世界で一番好きだったおにいちゃん

エッセイ「依存症」でもお話した、私が人生で一番深く愛した男性のお話をします。
過去に共依存的な忘れられない男性の存在を私の中でくつがえした、大恋愛をしていたときのお話です。
どこまでノンフィクションか、、、それは貴方のご想像にお任せいたします。
固有名詞での登場人物は、もちろん本名ではなく、仮名です。ご了承ください。
※長い文章ですゆえ、接続時間の気になる方は接続を切ってから読まれるか、ファイルを保存されることをお勧めします。

Chapter 1 【第一印象】
長期の出張のときでした。
彼「おにいちゃん」と初めて出会ったのは。
別の部署から異動してきた彼を最初に見たときは「真面目そうできっと仕事も真面目にするんだろうな。話も合わなそう・・・」と思い、できれば近寄らないようにしようと思っていました。
インテリっぽいメガネをかけていたのも取っ付きにくさをかもし出していたし、一番私が「げ」と思ったのは、結婚指輪をこれ見よがしにつけていたからでした。
自分を棚に上げて、私は結婚指輪をはめている男性は好きではありません。
これには賛否両論ですが、「いかにも家庭を大切にしてます」というような男性は私個人としては好きではありませんでした。
そんな最悪な第一印象の彼でした。

また、おとなしそうな人でしたから、全然話をした記憶もありません。
飲み会で隣りに座って写っている写真がありましたが、そこでも話した記憶もないほど、私の中では「おにいちゃん」の存在はないに等しいものでした。
Chapter 2 【恋の予感】
しかし仕事で関わる以上、上司に対して好き嫌いは言っていられません。
長期の出張が終了し、地元に戻った私は仕事の相談をする相手が身近にいなくて心細い思いをしていました。
パートナーは私が仕事で精神的ダメージを受けるのを心配し「そんな会社は辞めろ」と言うので、彼にも辛い思いを隠しているしかなかったのです。
ですから仕事の都合でよく電話を掛けてきた「おにいちゃん」に、次第に私は心を開き言いたいことをズバズバ言うようになっていきました。
どちらかというと好きでもなんでもない男性には遠慮なく思ったことが言えました。
愚痴から始まり、仕事の文句。
おにいちゃんは優しく聞いてくれました。
頼りなさそうだけどいい人。
出張中は全然興味がなくて敬遠していた人だけど、電話や社内のメールでは段々打ち解けていくようになりました。

そしてある日、上司から、おにいちゃんがこちらの地元に来るから一日案内するように言われます。
祝日でしたが、出勤の日でした。
天気の良い祝日。
駅に彼を迎えに行き、車でご案内をしつついろいろなことを話しているうちに、おにいちゃんを「ちょっといいかも」と思い始めるようになってしまいました。
愛妻家イメージの彼だったのですが、実はそうでもなかったり。
「お金さえあったら外でもう一度恋愛がしたい」なんて危険そうなことを言っていたり。
指輪もその時はもう、していませんでした。
「案外、危険な人かもしれない」
そんな風に彼を見なおした一日でした。

そしてその夜、上司と彼と3人で仕事の打ち合わせをしたのですが、そこで私は自分の地位の危なさを実感しました。
上司によく思われていないようだったのです。
しかし打ち合わせ中に、その上司と以前、本社で一緒に仕事をしていたという彼が、私をかばってくれました。
本当に仕事では辛いことが度重なったので、仕事をいい加減辞めるかもしれないと考えていましたが、彼が私を助けてくれそうに感じて、もうちょっと仕事をがんばってみようかなと思ったくらいです。

「帰り遅いし出張あるし、休めないし、仕事もキツいから近いうちに辞めるかも」
とグチったのですが、彼は
「つらいことは何でも言って。本社で出来ることは助けたいし、美緒(仮名)さんにはもっとがんばって欲しい」
そう言ってくれたのです。
まーそこまで言ってくれるならばがんばってみようかな、などと考え直したのでした。

