも何処かに大量に召喚された人間が居るはずって事か?」

「その通りです。何の為にその召喚が行われたのかは、推測ですが魔王討伐の為に勇者を異世界から呼び寄せるためだと思われます」

「魔王に、勇者か」

 華月は少し頭痛がした。と、同時に自分がその選別に掛けられなくて良かったとも思った。勇者なんて冗談じゃない。冷静に考えれば責任は重いわ面倒くさいわ、苦労した挙句に死ぬか、何の得も無いまま元の世界に戻される可能性だって高い。そんなものにされなくて済んだのだ。華月には滅身奉仕の精神など、もう在りはしないし、「勇者? マジ俺凄くね!?」等と言う自己中思考も持ち合わせていなかった。

「何を考えているのか知りませんが、今の貴方はある意味勇者と同じほど面倒な立場に在ります」

「は?」

 まるで華月の思考を読んだかのようなテレジアの言葉に、思わず聞き返してしまった。

「一つ。今、貴方は女皇陛下と契約を交わし、竜騎士として此処に存在しています。その身体は最早、人ではなく竜になっています。最も、純竜種と違い、一度竜化したら戻れませんが。当然、元の世界には帰れなくなりました。その身にこの世界の理が上書きされましたので。

 話が逸れましたね。

 二つ、竜騎士とは主たる竜に仕える下僕です。主が死なない限り粉微塵になっても死ねず、逆に主が死ねば自身が健常だろうと死にます」

 華月が頭を抱えたくなったのは当然だろう。

 元の世界に未練は無い。だが、あのままならば確実に死んでいたし、仮に怪我もなくこの世界に来たところで訳が解らないまま殺されていた可能性が高い。女皇や魔法、魔王に勇者という単語と、明らかに文明レベルが彼の居た世界より低いと推測できるこの部屋の造り。結果として導き出されるのは完全にRPGのような夢とロマン溢れる幻想世界なのだろうという結論だ。

「その表情からすると割と理解が早いようですね。手間が省けて助かります。

 そして、此処からが重要です。

 三つ、貴方はドラグ・ダルクの女皇陛下が竜騎士です。これから体術、適正が在る武器の扱いは元より学術に適正が在れば魔法も覚えていただきます。それも人間レベルの温い物ではなく、半不死となったその身体の限界の無い訓練です」

「それって、始めは何回も死ぬような事になるって訳か」

「その通りです。本当に理解が早いですね。こちらとしては好都合ですが。ただ、貴方が早々に必要なものを身につければ済む話です」

 正直洒落にならない話だ。

「口頭での説明は以上です。以降の教育は基本的に私が行います。疑問が在れば気兼ねなく尋ねてくれて構いません」

「了解……。で、訓練ってもしかしなくても今からだよな」

「当然です。そこの服に着替え、向かいます」

 華月が寝ていたベッドの脇には、黒い布で作られた服があった。というか、既に着ている服が自分の物では無い事に今気づいた。が、深く気にすると色々終わる気がしたので華月はその事に触れるのを止めた。

「私は扉の外に居ます。一応言っておきますが――」

「逃げたりしないよ。朦朧としてたが『契約』を交わしたんだし、何より……」

「何です?」

「何でも無い」

 ヴェルラに、「期待している」と、言われたから。なんて、とても言えるわけが無かった。




[26014] 第3話 無謀と果敢。履き違えると惨事
Name: かみうみ十夜◆2310bdc6 ID:068b894d
Date: 2011/02/19 23:23


 華月は周囲の風景に呆然となった。

「なんだ、ここ……」

「これがドラグ・ダルクの全容です」

 目の前には高々と聳え、周囲をぐるっと囲んでいる山脈があり、そこに出来た広大な盆地に幾つも街のようなものが作られていた。山脈の山にも小さい穴が幾つも穿たれていて、何か在ると解る。

 街のようと表現したのは建物の間に道が無く、緑で埋められている為で、建物の間が狭いところが集落の単位なのだろう。幾つか広場らしき場所も見えるが、自然に開いていた場所をそのまま使っているのだろうと思われる。

「四方をヴェネスド山脈に囲まれ、大陸と繋がっているのはごく僅か、おまけに山脈の向こうは海です。つまりドラグ・ダルクは半島にある国となります。

 ドラグ・ダルクには基本的に闇黒竜種(ダークネス・ドラゴン)のみが住み、山にドワーフと、森の一角にエルフが少数居ます。若干、竜騎士を従える竜が居ますが、圧倒的少数ですし、貴方を含み竜騎士は人間では在りません。したがって人間は皆無です」

