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社説:武富士訴訟 疑問残した最高裁判決

 厳密な法令解釈による司法判断が、国民の意識とかけ離れた一例ではないだろうか。

 消費者金融大手「武富士」(会社更生手続き中)元会長夫妻からオランダ企業株を贈与された長男の元専務に対する約1330億円の追徴課税処分を取り消した最高裁判決だ。

 00年の法改正まで、海外に「住所」のある日本人が、国外資産を贈与された場合は非課税だった。一方、贈与が実行された99年当時、元専務は武富士と香港の子会社の役員を務め、日本と香港を往復し、97~00年の約3分の2を香港で過ごした。

 国税当局は「住所は日本だった」として05年に課税に踏み切ったが、元専務が取り消しを求めていた。

 08年の東京高裁判決は、元会長が弁護士らと打ち合わせて長年、準備してきた「租税回避スキーム」にのっとって、元専務が香港に居住した経緯を認定した。日本の自宅に家財道具などを置いていた実態や仕事の状況を総合判断し「生活の本拠は日本にあった」とし、「税回避を目的に出国して滞在日数を調整していた」と述べ、課税を適法とした。

 一方、最高裁は「税回避目的があったとしても、滞在日数から考えて生活の本拠が香港だったことは否定できない」と判断した。税金は法律で明確に要件を定めるべきだとする「租税法律主義」に沿っている。

 もちろん、国税当局の恣意(しい)的な法律解釈での課税は許されない。だが、今回のケースは、国が立法によって抜け穴的な租税回避を阻止する動きが表面化している最中に、駆け込み的に贈与が行われたものだ。

 最高裁は、民法の「各人の生活の本拠を住所とする」との規定を厳格解釈したが、「住所は滞在日数が多いかどうかだけで判断すべきでない」との判例もある。法律家の解釈が分かれる中、どう実務と均衡を取るか難しい。ただ、最高裁の判断に首をかしげた納税者は多いだろう。

 会計専門家の助言を受けた「租税回避」の手口は巧妙化し、法改正の動きといたちごっこを続けているのが現状だ。昨年6月までの1年間に税務調査で見つかった海外資産の申告漏れは01年以後最多の91億円だ。

 最高裁が補足意見で「通信手段、交通手段が著しく発達した今日では、国内、国外それぞれに客観的な生活の本拠が認められる場合もあり得る」と指摘した通り、現代的な視点で柔軟に法解釈する姿勢が求められているのではないか。

 「タックスヘイブン」(租税回避地)が金融市場を混乱させているとして、経済協力開発機構(OECD)が改善に乗り出すなど世界では規制強化の動きもある。迅速な立法など国税当局は適切に対応してほしい。

毎日新聞 2011年2月25日 2時30分

 

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