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第三話 二人の娘
<ボース地方 川蝉邸>

カシウスはシンジとアスカに着ていたプラグスーツを隠すフード付きのローブを渡した。
捜索隊の注意が湖の妖怪にそれたとは言えやはりプラグスーツは目立ちすぎるからだ。

「何かダサいわね。ねえ、街に着いたら新しい服を買っていい?」
「はっはっはっ、早速アスカはパパにおねだりか」

カシウスが笑うと、アスカは顔を赤くした。
そんなアスカをカシウスは軽く笑い飛ばす。

「まあ、服よりもまずは腹が減っただろう、ここの飯は美味いぞ」

3人は下のロビーで夕食を取る事になった。

「この子達の事を黙っていてくれて本当に助かったよ」
「カシウスさんにはいつもお世話になっていますからね」

川蝉邸の主人である青年はカシウスに笑顔でそう答えた。
ここは兄妹が経営している宿屋で、ヴァレリア湖でとれる新鮮な魚で作られた料理は絶品と評判だった。

「どうした、魚は嫌いか?」

料理に手を付けないアスカを見て、カシウスは声を掛けた。

「えっと、魚は嫌いじゃないんだけど……」
「はいアスカ、魚の骨を取ったよ」

はしで魚の骨を取り終ったシンジがいつものようにアスカに皿を渡すと、アスカは顔が真っ赤になった。

「シンジとアスカはそこまで仲が良かったのか、別に恥ずかしがって隠す事は無いぞ」
「アタシとシンジは命令で仕方無く一緒に住んでいただけなのよ!」

カシウスがニヤニヤした顔で言うと、アスカはそう言い返した。
アスカの言葉を聞いたカシウスは少し悲しそうな表情に変えると、2人に向かって優しく話しかける。

「もう誰の命令に従う必要は無いんだぞ、お前達は自由だ」

カシウスの言葉を聞いたシンジとアスカは、目を潤ませた。

「じゃあカシウスさんの事……これからパパって呼んで良い?」
「ああ、構わないぞ」

アスカが上目遣いでたどたどしく話すと、カシウスは笑顔で快諾した。
素直にカシウスに甘えた態度を取るアスカに、シンジは驚いてしまった。
他人に心を開く事が無かったアスカの信頼を時間を置かずに得てしまうカシウスにシンジは尊敬の念を抱くのだった。

「シンジはどうなんだ?」
「僕は……父さんがいますから」

シンジの答えを聞いて、カシウスは少し残念そうにため息をついた。

「この魚、おいしいわね」
「そうだろう、この湖で釣れた魚だから新鮮だぞ」

そんなカシウスを気遣ってか、アスカが話題を変えた。

「時間があれば湖で釣りを楽しむ余裕があったんだがな。飯を食べたらこの宿屋を出るぞ」
「えーっ、日が沈みかけているのに、夜道を歩けって言うの?」
「今から出れば日没まではボースの街に付けるさ」

兵士達の注意はそらされたが、この宿屋に長居してシンジとアスカが怪しまれるのは良くないと説得されると、2人はカシウスの言葉に従った。



<ボース地方 アンセル新道>

ヴァレリア湖畔とボースの街を結ぶ街道に出たシンジとアスカは、石畳が敷かれた街道の周りから聞こえてくる獣の声に恐怖を感じた。

「野山とかには狼が居るんですか?」
「狼? 居るかもしれんがありゃあ、魔獣達の声だ」
「魔獣?」
「来たようだな」

カシウスの言葉通り、3人の側にアンセル新道に出没する魔獣、マッドローバーが姿を現した。

「な、何よこのサボテンの化け物みたいな生物は……!」
「魔獣も知らないのか?」

マッドローバーは怯えるアスカに向かって触手を伸ばして来た!

「きゃあああ!」

カシウスの棒がマッドローバーの触手を受け止める。

「シンジ、アスカを連れて下がっていろ!」
「わ、分かったよ!」

シンジも腰を抜かしそうになるほど驚いていたが、勇気を出して震える自分の膝を抑えながらアスカの手を引いて後ろに下がらせた。

「せいやっ!」

カシウスは掛け声を出すと、棒に絡まった触手ごとマッドローバーの体を思いっきり地面に叩きつけた!
そして思いっきり潰れたマッドローバーはぐちゃぐちゃになりそれっきり動かなくなった。

「な、何なのあいつ……」
「もしかして、僕らは地球では無い別の世界に飛ばされてしまったのかもしれない」

アスカとシンジは背中に冷汗を垂らしながらマッドローバーの死体を見つめた。

「大丈夫か?」
「ええ、助けてくれてありがとうございます」
「なあに、民間人を魔獣から守るのは遊撃士として当然の事だ」
「……魔獣ってたくさん居るの?」
「そうだな、セプチウムの豊富な土地には魔獣の巣があるって話だな」
「あのすいません、魔獣について教えてください」

