民主党の小沢一郎元代表の資金管理団体「陸山会」事件が昨年1月に立件されて1年余。「反小沢」勢力からの離党圧力を強気ではね返してきたようにみえる小沢元代表だが、一時は離党も検討していた。
「政治的にどう判断したらいいか、意見を言ってほしい。角さんのこともある」。検察審査会の起訴議決が公表され、強制起訴が確定した昨年10月4日。公表から30分後、小沢元代表は側近に電話でこう告げた。
「政治の師」と仰ぐ田中角栄元首相はロッキード事件で逮捕され離党した。側近が「角さんって、離党のことか」と問いかけると小沢元代表は黙り込んだ。「離党したら小沢グループが迷ってしまう」と忠告した。
田中元首相は離党後も自民党内に影響力を保ち、「闇将軍」と呼ばれた。離党することで「政治とカネ」問題にけじめをつけ、復権への足がかりとし、政治的影響力を維持--。そんな思惑が見え隠れしたが、起訴議決公表から3日後の10月7日、小沢元代表は記者団に離党を否定。「離党話」は立ち消えになった。
離党して小沢元代表の存在感が薄まれば、約150人を擁する最大派閥が「反小沢」勢力の「草刈り場」と化す可能性もあり、政治的リスクは大きかった。だが、離党を封印した理由はほかにもあった。
参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」を乗り切るすべを菅直人首相は見いだせず、いずれ行き詰まるとの情勢判断だ。昨年秋の臨時国会では尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件などを巡り与野党対立は先鋭化。1月開会の通常国会では連携相手と期待した公明党が対決姿勢を鮮明にし、11年度予算の関連法案成立に道筋はつかない。
小沢元代表は正月、東京都内の自宅での新年会で側近議員に「俺が復帰しないとどうにもならないだろう」と復権への意欲を表明。強制起訴された1月31日夜、盟友・鳩山由紀夫前首相のグループ幹部との会食では「予算審議を乗り切れないと、何が起こるか分からない」と、内閣総辞職や衆院解散があり得ると予測してみせた。
毎日新聞 2011年2月6日 東京朝刊