行基といえば奈良時代に諸国で土木工事や救貧事業を行い、庶民に慕われた僧である。その伝承によると行基は養老5(721)年に秋津島(日本)の総人口を記している。その数はなんと「四十五億八万四千八百九十三人」とある▲ただ当時の「億」は10万のことである。つまり約458万人という数になるが、いずれにせよ仏教思想にもとづく架空の数字というのが定説だ。それでは今の歴史人口学での奈良時代の推計人口はどれくらいなのだろうか▲鬼頭宏さんの「人口から読む日本の歴史」(講談社学術文庫)が諸研究をふまえて示しているのが、725年に約451万人という推計だ。偶然にも行基の伝説に何とも近い数字になった。「これまことに大聖の権化にあらずしては、いかでかかようの不思議をあらわしたもうべき」(「行基大菩薩行状記」)だ▲1300年近い時が流れ、昨秋の国勢調査によると昨年10月1日現在の日本の人口は1億2805万6026人という。05年の前回調査比0・2%の微増だが、外国人の増加などによるところが大きく、日本の人口が減少局面に入っていることには変わりないという▲前回調査でも32道県で人口減少が見られたが、その大半で減少率は上昇、今回新たに兵庫、静岡、京都など6府県も減少に転じている。また世帯数増や、世帯あたりの人数減は単身世帯の大幅な増加を示すものとみられる▲国勢調査としてはどうも日本の人口のピークとなりそうな今回のデータである。1000年後とはいわない、100年後の日本人は、この歴史的数字をいったいどんな思いで振り返ることになるのだろう。
毎日新聞 2011年2月26日 東京朝刊
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