2011年2月26日
経営陣による自社株買い取り(MBO)を成立させた出版社「幻冬舎」の見城徹社長は25日、朝日新聞の取材に応じ、新しい「書店」を展開する方針を明らかにした。従来とは品ぞろえを変え、出版社が自ら販売活動に乗り出すことで「これまでの書店の枠組みにとらわれない店をつくっていく」としている。
出版市場は活字離れやインターネットの普及などで、1996年をピークに減少傾向が続いている。見城社長は「出版社はビジネスとして成立しにくくなっている」とし、業態転換の必要性を強調。「新しい販売のチャンネルを持ちたい」として、新スタイルの「書店」を展開するため、他業種との提携を模索しているという。具体的な手法は検討中で、数年以内に実現させるという。出版社が小売りの現場に出て行くことは珍しく、業界でも注目されそうだ。
ほかにも企業の依頼を受けた宣伝用の本作りや、個人出版で収益を上げられるビジネスモデルを探る。電子書籍については、従来の書籍をデジタル化するだけでなく、「新たなアプリケーションを付けて、ビジネス展開の糸口としたい」とした。観光地を紹介する電子雑誌で、旅行会社や宿泊施設から広告収入を得るビジネスも広げる。
見城社長は、新事業の実現には短期的に業績が落ち込むと主張。利益拡大を市場から常に求められる株式上場をやめるほうが、有利になると判断したという。(角田要)
◇
――MBOに踏み切ったのはなぜですか。
「短期的な利益を求められる株式上場を維持しながら、新たな事業に投資するのは、幻冬舎のような歴史が浅く過去の資産の蓄積が少ない出版社には難しかった。8年前に上場したのは、経営をガラス張りにして体力を強化しようと思ったから。上場の目的は果たしたし、このままだと株主に迷惑がかかると思った」
――再上場の考えは。
「まったくない。投資ファンドから資金を調達し、すぐに再上場して利益確保をめざす手法もあるが、そういったことはしない」
――出版業界は苦境が続いています。
「一時的な不況ではなく、この先も厳しい状況が続く。インターネットや携帯電話など多様なメディアが出てきた。私が若い頃は恋に苦しめば本を読んだが、今は選択肢がいっぱいある。本のニーズがどんどん減っている。面白いものをつくれば大丈夫と言い切ってきたが、本だけにこだわるビジネスモデルは崩壊した。新しい事業を広げて、極端に言えば、本が一冊も売れなくても利益を出せる会社にしたい」
――従来の書店とは違う、小売店を検討されています。
「売れない本は返本すれば良いという考えがあり、書店は小売店として十分に機能してこなかった。でも、書店と取次会社のシステム自体は、すごく優れたインフラだ。魅力ある商品を開発し、一緒に販売促進していく。アパレルが製造から小売りまで一貫して手がけているように、本を作るだけじゃなく、どう売るかも重要だ」
◇
〈幻冬舎〉 角川書店の名物編集者だった見城徹氏を中心に1993年に設立。たくみな話題づくりで、石原慎太郎「弟」、五木寛之「大河の一滴」、郷ひろみ「ダディ」などをヒットさせた。新書や文庫、コミック、雑誌も手がける。2003年にジャスダック市場に株式を公開した。10年3月期連結決算は売上高131億円、純利益9億円。