依存相手を失うことによる喪失感

今回は世界で一番好きだったおにいちゃんの番外編です。
どこまでノンフィクションか、、、それは貴方のご想像にお任せいたします。
固有名詞での登場人物は、もちろん本名ではなく、仮名です。ご了承ください。
※長い文章ですゆえ、接続時間の気になる方は接続を切ってから読まれるか、ファイルを保存されることをお勧めします。

Chapter 1 【恋人関係が破綻してゆくプレリュード】
おにいちゃんと知らないうちに「恋人」になった私は、心から満足を得て、うまれて初めてと言っていいほどの大きな安心感を得ることが出来ました。
しかしそんな充実した幸せは、実は付き合い始めのたったの半年程度だったのかもしれません。

彼が私を大切に思ってくれている実感は感じていました。
一日に何通もメールを送ってくれたり、「今移動中なんだ」とメールを送れば、電話をくれたり。
いつでも彼が私を思ってくれていると言う、安心感がありました。
だからきっと、私は辛い仕事が頑張れたのだと思います。
会社でかなりいびられていましたけど、遠くから私を見守ってくれている人がいることを、知っていたから。

しかし、交際を開始して4ヶ月で、まず彼の環境が変わりました。
同じ会社にいた彼が、グループ会社へ転籍することで、内勤から外回りへと職種も変わったのです。
これは彼が望んでいたことでした。
給料が下がっても、外回りをしたいと言っていた彼。

「美緒(仮名)ともし結婚したら、美緒に苦労をさせてしまう。それが嫌なんだよ。かみさんだから、仕事させても平気なんだ」
ある時、彼は離婚して私と一緒になりたいと言っていたことがありました。
しかし彼の収入だけでは生活が苦しいだろうということとなり、それが一切無効となりました。
私が精神的に弱く、一つの職場で頑張りぬく力がないことを、彼は心配していたのです。

一時期でも彼が、私と結婚したいと考えてくれたことを嬉しく思っていたのに、あっさりとそれは叶わないことと知らされたときに、私はショックを受けました。
「おにいちゃんと一緒だったら、少しくらい大変でも頑張れるのに」

「俺は美緒に苦労させてまで、一緒になりたいと思えないよ。だって好きな人を苦しめたくないから」

彼の言い分も分かるような気がしましたが、それでも「一緒にがんばっていこう」とは思ってもらえなかったことを寂しく思いました。

そして外回りに職種転換した彼は、私への連絡頻度を落としていきます。
以前は、彼からメールが届き、返信すれば彼からも返信が届いていたのに、その回数が激減しました。
それをまず私は責めてしまいました。

「だって仕方ないだろ。商談中は電話に出られないしメールなんて打てないし。だけど夜に電話してるじゃない」

「それじゃ足りないの!前はアナタの方が一日に何度もメール送ってきたんじゃん。私が返信しなければまた返事を催促してきたくせに。私が講習中でメールなんて打てないのに、『返事がなくて寂しいよ』なんて30分おきに送ってきたくせに!それなのに私がアナタと同じことをするのは、いけないの?」

「いつの話してるの。過去にこだわらないでよ」

「過去?都合のいい事言わないでよ。自分はよくて、私はいけないなんて不公平じゃない?」

徐々に徐々に、私と彼は口論の回数が増えていきました。
内容はいつも似たような内容です。
連絡頻度が落ちていった彼を、責める私。

ただでさえも新しい環境で疲れている彼を、更に私が疲れさせていたのです。
今だから気づけていても、当時はそれを自覚できていませんでした。

きっと度重なる心のすれ違いが、彼の気持ちをさめさせていたのかもしれません。
お互いに「分かってもらえない」という不信感と。

Chapter 2 【別れ話】
春のある日、彼は別れ話をしに、私の住む街へやってきました。
「俺は、美緒と付き合い始めた頃のような時間が、今はないんだよ。それによって寂しい思いをさせてしまう。それから、最近は美緒と話していても責められてばかりで、毎回俺は謝ってばかりで疲れたよ」