カシウスは歩きながらシンジとアスカに魔獣とセプチウムについての説明をするのだった。
魔獣とは動物や昆虫がセプチウムを吸収して魔進化したような生物なのだと言う。
セプチウムはリベール王国の地面に含まれるエネルギーの結晶体で、多くセプチウムが含まれる場所は鉱脈として人間に利用されている。
シンジとアスカは魔獣の話を聞いて顔が青ざめて来た。
エヴァ乗る以外は普通の中学生である戦う力の無い自分達が弱肉強食の世界に飛び込んでしまったのだと。

「そんなに気にする事は無い。街の中に居る限り魔獣は入って来ないし、街道の導力灯も魔物除けの効果がある。今回はたまたまあの導力灯の効果が弱まっていただけさ」

カシウスがそう言ってシンジ達を励ましながら歩くと、ボース市は目の前に迫っていた。

「やっと街だ」
「さすがに超高層ビルは無いみたいね」
「何か映画のセットみたいだ」

すでに自分達の暮らしている世界とは違う場所に飛ばされたと認識しているシンジとアスカはそれほど驚く事も無く、ボースの街並みを現実として受け入れた。

「ホテルに泊まる前に遊撃士協会に寄るぞ。さっきの導力灯の事を報告しなければならん」
「へえ、遊撃士ってそう言う雑用までするんだ」
「街道を歩いている旅人が魔獣に襲われちゃ危険だろう? 大事な仕事さ」

ボース市街を歩いて遊撃士協会のある北区に入ると、街の真ん中にある大きな建物がシンジとアスカの目を引く。

「あの大きな建物は何ですか?」
「ああ、あれはボースマーケットと言ってな、商人達が集まる屋根付きの市場のようなものだ。外国からの珍しい工芸品や書物、洋服なんかの取引が活発だな」

シンジの質問に対するカシウスの答えを聞いたアスカが目を光らせる。

「アタシ洋服が欲しい!」
「アスカ、わがままを言っちゃいけないよ」

すかさずシンジが止めたが、カシウスはあっさりと笑顔で受け入れる。

「ああ、構わんぞ。明日の朝、ボースを発つ前に買いに来るか」

カシウスの言葉にアスカは飛び上がって喜んだ。

「カシウスさん、すいません」
「遠慮する事は無い、どうせ2人の服は買わなければいけないと思っていた所だからな」
「でも……」
「俺はアスカのあんなに嬉しそうな笑顔を初めて見た。シンジもアスカの笑顔はずっと見て居たいものなんだろう?」
「はい」

シンジはカシウスの好意に素直に甘える事にした。



<ボース市街 ボースマーケット>

ボース市内のホテルに泊まった翌日、カシウスは約束通りシンジとアスカをボースマーケットへと連れて行った。
並べられている品物の種類は第三新東京市の商店街には遠く及ばないものの、シンジとアスカは市場に並べられている品物に胸をときめかせた。
目的は洋服だと言う事で後ろ髪引かれる思いでシンジは張り切って洋服の店に向かうアスカの後をついて行った。
シンジはアスカが洋服を選ぶのをうんざり気味で眺めていたが、カシウスは嬉しそうに笑顔で見つめていた。

「この服が可愛いから、気に入っちゃった♪」

アスカが選んだのは、リボンがあしらわれた裾の長めのドレスだった。

「アスカ、それじゃあ歩きにくいよ」
「そうね、ちょっと魔獣が出る街道を歩くのには向いていないかも……」

シンジに言われてアスカがドレスを買うのを諦めようとすると、カシウスがアスカを止める。

「いや、これからロレントの街までは飛行船で帰る事にしたから、ドレスでも構わないぞ」

カシウスの言葉を聞いたアスカは、また嬉しそうに華やいだ笑顔になった。

「俺もドレスを娘に買ってやる事ができて嬉しい限りだ。はぁっ、エステルはそう言うのは欲しがらないからな」

そう言ってカシウスは疲れた顔になってため息をついた。

「エステルさんって、カシウスさんの娘さんですか?」
「ああ、丈夫でたくましく育ってくれたのは良いんだが、とんだおてんば娘でな。小さい頃は森に入って虫採りなんかしてばかりだったよ」

『やあ、俺エステル!』

カシウスの言葉を聞いたシンジとアスカはそんなあいさつをするエステルを想像する。

「僕達、仲良くできるかな」
「さあ、分からないわ」

シンジとアスカの期待と不安を乗せて、ロレント行きの飛行船はボース国際空港を飛び立つのだった。
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