WEDGE REPORT

7人のリビア邦人 なぜ政府は救えない

飛べない自衛隊 外国依存の邦人救出


羽田空港に待機する政府専用機(1月28日撮影)

 2月25日現在、リビアに出国のメドが立たない7人の民間人がいることがわかった。欧州諸国や中国、韓国が、軍用機や軍艦まで動員して救出に向かっているのに対し、日本は自衛隊を使えず諸外国の好意に依存する状況が続いている。今回のリビア動乱で日本の危機対応の脆弱さがまたも明らかになった。

 編集部が外務省と各社に確認した情報を総合すると、内訳は、反政府デモの勃発地、東部ベンガジに1名(大手電機メーカーA社の社員)、首都トリポリから東に200kmほどのミスラタに4名(A社の社員2名とその協力会社の社員2名)、中部シルテに1名(日立製作所社員)、東部の砂漠地帯に1名(NECのプロジェクトに関わる業務委託先会社の社員)となっている。

邦人救出は一段落!?

 全員、各社のプラントや事業所内におり、安全は確保されている模様だが、出国の拠点となるトリポリへ通じる陸路が危険なため、出るに出られない状況が続いている。携帯電話の通話が通じずEメールだけが確認手段となっている地域もある。「現地大使館と韓国政府の交渉待ち」(関係者)など、諸外国による救出への相乗りを待機している状況のようだ。実際、24日の段階で、商社社員や大使館職員ら17人の邦人がマドリッドに脱出したが、救出したのはスペイン軍用機と言われている。

 外務省が退避勧告を出したのは25日だが、遅きに失した。領事局海外邦人安全課によると、25日段階でリビアに残留しているのは23人。3名は西ヶ廣渉大使ら大使館員で、9人がリビア人と結婚したなど現地に生活基盤があり出国の必要がない人、4人がアメリカのチャーター船に既に乗船してトリポリからの出航を待っている状態だ。残る7人が上述の民間企業人である。「出国予定の邦人への対応はひとまず終了」(邦人安全課)というのは、企業側と温度差がある。

 新華社が25日に伝えたところでは、中国はすでにリビアから12,000人の中国人を避難させ、さらに残る中国人の海外退避を支援するため、海軍のフリゲート艦を派遣している。中国商務省によるとリビアには36,000人の中国人が在住していたため、まだ相当の人数が残留しているのだろう。中国政府の指示を受け、民間の航空会社や船会社、挙句の果てに漁船までリビアに向かう準備を進めているという情報もある。

 中央日報が伝えたところによると、韓国国防部は、24日、駆逐艦をリビアに急派しており、3月初めにリビア北部の港に到着する予定と発表した。リビアに残る韓国人は約1,400人。国土海洋部(日本の国土交通省に相当)は25日、大韓航空機をトリポリ空港に向かわせていると発表している。

 自衛隊法には、外務大臣からの依頼があった場合、在外邦人等の輸送に自衛隊の航空機や船舶等を用いることができると定められている。しかし、「輸送の安全が確保されていると認められるときは」という前提条件がついているため、リビアのような紛争地域には現実には自衛隊機を派遣することは難しい。紛争地域に自衛隊機が派遣できないのなら、この規定にそもそも何の意味があるのであろうか。

 国の仕事の第一は国民の生命を守ることであるはずだ。25日の会見で前原誠司外務大臣は「他国との連携」を口にするばかり。自ら自国民を救出する意志は感じられなかった。ニュージーランド地震対応でも、前原大臣は23日夜、「留学生の保護者らを政府専用機で現地に連れて行くよう段取りしている」と先走ったが、実際には、専用機は救援隊や機材で手一杯で家族は搭乗できなかった。企業がグローバル展開に生き残りを賭ける中で、日本政府の危機対応能力は「あまりに時代遅れ」(リビアに展開するメーカー関係者)である。

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