「ごめんなさい。おにいちゃんを追い詰めているわけじゃないのに・・・。だけどね、連絡しても返事はないし、電話でもろくに話せない、夜中や土日には連絡が取れない、それじゃあ不安でたまらないじゃない。そんな不安な時に、他の人と連絡とってたらそれはそれでヤキモチ焼くし。じゃあ私はどうしたらいいの?」

「だから、別れよう。俺と別れたら、美緒は自由だ」

「イヤ!どうしてもっと連絡するから浮気をするなって言ってくれないの?」

「もう疲れたんだよ。美緒の気持ちはすごくありがたいけど、俺はそのいっぱいの気持ちに応えられない」

私は、おにいちゃんに抱きついて泣きました。
「私、おにいちゃんを失ったらきっと死んでしまう。私が落ち着くまで、連絡取れるようにして。お願い」

私はこの時期に丁度新しい職場に入ったので、慣れない環境で精神的に安定を失っていました。

「俺は何も、美緒といきなり他人になるなんて言ってないよ。別れても友達でいることも出来るし。俺は決して美緒を嫌いになったわけじゃないんだよ」

「おにいちゃん、私と別れたら浮気またするの?」

「美緒ほど好きになる人はもう無理だな。俺は家庭と恋愛の両立は無理だから。だけど、かみさんに満足しているわけじゃないから体だけの浮気はするかもしれない」

「だったら私を使って。私以外の女性と、関係しないで。私は、体だけの付き合いでもいいから」

「虚しくないの?」

「分からない。だけど、おにいちゃんが私以外の人と付き合うのはもっといやなの」

「分かったよ」
おにいちゃんは、困ったように笑いました。
彼はきっと、私が本当に彼を好きなことは知っています。
また、彼は「自分を好きという人が好き」なのだそうで、だからこそ私を捨てきれなかったのかもしれません。

私が「体だけの付き合いでもいい」と申し出たことで、新たに肉体関係を結ぶ女性を探す手間を省けたとも思います。

最後にキスをして、私たちは別れました。

そして彼が長距離を運転しているであろう時間帯に、メールを送っておきました。
「おにいちゃん、私、おにいちゃんにまた好きだと思われるように頑張る。でも、それまでは『かけがえのない親友』みたくなりたい。今までみたいになんでも話せるようなね。運転気をつけて」

少ししたら、サービスエリアで休憩中という彼からメールが届きました。
「今日はお互いに言いたいことを話し合えてよかったと思います。俺だって美緒の優しいところとか好きなところはいっぱいあるよ。でもこれからは、気持ちを軽くして付き合ってね。ほどほどに」

彼からの返信を見て、私はまだ希望があるのだと思ってしまいました。
彼は私を嫌いになったのではないし、少しくらいは好きだと思ってくれている。
だから私の変化次第で、また恋人に戻れる日が来るのかもしれない・・・と。
Chapter 3 【最初で最後のセックスフレンド】
別れ話から一ヵ月後、私とおにいちゃんは何とか都合を合わせ、中間地点で会うことにしました。
会うまでにいたっても、やはり彼からのメールの返信の速度が遅く、それについてもイライラしてしまいました。

「おにいちゃんは、私に会いたくないの?」

「そんなことないよ。楽しみにしているから」

そして当日。
私は、新幹線の駅を降りたら急に動悸が酷くなって、ホームにしゃがみこんでしまいました。
彼に会いたいのに、会うのが怖い。
私はこんなに彼を好きなのに、それを押し殺して「体の関係だけの女」を演じねばならないのです。
気持ちの重い女だと思われたら、たちまち彼に逃げられてしまう。。。

10分くらい、誰もいなくなったホームでしゃがみこんでいたでしょうか。
おにいちゃんから電話が来ました。
「何やってんの?新幹線乗り遅れたの?」
「ごめんなさい。ちょっと具合悪くてホームにいるの。落ち着いたら行くから」

