政治

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松田喬和の首相番日誌:先駆者か、道化師か

 今週の菅直人首相の心労はいか程だったか。

 10日は、強制起訴された小沢一郎民主党元代表に、一時離党を促しながらも拒否された。前日は政権発足後初の党首討論。民主党マニフェストの破綻を理由に、早期の衆院解散を迫られた。社会保障との一体改革をにらんだ、消費税増税を含む税制改革法案の成立後、その実施前には解散だと切り返した。その後のぶら下がり会見で「元々の原則。変わっていません」と力説した。だが、法案成立への道筋がついていない以上、解散時期は未定だ。

 一体改革の推進役は、与謝野馨経済財政担当相。自民党政権時から、要職を歴任してきただけに、官僚の受けは極めて良い。「指示が早く、十両力士の中に横綱が登場したようだ」(厚生労働省幹部)と、称賛の声も。

 当の本人は「私は単なる政策請負職人。政治家などと思わないでください」と、頭を低くする一方で、「自民党時代と同じ路線を走っているので、違和感はない」と、断言する。

 一方、秘書として与謝野氏を使った中曽根康弘元首相は、手厳しい。「いろいろネタを埋め込んで政局を動かせるポジションにいながら、野心が足らん。政治家は使う人にならなくては」と。

 野党提出の内閣不信任案に一時同調しようとした「加藤の乱」の主役、加藤紘一自民党元幹事長は「野党では仕事ができないと思い込んでいるテクノクラート」と、与謝野氏を位置付ける。

 同じ財政再建派の藤井裕久官房副長官は「経済を中長期で語れる数少ない政治家」と、与謝野氏を評価。その上で、「現在は大きな転換期。一党だけでは名案はできない」と言明する。

 しかし、「ねじれ国会」の打開策は不鮮明だ。一体改革を開花させるにはパートナーが不可欠だが、どの勢力と組むのか、依然絞り切れていない。

 一体改革の結果次第で、与謝野氏は先駆者にもなれば、道化師にもなるはずだ。与謝野氏を一本釣りした菅首相とは運命共同体だ。政治家一人一人が自らモデルを作り出さなくてはならない時代を、歓迎したい。(専門編集委員、65歳)

毎日新聞 2011年2月12日 東京朝刊

 

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