そしてそれから3週間ほど経った夏の暑い日。
私は東京へ出張へ行きました。
日曜日に出発して3泊で。
「日曜日は誰も出勤してこないけど大丈夫?」
とおにいちゃんはしきりに心配してくれましたが、彼がどうしてそんなに心配してくれるか全然分かってませんでした。
翌日に出勤してくるなり
「昨日はごめんね。出勤できなくて」
と言ってくれる彼にも、疑問でした。
逆に
「家族サービスの為に日曜なんて仕事出られないくせに。大きなお世話焼かないでください」
とまで思いましたし。

その日の夜、彼と二人で飲みに行くことになり、またそこでもかなり語りました。
仕事のことや恋愛の話など。
時間を忘れて飲みすぎて、遂に二人は過ちを犯してしまいました。
第一印象最悪で興味もなかった人とこのようなことになるとは不思議な感じでしたが、「たった1度の過ちで済むだろう」とは思っていました。
何故ならお互い離れていたし、やはり同じ会社で同じ部署というからには社内恋愛になってしまうだろうし、そうなると後が厄介になると思ったからです。
彼はどう考えていたかは分かりません。
とにかくお酒の勢いで間違いを犯したとしか私は思えず、翌日も非常に気持ちは醒めていました。

私が地元に帰る日も、休暇だったらしいのですがわざわざ私が帰る前日に電話をよこしてきて
「駅まで送らせて」
としつこく言ってきました。
何回も「結構です」と断ったのに。
「俺が送りたいの。送らせて」と言うので、そこまで言われて断ることなど出来ませんでした。
駅まで荷物を持って送ってくれたのは助かった面もありますが、正直、そこまでして欲しくなかったわけです。
たった1度の過ちを犯した相手にそこまで関わってもらってもどうしたらいいか分からなかったものですから。
前に「浮気をしてみたい」と彼は言っていたのを私は何となく記憶していました。
単なる浮気相手として、軽々しく見られていたことにも正直、腹が立ってなかったと言えばウソになります。
そんな訳で、彼が見送ってくれる中、新幹線のドアが閉まったときは本当にほっとしました。
これでもう二度と彼に会うことはないだろう、と。
東京の出張ももう予定がなかったし、やっぱり近いうちに会社を辞めようと考えていたので。
別れ際に彼にも言いました。
彼は「辞めてからじゃなくて辞める前に教えてよね」と言っていましたけど。
どっちだっていいじゃん。。。と冷たいことを思ってしまったくらいです。

その後に仕事の件で彼に電話をしてもやたらそっけなく冷たい対応をされるようになりました。
関係があったオンナがいると意識してやりにくいのでしょう。
中学生が、好きなコを意識して避けるのと同じような感覚です。
避けられる方はたまったものではありません。
しかし一方、電話の冷たい対応と反比例するように、社内メールのやり取りでは彼の優しさが伝わってくるようになりました。
業務連絡の一部に雑談をいれてくれるようになりました。
あまり遊びなれていないような彼です、きっと私への対応に戸惑っていたのかもしれません。

そして仕事抜きで電話で話す機会がありました。
彼は仕事の帰り、私も遠方に車で来ていてその運転中でした。
他愛のない話をし、ひょんなことから「二人で旅行に行こう」という流れになったのです。
しかし私は当時、休みもロクにとれない状態でしたので「いつ行けるか分からない」と答え、彼に「あ、実は行きたくないんでしょ」と言われました。

違う違う。本当に休めないからそう言っているのに。

いつしか私は彼の気持ちをこちらに向けたい、離したくないと思うようになっていたのです。
そして長い長い運転の末、家の近くに着いたものの、彼と電話でつながっている時をもっと共有したくてしばらく家の近くに車を止めたまま彼にはそれを悟られないように電話の会話を続けていたのでした。
Chapter 3 【今までで一番スキ】
長い計画の末、私達はとうとう再会することが出来ました。
会えない間に私も彼も仕事でいろいろなことがありましたが、それを払拭させられるほど2日間の旅行は幸せでした。
不思議な二人です。
体の関係から始まったのに、気持ちはお互いにおそらく真剣なもの。
しかも愛の告白も何もないのに二人は何時の間にか付き合っていたことになっていたのですから。

過去にどうしても忘れられない男性がいた私ですが、その人以上に彼を愛し始めたことに気づきました。
そして自分と同じ位の愛を返してくれる彼の気持ちを、たった2日間の間で確信できたのです。

