「良心的な政治家も最後は税より選挙が優先されてしまう」。民主党政権打倒を掲げる「たちあがれ日本」共同代表から、菅再改造内閣の経済財政担当相に転じた与謝野馨氏は入閣2日前の1月12日、毎日新聞の取材に、消費税に対する政治家心理を解説した。自身も86年衆参同日選の直前、新税構想を温めていた中曽根康弘首相(当時)に「選挙中は間接税に触れない方がいい」と進言したことがある。与謝野氏は「冷静な判断ではなかった」と振り返る。
与謝野氏はいま、「税と社会保障の問題は一党では支えきれない」と、自民党などとの協力の可能性を探る。念頭にあるのは94年に消費税増税を決めた自民、社会両党の「大連立」政権だ。
同年2月、8党会派連立の細川護熙(もりひろ)内閣は、所得税減税の財源として税率7%の国民福祉税構想を掲げ、実質的な消費税増税を目指したが、「構想自体が唐突」(石原信雄元官房副長官)だったため連立の一角の社会党が猛反発。7%は「腰だめ」の数字という細川氏の失言も重なり構想は撤回された。
細川、羽田孜(つとむ)内閣が短期間で退陣した後、同年6月に発足したのが自民党と社会党にさきがけを加え、村山富市社会党委員長を首相に担いだ連立政権だった。村山氏には細川内閣を支える側でありながら、減税を決める一方、財源の国民福祉税をつぶしたことに「自責の念があった」とされ、首相として消費税増税を党内外に説得する側に回った。
当時の官房副長官の園田博之氏(現たちあがれ日本幹事長)は「自社対立を乗り越えるにはベストな組み合わせだった」と指摘。社会党参院議員だった峰崎直樹内閣官房参与も「(89年の消費税導入以来)『消費税反対』で当選してきた社会党議員も村山首相だったから賛成せざるを得なかった」と証言する。
07年に浮上した自民、民主両党の大連立構想も野党が参院多数の「ねじれ国会」を切り抜ける目的だったが、実は「消費税増税の話をする段取りだった」(当時の福田康夫首相)。実現していれば一気に消費税増税の流れになった可能性もあるが民主党内の反発で頓挫した。
23日の党首討論。「(税と社会保障一体改革の)与野党協議に乗っていただけるか」と求める菅直人首相を、谷垣禎一自民党総裁は「(衆院を解散し)国民の声を背に受けて(一体改革を)やるべきだ」と突き放した。政権奪還を目指す自民党にとって、菅内閣の最優先課題の実現に手を貸すような与野党協議には簡単に乗れない。
森信茂樹・中央大法科大学院教授は、ドイツが2大政党の大連立で消費税増税を実現した例を挙げ、「欧州では政党間の利害を超え政策連携が実現しやすく、税や社会保障の難しい問題を乗り越えてきた」と指摘。「日本は目先の選挙が優先されがちだが、国民と政治家が危機意識を共有し、難局に正面から向き合う必要がある」と話す。
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毎日新聞 2011年2月24日 東京朝刊