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クローズアップ2011:党首討論 首相、打つ手なし

菅直人首相(中央左)の就任後、初めて行われた党首討論。同右は谷垣禎一自民党総裁=国会内で2011年2月9日午後4時21分、梅村直承撮影
菅直人首相(中央左)の就任後、初めて行われた党首討論。同右は谷垣禎一自民党総裁=国会内で2011年2月9日午後4時21分、梅村直承撮影

 ◇税と社会保障改革、与野党協議は絶望的

 菅直人首相と自民党の谷垣禎一総裁、公明党の山口那津男代表との間で行われた9日の党首討論で、首相は税と社会保障の一体改革で与野党協議への参加を呼び掛けた。しかし、谷垣氏は「消費税率の引き上げを含む新しい公約を(民主党が)作り、国民の声を聞くことが必要だ」と拒否。山口氏も首相がまずマニフェスト違反の責任を明確にするよう求め、与野党協議の実現は絶望的になった。社民党との11年度予算案と関連法案の修正協議の先行きも不透明で、首相はねじれ国会を乗り切る糸口さえつかめない状況に追い込まれた。【中田卓二、横田愛】

 ◇谷垣氏・山口氏、提案突き放す

 谷垣氏は、民主党の09年衆院選マニフェストの破綻をあぶり出すことに35分の持ち時間の大半を割いた。論旨は1月26日の衆院代表質問と同じだったが、そのとき連発した「衆院解散」をこの日は封印。「国民の声をお聞きになることが必要だ」と言い換えることで、自民党が世論の不満を代弁していると印象づける作戦に出た。8日の事前打ち合わせで幹部から「解散一辺倒では印象が悪い」とアドバイスされたためだ。

 追及の焦点は税と社会保障の一体改革。谷垣氏は、与野党協議を呼びかける首相を「マニフェスト違反の共犯になってくれ(というようなもので)、冗談じゃない」と突き放した。

 首相は10年参院選マニフェストに「消費税を含む税制抜本改革に関する協議を超党派で開始する」と明記したことを挙げ、「国民に対するごまかしにはまったく当たらない」と反論したが、その選挙で民主党は惨敗しており、逆に谷垣氏から「国民はそういうふうに思っていない」と切り返された。

 公明党の山口代表はさらに辛辣(しんらつ)だった。民主党が掲げる年金制度の一元化や、全額税による最低保障年金創設について、これまでの国会論戦で具体的な中身がないことが明らかになったと指摘。「民主党の案ができないから(4月にまとめる)政府の案を隠れみのにして逃げおおせようと考えているのではないか」と批判した。マニフェストについても「実現できなければ国民との契約違反。国民には契約を解除する権利がある。契約違反の責任をどのように取るか」と、首相に退陣を迫った。

 一方、首相は谷垣氏に「逆にお尋ねしたい。改革案を出した時には、ちゃんと与野党協議に乗っていただけるんでしょうね」と逆質問で応酬したが、「総裁は協議には応じないと腹を固めた」(自民党幹部)という谷垣氏はとりあわず、議論はかみ合わないまま。野党党首に自ら論戦を挑む首相の姿は、同様に「ねじれ国会」で苦しんだ自民党の福田康夫首相(当時)が民主党の小沢一郎代表(同)に「だれと話せば信用できるのか」「かわいそうなくらい苦労している」とかみついた08年4月の党首討論と重なった。

 首相は9日夕、首相官邸で記者団に「首相就任から初めての党首討論が行われたことは大変よかった。これからも建設的な議論をしていきたい」と語ったが、与野党協議のきっかけすらつかめなかった論戦の内容には触れなかった。

 ◇予算修正、日程綱渡り 「社民3要求」を調整

 11年度予算案と関連法案の修正協議に向け、政府・民主党は社民党の全国幹事長会議が開かれる14日までに大枠を固め、来週中にも合意にたどり着きたい考えだ。予算案の年度内成立を確実にするには3月2日までの衆院通過が必要。予算案本体に絡む修正作業となれば1~2週間程度かかるため、リミットが迫る。過去に予算修正したケースはいずれも成立が年度をまたいでおり、綱渡りの作業となるのは必至だ。

 民主党の城島光力政調会長代理は9日、社民党の阿部知子政審会長と国会内で会談。社民党が掲げる、普天間関連経費の取り下げ▽法人税率5%引き下げの撤回▽成年扶養控除縮小の見直し--の3要求を中心に、修正の意向を探った。

 政府・民主党は、膨大な作業が必要となる予算案本体の修正は避けたいのが本音。民主党国対幹部は「(予算の)項目を落とすのはしんどい。執行の凍結などで対応できないか」と語る。だが、社民党は3要求の実現を求めており、民主党側の譲歩を促す姿勢に変化はない。

 政府の予算案が修正されたのは戦後13回。近年では、世論の反発を浴びた住宅金融専門会社(住専)処理への財政支出を事実上凍結した96年度予算が最後で、本格修正作業は15年ぶりとなる。

 96年は、予算支出の基本ルールを定める予算総則に条件を加える「国会修正」で与野党が合意し、翌日、衆院を通過した。一方、91年度予算では、湾岸戦争を戦う多国籍軍への支援のため、歳出削減で財源を捻出。政府が閣議決定して国会に修正を求める「内閣修正」の手法を使い、修正要求から衆院通過まで半月以上かかった。91、96年度とも成立は4月以降にずれ込んだ。

 社民党の14日の全国幹事長会議は修正の成否を左右する山場となるが、地方組織は民主党への不信が強い。民主党幹部は「14日の前に『これなら』という案をまとめ、社民党執行部の説得材料にしなければ」と急ピッチで調整を進める考えだ。

毎日新聞 2011年2月10日 東京朝刊

 

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