プラトニックな恋

どこまでノンフィクションか、、、それは貴方のご想像にお任せいたします。
固有名詞での登場人物は、もちろん本名ではなく、仮名です。ご了承ください。
※長い文章ですゆえ、接続時間の気になる方は接続を切ってから読まれるか、ファイルを保存されることをお勧めします。

Chapter 1 【彼との出会い】
高校を卒業して勤めた会社に入社して2年近くでやっと親元から逃れて友達との同居生活を始めた私は、自由時間がある割りに金銭的に苦しい状況となりました。
たかが知れている給料の割りに、自活。
それだけでも同年代の女の子と比べたら苦しい経済状態なのに、車のローンも残っていたしその車にかける保険料すらも経済状態を圧迫していました。
せっかく門限や親のうるさい監視がなくなって晴れて自由の身になったと言うのにお金がなくなって、毎週通っていたディスコや飲み屋通いも出来なくなったのにはかなりのストレスを感じ、自活生活1ヶ月で、私は水商売のバイトを始めることにしたのでした。

それまでの私は、水商売に偏見を持っていました。
性的な部分にトラウマがあるせいでしょうか。
女を武器に仕事をするなど汚いことだと言う偏見があったのです。
しかしそういう世界に自分が飛び込むことで、はじめは嫌悪感も持っていたものですが次第にそれが麻痺していくようになります。

仕事をしながら夜のバイトですから、週末2回しか入らなかったバイトですが、そのうちにバイトにも慣れ、そして店長や社長から
「レギュラーになってよ」
と言われ、自分も収入を増やしたいばかりに昼間の本業を抱えつつも、水商売をも本業とするようになってしまったのでした。

その頃に出会ったのが、東京でリストラされて帰省している時に私の勤めるグループの店に入店したという、ボーイの小橋君でした。
Chapter 2 【可愛いボーイ】
私もまだまだ、初々しいホステスでしたが、小橋君よりは一応、数ヶ月でも先輩。
私より年上の小橋君は、私にも敬語で話しかけてくれるようになりました。
グループのお店ですから、同じビルの他のお店で働く彼でしたけど、エレベーターでばったり彼に会うと何となく嬉しい気持ちになっていました。
しかしその時期、私には好きな男性がいたものですから(ただの依存かもしれません)小橋君のことを男性としてみていたわけではなく、ただ単に自分と同じ、水商売初心者である彼の存在がほっとできるものと感じていたのです。
何ヶ月経っても、お店のホステスと仲良くなっても、所詮、私はお店に壁を感じていました。
水商売のプロのホステスたちと違って、私は昼間も別の本業を抱える身。
ですから他のホステスのようなプロ意識に欠ける自分、そしてそれほど美人でもない自分に自信がなかったのです。
そんな「水商売素人」の私にとって、自分と同じように水商売に入ったばかりの初々しいボーイの小橋君の存在は「同士」のようなものだったのです。
Chapter 3 【クリスマスのキス】
世間ではクリスマスイブと言う日。
お店が閉店してから、お店のホステス、店長、小橋君、社長と忘年会に行きました。
クリスマスイブですから、1人減って2人減って・・・最後に残ったのは私と小橋君、そして2人のホステスと店長の5人だけとなっていました。
そして最後のお店を出て、解散した時に最後に私と小橋君は小橋君の車を止めている駐車場の前で他愛ない話を立ち話していました。
2人はまだ飲み足りなかったのでしょうか。
本当に他愛のない話をし、そして小橋君が突然、高い身長を折り曲げて私にキスをしてきました。
驚きましたが、私もそれに応える形で、長い長いキスをし、唇が離れた後はしばらくの間、抱き合っていました。
言葉を交わすでもなく。
空が明るくなりかけていた、冬の寒い日のことでした。

「ドライブでも行かない?」
小橋君はそう言ってくれましたが、残念ながら私は本業の仕事の出勤時間が迫っていたためにそれを断らざるを得ませんでした。

それまでは何とも思っていなかった彼のことを、私はふとした合間に思い出してしまうようになってしまいました。
Chapter 4 【付き合いませんか】
小橋君に恋心を抱くようになり、しばらくが経ちました。
あるとき、私と仲のいいホステスは、車で通勤している小橋君に送ってもらおうと目論見ます。
雪の降る、深夜の出来事でした。

「小橋君、忍ちゃん(同僚ホステスの源氏名)送ってあげて〜」
小橋君は、自分のクラブが閉店した後に、私たちのお店にやってくるのが日課でした。
下っ端の彼は、社長のいるこの店に、経過報告などをしに来るのです。

