バイバイ、アニキ!

どこまでノンフィクションか、、、それは貴方のご想像にお任せいたします。
固有名詞での登場人物は、もちろん本名ではなく、仮名です。ご了承ください。
※長い文章ですゆえ、接続時間の気になる方は接続を切ってから読まれるか、ファイルを保存されることをお勧めします。

Chapter 1 【彼との出会い】
アニキは、私より後に入社してきた人です。
怖そうな顔をしているクールな人という印象がありました。
私自身、人見知りをする性格なので、そのような人には近づかないようにしていました。

あるとき、飲み会の2次会と言う事で6名くらいで飲みに行ったときに、アニキの向かいの席に座り、話を改めてしたのでした。
「ねーさん、メガネかけているときとかけていないときが別人ですよね」
そんなことを話しかけられてびっくりした記憶があります。
怖いと思っていた人が、少しでも私に興味と言うか関心というかを持っているように感じたのですから。
自分に自信のない私は、自分のことに関心を示してくれる人がいることを嬉しく感じました。

「ねーさんって言いますけど、私の方が年下ですよね?」
「いや、僕の方が一つ下なんですよ」

彼の年を聞いて驚きました。
ふけて見える彼でした。
そしてもっと驚いたことに、さらりと彼はこう言ったのです。
「僕、ねーさん好きですよ」
ビールを飲みながら、ごく普通に。

私は、言葉を失いました。
周りに同僚がいる、しかも居酒屋で「好き」などと言われるとは。

しかし周りの他の人も、普通に会話に参加してきました。
「うんうん、中川さん(仮名)みたいな人ってなかなかいないよね。変わっているというか」

彼の、私を好きといったことから、私への評価のような話題に移っていき、私が会話の中心になってしまいました。
それにしても少し残念というか、早とちりした自分を少し恥ずかしくも思いました。

「好き」と彼が言った意味は、そういう意味ではなく、「Like」という意味だったのか。

私も深く考えずにビールを飲んでいました。
でもせっかく、アニキがたとえ僅かでも私に好意を示してくれたことを嬉しく思い、私も彼に少しだけアプローチしてしまったのでした。
「携帯の電話番号、教えてくださいよ。トラブルあったときに電話していいですか」

自分に少なからず好意を示してくれる男性には、自分からも歩み寄っていきたかったのです。

「いいですよ。どんどん電話下さい」
彼は携帯電話番号の入った名刺をくれました。

Chapter 2 【急接近】
長期出張のホテル住まいをしていた頃、仕事で窮地に立たされた私は、ある日の深夜、誰かに相談したいけれども誰を頼ったらいいのか分からなく、咄嗟にアニキの携帯に電話をしてしまいました。
何度かコールを鳴らしても出なかったので、諦めて切りました。
やはりそれほどまだ親しくない人に、こんな深夜に電話をすることなど失礼に当たると思い直して、眠ることにしました。
しかし心配事で寝るに寝られずにいた時に、アニキからコールバックがあったのです。
信じられませんでした。
少し好きな人になりかけていた人だったので、うれしくもありました。

「ごめん、トイレ行っててさー。何?僕の電話鳴らした?」
「遅くにスミマセンでした。何かね、私、かなりクビになる可能性が高いみたいで。さっき拠点からメールが来てたんです。どうしようって思って・・・」
「何よ、とりあえず、事務所来る?ゆっくり話し聞くから」

かなり動揺していた私は、アニキの仕事している事務所に行くことにしました。
宿泊中のホテルからは徒歩10分くらいでした。
初夏の夜の空気が、とても心地よく感じ、そしてアニキと初めて2人で会うことに少し緊張していました。
この人と話をきちんとするのは、初めてかもしれない、と。

アニキの所属する事務所と、私の事務所は別の場所だったために、初めて訪れる先でした。
「へ〜こういう環境でお仕事しているんですか〜」
ワクワクしながら、深夜の事務所を見渡しました。

「で、どうしたのよ」
アニキは私をイスに座らせ、自分も向かい側の席に座りました。
私は経緯を、混乱しながらも話しました。

最初は相槌を打ちながら聞いていたアニキですが、突然、私のイスを自分に引き寄せ、そして私にキスをしてきました。

私は絶句して、そしてアニキを突き飛ばそうとしましたが、男性の力にかないませんでした。
そして唇を重ねている長い長い間のうちに、私も観念して彼の背中に手を回してしまいました。

