4月の福岡県知事選で、自民党県連が内定していた党県議団会長の推薦を撤回した。自民党は経済界などが推す元内閣広報官に公明、民主両党とともに事実上の相乗りをする可能性が出てきた。
自民党はなぜ、迷走の末に独自候補擁立を撤回したのか。この間の経緯は、県民には極めてわかりにくい。国会議員同士の主導権争いや国会議員と県議との確執、県議選での公明との選挙協力問題などが背景にあるといわれるが、どれも党の内輪の事情ばかりだ。
これでは県民不在の「密室談合」と批判されても仕方あるまい。そのうえ「相乗り」となれば、結果として有権者から選択肢の一つを奪うことを、どう考えるのか。ここは、政党の存在意義をかけて説明責任を果たすべきではないか。
一方の民主党はどうか。共同通信社の世論調査で菅直人内閣の支持率は20%を割り、統一地方選でも苦戦が予想される。しかも、国会は新年度予算と関連法案の成否をめぐって与野党が対決局面に突入し、衆院の解散風が強まってきた。
民主党福岡県連は、県知事選で経済界や連合、公明党の動向もにらみつつ、元内閣広報官支持の方針を決めた。昨秋の福岡市長選惨敗で、再び「負け組」になるのを恐れたかのような印象さえある。
一昨年の政権交代で、民主党は「地域主権」と「脱官僚」を高らかに掲げ、官僚依存政治からの脱却を打ち出した。それは、地方組織にも共通する理念ではないのか。その民主党が、知事選で元官僚に相乗りというのは理解に苦しむ。そもそも、民主党は首長選での相乗りを原則禁止していたのではなかったか。
他方、今期で引退する麻生渡知事は、この元官僚を「後継指名」したという。京大卒、旧通産官僚、元特許庁長官と2人の経歴はぴったり重なる。このため、「麻生知事は院政を敷くつもりか」と、県議会などから批判を浴びた。それはともかく、昨年の県町村会汚職で副知事が逮捕された事件は、もう忘れられたのか。知事の任命責任も厳しく問われたはずだが、その知事が後継を指名するとは…。これまた解せない話だ。
福岡県知事選は、かつて保革激突を繰り返し、県政運営にも支障をきたす時代があった。「あつものに懲りてなますを吹く」ではないが、地域に厭戦(えんせん)気分や相乗り期待があるのは否定できない。
しかし、今月6日の北九州市長選を思い起こしてほしい。投票率は37%で過去最低。自民党が擁立を断念し、事実上の信任投票で再選された北橋健治市長は全有権者の3割の支持も得ていない。
選択肢が狭まれば多様な論戦の機会が失われて争点はかすみ、有権者の関心は低下する。投票率が下がれば新知事の政治基盤は脆弱(ぜいじゃく)になり、オール与党化が進めば議会と知事との緊張関係も弱まる。
候補の相乗りを選択した政党は、それがもたらす結果を、真正面から受け止めねばならない。
=2011/02/19付 西日本新聞朝刊=