彼と会える時間は限られています。
私は立ち上がって、ホームをおり、改札をくぐって駅の外へ出ました。
スーツを着ている彼が待っていました。
家族に、仕事だと偽って家を出てきたのでしょう。

「ホテル直行でいい?」
彼の車に乗り、そのままホテルへ向かいました。

今までは恋人だったけど、今はただのセックスフレンド。
だからあまり彼を好きなそぶりを見せてはいけないと思うと、私は緊張してあまり言葉を出せなくなってしまいました。

一方、彼はいつもと変わりませんでした。
他愛のない仕事の話をし、そしてホテルへ着きました。

いつもと何一つ変わりませんでした。
恋人もセックスフレンドも、することは一緒ですし。
彼自身、決して私を嫌いになったわけではないと思いますから、何一つ、別れたからと言って変わったことはありませんでした。

私が意識して「割り切った関係」を演じようと緊張している以外は・・・
Chapter 4 【衝撃を】
行為が終わり、ベッドでまどろんでいた時の他愛のない会話も、いつもと変わりませんでした。
彼の腕枕も。

割り切ったセックスフレンドという関係でも、彼の優しさは同じで安心しました。

しかし楽しいひと時は、私のわがままによって崩されていったのです。

「ねーおにいちゃん、今度はいつ会える?」

「美緒、俺は今日だってかなり無理して家を出てきたんだよ。そんな呑気なこと言わないでよ」

「無理?」

「そうだよ。休みの日は子供とだって遊びたいし。罪悪感感じながら家を出てきたんだよ」

「罪悪感!?そっか、おにいちゃんはイヤイヤ私と会ってくれているんだね。私はすごくおにいちゃんに会いたくて無理して来たのに。私だって無理してきたんだよ。さっきから私、職場に何度も電話しているでしょ。まだ落ち着かないから土曜日なんて休むわけに行かないのに、無理やり代講立てたって言うのに」

私はおにいちゃんに背を向け、布団の中にもぐって泣きました。
私がこんなに彼に会いたくて日にちを数えてやっと会えたと言うのに。
私だって仕事に無理をして、新幹線に乗って彼の近くまで来たのに。
やはり彼は、別れ話をする前ほど、私を必要としていないことを痛感したのでした。
悔しくて、そして1人で浮かれている自分が情けなくて、涙が止まらなくなりました。

「美緒、イヤイヤとは違うよ。俺だって美緒と会いたいから、ちゃんと出てきたんじゃん。それに、いやいやだったら、出来ないでしょ」

彼は困ったように私の背中越しに話してくれましたが、私はとにかく悔しかったのです。
おにいちゃんが、私よりも子供と遊ぶことの方が大切だと思っていたことが。

子供なんて、会おうと思えばいつでも会えるのに。
私は、遠く離れているから2人の都合が合ったときに、少ししか会えないというのに。
それすらも無理だという。
私は、おにいちゃんともう一生会えないのではないかと怖くなってしまいました。

とそのとき、おにいちゃんの携帯電話が鳴りました。
仕事です。
私は、彼が仕事をしているところが好きでした。
布団の中にもぐったまま、彼の仕事のやり取りを眺めていましたが、急に自己嫌悪が酷くなり、私はトイレに入りました。

洗面所には、T字型カミソリが置いてあります。
私は床に座り込み、手首に切り込みを入れ始めました。
何回も何回も。
何本も切り傷が出来ましたが、あまり血は流れてきません。
もっともっと切り込みを入れます。

ごめんなさい。
おにいちゃんを苦しめていたのに、私1人がおにいちゃんに会えることで浮かれてた。
これだけ傷つけたら、また私を許してくれる・・・?