「忍ちゃんって、えらい家遠いでしょ?」
小橋君は嫌な顔をしました。
しかも雪が降っているし。
そして彼が言うとおり、忍ちゃんは車で1時間かかる場所から通っています。
彼女はいつもは友達の家に泊まったりをして、始発電車を待つなどして上手に通勤をしていたのですが、その日はたまたまその宿泊先の友達が都合が悪かったのです。
そこで私は、彼女を送ると言うことを提案したのでした。

「だって帰れないんだよー。可哀相じゃない?で、最後に私も送ってね!」
クリスマスにキスをしてから、何事もなかったかのように接していた彼に、私は再アプローチをしようとも思ったのです。
突然キスをしてくるくらいだから、彼は私に好意は持ってくれているだろう、とうぬぼれてもいました。

そして雪の降る中、酔っ払い女ふたりを乗せた車を運転してくれた小橋君。
家の近い私よりもまず、忍ちゃんを送り届けました。
しかし2人きりになってからも、なかなか核心に迫れません。
他愛のないおしゃべりをしているうちに、私の住むマンションまで着いてしまいました。

軽自動車の狭い車内で、彼にキスをすることは簡単なことでした。
彼もそれに応えてくれたように感じます。
しばらく触れ合ってから、思い切って私は告白しました。
「小橋君、付き合おうか?」

それまで心から満足した恋人がいたことのなかった私です。
男性から告白されたことも経験がありませんでした。
どうせ言ってもらえないのだから、自分から言ってみよう。
思い切った決断が良かったのかもしれません。

小橋君は再び私に軽くキスをして言ってくれました。
「付き合おうか」

Chapter 5 【初々しい恋人】
「付き合う」という宣言を言葉で得られて、心が満たされた気持ちになった私は、水商売のバイトに出勤することが楽しみとなりました。
時間がなかなか合わないためにデートが出来ない二人でしたが、閉店後に少し顔が見れて、話が出来るだけでも良かったのです。
小橋君のことを好きになり始めていました。

しかし、一応「社内恋愛禁止」をうたっているお店です。
私たちは、交際を隠すべきか上に報告すべきか悩んでいました。
と言うのも、社内恋愛禁止と言う割りに、社長の愛人も同じグループにいるのです。
社長がやっているのだからいいでしょ、それに私と小橋君は同じ店舗と言うわけではないし。

「大体、付き合っていることを隠すなんて美緒ちゃん(仮名)に失礼だよ。俺、ちゃんとみんなに話すから」

その堂々とした彼の主張に、益々私は彼を好きになっていくのでした。

案の定、私たちが付き合っていることが店内・グループ内に広まったところで、何も問題はありませんでした。
彼と私が付き合いそう・・・ということはみな知っていたし、二人共水商売に染まりきっていないことでお似合いとも言われたし、そして社長や店長にからかわれるようにもなりました。
そのように、周囲に2人が付き合っていることを認知してもらえたことを、私は「祝福されている」と感じ、とても幸せに思いました。

Chapter 6 【ヤキモチ】
商売柄、お客さんと同伴したり、お店で少しお客さんと触れ合ったりしていた私ですが、時折、営業中に顔を見せる小橋君のチェックが入るようになります。
「あのさ、一応、俺と付き合っているんだから、必要以上にお客さんと仲良くしないで」
「小橋君だってお店の女の子と仲いいじゃない。私なんかよりもいっぱい話しているみたいだし」
「それとこれは違うでしょ。お店の子達は、みんな美緒ちゃんのこと知ってるんだよ」
「知ってたって、小橋君のことを好きな人がいるかもしれないじゃない?私、小橋君のお店に行くと睨む人がいるんだよ」
「誰?」
「そんなの言えない。余計何かされたら怖いもん。とにかく、私が一番好きなのは小橋君なの。お客さんは、商売相手としか思っていないから」

私は、一番好きなのは小橋君だから、それで許されるものかと思っていました。
どんなにお客と親しくしようとも。

小橋君ともめた後に、今度は店長からチェックが入ります。
「美緒ちゃんさ、やりすぎじゃない?俺もお店のコと付き合ってたことあるけど、彼女にはお客と仲良くされるとすごく面白くないものなんだよ」
「そうだったら嬉しいけど・・・小橋君、本当にそこまで私のこと好きなのかな?」

男性から本気で愛されたことのない私は、小橋君が本当に私にヤキモチを焼いているのかどうか、信じられませんでした。

社長からは「美緒ちゃん、いい仕事するようになったじゃない。チーママも目前かな」と言われていたわけですから、彼氏がいるからと言って、中途半端な、そう、水商売を始めたばかりの頃のような中途半端な意気込みでお店で働くことはもう出来なかったのです。

