統一地方選の天王山となる東京都知事選(4月10日投開票)の構図が固まらない。過去3回の選挙を圧倒的な強さで勝ち抜いた現職の石原慎太郎知事(78)が去就を明言せず、民主、自民両党のにらみ合いが続いているためだ。相手より有利な候補者を担ぎ出そうと「後出しジャンケン」を競う姿には、2大政党の存在感低下も透けてみえる。【石川隆宣、念佛明奈、青木純】
自民党の石原伸晃幹事長は8日の記者会見で父親の石原知事の去就について「幹事長としてはぜひ出ていただきたい」と述べ、近く4選出馬を要請する考えを明らかにした。党都連会長でもある石原幹事長は都知事選の対応に責任を負う立場。有力な後継候補が見当たらない中、同党を支援する「都各種団体協議会」が7日、石原知事に立候補を要請する方針を決めたことを受け、自ら「地ならし」に乗り出した。
地域政党が威力を見せつけた6日の愛知県知事選と名古屋市長選の衝撃も小さくない。石原幹事長は会見で「政治状況が混とんとしてくる中で、非常にニュートラルな立場にあり、正論を発言する石原都知事という政治家が必要ではないか」と説明。政党の推薦を受けずに過去の知事選を戦った父親に頼らざるを得ない自民党の現状を率直に認めた。
今期限りの引退が既定路線だった石原知事は昨春以降、「政治は一寸先は闇」「長くやるのはよくない」など両含みの発言で周囲をけむに巻いてきた。知事与党の都議会自民党の意向を踏まえ、民主党をけん制するためだ。「本音は引退」との見方が根強いものの、4選出馬に周囲の期待は高まっている。
自民党都連には年明けまで「誰が知事になっても、自民党が取り込んで支えればいい。青島幸男元知事がいい例だ」と余裕があった。だが、2月に入るとにわかに石原知事への働きかけに傾斜。「石原知事に2年踏ん張ってもらい、次は(13年夏の)都議選との『ダブル選挙』」という案さえささやかれるのは、手詰まり感の裏返しといえる。
石原知事は8日も「(石原幹事長が)勝手なことを言ったらしいけど、それはそれでいいでしょう。彼には彼の責任がある。世の中に人材はもっとたくさんいる」とかわした。だが、これに先立つ定例都議会の施政方針演説では、「国政がこうした体たらくなら、東京から日本を変えねばならない」と、なお思わせぶりに訴えている。
石原知事周辺は「決断すれば、立候補表明は3月11日の都議会最終日あたりで十分」と自信を示す。78歳と高齢のうえ、当選すれば故・鈴木俊一氏と並ぶ4期の長期都政になるだけに、世論の風向きをぎりぎりまで見極める構えだ。
民主党は愛知県知事選と名古屋市長選で推薦候補が大敗するなど地方選で苦戦しており、東京都知事選の勝敗が「重み」を増している。都連会長を務めた菅直人首相にとって、首都決戦の行方は自らの責任問題にも直結しかねない。党内では候補者調整の遅れに対し、「石原氏は8割方出馬。こちらは手詰まりだ」との焦りが募っている。
蓮舫行政刷新担当相(43)は8日の記者会見で「東京はとても大きい都市。私たちがしっかり挑戦することはぶれてはいけない」と述べ、党として独自候補を擁立すべきだとの考えを強調した。党内では「最強のカード」として、蓮舫氏の擁立論が根強い。
蓮舫氏は昨年の参院選東京選挙区で過去最高の171万票を獲得。菅内閣の1月の再改造で、政権の重要課題の公務員制度改革担当兼務が外れたため「都知事選にらみの動きが取りやすくなる」との解説もあった。
民主党は昨年10月の都連大会で独自候補擁立を宣言した。菅首相も1月21日の党統一選対策本部の会合で「独自候補を立てるか、誰かに乗るかを含めて対立軸を出さなければならない」と発破をかけた。都議の一人は「互角に戦えるのは蓮舫氏だ」と語る。愛知の大敗で党内には統一地方選への不安も高まり、知名度の高い人物が首都決戦に名乗りを上げることで、「全国に向けた起爆剤になる」(選対幹部)との計算もある。
ただ、都知事選の告示は3月24日で、11年度予算案や関連法案の審議が大詰めを迎える。都連関係者は8日、「予算成立前の転身は野党から問責決議案を受けかねない」と蓮舫氏の出馬は難しいとの考えを表明。別の候補者の人選を急ぐ考えを示した。
都知事選の動向を巡り、注目されるのは前宮崎県知事、東国原英夫氏(53)だ。正式表明はしていないが、周辺にはすでに立候補の意思を伝えた。3日の記者団との意見交換では都知事選への対応について「今は白紙だ。熟慮して今後のことは決める」と明言を避けたものの、新銀行東京の経営問題などに触れつつ、都政への意欲をにじませた。
主要政党で候補者の擁立を決めているのは共産党だけ。8日の常任幹部会で、前参院議員の小池晃政策委員長(50)が無所属で立候補し、党として推薦することを了承した。会合後、志位和夫委員長は記者団に「住民の福祉と暮らしを守るという大原則に立ち返る転換が求められている」と述べ、選挙戦で石原都政の弊害を訴える考えを示した。
新党改革の舛添要一代表(62)は最近、「大義名分がない」と都知事への転身を事実上否定した。
毎日新聞 2011年2月9日 東京朝刊