私は、こうして自分を抱きしめる人に弱かったのです。
自分に好意を抱いてくれる人を、好きになってしまうのです。


Chapter 3 【キスした翌日】
アニキに話を聞いてもらって、キスをして抱き合ったりした翌日。
私はホテルに帰ったものの結局あまり眠れず、寝不足状態で事務所に出勤しました。
アニキの顔をまともに見れないのも不自然なので、何事もなかったかのように話しかけました。
「今日も仕事、忙しいですね」とかと白々しく。
しかし彼は何となく意識しているようなそぶりで、そっけなくしていましたが、廊下ですれ違った時に
「ねーさん、何でいつもそんなに元気なのさ」
と言われてしまいました。

「元気でもないですよ」
「それで、ですかぁ?」

私はきっと、アニキとの出来事でテンションが上がっていたのかもしれません。
しかし一方でそっけないアニキに、物足りなさを感じました。

自分から近寄ってきたくせに。
ずるい人。
Chapter 4 【彼に彼女が】
長期出張が終了し、私はアニキの所属する事務所と遠方の拠点へ帰りました。

それから1週間もたった後に人伝いに、アニキが同じ部署の女の子と付き合い始めたと聞きました。
面白くないと感じた自分が、アニキを好きになりかけていることに気づきました。

そして再び、アニキの事務所に出張に行ったときのことです。
事務所にアニキともう一人アニキのチームの男性と3人になり、私達は恋愛話を始めました。

「佐藤ちゃん(仮名)と付き合っているんだって?」
私が言うと、アニキは慌ててノートパソコンの蓋をバン、と勢いよく閉めて
「誰から聞いたんですか!?」
と焦ったそぶりを見せました。
もう一人いた男性も「中川ちゃんが知ってるくらいだから、相当有名になっちゃったね」と笑っていましたが、私たちの会社は、社内恋愛が多く、そして皆が誰と誰が付き合っているといううわさに興味を持っていたのです。

「コイツ、中川さんのこと好きって言ってたのにねー」

「いや、私はいいんですけど」

「はめられたんですよ!佐藤から告白されたら断れないっすよ」

「いいんじゃない?アニキもそういえば、佐藤ちゃんのこと可愛いとか言ってたしねー」

私は内心、面白くなかったのですが、表面的にはアニキの社内恋愛を応援しようと思いました。

Chapter 5 【遠距離】
彼女が出来た彼でしたが、たまにメールを交換していた私たちでした。
職場の拠点の人間関係に悩んで辞めたいといつも思っていた私を、アニキは心配して
「愚痴は聞くし応援しているから、辞めないで」
と言い、電話やメールでやり取りをしていたのでした。
また、アニキも彼女との付き合いに結構悩む部分があり、その話をメールで送ってきたりもしました。

あるとき、私が「メッセンジャーとかしないの?」と聞いたことがあったのですが、早速彼はダウンロードしたようで「はじめましたよ」と知らせてくれ、週末にはメッセンジャーをつないで何時間もやり取りをするようになったのでした。

「ねーさん、今度はいつ東京に来るの?」

「最近、経費うるさいから出張行かないように言われているんだよね」

「じゃ、中間地点で会いませんか?」

「またまたー。佐藤ちゃんがいるくせに何言っているの」

「佐藤は、別れるかもしれません。やっぱり合わないんですよ」

「ふーん。じゃ、新幹線乗っておいでよ」

「何だか遠距離恋愛みたいでドキドキしますね」

そんな、他愛もないやり取りでしたが、それでも私はアニキを心の支えとして会社での辛いことを乗り切っていたという感じでした。
一旦は好きになりかけたけれども、遠く離れているし、そして彼女がいる人に、それほど本気で好きとも思わなかったし、この心地よい友情のような感覚が、よかったのかもしれません。
Chapter 6 【私の退職で】
私は、様々な事情から、アニキと同じ会社を退職することになりました。
最後の最後まで、私の愚痴を聞いてくれ、そして味方でいてくれた彼でしたが、私も会社に耐えるのがもう限界でした。
出勤最後の日に、同じセクションだった人たちにご挨拶のメールを送りました。
アニキにも。

翌日、アニキからメールが届きました。
「ねーさん、お疲れ様。ねーさんとは色々あったけど楽しかったよ。会社辞めても友達でいてね。今度会いましょう」

アニキは、彼女と別れていました。
けれども私たちは、友達以上の仲にはなりませんでした。
でも、こうして会社を辞めても関わりをこれからも持ちたいと思ってくれているであろう気持ちに対して、私は嬉しく思いました。

