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社説:特捜事件可視化 あくまで改革の一歩だ

 密室性が批判された特捜事件の取り調べの録音・録画(可視化)が3月18日から試行される。

 最高検によると、東京、大阪、名古屋各地検の特捜部が容疑者を逮捕する事件が対象で、容疑者が否認している場合も含む。

 ただし、取り調べのどの部分を録音・録画するかは検察官の判断に任される。容疑者が拒否した場合や、真相解明機能が害されたり、関係者のプライバシー保護に支障が出ると判断されれば行わないという。

 郵便不正事件をきっかけに、特捜事件取り調べの透明性確保に検察が手をつけたことは評価したい。

 けれども、事件で無罪が確定した厚生労働省の村木厚子元局長が「取り調べは、リングにアマチュアとプロボクサーが上がり、レフェリーもセコンドもいないと思った」と述べ、全過程の録音・録画や、弁護人の取り調べへの立ち会いを求めた主張とは、隔たりが大きい。

 録音・録画の範囲やタイミングを検察官が判断するため、都合のいいところを選択する懸念が残る。「真相解明機能が害されない範囲」など、録音・録画対象から外せる例外の規定も解釈次第では広がる。

 また、特捜事件では、参考人に対する強引な取り調べが問題化するケースも少なくないが、参考人は対象外である。

 法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」でも、全面可視化を主張する委員らから批判が相次いだ。

 最高検は、容疑者や検察官の口ぶりや態度を見れば、ご都合主義的な録音・録画かどうかは分かるはずだとし、検察官の不適切な取り調べを防ぐ意味も大きいと強調した。参考人についても試行結果を見ながら、将来的に検討する考えを示した。

 検察内部に、取り調べ手法などが丸裸にされるといった反発が強いのは確かだ。また、適正な刑事手続きは、可視化だけで遂行できるものではない。供述に頼らない客観的な証拠の収集がまず必要である。

 さらに、被告に有利な証拠があった場合、検察官が隠すことを禁じる「倫理規定」も不可欠だ。公判も含めた冤罪(えんざい)を防止する多面的な対策の上で、将来的にどこまで可視化の範囲を広げるか考えるべきだろう。

 試行に当たって、まずは検察官の意識改革を求めたい。最高検は、積極的に録音・録画するよう指導を約束したが、現場が呼応しなくては話にならない。事例を重ねれば試行の成果を早期に検証できるはずだ。

 また、全過程の可視化が導入されている英国などでは、取り調べ手法の研究が進む。それらも参考にしながら、適切な取り調べの技術を一層、磨いてもらいたい。

毎日新聞 2011年2月26日 2時30分

 

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