ついに民主党内で事実上の「倒閣運動」が口火を切った。菅直人首相が重大な局面に立たされたことは間違いない。
小沢一郎元代表に近い当選1、2回の衆院議員16人がきのう、首相の政権運営を批判して会派離脱届を党に提出した。
党執行部は離脱を認めず、処分も見送る方針とされる。しかし求心力の低下は誰の目にも明らかだろう。もはや政権与党の体をなしているとは言い難い。
なぜこんな事態に立ち至ったのだろうか。
強制起訴された小沢氏の処分問題で首相は今月半ば、直談判して離党を迫った。しかし小沢氏は応じず、執行部が手続きに入ったのは党員資格停止という最も軽い処分。腰が定まらないことが造反を招いた要因の一つといえよう。
見通しの甘さも拍車を掛けている。党内から造反が起きる可能性について首相は高をくくっていた節があるからだ。
マニフェスト(政権公約)の見直しに見られる党内論議の不足も否めない。税と社会保障の一体改革や環太平洋連携協定(TPP)への参加検討など、首相が旗印に掲げた政策への不満がくすぶっているようだ。
今回、会派離脱を届けた16人はいずれも2009年の衆院選に比例単独で立候補した議員。世話になった小沢氏への「忠義立て」とともに、次の選挙への危機感が行動に駆り立てたのだろう。
会見では党の指示に反する投票行動を取る可能性をほのめかしている。執行部は予算関連法案の再可決を念頭に衆院で3分の2の議席確保を目指す。それに揺さぶりをかける狙いが見てとれる。
ただ会派を離脱しながら党にはとどまるというのは筋が通らない。とうてい有権者の理解は得られまい。
小沢氏も「国民の生活が第一」と主張する以上、自らを師と仰ぐ若手に対し、党内や国会で議論を尽くすよう促すのが道理のはずである。
それでなくても、たがの緩みは目を覆うばかりだ。米軍普天間飛行場の移設問題で、鳩山由紀夫前首相は県外断念の理由に米海兵隊の抑止力を挙げたことを「方便だった」と発言。沖縄県民の激しい怒りを買っている。
民主党は公明党の協力が得られないと見るや、一転して衆院の3分の2確保を目指して社民党などとの連携を模索してきた。
しかし社民側も法人税率引き下げの撤回を要求。公債発行特例法案にも反対の構えを見せるなど、再可決の見通しは立っていない。
与党の国民新党幹部もここにきて、郵政改革法案の今国会成立が見送られた場合は、倒閣に動く考えを明らかにしている。
首相が退陣し選挙管理内閣をつくる。暫定予算を組んで衆院解散をする―。こんな話が現実味を帯びるほどの体たらくだ。内紛騒ぎを収めることができなければ、民主党のメルトダウンは時間の問題と言わざるを得ない。
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