一日に何度もマメに携帯メールを送ってくれたり電話をかけてくれたり。
自分が本気で好きになった男性にここまでよくしてもらった経験が余りなかったので、本当に幸せでした。
支えてくれる人がいたからこそ、辛い仕事もがんばれたのです。
メールを送れば返事をくれるし、声が聞きたいと言えば電話をきちんとくれる。泣きたいときには泣かせてくれる。
心地良い安心感がありました。

しかし時が経つにつれ、この幸せは長続きしないのではないか、、、と不安を感じるようになります。
自分が好きになりすぎたことによって彼に逃げられるのではないか。
このままだと自分の人生丸ごとを彼に依存してしまうときが来るのではないか。
逃げられてから辛い思いをするならば、今のうちに歯止めをかけた方がいいかもしれない。

「離れているのが、こんなに辛いとは思わなかった。
すごく好き。
でも私の気持ちが重すぎてイヤだったら、今のうちなら逃げていいよ。
でも逃げるときは、ハッキリ言ってね。」

こんなメールを送りました。
二人の仲が順調なときにこんな内容のメールを突然送られてきっとおにいちゃんはビックリしたと思います。
いいえ、ビックリしたと言うよりもピンとこなかったのかもしれません。

「しつこいようですが、美緒(仮名)が大好きです。
決して逃げはしません。
今後も好きでいさせてください。」

返事を読んで私は泣いてしまいました。
こんなに私を想ってくれる人がいるなんて。
こちらから気持ちが重くなることを予告しているのに、それでも逃げないと言ってくれている。
私はますますおにいちゃんを信じるようになっていきます。
「逃げない」と言ってくれたおにいちゃんを信頼し、私はどんどん彼に甘えるようになってしまいました。
言いたいことを前にもまして遠慮せずにどんどん言ってしまう。
それが原因でケンカになったこともあります。

「やっぱり所詮、アナタは家庭のある人。私自身もアナタを信用しすぎるのが怖いしこれからは割りきった体だけの付き合いでいけばいいんじゃないですか」

そんなメールを送ったこともあります。
信用しすぎた結果に、彼に去られるのが怖かったのです。
だから今のうちに、自分の気持ちが彼から離れたスキに、別れておいてしまえば傷つかなくて済むと考えました。
しかし返って来た言葉はそれを否定するもので、私はますます彼の真剣さを信じるようになるのでした。

「正直なところ、美緒(仮名)が言う『表面上の付き合い』『体だけの付き合い』『適当な付き合い』というのをうまくやっていく自信はありません。これらの言葉を聞くたびに心が締め付けられる想いでした。
気持ちがこれだけ入ってしまったのに、そんな割り切り方をできるほど恋愛の経験を積んでないんです。」

私達は何度もぶつかりました。
だけど必ずおにいちゃんが最後には謝ってくれました。
だから私も彼の愛を実感し、素直になることが出来たのです。
遠距離でなかなか会えないからこそ、電話やメールの文章という顔の見えないやり取りで意見の相違がかなり出ました。
しかし、その都度仲直りをすることが出来、私はそのたびに二人の愛は深まっていると感じるようになります。
こんなに深く心が結びついてると実感できた相手は、おにいちゃんが初めてでした。
言いたいことを遠慮なく言っても私から逃げないでいてくれる。
辛いとき、寂しいとき、泣きたい時をちゃんと感じ取ってくれて、遠いところから心配してくれる。
いつでもと言う訳にはいかなかったけれども、声が聞きたいと言えば声を聞かせてくれたしメールだって送ればきちんと返事をくれる・・・そんな相手は初めてでした。
相思相愛という経験を、産まれてはじめて実感できたような気がしました。

Chapter 4 【致命傷】
「おにいちゃん」と付き合って数ヶ月、ずっと仕事を辞めようかどうしようか悩んでいました。
仕事は好きだったし、おにいちゃんと同じ会社ということで相談も沢山出来たのはよかったのですが、そろそろ精神的に限界がきていました。
社内で中傷メールを流されたりしていたことで、私は仕事の失敗を夢でうなされるようになったのです。
円形脱毛症も止めど無く発症しました。
おにいちゃんが支えてくれて続けられたものの、遂に私はリストラをされました。
リストラと言う名の栄転。栄転と言う名目のリストラ。
おにいちゃんのいるグループの会社に出向の辞令だったのです。
受けようかどうしようか本当に迷い、一時は辞令に応じたのですが、結局、退職することにしました。