 そこで、テレジアは鋭い視線を華月に向ける。

「我ら竜種、それも特にダークネス・ドラゴンは人間を嫌悪しています。私も人間が嫌いです、個人的に。しかしながら竜騎士の皆さんはそれぞれが才覚を見初められて、高潔な精神を持ち此処に居ます。貴方がそうなるか否かは貴方次第です」

 そしてふいっと顔を逸らす。何と言っていいか浮かばなかった華月は黙っている他無かった。

「行きますよ。まずは貴方の基礎身体能力を確認します」

 大人しく後をついて行くと、皇宮の下部には訓練施設らしき場所があった。

 天然石で囲われ、地面が剥き出しになっている。そこの中央にテレジアが佇み、華月を見ている。

「出来るものなら私に一撃入れてみてください。もう始まっていますので」

 そう言われ、華月は自分の身体を意識する。何かが変わっているのだろうか? それとも身体能力自体は以前と同じなのだろうか。既に馴染んでいるのか変わっていないのか、感覚で解る事は無かった。

 軽く囲いに使われている天然石を殴ってみる。以前なら間違いなく痛みを感じるだろう力で。

 だが、痛みは無く、むしろ石が若干ずれた。

「……」

 無言で重心を落とし、軽く前傾姿勢を取る。

 両脚で思いっきり地面を蹴る。

 今まで感じた事の無い風を切る感覚。

 急激に迫るテレジア。

「でやっ!」

「……」

 華月の右ストレートはテレジアの半身だけズラす見事なスウェーで回避された。

「あれっ!?」

 むしろ引き残したテレジアの足に躓かされ、派手に真正面から地面にダイブする羽目になる。

「……擦り傷も無い?」

 地面を盛大に転がったはずなのに、体には傷一つついていなかった。

 そうなると、無様に転がされた事実が華月の頭に染み渡り、怒りを巻き起こす燃焼源となる。

 羞恥と不甲斐無さで握り締められた拳が、華月の怒りの度合いを窺わせる。

 ゆらりと立ち上がり、自然体を装う。

 そしてあくまで自然に、前のめりに倒れこむ。

「?」

 テレジアがその動きを怪訝に思ったときにはもう華月は行動に移っていた。

 右足で思い切り地面を蹴り、全力で走り出す。

 移動速度が人間の枠を超えていた。

 顔を上げてテレジアの位置を確認し、彼女の間合いの外で鋭く方向転換。以前では考えられない鋭い動きで背後を取る。

 左足を軸にし、右の回し蹴りを放つ。

「甘いですよ」

 それはテレジアの右手で掴まれていた。

 そのまま足を持ち上げられ、上空に放り投げられた。軽く十メートル程飛ばされ、落下する。下ではテレジアが迎撃する様子も無く立っているが、何もしないわけは無いだろう。

「このままだと、一回殺されるな……」

 確実な死の予感を感じるが、最早怖いとは思わなかった。感じなかった。

 想ったのは――。

「やられっぱなしってのは、面白くないな」

 姿勢を変え、足を地面に向け蹴りの形を取り、空気抵抗を出来るだけ減らせると思われる体勢を取る。

 空気抵抗を抑え、急加速しながら降下する。これを強襲降下(パワーダイヴ)と言うのだが、当然華月はそんな事は知らない。最も、生身でそんな事をすれば地面との接地時に足を大々的に損傷し、良くて再起不能、普通なら死亡となるだろう。

 急に加速した華月の動きにもテレジアは見事に対応した。

 自分の脚技の間合いに華月の足の裏が入った瞬間、自らの右足の裏を突き出し華月の重力加速度まで完全に相殺した。

「取りあえず、見事と言っておきましょう」

 一瞬の停滞時間でそう告げ、再び重力に引かれた華月を今度は左足で蹴り飛ばした。飛ばした先は周囲を囲う天然石の側面だ。普通の人間なら骨折その他で生きているかも解らない状態になる速度が出ている。

「……痛く、ない?」

「当然です。貴方の身体は最早竜種のそれと同等。先ほど説明したとおり、主の祝福を受けた竜血には激痛と引き換えに人間を竜化する効力が在るのです。体験したでしょう。それにより人間を殺すには十分な力程度では痛みなど感じません。

