菅直人首相を始め、日本人の多くが勘違いしているように思える。ペリー提督率いるアメリカの「黒船」来航後に「開国」をしたのは、明治政府ではない。江戸幕府である。
しかも、「開国」の象徴たる日米修好通商条約には「治外法権」や日本の関税自主権喪失など、我が国にとって不平等な条項が含まれていた。江戸幕府を倒した明治政府は、この不平等条約を改訂する為に、大変な苦労を強いられることになったのである。
関税自主権を喪失した国に落ちぶれる
ところで、治外法権とは「外国人の日本国内における犯罪を、日本の法律で裁けない」という意味である。
何ということであろうかっ! 2010年9月の尖閣諸島沖合において発生した、中国漁船衝突事件の漁船船長を、民主党政権が超法規的に不起訴処分とした「あれ」こそが、まさしく治外法権である。
さらに、民主党政権はTPPにより、「環太平洋諸国」に対して「関税自主権の放棄」を実施するわけだ。菅内閣が推進するTPPは、中国人に対する治外法権と合わせ、まさしく「平成の開国」以外の何物でもない。日本は江戸末期同様に、外国人の治外法権を認め、関税自主権を喪失した国に落ちぶれるわけである。
さて、菅首相は1月24日の施政方針演説において、TPPを「平成の開国」と位置づけ、国会における議論を呼びかけた。さらに、首相は1月29日、世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)において、日本のTPP交渉参加に関する結論を、6月までに出すと断言したのだ。日本が早急にTPPを検討することが、事実上「国際公約化」されてしまったわけである。
「あの」米金融サービスを受け入れますか
このTPPは、日本ではあたかも「農業問題」のようなとらえられ方をしている。だが、これは明確な間違いだ。何しろ、TPPとは、
「2015年までに農産物、工業製品、サービスなど、すべての商品について、例外なしに関税その他の貿易障壁を撤廃する」
という、「過激」と表現しても構わないほどに極端な「貿易・サービスの自由化」なのである。通常のFTAであれば、製品種別や自由化を達成するまでの期間について「条件交渉」が行われる。ところが、TPPの場合はそれがないのだ。何しろ「2015年」までに、「例外なしに」関税や各種の貿易障壁を撤廃しなければならないのである。
ちなみに、上記の「サービスなど、すべての商品」の中には、金融・投資サービスや法律サービス、医療サービス、さらには「政府の調達」までもが含まれている。農産物の関税撤廃など、それこそTPPの対象商品の一部に過ぎない。
この種の情報が日本国民には全く知らされず、「平成の開国!」「バスに乗り遅れるな!」など、キャッチフレーズ先行、スローガン先行で話が進んでいる現状に、筆者は大変な危惧を覚える。何しろ、TPPに日本が加盟することで、リーマン・ショックを引き起こした「あの」アメリカの金融サービス、あるいは同国を訴訟社会化した「あの」法律サービスを、我が国は受け入れなければならないのである。
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