「アナタは教える仕事が向いている」
そう言ってくれたおにいちゃんの言葉を信じて、方向の違う職種に転向してまで会社にしがみつきたくなかったのです。
悔しくておにいちゃんの前で沢山泣きました。
泣きながら、泣かせてくれる人がいてくれることは幸せなことだともわかっていました。

退職が決まって次の仕事が決まるまでの間、非常に精神的に不安定な時期が続きました。
収入がなければおにいちゃんに会いに行く資金も出来ないし、一番不安だったのは、それまで多忙だった時間が急に暇になり、時間を持て余すようになったことです。
家に一日いて、携帯ばかり見つめるようになります。
その頃はおにいちゃんも忙しかったので、二人が付き合い始めたときに比べれば連絡の頻度も激減していました。
それを必ず彼は「寂しい思いをさせてごめんなさい」と謝ってくれましたが、幾度に重なるケンカも加えて、彼に去られてしまうのではないかと私は不安になっていったのです。

ある日、ほんの些細なことで急に不安定になり、リストカットをしてしまいました。
ほんの浅い傷を入れれば気が済む私ですから、それですっきりしたわけですが、バカなことにそれをおにいちゃんにメールで報告してしまったのです。
すぐに電話が来て「もう二度としないって約束して」と怒られてしまいました。
だけどそれだけ真剣に想ってもらえたような気がして、それも嬉しかったのです。
その後に「世界で一番キミがスキ」とメールが届いて、泣いてしまいました。

しかしその頃、おにいちゃんに対して自分の気持ちが醒めていくのを感じていました。
このまま仕事が見つからなかったら彼とも会えない。
彼は私には会いに来てくれる努力もしてくれない。
でもそれも仕方ないかも・・・と思えるようになります。
今までは彼には何でも報告していたのに、仕事の面接と言うオオゴトを、行くまで彼に黙っていたくらいです。

度重なる意見の相違、価値観の違いに私は疲れていきました。
自分の気持ちがフェイドアウトしている隙に、別れれば辛くないだろうと考えるようになりました。

それなのに、彼が愛をくれるから。
自分を追いかけてくれる人を無下には出来ませんでした。
「世界で一番好き」だと言ってくれる人を捨てることなど私にはできませんでした。

この選択が実は間違えていたのです。
この同情心が、自分自身の首をしめる結果になるとは、つい最近まで気づきませんでした。

ある日、メールで私達は大喧嘩をします。
発端はほんの些細なことでした。
妻に引け目を感じて、義理で夜の夫婦生活をしたり、携帯電話を妻に見られるなどプライバシーがないことや夜に電話できないことなどを、私が責めてしまったのです。

「 仮にオレと美緒(仮名)が夫婦で、やっととれた休みの日にオレが
何も言わずに1日家を空けたらどうよ。
おもしろくないだろうし、何か疑わない?
自分は家に残されて、悪ガキと格闘しなきゃならないんだからね。」

私には子供がいないのに。
おにいちゃんの奥さんは、おにいちゃんの「妻」という正式な立場と、そしておにいちゃんの子供を持っている。
私には手に入れられないものを二つも持っていると言うのに、どうしてそんな人をかばうのか。
私は頭に血が上ってメールでかなりひどい暴言を吐いてしまいました。

「これって自業自得だと思うの。
魅力がないから、浮気されるんじゃん。
だから百歩譲ってそういうシチュエーションになったと仮定しても、
私はあなたを責めず自分を反省しますよ。

私は男の浮気に関しては寛大なんです。
自分が妻である立場ならね。
他の女の人や、心の狭いおたくの奥さんと一緒にしないで。

だいたい夫に浮気されるなんて、飽きられてる、女としての魅力が
ないって証拠でしょ。
そんなの自業自得だと思うし。
夫に夢中でいてもらうことも、妻としての仕事だと思うわけ。
それを怠るならば、夫がよそにもっと魅力的な女性を作っても
とがめる権利などなし。
夫を疑ってる暇あるなら自分を磨くべきだ。