手首がピリピリと痛んできた時、私は我に帰ってカミソリを床に放り投げました。
自分を傷つけ、私は少しスッキリしたのでした。

「しばらく出てこないと思ったら・・・」
おにいちゃんが洗面所に入ってきて、私の姿を見て絶句しました。

「とにかく部屋に戻って」
彼は私の手を引き、ベッドサイドに私を座らせました。

「どうしてそういう事するの?俺に見せ付けたかったの?」

「見せ付ける?何それ。見せ付けるんだったら目の前でやるでしょ。私は、おにいちゃんに申し訳なくて。それで頭に血が上ってやってしまっただけ」

手首を切って、少し落ち着きを取り戻した私と反面、今度はおにいちゃんの様子がおかしくなりました。
顔面蒼白になり、「心臓がドキドキしてきた」と。

「とにかく帰ろう」
私の突発的な奇行により、貴重な彼との時間が更にそこで終わってしまいました。
ホテルを出て、予定より早く、私は駅に送っていかれたのです。
彼の車の中では浜崎あゆみが流れていました。
「あ、これ、うちの車にも積んでるCDだ。同じだね」
呑気に言う私とは裏腹に、彼は無口でした。

そして駅に着き、さっさと歩いていく彼は、どこか浮き足立っているように感じました。
手をつなごうとしましたが、「営業所が近いから、誰かに見られたらまずいでしょ」と、振り払われてしまい、私は余計に悲しくなってしまいました。
「あんなの見たら正気でいられないよ。胃が痛くなってきた。出来るだけ早い時間ので帰って」

新幹線のチケットを買った私は、あまりに不機嫌な彼と一緒にいるのが悲しく
「おにいちゃん、そんなに具合悪いなら帰っていいよ」
と言いましたが
「アナタ、何するか分からないから。電車乗るまでは見送るよ」
と言われてしまいました。

手首を切ってスッキリした私でしたが、そんなシーンを目の当たりにした彼は、私が何をしでかすか分からない危険な女という風に思い込んでしまったようです。
彼は、私が手首を切ったのを見たことで、私がとんでもなく頭のおかしい女で、このままでは電車に飛び込んで自殺するとでも思ったのでしょうか。
新幹線のホームまで入って一緒に新幹線を待ってくれていました。

「いつかもこうやって2人で新幹線待っていたことあったよね」

「美緒、しばらく距離置こう。俺、やっぱり美緒の気持ちについていけない」

「いや。そんなこと言わないで。距離なんて、どうせ元々あるじゃない。物理的に」

新幹線がきました。
背伸びして私は彼に、キスをしました。
しかし彼は私を突き飛ばしたのです。
あんなに優しい彼が、私に冷たい対応をしてきたことがショックでたまりませんでした。
「誰が見てるかわからないでしょ」

もう、別れ際に人目も気にせずキスをしていた私たちではなかったのです。
私は、彼にもう一生会えないのではないかと思い、不安でいっぱいになってしまいました。
新幹線に乗った瞬間に、彼は背を向け去っていきました。
もう、新幹線が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた彼でもなかったのです。

Chapter 5 【もうそっとしておいてください】
彼と会った日から数日が経過しましたが、彼から連絡が来ることはありませんでした。
私は本当に彼と会えなくなるのではないかと思い、段々焦ってきたのです。
一方的にメールを送ったりもしましたが、返信はありません。

そして遂に「吐き気が酷くて医者に行ったら急性胃炎だと言われました。しばらくそっとしておいてもらえませんか」とメールが届いたのです。
そう、彼はきっと、私が手首を切ったことが衝撃的で、そして私の気持ちの重さにも悩みすぎたのでしょう。
元々、胃が弱い人で、悩みがあったりすると「胃が痛い」と言う人でしたが、急性胃炎という病気を私のせいで発症させてしまったことに私は罪悪感を感じました。

「おにいちゃん、ごめんなさい。私のせいで病気にしてしまって。曲がりなりにも看護婦なのに、人を病気にするなんて。私はもう生きている資格などないのかもしれません。おにいちゃんとこのまま会えないのも辛いし、そしておにいちゃんが私のせいで苦しむのも辛い。だから私はもう死にたいです」
そんなメールを送ってしまいました。
その翌日、彼から珍しく電話が来ました。
「昨日の夜、死にたいとかメール送ったでしょ。うちのかみさんに見られたよ。今朝『怖くてすぐ削除した』って言われたから見ていないんだけど。死にたいとか考えるのもやめてくれる?アナタ死んだら俺は一生、人殺しだよ」

