内閣総辞職、それとも解散・総選挙か――。内憂外患を日に日に増し、「ポスト菅」も囁かれはじめた首相・菅直人が3月1日、在任267日を迎える。
数々の放言で退陣後も顰蹙を買ってきた前首相・鳩山由紀夫は、菅と一緒に現在の民主党の源流となる「旧民主党」を立ち上げた同志だが、いまや政敵として「反菅」の旗幟を鮮明にしている。
その鳩山政権は、昨年、幕を閉じ、現行憲法下で6番目の短命内閣に終わった。鳩山由紀夫の首相在任期間は266日。菅内閣の支持率は、すでに鳩山内閣末期を下回る惨憺たるものだが、菅の在任期間が鳩山を上回ることは確実だろう。
視点を換えれば、「鳩山超え」を果たした段階で、民主党内の菅を支える名分が失われることは否定できない。
1月24日に召集された通常国会は、150日間の長丁場。召集前後から取り沙汰されてきた「3月危機」は、不測の事態に陥ることが避けられそうもない。
衆院で審議中の2011年度予算案は、3月2日までに通過するめどが立っている。与党が過半数に満たない参院で否決されても、予算案は憲法の規定で参院送付後30日で自然成立するため、年度内成立は確実な情勢だ。
火種は11年度予算関連法案。参院で否決された場合も、衆院での再可決は可能だが、それには衆院の3分の2を超える318議席の確保が不可欠。菅内閣は、民主、国民新党の与党に社民の6人、さらに民主に近い無所属議員の2人を加えれば、319議席となるため、再可決の道筋を描いていた。
だが、2月17日、民主党所属の衆院議員16人が会派離脱を表明、予算関連法案の採決で「造反」する構えをみせており、成立は絶望的だ。
予算関連法案には、法人実効税率の5%引き下げや子ども手当法案、特例公債法案などが含まれている。子ども手当は今年度だけの時限立法。法案が成立しなければ、旧自公政権時代の児童手当に逆戻りすることから、自治体の混乱も避けられない。また、特例公債法案が年度内に成立しない場合は、92兆4000億円の新年度予算案のうち、「埋蔵金」2兆5000億円を含む40兆7000億円の財源が不足する。政治の混迷が長期化すれば、国債が格下げされる可能性は避けられない。仮に法案が成立した場合も、2年連続で税収を上回る国債発行は、長期金利の上昇によって利払い額が膨れ上がる可能性もあり、財政健全化は図れない。
こうした難局から予算関連法案の成立と引き換えに首相のクビを差し出すという窮余の策も現実味を帯びてきた。
とはいえ、公明党代表・山口那津男は、菅の退陣と引き換えに与野党合意での関連法案成立を否定しており、「菅のクビ」という"ニンジン"の効力も怪しい。
民主党政権は、早晩、内閣総辞職か、解散・総選挙を迫られることになる。しかし、総選挙に打って出れば、民主議員が大幅に議席を減らすことは火を見るよりも明らかだ。場合によっては、菅が予算関連法案を否決した野党に責任を転嫁し、当面、居座ることも考えられる。
いずれにしても、4月の統一地方選を控え、菅政権は"進むも地獄、引くも地獄"の状況だ。
仮に解散・総選挙となっても、現有勢力117議席の自民党が衆院で「3分の2」を確保することは容易でない。自民党政権が誕生したとしても、現在の民主党政権と同じく政治基盤は脆弱なままだ。
「国民の生活が第一」を謳う民主党ばかりか、野党も菅政権の倒閣を目論むばかり。
本来、政治は、都会と過疎地、貧富の格差、老若男女など、それぞれの生活基盤や利益が異なる人々が共生するための知恵を絞り出し、政策として実行する場だ。民主主義政治は、良くも悪しくも、さまざまな国民や団体、企業が求める意見を集約し、「公共性」というフィルターでそれを濾過する妥協の産物である。
だが、現実には、世論がクリーンな政治を求めるあまり、与野党を問わず政治家は「政治とカネ」の浄化に拘泥し、萎縮するばかり。その結果、日本の将来像を描いて示すことは二の次となってしまった。
昨年6月8日、初閣議に臨んだ菅内閣は、「政務三役と官僚は、それぞれの役割と責任の下、相互に緊密な情報共有、意思疎通を図り、一体となって、真の政治主導による政策運営に取り組む」などとする政権運営の「基本方針」を閣議決定した。いうまでもなく、「脱官僚依存」を掲げた鳩山政権の後退だ。
火急の課題を疎かにして「政治とカネ」のごとく、表面的な善悪ばかりを第一義に求めれば、政治の混迷は一層深まり、既得権を死守したい官僚だけが、ほくそ笑む。(文中敬称略 文・東)