Chapter 7 【口先だけの男】
会社を辞めた転職先で、私は再び東京方面に研修という形で数ヶ月、滞在することが決まりました。
アニキに会おうと思って電話をしてみると、アニキには同棲中の彼女がいると話してくれました。

「土日とか、会う?今忙しいからまた電話するよ。せっかく近くにいるんだし、いつでも会えるしね」
手短に彼はそう言い、電話を切りました。

彼には彼の生活があり、それを壊してはいけないと思った私は、彼からの電話を待つことにしました。
電話が来ないうちに1ヶ月が経ち、私は結局、アニキに会わずじまいで自宅に帰ることになりました。

もう同じ会社でもなくかかわりもない私に、彼もあまり興味を感じなかったのかもしれません。
こんな口先だけの男など、もう関わらないようにしよう、、、と私は思ったのでした。
Chapter 8 【バイバイ、アニキ!】

それから1年が経ちました。
また私は、出張でアニキの会社の近くに行く機会があり、アニキに会いたいと思って電話をしてみました。

「おー、ねーさん、僕、携帯落っことしてねーさんの電話番号分からなくて連絡できなかったんだよ。丁度よかった。何?また東京来てるの?」

「そうそう。アニキ、最近、会社忙しい?あまり早い時間には会えないけど、夜中12時ごろから飲まない?」
金曜の夜だから、遅くても大丈夫かと思って無理そうではあるけれども提案をしてみました。

「おせーなー。ま、いっか。一晩付き合わせてもいいの?」

「いいよいいよ。朝まで飲もうよ。久しぶりなんだし」

日にちと待ち合わせの時間の約束をし、私たちは電話を切りました。

本当かどうか分からないけど、携帯を落とせば確かに彼から私へ連絡をすることが出来なかったはずです。
それから、彼が本格的に私と会う約束をしてくれたことが嬉しく思えました。

そして約束当日。
約束の場所に、私は10分遅刻をしてしまいました。
駅に、彼の姿はなく、彼に電話をしました。

「アニキ、今どこ?」

「どこじゃねーよ!電話しても圏外だし。何やってんだよ」

「ごめんごめん。携帯入らないとこにいてさ。タクシー飛ばしてきたんだけど」

「俺、電車乗って家に帰るところだよ、もう」

「うそ!? 下りてこっち戻ってきてよ」

「冗談じゃねーよ。もう帰るよ。また今度ね。じゃ」

そう言われ、電話を切られてしまいました。

私は、唖然としてしまいました。
遅刻するのに事前に電話を入れなかった私が悪いのです。
しかし、10分程度しか待たずに帰宅しようと電車に乗り、引き返してもくれない彼に心の狭さを感じてしまいました。

私も悪かったけれども、せめてもう少し待っていてくれたら。
それか、電話が通じた時点で電車を下りて戻ってきてくれたら。

私はその場で、携帯電話に登録していた彼の電話番号を削除しました。
私が、彼にもう電話を出来ないように。

そうでもしないとまた、私は彼にきっと電話をしてしまう。
そしてまた彼に傷つけられる。

彼はきっと、私が好意を持っていることを知っているはずです。
だから、軽くあしらっても平気だと思っているのかもしれません。
或いは、彼自身が私にそれほどの好意を抱いていないのかもしれません。

いずれにしても、私は彼ともう関わるべきではないと感じました。
元々、自分からキスしてきたくせに。
2人の気持ちのタイミングがきっと、合っていなかったのかもしれません。

とにかく私たちはもう、あの頃にキスをしたり夜中に電話やメールで語り合った2人ではなかったのです。

バイバイ、アニキ。

私は、自分で自分のプライドを守るために、彼への連絡手段を断ちました。
きっともう、一生、彼に会うことはないでしょう。
会社というつながりはとっくになくなり、最後の砦であった通信手段もなくなったわけですから。

一生の間に出会える人の数などたかが知れているから、少しでも多くの出会いを大切にしたいし、そして出会った人との関わりは大切にしたいと考えていました。
けれども、彼にこれ以上関わったら、またきっと私は傷つけられる恐れがあると感じました。
私は、私を適当にあしらう人間などと関わってはいけないのです。
極度に傷つき落ち込みやすい私は、未然に自分の身を自分で守らなければならないのです。

そう、アニキは、私を傷つける存在であったのかもしれません。


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