おにいちゃんは浮気していることに罪悪感を持っていると思うけど、
何事も人生、理由あっての結果だからね。
おにいちゃんだって奥さんがパーフェクトな女性だったら、こんな
私なんか相手にしてなかったでしょうし。

私の気持ちが離れようとしているうちに、本当に離れた方が
いいんじゃない?
あなたには、本当に体だけって割りきれる女性の方が
合っていると思う。
しかも近場のね。

私は気持ちが真剣過ぎて、重いでしょ。
おにいちゃんには合ってなかったんだよ。
体も気持ちも。」

文章で傷つけ合いました。
ここには表現できないほど、もっとひどい言葉を私はメールで送ってしまいました。

ケンカをしてもまた彼が謝ってくれて、そして二人の仲はまた一層深まると甘いことを考えてしまっていたのです。
ひどい言葉を文章で送りつけてしまった私に、珍しく彼も更にヒートアップして反論してきました。

そして彼の出した結論に、私はショックで夜中だと言うのにパニックになり、眠れなくなってしまったのです。
「結局二人は合わないと思う。
少なくともあなたにとって私はマイナスになるようだ。
私の考えは偏りすぎでしょうか?」

彼に捨てられる、とその時本気で思いました。
優しい彼がひどい言葉を文章化するなんて、それだけ私が彼を追い詰めたということです。
罪悪感と、それからどうしたら彼の気持ちを自分に再び向けられるかという思いでいっぱいになりました。
彼を失うことなど考えられなかったのです。

とうとう一晩眠れず、そのままボンヤリした頭で、彼に謝罪のメールを送りました。
そして「きちんと言葉で謝りたいから仕事の合間ができたら電話が欲しい」と。
彼は電話をくれました。
お互いに謝りました。
私の言葉が余りにひどすぎて、それで彼も興奮してしまった、と。
その後私は安心して眠ることができました。

しかし表面上、解決したように見えましたが実はそのケンカが、彼の気持ちに戻ることのない亀裂を生じていたのです。
Chapter 5 【永遠にさようなら】
私はケンカして仲直りするたびにどんどん、彼を信用していくようになりました。
しかし、おそらく彼は私と逆だったのでしょう。
意見の相違点を頭の中に箇条書きとしてインプットし、遂にそのキャパがあふれたのだと思います。

「俺は逃げないよ」といつか言ってくれたおにいちゃんに、遂に私は逃げられてしまいました。
私の気持ちが重すぎるのだそうです。
自分には私を幸せにできないから、と言われました。
私はおにいちゃんに幸せにしてもらおうと思っていたわけではなかったのに。
私はただ、日々の報告をしたり同じ時を共有できればそれだけで十分だったのに。

彼は私と別れても、また浮気はするだろうと言っていました。
だったら他の人じゃなくて私でいいじゃない。
「割りきった体だけの付き合いだけでもいいから」
私は彼にすがりました。
「本当にそれでいいの?」
重すぎる私の気持ちが、そんな虚しい関係で満足できるとは思えなかったのでしょう。

しかし私は過去にもそう言う経験はいくらでもあります。
逆に言うと、心から愛した人と結ばれたことなど殆どなかったのですから。
体だけの付き合い、という男性関係には慣れていました。

彼と別れてから、1回、私達は会いました。
その時に「休みの日は本当は子供と遊びたい。今日は罪悪感を感じて家を出てきたんだ」といわれました。
本当は、彼はこんなこと言いたくなかったと思います。
だけど私がそう言わせてしまったのです。
何でも真実を追究してしまう私が、いけなかったのです。
言われてから言葉が返せなくなりました。

私は彼に会うのを楽しみにしてきたのに、彼や彼を取り巻く人たちを巻き込んで不幸にしている。
自分だけ浮かれて何をやっているのだろう。
彼が罪悪感を感じたのと同じ位、自分にも罰を与えなくてはいけない。
そう思って私はトイレに入るフリをしてリストカットをしてしまいました。
何本かの線から血がにじんできたのを見て気が済み、私はスッキリしました。
これで1人で浮かれていた私にも罰を与えたから、許してもらえる?

