「三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」」

三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」

2011年2月7日(月)

「平成の開国」意味分かって言ってる?

TPPとは「過激な日米FTA」にほかならない

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 菅直人首相を始め、日本人の多くが勘違いしているように思える。ペリー提督率いるアメリカの「黒船」来航後に「開国」をしたのは、明治政府ではない。江戸幕府である。

 しかも、「開国」の象徴たる日米修好通商条約には「治外法権」や日本の関税自主権喪失など、我が国にとって不平等な条項が含まれていた。江戸幕府を倒した明治政府は、この不平等条約を改訂する為に、大変な苦労を強いられることになったのである。

関税自主権を喪失した国に落ちぶれる

 ところで、治外法権とは「外国人の日本国内における犯罪を、日本の法律で裁けない」という意味である。

 何ということであろうかっ! 2010年9月の尖閣諸島沖合において発生した、中国漁船衝突事件の漁船船長を、民主党政権が超法規的に不起訴処分とした「あれ」こそが、まさしく治外法権である。

 さらに、民主党政権はTPPにより、「環太平洋諸国」に対して「関税自主権の放棄」を実施するわけだ。菅内閣が推進するTPPは、中国人に対する治外法権と合わせ、まさしく「平成の開国」以外の何物でもない。日本は江戸末期同様に、外国人の治外法権を認め、関税自主権を喪失した国に落ちぶれるわけである。

 さて、菅首相は1月24日の施政方針演説において、TPPを「平成の開国」と位置づけ、国会における議論を呼びかけた。さらに、首相は1月29日、世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)において、日本のTPP交渉参加に関する結論を、6月までに出すと断言したのだ。日本が早急にTPPを検討することが、事実上「国際公約化」されてしまったわけである。

「あの」米金融サービスを受け入れますか

 このTPPは、日本ではあたかも「農業問題」のようなとらえられ方をしている。だが、これは明確な間違いだ。何しろ、TPPとは、

「2015年までに農産物、工業製品、サービスなど、すべての商品について、例外なしに関税その他の貿易障壁を撤廃する」

 という、「過激」と表現しても構わないほどに極端な「貿易・サービスの自由化」なのである。通常のFTAであれば、製品種別や自由化を達成するまでの期間について「条件交渉」が行われる。ところが、TPPの場合はそれがないのだ。何しろ「2015年」までに、「例外なしに」関税や各種の貿易障壁を撤廃しなければならないのである。

 ちなみに、上記の「サービスなど、すべての商品」の中には、金融・投資サービスや法律サービス、医療サービス、さらには「政府の調達」までもが含まれている。農産物の関税撤廃など、それこそTPPの対象商品の一部に過ぎない。

 この種の情報が日本国民には全く知らされず、「平成の開国!」「バスに乗り遅れるな!」など、キャッチフレーズ先行、スローガン先行で話が進んでいる現状に、筆者は大変な危惧を覚える。何しろ、TPPに日本が加盟することで、リーマン・ショックを引き起こした「あの」アメリカの金融サービス、あるいは同国を訴訟社会化した「あの」法律サービスを、我が国は受け入れなければならないのである。

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著者プロフィール

三橋 貴明(みつはし・たかあき)

作家、経済評論家、中小企業診断士
1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業ノーテルをはじめNEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立、三橋貴明診断士事務所を設立した。現在は、経済評論家、作家としても活躍中。2007年、インターネット上の公表データから韓国経済の実態を分析し、内容をまとめた『本当はヤバい!韓国経済』(彩図社)がベストセラーとなり、経済評論家として論壇デビューを果たした。その後も意欲的に新著を発表。そのほとんどがベストセラーになっている。また、インターネットでカリスマ的な人気を誇り、当人のブログ「新世紀のビッグブラザーへ」の1日のアクセスユーザー数は4万5000人を超え、推定ユーザ数は12万人に達している。2010年参議院選挙の全国比例区に自由民主党公認で立候補したが落選した。『デフレ時代の富国論(ビジネス社)』『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!(ワック)』『今、世界経済で何が起こっているのか?(彩図社)』など、著書多数。


このコラムについて

三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」

 「平成の開国!」などと、イメージ優先で進むTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。マスコミではTPPがあたかも「日本の国民経済全体のために素晴らしいこと」といった報道がなされ、「農業だけが問題」と議論が矮小化されている。しかし、TPPは単なる農業の輸入問題ではない。日本社会のあり方や「国の形」を変える可能性を持ち、かつ日本のデフレを深刻化させる恐るべし政策なのだ。そもそもTPPにせよ、自由貿易にせよ、その本質はインフレ対策である。TPP、緊縮財政など、デフレ期にインフレ対策ばかりを推進する民主党政権により、日本経済は更なるデフレ不況の谷底へと、叩き落とされるのか?

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