ヤミ金融など消費者が標的となる「生活経済事件」に絡み、昨年、全国の警察が金融機関に依頼した口座凍結が、前年比で約4割増の1万4884件に上ったことが警察庁のまとめで分かった。預金口座の犯罪利用を阻止し、被害の拡大を防ぐのが狙い。高齢者を狙った利殖商法の被害相談が急増しているのを受け、警察庁は、口座凍結の活用を消費者庁などにも呼びかけている。
昨年5月、千葉県警は東京都内で金融業を営む暴力団組長を貸金業法違反容疑で逮捕した。違法な金利で顧客に金銭を貸し付けた容疑。逮捕の数日後、組長が口座を開設していた信用金庫は、県警の依頼で口座を凍結した。約100万円の残高があった。県警の調べによると、組長は過去1年半の間に約180人の債務者から総額1億6000万円を取り立て、口座はその管理に利用されていた。
起訴後に保釈された組長は、凍結の解除を信金に要求した。信金から相談を受けた捜査員は、犯罪利用口座であることを理由に凍結されたことを組長に説明。信金には「毅然(きぜん)とした対応を」と助言した。信金は解除せず、残高は債務者への分配金として保全された。
警察庁によると、生活経済事件に絡む金融機関への口座凍結依頼は、07年7892件、08年1万171件、09年1万821件と推移。昨年は、警察庁が口座凍結の積極活用を全国の警察本部に指示し、前年比で37・5%の増加となった。依頼件数の約9割はヤミ金融関連が占める。
一方、「未公開株」や「社債」の購入を勧誘する利殖話でお金をだまし取られたという相談が各地で急増。国民生活センターの調べでは、昨年4月~今年1月の全国の相談件数は1万16件で被害総額は約283億円に達している。被害者の約8割は60歳以上の高齢層だ。警察が昨年摘発した未公開株の利殖商法事件は5件にとどまるが、警察庁は潜在的な被害の広がりを重視。取り締まりを強化する一方、相談を通じて把握した口座について、積極的に凍結依頼を行うよう消費者庁や国民生活センターなどに要請している。【鮎川耕史】
金融機関が、特定の口座の入・出金を停止する措置。依頼者となる機関や個人に制限はないが、凍結の可否の判断は金融機関が行う。08年に施行された振り込め詐欺救済法は、口座の残高を被害者救済の分配金に充てる仕組みを規定した。
毎日新聞 2011年2月26日 11時11分