ところが今度はトイレから戻らない私を心配して彼が見に来たのです。

「しばらく戻らないからまさかと思ったら・・・」
床に座り込んでそばに転がっているカミソリを見て、彼は動揺したようです。

私はこんなにおにいちゃんを好きでいるのに、おにいちゃんを苦しめることしかできなかったのです。
私はただ、おにいちゃんの声が聞けてメールのやり取りが出来ればそれだけで十分だったのに、もうそれすらも許されないこととなりました。

その後、私のリストカットを生で見てからショックを受けた彼は胃炎になったそうです。
「しばらくそっとしておいてくれませんか」
彼からそうメールが届いたときはショックでたまりませんでした。
自分のせいでおにいちゃんを病気にしてしまった。
自分は生きている価値などないと考えるようになります。

彼は私と関わらないことを望んでいるのでしょう。
しかし私自身がそれは辛いのです。
私は「お詫びに死にます」と彼にメールを送ってしまいました。
それが余計に彼を追い詰めてしまったのです。

もう二度と、私と関わりたくないと言われました。
自分の言動一つで私が死にたいと言ったり手首を切ったりするのがもう彼には苦痛極まりなかったのでしょう。

私はただ、彼と関わっていくことが幸せだったのに、それすらも許されないことになったのです。
それも、自業自得でしょう。
人を信じすぎた自分が馬鹿だったのです。

Chapter 6 【最後に】
おにいちゃんと何故呼ぶようになったか。
実はよく覚えていません。
最初はずっと、よそよそしくお互いに苗字で呼びあっていました。
私のことは名前で呼んでもらうようにお願いし、彼のことは何故名前で呼ばなかったのか。
多分、ちょっとした遠慮があったのかもしれません。
或いは、仕事上でかなり信頼していたので、彼は年上だし甘える意味でそう呼ぶようになったのかもしれません。

ACである私は、非常に人との距離を保つのが下手です。
距離を置きすぎるか、或いは近寄りすぎるか。

おにいちゃんには近寄りすぎました。
それで失敗しました。
何でも甘えても許されると思っていたのです。
飛んだ勘違いでした。

いつまでも私を大切に思ってくれる人だとも勘違いしていたのです。
しかし結論は、私が苦しもうが死のうが関係ないとまで思われるようになってしまいました。
それも私が悪かったのです。
そこまで嫌われるような言動をした私が。

嫌いになれればどんなに楽でしょう。
自分を苦しめる男など、好きでいる必要なんてないのに。
分かっているのにそれでも好きでいてしまうのです。

それはきっと、二人が最高に幸せだったときを共有しているからなのでしょう。

Chapter 7 【おにいちゃんへ・・・】

おにいちゃん。
私は、おにいちゃんが愛してくれたから、私もこんなに好きになってしまったんだよ。
「美緒(仮名)の辛い事も何でも共有したい」
そう言ってくれたのに、遂に
「あなたが苦しもうが俺には関係ない」
と思われてしまうほど嫌われてしまったのでしょうか。

あなたなんか本当は好きになりたくはなかった。
もう恋なんてしたくはなかった。
卑怯だよ。
結局逃げるんだもの。

でもまたいつか会いたい。
「あんなこともあったね」「こんなこともあったね」と語り合える日はもう二度と来ないのかな?

おにいちゃんは私をどのくらい愛してくれていましたか?
私は今までの人生で一番深く必要としてしまいました。
知らず知らずのうちに、依存しきってしまっていました。
予想通りでした。
予想していたのに、未然に防げませんでした。

こんな私をおにいちゃんは、せせら笑っているのでしょうか。
馬鹿な女だと。
或いは、もう私のことなど思い出すことも一生ないのでしょうか。

人生で一番大切に想った人に捨てられることは、本当に辛いですね。
生きる気力もなくなるほどです。

でもこの大きな大きな心の傷が、私の財産にもなっているのです。
こんなにも失恋で苦しいと言う気持ちがあるということを、私は今度、同じような境遇の人に出会ったとしたら共感することが出来るのですから。

手首を切ったり、死にたいと思ったりするほど追い詰められる心境を、これから同様の人に出会ったときに、私はは理解することが出来るのです。
それだけ深く人を愛して、そして失った損害が大きかったということを、知ることが出来たのは大きなプラスだったのかもしれません。

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