 さぁ、きなさい。まだ終わりませんよ。次からは、その竜化した身体でも軋む私の普通の力で反撃します」

 挑発する。徹底的に実地で学ばせる気だ。

「上等だ!」

 華月は無謀――いや、果敢に挑んで行った。





[26014] 第4話 フルボッコの後は
Name: かみうみ十夜◆2310bdc6 ID:068b894d
Date: 2011/02/26 14:47


 全身の打撲が収まり、骨折が治っていく。

「ふむ、この程度ですか。意気込みは十分でしたが、やはり実力が伴っていませんね」

「……悪かったな」

 結局反撃だけで散々にボコボコにされ、だらしなく地面にへたばっている。

 殴られ、蹴られ、投げられ、極められ、徐々にその力加減が強くなって、気がつけば無数の打撲と骨折を負っていた。竜化の影響か痛みなど無視できたが身体が動かなくなって降参したのだ。

「しかし、竜化は上手くいったようですね。あれだけやられても動いていましたし、傷の回復も随分速い。竜騎士としての基礎性能は十二分に在ります。その点は評価しましょう」

 言われても、華月はあまりうれしくなかった。褒められているのかどうか、微妙な言い回しだったからだ。

「しばらく休んでいなさい。開始からそれなりの時間が経過しています。そろそろ昼食です。私は陛下に報告と食事の準備をしてきます。私か、他の誰かが呼びに来るまでそうして大人しくしているといいでしょう」

 言うだけ言ってテレジアは階段を登っていく。

 それを見送った後、華月は身体を起こす。

「は、転がってられるか。あれだけやられ放題で悔しくないわけ……」

 少し軋む程度まで回復した身体を動かす。

 さっきのテレジアの動きは捉えられる範囲で観察していた。中には速すぎで掴みきれない動きもあったが、基本的な拳打、蹴打、身体の動かし方、そして――。

「こう、か……?」

 握った右手に意識を集中する。すると、右手から薄く陽炎が見えた。

「お……、上手くいったか?」

 時折テレジアが自分の手や足から陽炎を立ち上らせているのが見えた。それがどういうものなのか、理屈も何も解らなかったがテレジアの動きはこの現象が起きるとき一瞬のタメがあった。そこから意識の集中が重要なのだろうと当たりを付けた。

 何より、この状態で殴られ、蹴られると物凄く痛かったのだ。

「しかし、これ何だ?」

 試しにそのままの状態で天然石を最初と同じ力で殴ってみる。

 するとどうだ。天然石に皹が入った。さっきは動くだけだったにも拘らず、だ。

「破壊力? が上がったのか?」

 よくは解らないが、攻撃を強化できるのだろう。そう当たりをつけ、納得しておく。

 そのまま陽炎を出した状態を維持しながら、身体を動かす。

 中々にその状態を維持し続け、行動する事は困難で、身体を動かすことに意識を振ると途端に陽炎は消えてしまう。

「あはは。意識しないと魔力を纏えないようじゃぁまだまだ、だねぇ」

「……誰だ?」

 突然声をかけられ、動きを止めてしまった華月。声をかけたのは漆黒の真っ直ぐな長髪を揺らしながら薄い蒼の瞳を細めて微笑する少女。何時から居たのか華月には解らなかったが、彼が居る位置とは丁度真逆の岩の上に腰掛けていた。

「キミが陛下の新米竜騎士だよね」

「誰だと、聞いてるんだけど」

「あ、あたし? あたしはフェリシア。フェリシア=リステンス」

 ひょい。っと、非常に軽い身のこなしで岩から飛び降り、華月に近づいてくる。

「いや~、まだまだとは言ったけど、凄いね。成り立ての竜騎士でこの岩に皹入れたのあたし初めて見たよ」

「君は、竜か」

「そうだよ。成長が遅いみたいで小さいけど、これでも500年は生きてるよ」

 華月が皹を入れた岩の表面を撫でながら答える。

「一度も竜騎士なんて持った事が無いから他の人が訓練してるの見てただけだったけど。契約から目覚めて初日の訓練で魔力に気づいて、このドワーフも手古摺るヴェネスド岩に皹を入れる騎士は初めて見た。

 キミ、テレジアはあんな事言ってたけど素質は一番なんじゃないかな」

 165cmの華月。決して大柄とは言えないはずだが、その華月と比べても明らかに頭一つ分ほどフェリシアは小さかった。腕を伸ばして華月の肩を叩くが、とても500歳を過ぎているとは思えない。

