互いに自分の考え方や主張を譲らず、言い張ることを「押し問答」という。
相手の意見や批判にも耳を傾け、合意や妥協へ向けて接点を探るのが「熟議」だとすれば、きのうの党首討論は残念ながら、熟議には程遠く、押し問答の域を出なかった-と言わざるを得ない。
民主党代表の菅直人首相と谷垣禎一自民党総裁ら与野党のトップによる党首討論が、ようやく国会で開催された。
論議の主題は、社会保障と税の一体改革だった。社会保障改革と、その財源論で表裏一体の税制改革は国民の関心が高く、このテーマ設定に異論はない。
4月に社会保障のあるべき姿を提示し、6月にその財源を賄う税制改革案も一体で示す。マニフェスト(政権公約)については衆院議員の任期が折り返しとなる9月をめどに検証し、「できることとできないこと」をはっきりさせる。
首相はこう説明したうえで、一体改革は「どの内閣であれ、誰が総理であっても避けて通れない」として、谷垣氏に与野党協議の土俵に乗るよう強く求めた。
これに対し、「破綻したマニフェストの撤回が先だ」と言うのが谷垣氏の主張だ。公明党の山口那津男代表も「国民との約束を破った責任をどう取るのか」と首相を追及した。
谷垣氏は、八百長問題が噴き出した大相撲を引き合いに「八百長相撲を取ってくれと言われても乗れない」と首相の要請を一蹴し、逆に衆院の解散・総選挙を首相へ迫った。
社会保障と税の一体改革を政権の旗印として掲げたものの、参院で多数派を形成する野党は協議に応じようとしない。
それどころか、国民生活に直結する新年度予算の関連法案も成立が危ぶまれ、菅政権は剣が峰に立つ。
一方で、そんな菅政権を決定的に追い詰めることができず、政権奪還の展望を描けない谷垣自民党もまた、試行錯誤の渦中にある。互いに「弱みを見せたくない」という党首が抱える「お家の事情」が押し問答の背景になかったか。
しかし、党首討論は民主と自民の違いととともに、歩み寄るべき道筋も浮き彫りにした-と言えなくはない。
首相と民主党は、野党が求める政権公約の撤回や修正の検討を早急に進め、一体改革に説得力と現実性を持たせる。
一方、自民党は「与野党協議よりも衆院解散」という硬直的な姿勢を見直して政策本位で民主党政権に向かい合う。
新しい「熟議の政治」を切り開くには、それぞれが譲り合うしかない。当たり前のことではないか。
それにしても、今回の党首討論が菅首相が就任して初めてで、昨年4月以来約10カ月ぶりだったことに、いまさらながら驚く。国家の基本政策を論じる党首討論さえ、与野党の駆け引き材料にしてしまう国会の怠慢以外の何物でもない。
熟議の国会を目指すと言うなら毎週でも必ず開く慣行を早急に確立すべきだ。
=2011/02/10付 西日本新聞朝刊=