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何が変わった:検証・達増県政/5 医療 常勤医増も「限界」続く /岩手

 夜はまだ冷え込みが厳しい2月中旬の県立千厩病院(一関市千厩町)。午後8時50分ごろ、2歳の男児とその両親が外来で来院した。男児が風呂場で転び、下あごを2センチほど切ったという。「痛くないからね」。両親が診察ベッドの男児を暴れないよう押さえるが、男児は泣き叫ぶ。夜間当直の坂下伸夫副院長(50)が傷口を消毒して薬を塗り「もう大丈夫」と言うと、両親はホッした表情を見せた。

 階段から落ちて右手首が腫れた女子高生(16)やインフルエンザの症状を訴える男性(27)らも訪れ、時間は慌ただしく過ぎる。看護師の佐々木友子さん(55)は「まだ少ない方よ」。いつもなら救急搬送が1~2回ある。坂下副院長は「明日も夕方まで仕事だし、若いころと違ってきついよ」と漏らした。

 千厩病院は入院治療のほか、24時間態勢で救急患者を受け入れている。だが、常勤医は01年の18人から6人に減少。05~06年度には産婦人科、眼科などが休診し、入院ベッド数も08年度の194床から110床に減った。

 フリーライターの松山朝江さん(58)は仕事の都合で東京と二重生活をしながら、千厩の実家で父親(89)と暮らす。数年前から父に認知症の症状も出てきた。訪問介護を受けているが、医師不足だと聞くと不安になる。

 千厩をはじめ東磐井地域の高齢化率は軒並み30%以上と高い。千厩病院は09年4月、初期診療で必要に応じて患者を専門科や開業医に紹介する「内科・総合診療科」を設置した。広域圏全体で医療を完結させようという試みだ。他の病院から当直応援も受ける。

 いずれも医師不足と高齢者医療への対策だ。それでも当直を含む36時間勤務が月に4~5回。医師1人が診る1日当たりの入院患者数も三十数人と同規模病院の倍近い。伊藤達朗院長(54)は「医師の限界」を口にする。

 県医療局によると、1月1日現在の県内常勤医数は前年同期比12人増の467人。09年の県立5地域診療センター無床化以後、紫波、九戸、住田の各診療センターで1人ずつ増えた。しかし、常勤医数に下げ止まり傾向が見られても、現場を取り巻く厳しい状況は変わらないという。伊藤院長は「岩手のような地域こそ(地域医療・保健・福祉を担う)総合医の独自育成が必要だ」と指摘する。【湯浅聖一】=つづく

毎日新聞 2011年2月26日 地方版

 
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