 傍から見ると兄を背伸びして褒めている少々ませた妹にしか見えない。

「……フェリシア様、何をしてらっしゃるのですか?」

「あ、テレジア……。早かったね?」

 華月が皹を入れた岩の上に、テレジアが立っていた。その顔が若干怒っている様に見えたのは、華月の錯覚だろうか。

「本日は、倉庫の手入れをなさる筈ですが?」

「あ、あはは……。飽きちゃっ――」

 肉と骨を打つ鈍い嫌な音が響いた。

 神速で地面に降りたテレジアがフェリシアの頭頂部に、鋭い手刀をこれまた神速で打ち下ろしたのだ。それも華月を相手にしていた時以上に力を籠めて。

「……痛い……痛いよ、テレジア……」

「当然です。痛くなければ意味が在りません」

 涙目で頭を抑えるフェリシアを見て、少しだけ可哀想になった華月だったが、仕事を放り出してこんな所に来る方が悪いよな。と、思ったので同情はしなかった。

「割り振られた仕事は、きちんと消化してください」

「解ってるよ。でも、息抜きぐらいいいでしょ? あんな穴倉に篭りっ放しじゃ心が病気になっちゃうよ」

「ああ言えばこう言いますね。本当に、こればかりは血筋でしょうか」

「あたし、母様ほど適当じゃないよ。

 それに、テレジアが直々に教育する竜騎士がどんな者なのか見たかったし」

「テレジアが直々にってのは、珍しい事なのか?」

 思わず口を挟んだ華月だったが、テレジアの無表情とフェリシアの呆れ顔にちょっと拙い事を言ったかと後悔した。

「あ~、テレジアの役職知らないんだ。

 テレジアはね、女皇付侍従総纏役なんだよ。女皇に付いてる近衛も、従者も、全部最終的にはテレジアの指示で動くの」

「……何、それってかなり重要な役職じゃ?」

「一応はそうなっていますが、私の仕事などたいした事では在りません。適度に各部署を確認し、異常が無いか見回るだけです」

 謙遜も甚だしいが、やってる本人に言わせればどんな事もこんなものだろう。自分の就いている仕事が難しいと思うようでは一人前とは言えない。

「しかし、私の役職を大変だと思うのであれば、早く一人前の竜騎士になることです。そうすれば私から貴方の面倒を見ると言う仕事が無くなります」

「……出来る限り――いや、それ以上やってやるさ」

「本当に、気概だけならば立派なものです。さっさと実力を追いつかせなさい。

 ですが、飲まず食わずで身体が保てるものでは在りません。竜騎士は死にはしませんが飢餓感などは普通にあるので。今から食事です」

「あ、そんな時間なの?」

「はい。もう昼食の時間です」

 テレジアはそういうと背を向けて歩き出す。





[26014] 第5話 食後に座学は寝落ちフラグ?
Name: かみうみ十夜◆2310bdc6 ID:068b894d
Date: 2011/02/27 23:05


 食事の内容は、華月が考えていたものとは色んな意味で違っていた。

 まず、きちんと調理がされていた事。

 次に豪華絢爛と言う事は無く、普通もしくは質素と言っていいものだった。

「……」

「何ですか? その予想を裏切られたと言うような顔は」

「あ、ああ……。俺の先入観が悪いんだ。気にしないでくれ」

 テレジアの不審げな言葉に、華月は思ったとおりの事を言った。

「大方の予想は付きますが、何も生肉を貪り喰らうのが竜種の食事だ。などと言う事はありません。少なくとも、この姿をしている時は」

 空いた食器を片付けながら、テレジアは淡々と答える。

「竜化した状態では家畜一頭程度では到底足りませんが、この人化している姿なら味覚から必要な食料まで人間と大差ありません。味覚が十全に機能していると言う点のみ面倒ですが、限られた敷地で多数が生存するにはこの姿の方が利便ですからね」

「そりゃ、そうだろうな」

 食料の消費から何から、人化している方が少なくて済むのだから。というよりも、竜という生物は一体どのぐらいの食料をどの程度の期間でどの程度消費しなければ生存できないのかということすら、華月には解らなかった。

