記者の目

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記者の目:漂流し自壊を始めた民主党=人羅格(論説室)

 失望から怒りへ。迷走を重ね事実上の分裂状態に陥った民主党に対し、多くの人が抱く思いであろう。

 「政治とカネ」をめぐる小沢一郎元代表の政治責任はもちろん重い。菅直人首相の手腕にも至らなさがあるのだろう。だが、政権交代を経て党が目的を見失いあたかも燃え尽きたかにみえることが、より根源的な問題に思える。

 民主党の「小沢系」衆院比例代表16議員が「離党はしないが民主党会派を離脱する」と首相に反旗を翻した17日の記者会見に、何とも言えぬ違和感を覚えた。

 1回生を中心とする議員のほとんどは中央政界で目立った活動歴がなく、私自身も不勉強なことに、一人も顔と名前が一致しない。そんな彼らが元代表の影響の下、「数」の力で党首に整然とあいくちを突きつけた。一人一人に、もちろん思いはあろうが、過激な行動とは裏腹に「個性」が見えないところに、党の変質を感じざるを得なかった。

 ◇政権の重要課題 国民の納得必要

 苦境の菅内閣だが、政策課題の設定自体は大枠で間違っていないと私は思っている。税制と社会保障を一体改革する方向には賛成だし、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加も逃げずに検討してしかるべきだ。

 ところが各種の世論調査を見る限り、首相の意欲と反比例して民主党への視線は厳しさを増すばかりだ。「小沢問題」のゴタゴタに嫌気がさした点も大きいが、それだけではあるまい。

 政権交代に有権者が抱いた期待と現実のギャップへの不信が、やはり根底にあるのだろう。マニフェストをさっそうと掲げた民主党に国民は「脱官僚」に代表される政治主導や、生活重視を旗印とした施策など「変化」を期待していたはずだ。

 ところが、政治主導のエンジンと位置づけた国家戦略局構想など体制づくりは後退し、「脱官僚」は「政務三役会議に官僚は出席していいか」といった類いの議論に矮小(わいしょう)化されてしまった。「生活重視」の柱とされた諸施策も財源の裏付けを欠き、たちまち見直しを迫られた。今やどれも中途半端になり、効果を相殺している印象だ。

 結局、政権交代そのものが民主党にとっての「坂の上の雲」だったのかもしれない。税制と社会保障の一体改革や「平成の開国」など衆院選公約には無かった菅内閣の重点課題に、「なぜ民主党政権が取り組むか」という疑念をおそらく国民は拭えないのだ。

 それどころか、官僚との協調路線や税制改革、沖縄米軍飛行場の移設問題など、政策の方向が単なる「自民党化」と受け取られているフシすらある。かつて自民で財政再建派の支柱だった与謝野馨経済財政担当相が国会で答弁すればするほど、結果的に自民との境界はぼやけてしまう。

 財源のあても無いのに「マニフェスト実行」を迫る16人の主張は全く空論だ。さりとて、これに対抗する党固有の政策の「軸」を練り直すことができていない点に、状況の難しさがあるのだ。

 ◇小沢元代表が中心の分裂不毛

 やはり、しかるべき時に衆院解散で有権者と「契約」を結び直すしかあるまい。今、急ぐべきはマニフェスト見直しによる政策の優先順位の整理だ。財源の手抜かりをわびたうえで、これまで怠っていた党の基本的政策の方向を集約しなければならない。

 具体的には、急速な高齢化社会における給付と負担の水準、日米同盟と対中関係のバランス、政治主導のあり方、自由貿易と農業の両立などの基本姿勢を覚悟を持って示すべきだ。消費増税を含む一体改革にしても首相は「国民の審判を仰ぐ」と言いつつ法成立後の衆院解散もにおわせるが、これはおかしい。与野党合意の有無にかかわらず法制化の前に有権者に改革案を示し、堂々と信を問うべきだ。

 そうした作業を本気で進めれば、いや応なしに党にミシン目が走り、分裂状態は加速しよう。しかし、それは政策の軸を伴う再編への道であり、決して後ろ向きな混乱ではない。事態を放置しても、結局は「小沢か反小沢か」という不毛な分裂パターンを繰り返し自壊するだけだ。民主が軸を示せば自民もまた、対立軸を意識せざるを得ない。

 予算関連法案の成立が難しくなり、首相によるイチかバチかの衆院解散説も一部に出始めた。それを許す状況かは疑問だが、そもそも自民との違いがはっきりしないまま民意を問われても、有権者は困惑してしまう。

 本気で解散に打って出る覚悟があるなら、首相はマニフェストの見直し作業をただちに前倒しすべきだ。そこに踏み切る気概を欠くようでは、いずれは退陣論に屈するしか道はなかろう。

毎日新聞 2011年2月22日 0時31分

 

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