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天声人語

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2011年2月26日(土)付

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 さまざまな言葉をユーモアと皮肉で定義する私家版の辞典は面白い。「楽天家用小辞典」やら「紋切型辞典」やら名前もユニークだ。中でも米国人ビアスの「悪魔の辞典」は切れ味と毒気の妙で知られる▼たとえば「投票」はこうなる。〈自分自身の愚かさをさらけ出すと同時に、祖国を破滅に導く、自由市民の持つ権力を表わす手段およびシンボル〉(岩波文庫)。ニヤリと笑えないのがつらい。政権交代後の日々を思ってトホホが先に来る人は、少なくあるまい▼民主党代議士会がまた大荒れしたそうだ。菅首相夫人を漫画にした政策ビラをめぐり、「文句あるやつは広報委員になって一緒に作ればいいじゃないか」「何言ってんだよおめえ」。投票で国政を担う選良が、である▼怒った岡田幹事長が「今しゃべったやつは立って。仲間が説明しているときにそういう言い方があるのかね」。小学校の担任のよう、と言えば児童に失礼になる。中東の混迷、原油高騰、地震――現実の激しさ重さと、小物議員ぶりの落差が物悲しい▼古き良き時代は終わったが、新しい時代は見えにくい。自分の人生観や価値観がいつまで有効なのか、誰にも自信がない。「希望の処方箋(しょほうせん)」を書くのが政治の仕事だろうに、希望つぶしの名人大会ばかり永田町で盛大だ▼自分の発言なり行動なりが己をどう利するか。けちな羅針盤だけ頭にのせた顔は、与野党問わず覚えておくにかぎる。同じ輩(やから)に二度だまされるのはだまされた者の責任。ビアスの国で聞いた処世訓に、次なる投票を重ね合わせて。

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