小橋君のことは好きだったけれども、お店も好きになっていました。
なにぶん、昼間のOLとしての本業の倍は稼げていたわけですから。
もらえる金額分の仕事はしなければならないという使命感に燃えていました。



Chapter 7 【別れ話】
OLをしながら、水商売のバイトをしていた私は、唯一、完全に休める日曜日だけが睡眠時間確保の出来る曜日でした。
そのようなわけで、平日は疲れ果てていたし、土日も同様で寝ているだけで時間が過ぎ去っていました。
小橋君とも、お店で顔をあわせて、少し気分的に余裕があるときは閉店後にご飯を食べに行ったりはしましたが、とにかくデートと言うデートは出来ていませんでした。
また、私は友達とマンションに同居していたために彼を部屋に連れ込むと言うこともあまり出来なかったので、遂に1人暮らしをすることを決意しました。
お店から歩いて帰れる距離の繁華街へ。
そしてベッドも、彼と一緒に眠れるようにダブルベッドを購入しました。
彼とあまり会う時間が取れなくても、半同棲生活が出来れば、一緒に過ごす時間は増えるし、夫婦みたいに暮らせると思っていました。

しかし引越し後、しばらくすると彼はあまり私のマンションに遊びに来なくなりました。
合鍵を渡していたにもかかわらず、閉店後は私のマンションに寄ることもなく、車で1時間もかかる自宅へ帰っていくのです。

そして「話をしたいから家に来て」という私の要望に応えて来てくれたときは、別れ話を持ち出されました。

「美緒ちゃん、いつも疲れて寝ているんだもん。セックスだって尽くしてくれないし。俺が部屋に来た時も、料理とか作ってくれないし。付き合っている意味がないと思うんだよね」
そう言い、小橋君は合鍵を私に差し出しました。

「これは、私が小橋君にあげたものだから、受け取れない」
そう言い、カギを押し付けましたが、私は言われたことに対してショックでたまらなくなり、涙が止まらなくなってしまいました。

今まで、健全な恋愛をしたことがなかったので、私はどうしたらいいのか分かりませんでした。
それに加えて毎日疲れていることを言い訳に、彼に尽くすことがなかった・・・。
それでは、彼の恋人を名乗る資格などなかったのです。
彼に言われて、初めて知りました。

「私の、気に食わないところをもっと言って。それ全部直すから。直すから、別れるなんて言わないで」

「言ってから直すようじゃ、遅いんだよ」
彼は冷たく言い放ちました。
欠点は、指摘されなくても直せるものだ、と。

「せっかく小橋君と少しでも一緒に過ごしたいと思って、引っ越したのに。しかもお店の近くに」

「それは美緒ちゃんの勝手でしょ。それから俺、ずっと言わなかったけど・・・美緒ちゃんが好きな人、たまにお店に来るでしょ」

「何それ。私が好きなのは小橋くんなのに何を言うの?」

「女の子たちが言ってたよ。美緒ちゃんの初めての相手の人。その人のことずっと好きで、今でも会ってるんでしょ。その人連れ込めばいいじゃん、この部屋に」

確かに彼の言うとおりでした。
私には、忘れられない人がいました。
今思うと、ただの共依存だったのかもしれません。
その彼は、水商売を始めたというと、たまに友達を連れて飲みにきてくれたのでした。
私に会いに来たのではないのかも知れません。
ただ、面白いお店を探している時に丁度、知っている私がいた方が何かと便利だしと言う、単純な理由で飲みにきていただけなのかもしれません。
しかし飲みに来てくれていた日の閉店後には、大体、お店の女の子を連れて彼らと更に遊びに行っていました。
そう、お店の女の子の中で、私を裏切って小橋君にそれを密告してくれた人がいたのでしょう。

「その人は、来月には地元に帰るからもう関係ない」

「そんなことを言われても、俺にも関係ないよ。とにかく、俺はもう美緒ちゃんと会う気はないから」
冷たくそう言い、彼は部屋を出ようとしました。

「待って!今までのことは全部謝るから。悪いところも全部直すし、小橋君の理想の女になれるように頑張る。だから、もう一度チャンスを下さい」
私は小橋君の目の前で土下座をしました。

「こんなことして恥ずかしくないの?」
彼は私に見向きもせず、部屋を出て行きました。
哀しくて哀しくて、私は彼を追うことも出来ず、その場にうずくまって泣きじゃくりました。

こんなにこっぴどく男に捨てられたのは、生まれて初めてだったかもしれません。
そして土下座をしたのも。


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