その一言も、冷たく感じました。
彼は、私に死なないで欲しいと思っているわけではないのです。
ただ単に自分が悪者になりたくないだけ。
それだけで私に「死ぬな」と言ったわけです。

私は更に罪悪感と、そして空虚感を感じてしまいました。
彼の妻が、勝手に携帯電話をいじる人であることは聞いていたのに。。。

「おにいちゃん、そんな時間、もう家にいたの?」

「最近は帰りが早いんだよ。それはいいけど、しばらく連絡取るのやめよう。美緒から電話が鳴るとビクビクしてダメなんだよ。胃が痛くなるし」

「もう一生?」

「・・・・・・・・・・。1ヶ月は最低、あけて」

彼と付き合ってから、1週間以上連絡が途絶えたことがありませんでした。
ですから、1ヶ月という期間は非常に長く感じたのです。
そんなに長い間、彼と連絡が取れなかったら私は死んでしまうかもしれない・・・。
不安で不安でたまらなかったのですが、しかし彼は私と関わることで具合が悪くなるのですから。
とにかく、彼の気持ちを落ち着かせることが先決だと思いました。

1ヶ月も彼に連絡できないことが、怖くてどうしようもなかったけれども・・・
Chapter 6 【1ヶ月ぶり】
時の経過は不思議なものです。
1週間が経過し、2週間が経過し、「案外、おにいちゃんと連絡が取れなくても平気かも」と思えるようになりました。
しかし、きっと「一ヵ月後に電話が出来る」という希望があったから、乗り切れただけなのかもしれません。

厳密には1ヶ月と数日経過した8月のある日に電話をしました。
仕事の合間に、ドキドキしながら彼の電話をコールしましたが、留守電になったのでメッセージを入れて切りました。
彼から電話が来なかったらどうしよう・・・
電話したことを、少し後悔してしまいました。
留守電にコールバックを依頼する旨伝えてしまったら、彼からの電話を待ってしまうからです。
来ない電話を待つ間ほど、長くて苦痛な時間はありません。

半分諦めて、仕事の帰り道に、彼から電話が来ました。
実はこの日というのは、特別な日だったのです。
「おにいちゃんの、浮気デビュー1周年の日だよ。覚えてた?」

彼は、照れくさそうに笑っていました。

「新しい彼女作ったの?」

「そんなわけないでしょ」

「よかった・・・。私ね、おにいちゃんに電話する時、すごく心臓がドキドキしたの。あれ?おかしい。今も・・・」

「ほらね、もう俺たち、関わっちゃだめなんだよ。美緒だって俺と話すだけで動悸が酷くなるんじゃ、全然いいことないじゃん」

「いい事?好きな人の声が聞けるのに。おにいちゃん、1年前に戻りたい。まだお互いに思いやりを持って付き合えたときに。お互い好きって言い合えていたときに。軽井沢行ったじゃん?また同じところ行ってやり直さない?私、もうおにいちゃんを苦しめるようなことはしないから。約束する」

「それは、無理だよ。俺はまだ、アナタが手首を切った時のこととか思い出して怖いんだよ。じゃあ、俺、家着いたから切るよ」

「おにいちゃん、また電話していい?」

「また少し期間あけてね」

「分かった。それじゃまたね。」

とりあえず彼は電話をくれたし、今後も、頻繁でなければいいと言ってくれた訳で、それに対して私は少しほっとしました。
しかし反面、やり直したいと思う私とは逆で、やはり彼は私とはもう関わりたくはないということも痛感しました。

初めて彼と結ばれた1年前には、まだ付き合うとは予想もしていなかったし、そして1年後である今にこのようにこっぴどく逃げられる事態に陥ることも予測だにしていませんでした。

