私の広瀬川インタビュー
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日時:平成22年11月12日(金)
場所:イタリアンレストラン「アルフィオーレ」
聞き手:佐藤幸輝(仙台市建設局広瀬川創生室)



5.マンガと現実世界との関わり

聞き手

近年では、「ジョジョ芸人」といわれるタレントさんや
熱心なファンによる「ジョジョ立ち」などのムーヴメントが
話題になっています。
マンガというフィクションから
今までと違った形で現実への影響が及んでいると思いますが、
そうしたファンが先生の作品を解釈して盛り上がっている
状況についてはどうご覧になっていますか?

荒木さん

「ジョジョ立ち」については、自分でもびっくりしていて、
世の中のほうが変わったんだなと思いました(笑)。
もともと「ジョジョ」の登場人物のポーズは、
ファンタジー性を出すためにあえて
現実にはありえないポーズを取り入れて演出しているんです。
実際の人間の関節の可動範囲はここまでというところを、
さらに限界を超えたところまで捻って表現していますが、
それを実際にやっているんですから…
写真でみると、ちゃんと再現しているんですよ!
人間の体が進化したのかな?

  荒木さん

聞き手

全くの予想外だったのでしょうか。

荒木さん

予想外というか真似して欲しくないというよりも、
そもそも真似しようがない表現にしているのに、
そこに現実に踏み込んでくるという…
なんか、その発想からして驚きですよ。

聞き手

驚かれたとも思いますが、先生にとってはそれも
嬉しいことだったのでしょうか。

荒木さん

嬉しい…というか(笑)。
もう、好きなように楽しんでもらえれば…
と思ってますね(笑)。

聞き手

最近では先生も巻き込まれて、一緒にポージングされる
こともあるようですが。

荒木さん

だってやってくださいって言われるから(笑)。

聞き手

今日はわれわれもぜひ先生と一緒に
「ジョジョ立ち」をしたいと思っていました。

荒木さん

わかりました…って、現実にはできないんだから(笑)。

「ジョジョ」第二部 ジャンプコミックス第4巻

(c)荒木飛呂彦/集英社  
<「ジョジョ」第二部 ジャンプコミックス第4巻> 

聞き手

私が中学生時代に先生の作品に触れたときは、
もっと直接的に、特徴的なセリフなどを
友達同士で真似したりとした記憶がありますが、
近年のこうした盛り上がりは、
インターネットによる影響も大きいのではとも思います。

荒木さん

確かにそうかもしれないですね。

聞き手

インターネットを通じて見知らぬ人同士が結びついて
共有される、共感されるという時代なのではと思いますが、
そうした変化を実際に感じられることはありますか?

荒木さん

昔は口コミといっても範囲は限定的でしたが、
現代だと、インターネットによる予想のできない
展開があると思います。だから逆に怖いですね…
その、作品には人間の本心が無意識にでますから。
例えば卑怯な描き方をしていると、たぶん読者の方は
見抜くと思いますが、それがネットだと
増幅されたりするのかもしれないですよね。

聞き手

こうした時代だからこそ、より誠実さを求められる
ということなのでしょうか。

荒木さん

そうですね。一見損かもしれないけど、誠実に描いてないと
それがあとになって確実に効いてくる…

聞き手

以前先生が東北大学で「売れるマンガ」というテーマで
講演されたそうですが、そのときも、
「売れる」ためにそれだけを狙って描くというのではなくて、
どんなに良い作品でも結果的に売れないと、読者に
届かないからだめなんだという話をされていたそうですね。

荒木さん

そうですね。「売れる」ことだけを狙った作品と、
読者に届けるために結果的に「売れる」作品との違いは、
読者の方は見抜くでしょう。
また、それとは別に、ネットでの発言などでそういう精神は
よりはっきりと見抜かれてしまうのではないでしょうか。
インターネットの書き込みの内容から、
「この人ずるいな」と感じたり。

聞き手

先生自身はよくインターネットでチェックされますか。

荒木さん

荒木さん

怖いから、なんかね、あまりやらないです(笑)。

聞き手

なるべく避けられたい、とか。

荒木さん

一線を画しておきたいというよりも、「岸辺露伴」
ではないですが、図に乗ったことを言いそうなので
自重のために(笑)。

聞き手

岸辺露伴は、マンガに関しては善悪の判断基準を
超えたものすごい執着心から、ちょっとやりすぎな面が
見受けられますが、やはりそうした面には
先生の想い入れが反映されているように感じてしまいます。

荒木さん

そういう部分もありますが、露伴は憧れですね。
スーパーマンガ家としての。
ただ少しだけ、作品とか芸術に対して
真摯でないことへの怒りなどを表現していますが。

  「ジョジョ」第四部 ジャンプコミックス第36巻

<「ジョジョ」第四部 ジャンプコミックス第36巻>

聞き手

あくまでも極端な形での表現だと思いますが、
短編「岸辺露伴は動かない」では、露伴が取材で
イタリアに行き、教会の懺悔室に潜入してみて
体験の重要性を語るシーンもありました。
ファンとしては、そうしたところに実際の先生の姿を
重ねたくなると思います。

 

「岸辺露伴は動かない」(短編集「死刑執行中脱獄進行中」より

<「岸辺露伴は動かない」(短編集「死刑執行中脱獄進行中」より>

荒木さん

その辺は確かに実感を反映しているかもしれません。
今だとネットで調べればほとんど
あらゆるものの情報は分かる時代だと思いますが、
僕自身はやはり実際に体験した上で描きたいですね。
例えばイタリア料理の絵を描く時、
別に食べなくても写真を見たりして描けますが、
でも、僕だったらその料理の匂いを嗅いだり、
実際に味わいを確かめた上で描きたいです。
その辺は、露伴にも反映されているかな。

  「ジョジョ」第四部 ジャンプコミックス第33巻

<「ジョジョ」第四部 ジャンプコミックス第33巻>

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