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UPDATE:小沢元代表起訴で思い起こされる恩師の命運

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 【東京】民主党の小沢一郎元代表(68)の資金管理団体「陸山会」を巡る政治資金規正法違反事件で、検察官役を務める指定弁護士は31日、小沢氏を同法違反(虚偽記入)罪で在宅のまま強制起訴した。これによって今後数カ月の日本政界の勢力図が大きく塗り替わる可能性がある。

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民主党の小沢一郎元代表(写真中央、24日)

 民主党の支持率を低下させ、政権発足以来1年5カ月にわたり、党指導部を政治議論から遠ざけてきたこの一件で、小沢氏は2004年に自らの資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる収支報告書の虚偽記入の罪に問われている。小沢氏が首相の座を目指し、精力的に選挙活動を展開してから5カ月足らずでの強制起訴となった。小沢氏は一切の不正行為を否定している。

 この四半世紀で最も影響力のある政治家のひとりである小沢氏の起訴は、同氏の恩師だった2人の故人の命運を思い起こさせる。ひとりは1976年に米航空機メーカー、ロッキード(当時)から収賄を受け取った容疑で逮捕された田中角栄元首相。もうひとりは政界の首領(ドン)と呼ばれ、1993年に脱税容疑で逮捕された金丸信元副総理。両者ともに小沢氏が自民党の若手議員の頃に師事した政治家だ。

 検察官役を務める指定弁護士は、小沢氏を在宅のまま起訴した。これに先立ち、検察審査会(検審)は、検察による不起訴の決定を覆し、起訴議決をしていた。小沢氏は、逃亡の恐れがないとして逮捕を逃れた。有罪となれば、同氏は5年以下の禁固と100万円以下の罰金を科せられる。

 検察が証拠不十分として起訴を断念していることから、小沢氏支持者の間では同氏が訴訟で勝つ見込みが高いとの見方が広まっている。法律専門家は公判開始まで数カ月、判決まで1年、あるいはそれ以上を要すると予想する。

 したがって焦点は、起訴によって小沢氏の長い政治家としてのキャリアに終止符が打たれるのか、小沢氏が熱心な支持者の集まりと豪語してきた民主党の将来にどう影響するのかに移るだろう。小沢氏は日本政界で多大な影響力を行使してきた。何世代もの若手議員を指導しつつ、水面下の交渉人としてのスキルを用いて政界再編の触媒を何度となく務めてきた。

 小沢氏は27日、インターネット動画番組に出演し、強制起訴された場合はどうするのかとの問いに「国民の要請に従ってやります。変わりありません」と答えた。この発言は、同氏が現職にとどまる意向であることを示していると解釈された。

 メディアが数カ月にわたり厳しい論調を続けるなか、対抗姿勢を強める小沢氏はタブロイド紙の取材に応じたり衛星放送に出演したりして、意見を表明するようになった。大手メディアとは長年敵対関係にある同氏が27日のネット動画番組での記者会見に招いたのは、フリーランスや雑誌の記者のみだった。小沢氏はそこで「既存」のメディアとの会見は無意味だと語った。同氏は「いくら言っても説明しても、分かってくれないし、報道してくれない」とし、「あまり記者会見する意味がない」と述べた。

 菅直人首相と他の民主党幹部は、小沢氏に国会招致に応じ、この件を説明するよう圧力を加えてきた。これに対し、民主党内の小沢氏支持者は、対立姿勢を強めており、いずれ離党に踏み切るのではという憶測も広がっている。もしそうなれば、ねじれ国会で野党からの容赦ない攻撃に直面している菅首相にとっては大きな打撃となる。

 この数週間、菅首相も含め、民主党内から、起訴されるようなことになれば小沢氏は職を辞すべきとの声が多く出ていた。これまでは刑事責任を問われた政治家は政界から身を引くのが常だった。昨年小沢氏が関与した同じ政治資金問題で起訴され、国会での議席を断念した小沢氏の側近議員もそのひとりだ。

 菅首相は4日、年頭の記者会見で「政治家としての出処進退をを明らかにし、裁判に専念されるのであれば、そうされるべきだ」と述べていた。民主党は小沢氏と距離を置けば支持率が改善することが調査によって示されている。日本経済新聞が16日に実施したアンケート調査によると、回答者の57%が小沢氏は起訴された場合、議員を辞めるべきと述べている。同じ調査で、菅内閣の支持率はわずか31%。小沢氏の問題も一因となり、9月時点の71%から急落した。

 だが党内の多くの小沢支持者は、一般国民の審査員で構成される検審が議決した起訴は、検察主導で議員に対して行われてきたこれまでの起訴とは異なると指摘し、小沢氏はとどまるべきと主張している。小沢氏に近い輿石東参院議員会長は27日の記者会見で「検察審査会による強制的な起訴は、検察による起訴ではないうえ、推定無罪の原則もあり、処分の必要はない」と述べた。

 小沢氏の命運は、民主党のそれと密接に結びついている。党内には小沢氏を支持する大勢の議員が存在するためだ。

 小沢氏には法律違反疑惑がまとわりついているにもかかわらず、昨年9月の民主党代表戦、つまり日本の首相を目指す選挙活動で、同氏は精力的な運動を展開した。

 民主党代表選で、小沢氏は菅氏に敗れた。全国の一般党員とサポーターからの票が集まらなかったことが主な敗因だったが、対照的に議員票では小沢氏は200票を獲得し、菅氏の206票に迫っていた。小沢氏の支持者は、鳩山由紀夫前首相や輿石氏のような幹部議員のほか、民主党が選挙に勝ったのは小沢氏のおかげと考える多くの若手議員だ。選挙活動の戦略家として比類無き能力を持つことで知られる小沢氏は、2009年8月の選挙での民主党圧勝の影の立て役者だった。当時、同氏は民主党の幹事長職にあった。

 議員の間で小沢氏が支持を得ているのは、半世紀にわたる自民党政権に終わりを告げ、2大政党制へとつながる選挙改革など、日本の政治の近代化で一定の役割を果たしてきたことも一因だ。だが同氏は、利益団体に便宜を図る古いタイプの政治家としてのイメージが定着しているため、一般人にはひどく不人気だ。メディアからも常に批判的に報道されている。

 そのイメージが検審の判断を左右したとしても何ら不思議はない。裁判所が指定した弁護士による強制起訴という結果をもたらしたのは、昨年、起訴相当の判断を2回議決した11人の一般国民の審査員だった。

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