国会論戦が始まり、ぶら下がり会見で見せる菅直人首相の表情も、日に日に厳しくなっているようだ。顔以上に心境を映すのが会見時の手だ。先の内閣改造前後は、両手に握り拳を作っていた。大相撲の高見盛関のように、自らにカツを入れているように見える。ところが論戦が始まった今週は、ほとんど両手は後ろに組まれている。
衆院と参院で多数派が異なる「ねじれ国会」の打開策は霧の中。最も期待を寄せていたはずの公明党も、強硬姿勢を一段と強めている。
しかも、ここにきて菅首相の乱雑な言葉遣いが、野党に格好な攻撃材料を与えている。税制・社会保障の一体改革について6月までに成案を得ることに「政治生命を懸ける」と明言した。26日のぶら下がり会見で「一般的には職を賭すことと思われるが」と尋ねられた。国会答弁同様「とにかくやり遂げなくてはいけない。そういう意味で申し上げた」と、事態の沈静化に懸命だった。
さらに、米国の格付け会社が日本の国債を1段引き下げたことを、27日のぶら下がりでただされると「疎いので」とコメントを避けた。
91年、当時の海部俊樹首相は政治改革関連法案が廃案となった段階で「重大な決意」を口にしたと伝えられた。海部元首相は回顧録「政治とカネ」では「重大な決心」などの発言が、意図的にすり替えられたと説明しているが、いずれにしろ、最大派閥の竹下派に「重大な決意」の意味する衆院解散を封じられた。最後は、もう一つの意味である総辞職に追い込まれた。
加えて、与謝野馨経済財政担当相への問責決議案も展開次第では想定しなくてはならない。「問責は劇薬」と、カギを握る公明党・山口那津男代表は明言を避ける。首相当時、問責決議案が可決された福田康夫元首相は「出されたら辞任しようと思ったが、洞爺湖サミット(08年7月)の準備を進めなくてはならないので翻意した」と述懐する。
菅首相の「与党慣れ」が急がれる。(専門編集委員、65歳)
毎日新聞 2011年1月29日 東京朝刊