【コラム】脱力感満点のスパイコメディー(下)

 この後は、コメディー映画になる。情報員たちはノートパソコンを部屋から持ち出していった。ホテルの清掃部員が、業務用の通路でうろつくあやしい人々を発見した。隠れんぼをしているわけでもないのに、なぜそこに隠れていたのか。やがて情報員2人が客室に戻ってきて、持ち出したノートパソコンを返却した。情報員たちの表情がどういうものだったのか、気になる。他人の畑で盗みを働いたちびっこが、畑の持ち主にかごを渡す時のような、きまりの悪そうな表情だったのか。返却したノートパソコンには、八つの指紋が残っていたという。

 ある新聞に載った国情院関係者の弁明は、むなしいギャグの決定版だった。「特使団が滞在していた1961号室の真上の2061号室が、機関が使っていた部屋だ。そこにあるノートパソコンを持ってくるようにと部下に指示したのに、部屋を間違えて特使団の部屋に入っていったようだ」。泥酔した人が深夜、自分の部屋が分からず、マンションの下の階のドアをたたいたわけではない。朝方に、全く正常な情報員3人が19階と20階を間違えたというのも納得いかないが、他人の部屋のドアをどうやって開けて入ったのかについても、説明になっていない。「とかげのしっぽ切り」のつもりだろうが、問題を一つ余計に増やした格好だ。

 こうしてみると、昨年6月にリビアから国情院職員が追放された事件が、今回のコメディーの予告編だったようだ。海外での情報活動は、完全に現地に適応することが前提にならなければならない。アラブ圏に投入されるモサドの情報員たちは、ペルシャ語やアラビア語を流ちょうに話すことが資格要件となっており、また作戦のたびにその地域の方言を特別に習う。リビアに派遣された国情院の情報員たちは、現地の言葉を話せなかった。そのため、口頭でも済む話をいちいち文書でやりとりした。このため、現場で泥沼にはまった。文書という物証があるので、しらを切るすべがなかった。

 昨年は『アイリス』、今年は『アテナ』というスパイもののテレビドラマで放映されたが、これらは国情院の助言を受けたという。劇中の情報員は、遠距離ハッキングでグローバルなテロ集団の陰謀を事前に把握し、敵の本部にまで侵入し、完全な鎮圧作戦を展開した。出来の悪い先生から助言を受けて、出来のいい情報員の姿を描き出した、番組制作スタッフを褒めるべきか…。

金昌均(キム・チャンギュン)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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