「竜化した状態では魔力運用以外のあらゆる面で消費が激しすぎるので、余程の変わり者でもない限り、人化しているのが竜種の常識です。とは言え、勘違いしないでください。

 いいですか? 私たちが人間の姿を真似ているのではありません。人間とは我々先発種族の反省点を踏まえ、最も後に創造され――」

「食事時に講釈を垂れるものではないだろう、テレジア」

「陛下……」

 優雅に食後の茶を啜りながら、ヴェルラがテレジアを嗜める。

「カヅキが異世界の人間で、神やら何やらの概念すら違うかもしれないのに、それらを無視して言った所で納得しないだろう。そう言う事も含め、講義の時にしっかり教えてやれ」

「……はい」

 少ししょんぼりしてしまったように感じるテレジアの反応だが、表面上本人は顔色一つ変えていないように見えた。

「では、午後は座学になります。居眠りは『決して』許しませんので、覚悟して望んでください」

「……ぉう」

「気の抜けた返事ですね。しゃんとしてください」

「了解!」

「宜しい」

「何だか、テレジアにカヅキを盗られた感じがするな。やはり私自らが――」

「陛下は公務に集中してください。

 ……私は騎士を必要としていません。それは陛下もご存知のはずですが」

 毅然としていたテレジアの表情が少しだけ曇った。

「そうだったな。

 余計なことを言った。私は公務に戻る。カヅキ、しっかり励め」

「ああ」

 少しだけテレジアのことが気になったが、アレコレ詮索するのは得策ではないと判断し、華月は黙った。

「では、講義に移りましょう。付いて来てください」

 片付けが終わったのか、テレジアは華月にそう言うと歩き始めた。置いて行かれないよう華月もその後を追う。

「座学ってどの位掛かる予定だ?」

「時間の感覚が私たちと貴方とでどう違うのかも知らないので、答えようが無いのですが」

「じゃぁ、この世界の時間の概念を教えてくれ」

「そうですね。この世界の時間の計り方は日が昇って沈み、また昇るまでで一日。一日は昼間十二時間、夜十二時間で計二十四時間」

 何だ、一緒か。と、華月が言おうとした所で。

「一時間は百二十分、一分は六十秒です」

「……。何で一時間が百二十分なんだ?」

「六十進数で一分、その後百二十進数になっているからですが、何か?」

「何で六十進数の後が百二十進数になるんだ? 六十進数のままでいいじゃないか」

「それでは昼夜合わせて四十八時間になってしまいます。後になればなるほど、位が大きくなって言い難く扱い辛くなります」

「結構違うなぁ……。

 それじゃ、一年って?」

「百八十二日で、一年置きに一回百八十三日になります」

 何とも言い知れない奇妙な感覚に襲われた華月だった。

(一日の長さが違うだけで、後の計算は一緒か)

「まぁ、解った。一時間の数えだけが違うけど、慣れるだろ」

「そうですか。

 では、最初に質問された座学の予定される必要時間ですが、ざっと丸七日と言う所でしょうか」

「あ、その程度で済むの?」

 華月の反応は、テレジアにとって意外なようだった。視線だけ華月に向けてきた。

「そんな眼を向けないでくれるかな? これでも元の世界じゃ一般教育を受けてたんだから」

「一般教育、ですか?」

「語学、世界史、自国史、数学、物理、化学……。まぁそう言う教育機関に都合十年以上通ってたんだよ。だから、丸七日程度で終わるなんて思ってなかったんだ」

(それでも俺の感覚だと二週間分の時間はちょっとキツそうだなぁ)

「……驚きました。貴方の世界は随分と余裕があるのですね。そんな長期間、勉学に費やせるなど」

「働くにしても最低限、九年は教育機関通いだからなぁ。そこから先、更に三年から七年勉強し続ける奴も居る」

「話に聞く人間の学習院みたいなものですか」

「ああ、この世界にもあるんだ」

 結構共通点が多いことに驚く。

「詳しくは知りませんが、数年から十数年の学習期間を取る、一部の階級のみが通えるところらしいですが」

「その辺も含みで教えてくれるんだろ?」

「この世界の概念から種族の在り方、一般常識を中心に教育します。それ以上は自分で書物を紐解くことをお勧めします。

 その辺は、貴方の方が慣れているでしょうし、得意でしょうから」

 テレジアは視線を前に戻した。

(あれ? それってテレジア自身は勉強が嫌いだってことか?)

「着きました。この部屋です」

 重苦しそうな扉を開け、テレジアが中に入っていく。華月も続いて入る。



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