【コラム】脱力感満点のスパイコメディー(上)

 今年の旧正月(2月3日)連休中、『ギデオンのスパイ』という本を手に取った。700ページもある本だったが、一気に読んだ。イスラエルの情報機関「モサド」の実話を取り上げた本だ。短くても数カ月、長いものでは数年を準備に費やし、一つの作戦を実行するという話が数十例登場する。

 第1章は「パリ・リッツカールトン・ホテル侵入作戦」についての話だ。モサドは1997年、このホテルに中東の武器仲介商がよく滞在するという事実をつかみ、ホテルの内部にスパイを潜ませることを決定した。モサドは、ホテルのコンピューター網をハッキングし、従業員リストを確保した。幹部クラスは抱き込みが難しく、下級の職員では情報がない。ターゲットになったのは中間管理職、中でもアンリ・ポールという副支配人だった。ポールは、ホテルのどの部屋でも開けられるマスターキーを持っており、ホテルの請求書のコピーや通話記録を閲覧でき、VIPクラスの客のため運転代行まで務めていた。

 次の段階は、ポールの私生活と心理の分析だ。保険会社の社員、電話の販売員を装ったモサドの工作員たちがポールの身辺を洗い、ポールが酒好きで、スポーツカーに執着しているという事実をつかんだ。最終段階として、抱き込み専門の工作員が、バーで一人で酒を飲んでいるポールと「偶然」合い席になった。2カ月ほど酒の席を共にし、スポーツカーを「エサ」として投げ…。

 2011年の韓国の国家情報院(国情院)による「ソウル・ロッテホテル侵入作戦」も、始まりは似たものだった。国情院は、このホテルに滞在することにしていたインドネシア特使団から武器交渉の資料を盗み出すと決定した。特使団が韓国の大統領を儀礼訪問するためホテルを空けている間に、国情院の情報員3人が宿舎に侵入、ノートパソコンを探った。

 この時、部屋の住人が急に帰ってきた。スパイ映画によく出てくる場面だ。「客室の外を監視していた作戦本部が、情報員たちに突発状況を知らせる。情報員たちは急いで作戦を終えるか、またはいったん脱出する。さもなくば、客室内に身を隠し、部屋の住人が出ていった後、作戦を続行する」という展開がお約束だが、実際の状況は違った。部屋のドアを開けた特使団員は、作戦中の情報員たちとばったり出くわした。実にばつの悪いシーンだ。緊迫したスパイ映画として始まったのに、ジャンルが変わった瞬間だった。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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