あの頃に戻りたい・・・
おにいちゃんと同じ会社で、支え合っていた、まだ恋人になる前に。
私は、車を運転しながら涙が止まらなくなってしまいました。

春に別れ話をした時点で、私は自分を変える努力をしなければならなかったのに、結局それを怠って、彼と交流が持てる関係に甘んじていたのです。
だから、「割り切った関係」として継続できていたのに、それを自覚せずに彼には以前と変わらぬ本気と誠意を求めてしまっていたのです。
彼は私から離れていたのですから、それを求めることで彼が余計に逃げて行ってしまったというのに。

もう、全てが取り返しがつかないことだったのです。

Chapter 7 【エピローグ】
その後も、何度か電話で話はしました。
そのつど「やり直したい」というような話はしましたが、彼も「出来れば関わりたくない」という意思は変わりませんでした。
ここまで嫌われてしまったというのに、まだ彼を好きでいる自分が、情けなくてたまりませんでした。

しかし、彼は新しい浮気相手を作ってはいなかったようです。
まだ私のことで混乱していたのかもしれません。

私以外の女性と、浮気しないで。
常にそう願ってしまいました。
私がこんなに苦しんでいるのだから、私の知らない遠いところで彼が幸せに誰か他の女性と遊んで楽しんで暮らしているとしたら、それは絶対に許せないと思っていました。

あるとき、彼に言われました。
「俺のこと、ホームページに書かないで」

付き合っていた頃、彼には私の全てを知って欲しいと思い、ホームページを教えていました。
また、彼も毎日のように私の日記やエッセイなど、私の言葉を読んでくれていました。
彼は私を知ろうとしてくれていたことをとても嬉しく思っていたし、逆に、彼が自分の話題もたまにはサイト上に出ることを望んでいたこともあったくらいです。
しかし、リアルな話題をサイト上で出すには勇気が要ったし、自分が彼を描いた文章によって気を悪くする部分があったとしたら悪いと思い、それは控えていたのでした。
恋人だった時は、自分の話が一切ホームページ上に出てこないことを寂しがっていたくせに。
それでもたまに日記にぼかして登場させたら喜んでいたくせに。
勝手な男。

別れた後も、私のホームページを見ることがあったのは意外でしたが、しかし私が書くことを否定されたのはショックでした。
確かに、彼と別れた後にエッセイ「依存症」、AC的恋の話「世界で一番好きだったおにいちゃん」で彼のことを描きました。
しかしどこの誰かも特定できない、しかも名前すらも出ていないというのに、それに対して嫌悪感を表明されたことがとても悲しく思えました。

あんなに私の文章力を認めてくれた彼は、今やもう、私のことなどいやな女でしかないのでしょうか。

私は、彼に依存していました。
私が求めるのと同等に、彼が私を愛してくれたから・・・
だから私はどんどん彼の心を信じきってしまったのです。

こんな私を心配してくれて、そして必要としてくれたのはきっと、彼が人生において初めてだったのです。

100%信じきった依存相手を失うことは、本当に辛いことです。
生きた心地がしませんでした。
死にたくも思いました。
夜も眠れませんでした。

私が、悪いのです。
いつでも彼からの愛を求めすぎていたから。
彼からの愛を、僅かでも感謝する気持ちがあったとしたら、何か変わっていたかもしれません。

依存相手を失うことは、本当に苦しいことです。
あったものがなくなるということですから。
何か足りなく、そして大きな喪失感を感じ、心に大きな穴があきます。

生きるうえで必要不可欠なものを失うような、そんな大きな存在でした。

最後に彼と会ってから2年が経ちます。
2年前の今頃、彼に嫌われる行為をしてしまった私は、2年の歳月を経てそれを反省しています。
しかしいくら月日が経ったとはいえ、それがリセットされることはないでしょう。
彼は、一生、私に嫌悪感を抱いて生きていくのでしょうか。

それを考えると、とてつもなく辛いのです。
やり直せなくても、せめて彼とまたゆっくり話を出来る時間さえあれば・・・

彼は、もう私の電話には出てくれません。
そう、もう彼と連絡を取る手段がないのです。

私は、2年経った今でも、人生で一番、心から信頼した人を失った喪失感に苦しめられています。


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